308 ギルドマスターはカップリングされます
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突然人の姿に戻ってびっくりしたわたしは、クロウにしがみついて顔を隠しつつ、その首に噛みついてもう一度復讐をしておいた。
あの仔猫の姿じゃ全然意味がなかったし。
噛む力にまでSTRを反映させるとか本当にここの運営は演出過剰で、結局人の姿に戻ってもあまり痛がられなかった。
ぷぎゃー!
「そこで噴火するのか」
カニやんが突っ込んでくれたから、ついでに富士山も噴火させておいた。
人の姿に戻れなかったらどうしようかと思っていたけれど、なにがどうしてこうなっているのか、まったく根拠はわからないんだけれど、本来ならば午前零時に解けるはずだったお化けの悪戯魔法が、わたしだけ翌日の正午に解けるという謎の時差。
それでも解けたから、昼イチで今日のノルマをこなしておく。
「ノルマ?」
「【富士・火口】」
そのノルマを終えて戻ってきたところで会った恭平さんが訊くから、答えたら 「ああ!」 と驚きの声をあげられた。
その驚きはなに?
わたし、何か変なこと言った?
「いや、普通のことみたいに言うからちょっと驚いた」
それこそナゴヤジョーに潜るみたいに……と恭平さんには言われたけれど、そんなことはないんだけど?
わたしだってスザクを相手にする時は、気合いを入れて集中してるんだから。
油断したら……それこそ一息でも吐こうとした瞬間に、スザクが 【灰燼】 を発動させわたしもクロウも溶かされる。
まだわたしの死亡回数は0のままだけど、いつ記念すべき 【1】 が付いてもおかしくはないんだから。
ちなみに 【スザクの羽根】 サービス期間は継続中らしく、クリアさえ出来ればスザクは確実に羽根をドロップしてくれる。
おかげでわたしのインベントリ在庫が増えてきたので、何枚かギルド倉庫に入れようとしたら恭平さんに断られた。
「レアすぎて管理出来ないから」
そういう理由もあり? ……まぁ、任せた以上はその管理方法に従います。
というわけでわたしのインベントリの 【スザクの羽根】 は増え続けている。
でもそのうち使うかもしれないし、いいわよね。
ハルさんの色んなレベルが上がって、【特級】 ポーションを作れるようになったら必要になるし。
『さりげない圧を感じます』
そう?
調合職の場合、ポーションを作ることでスキルレベルを上げることが出来る。
そして失敗よりも成功を繰り返すほうが当然レベルの上がりもよくて、調合の成否はステータスポイントが大きく影響する。
ステータスポイントはレベルを上げることで得られるから、ハルさんは次のアップデートが行われる週半ばまでレベリングに励むことにしたらしい。
期間限定イベント 【trick or treat】 が始まるまでに集めた、調合素材の整理もあらかた終わったということもあるらしいんだけど、もちろん足りない素材があったら言ってね。
すぐ集めるから
そんなゆとりある気分で過ごせていた日曜日だったんだけれど、翌月曜日はまた! また広瀬君がミスった。
なにをどうしてそうなったのか、使う資料までは間違っていなかったのに、年度がまるっと一年ズレていたっていうね。
初歩的ミス
もちろん内容によっては去年じゃなくて、二年とか三年前の資料を使うこともあるし、わたしも一度、課長からそういう仕事を指示されたことがある。
あれは確か、十年前まで遡って変更箇所の単価変動を確認及び比較をしたいって内容だったと思う。
結構手間取ったから覚えてるんだけど、今回の広瀬君は自主的に違う年度の数値をまるっと使用。
もちろんそれで資料を仕上げちゃったことも問題だけれど、そのまま取引先にまで持っていって、向こうの担当者に指摘されて慌てて会社に戻ってきたっていうね。
まったく打ち合わせにならず、先方の担当者の予定に大穴を空けさせる始末。
しかもその報告を課長にせず、なぜか帰社途中でわたしに電話連絡してきた。
そして自分が戻るまでに数値を直した資料を作っておいて欲しいって……どうしてわたしが?
何度も言うけれど、広瀬君を担当する事務員は水嶋さん。
わたしじゃない
しかもわたしにはわたしの仕事があって、普通に忙しい月曜日。
