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ギルドマスターは今日もギルドを運営します! ~今日のお仕事はなんですか?  作者: 藤瀬京祥


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31 ギルドマスターは首を刎ねられます

pv&ブクマ&評価、ありがとうございます!

『音速でも射程ギリかな?』


 そうはいってもクロエだから、クロエなのよ。

 女神の眉間に一発、被弾の音とともにアラートが出る。


alert 不自由の女神 / 属性・幻獣


「グレイさん、ビンゴ!」


 カニやんに褒められたわ、ありがとう。

 だっていっつも誰も褒めてくれないんだもん。

 ま、喜んでばかりもいられなかったんだけどね。

 だってダッシュで逃げなきゃらならなかったから。

 アラートが出るとともにトーチに青白い焔が上がり、囲いの中で不自由の女神が……ウゴウゴしてる感じ?

 囲いの中だからね、不自由なのよ。

 これまでピクリとも動かなかった不自由の女神が、動き出したと思ったら自分で囲いを取り除き始めたんだけど、女神様らしく上品にするのかと思ったら大間違い。


「すげ、暴れてる」

「こえー」


 一番近いところで見上げている脳筋コンビの感想なんだけれど、全く以て同感だわ。

 たぶん他のメンバーもそうだったと思う。

 だって他に言い表しようがないくらい無造作っていうか、雑っていうか……下品……。

 最後には足に絡まった網を、それこそ邪魔っ気そうに蹴り飛ばしちゃうっていうね。


 ……あ、脳筋コンビ!


「避けろ!」


 狙ってやったのかどうかはわからない……いや、狙えないか。

 全容が見えた女神は目隠しに猿ぐつわをして、両手両足に枷をはめている。

 でも鎖にそれなりの長さがあるから、それなりに動けるっていうね。

 で、蹴り飛ばされた網が近くにいた脳筋コンビに覆い被さってきたわけ。


 そんなところでくつろいでるから!


 突っ込みどころが満載過ぎて、でも突っ込んでる時じゃなくて……忙しすぎる。

 クロウの怒声に、さすがの脳筋コンビ。

 一瞬で反応したと思ったら瞬時に飛び退き、網を被ることなく難を逃れる。

 しかももう攻撃態勢に入っているっていうね。


「あれが 【幻獣】 だってこと、忘れないでね!」


 この距離はわたしにとって危険なので慌てて後退したんだけれど、クロウはともかく、インカムが使えない脳筋コンビに聞こえていたかどうか……。

 でも二人の心配なんてしてる場合じゃないの、わたしは。

 台座の台座から、大地を轟かせて女神が下りてきたんだけれど、飛び降りた着地点がわたしたち後衛支援職のすぐそば。


「散開!」

「下がって」


 わたしの声に被るパパしゃんの声。

 直後、盾剣士(ガード)パパしゃんが、焔を揺らめかせながら振り下ろされるトーチを大盾で受け止める。

 絶対見えてるって、あの不自由の女神!

 パパしゃんの反応が遅れていたら、ベリンダがトーチの直撃を食らっていたんだから。

 衝撃波とまではいわないけれど、風圧が、埃を舞い上げながら近くにいた私たちにも襲いかかってくる。

 クロウの陰でわたしはかわせたけれど、もろに食らったベリンダが尻餅をついている。

 間髪を置かず、クロエとくるくるの超近距離射撃スキルラピッドマスターが炸裂。

 三発目で不自由の女神はノックバックするはずだったのに…… 【幻獣】 だもんね……二人の銃士(ガンナー)のほうがノックバックしちゃったわ。


「クロエ、くるくる!」

「下がれ!」


 思わず二人に駆け寄ろうとしたベリンダを、クロウが怒鳴りつける。

 こういう時、人間って普段の素の行動が出てしまうもの。

 わたしも駆け寄りそうになって、寸前で堪えたもの。

 もっとも動こうとしても、クロウに押さえつけられてるんだけどね。

 いま、不用意に女神の足下に飛び出そうものなら、踏みつけられるか、トーチで殴られるか。

 いずれにしたって直撃を食らえば即死事案だわ。


「グラヴィティ!」


 クロノスハンマーと同じ重力関連の初級スキル・グラヴィティは、ほんの一瞬程度だけれど、対象の動きを重力で上から押さえつけて足止めするスキル。

 効果時間中の対象は、身動きはもちろんだけれど、スキルを使うことも出来ない。

 通常スキルとはちょっと異なるこの手のスキルは、レベル10、20台の魔法使いには使えないんだけれど、しかもカニやんは神経系とかが結構苦手。

 使い勝手が難しいってことらしいんだけれど、ここでわたしより一瞬早く放ったのには正直、驚き。

 不自由の女神が足を止めたこの隙に、わたしたち後衛支援職は三々五々に女神から離れる。

 逆に、脳筋オッサンコンビをはじめとする剣士(アタッカー)たちが取り囲む。

 トール君を含む五人の剣士(アタッカー)に囲まれる不自由の女神は、クロウの一・五倍くらいの身長だから、三メートルくらいかな?

 台座の台座を下りても十分にデカい。


「女神の手足を解放しないでね!

 目隠しも!」


 両手首を繋ぐ鎖の重さなのか、攻撃は緩慢で、足枷に付いた重しのせいで動きも鈍い。

 しかも両目が見えていないから、攻撃は全くのランダム。

 でもトーチが結構大きいから、出鱈目攻撃のはずなのに当ててくるし、その腕力は、両手両足の枷など意味を為さないほどの破壊力がある。

 これ、直撃したら絶対即落ち!

 大盾のパパしゃんやクロウはともかく、盾を持たない脳筋コンビやトール君はかなり苦戦を強いられている。


「大丈夫? クロエ、くるくる」


 崩れかけた石壁の陰に身を隠しつつ、二人の銃士(ガンナー)に声を掛ける。


「ちょっと食らいました、すいません」

「大丈夫だよぉ~ん」


 ま、クロエはね、そんなに心配してないわ。

 くるくるはちょっと心配だけれど、すぐに落ちるほどの被ダメではなかったって。

 それぞれに身を隠しながら、女神と交戦中の剣士(アタッカー)たちを援護する。


「ダメ食らってもいいけど、最後まで落ちるなよ」


 ちょっとカニやん、それ、今わたしが言おうとしたことだったのに。


「グレイさんも、さっきの被ダメは?」


 カニやんが心配しているのは、たぶんさっき網を触った時ね。

 あれについては心配ないの。


「わたし、魔法吸収だから」

「忘れてたわ」

「カニやんこそ、ラストまで落ちないでよ」

「首、刎ねられたくないからね」


 それ、言わなくていいから。

 わたし、斬首趣味なんて持ってないから。

 しかもこの直後、カニやんを斬首するどころか、わたしの首が狙われるとか、ね……。


「グレイさん!」

「?!」


 クロエの声とともにすぐ後ろで耳障りな音がする。

 反射的に振り返ったら、大剣を振り上げた大男がすぐ後ろに立っていたの、覆い被さるような巨体の影がわたしの上に落ちるほど近くに。

 距離の近さはもちろんだけれど、その顔を見て、このあいだのピエロ並みに血の気が引いた……一瞬で……


「……ノギ、さん……」

「よう灰色の魔女、久しぶりだな」


 わたしを二つ名の灰色の魔女と呼ぶのは、浪人を思わせる装備に風体をした大柄な剣士(アタッカー)

 クロウ、クロエ、セブン君、ノーキーさんに並ぶトッププレイヤーの一人で、クロウ、ノーキーさんとともに剣士(アタッカー)三つ巴の一人であるソリストのノギさん。

 今回のイベントはパーティー戦だからソリストのノギさんは参加がわからなかったんだけれど、ここにいるってことは野良パーティーを組んでの参加ね。

 この人が唯一参加がわからなかった、面倒な人の最後の一人。

 そのノギさんが、わたしのすぐそばに立っていたの。

 さっき聞こえた耳障りな音は、たぶんクロエがノギさんの剣を撃った音。

 残念なことに、今回のイベントエリアにおいて装備品の損耗はないから、ノギさんの剣は全くの無傷だったんだけれど、たぶんクロエもそんなことは期待していなかったと思う。

 ノギさんの一撃を止め、私に報せるのが目的。

 間に合わなきゃとっくに首が落ちてたわね。


「スパーク!」


 とっさにスキルを使い、ノギさんをノックバックさせる。

 火花を散らせて敵をノックバックさせるだけのスキルだから、元々ほとんどダメージは与えられない。

 追加効果で火属性のダメージもあるんだけれど、そもそもノックバック自体、ノギさんってば堪えちゃうの。

 もちろん後退はしてくれたんだけれど、無様に尻餅をついたりとかしないのよ。


 サービス悪いんだから!


 そんでもっていつでも攻撃態勢決めてるとか。

 これがクロウなら格好いいんだけど、ノギさんだと腹が立つのよね。

 しかも舞い上がった砂埃の中に、わずかにHPドレイン現象が、それこそサラッと流れ出たくらい。

 他のプレイヤーなら、もう少し削れてるところなのに……。


 やっぱり硬い!


 元々ノギさんは想定していなかったとはいえ、転送門(ゲート)に仕掛けておいたファイアーボムも、この分じゃほとんど意味を為さなかったわね。


「蚊に刺されたほどもないな」

「この程度のスキルで倒れてくれるなんて、思ってないわよもちろん」


 でも考えてるわね。

 わたしは直前に焔獄を放ったばかり。

 つまり再起動準備(クールタイム)の真っ最中で使えない、その瞬間を狙ってくるなんて。

 もちろん焔獄一発で溶けてくれるような人じゃないんだけどね。

 でも、だからってもう後戻りは出来ない。

 だって魔法使いのわたしが、剣士(アタッカー)のノギさんをこの距離まで近寄らせてしまった。

 つまり綺麗に死亡フラグが直立しちゃったのよ。


 確定事案ね


 他のプレイヤーならかわす方法もあるけれど、あるなら悪足掻き上等。

 いくらでも足掻くけど、相手がノギさんじゃ、かわす方法を考えるより現状で出来ることを考えるべき。

 幸いにして、とっても有能なサブマスが三人全員残ってる。

 【幻獣】 の攻略は全然楽じゃないけれど、あとはあの三人に託すことにして、わたしは落とされるまでに可能な限りノギさんを削る。


「美人を斬るのは趣味じゃないが、あんたを残すと面倒なんでな」

「……わたしを、無傷で落とせるとは思ってないでしょうね?」


 覚悟を決めたわたしを見てノギさんは笑う。

 社交辞令ってわかってるけれど、美人って言われるのは悪い気はしないわね。

 でもだからって加減をするつもりはないから。

 最初にわたしを狙ってくれたことに感謝を込めて、ありったけのスキルで持てなしてあげるわ。


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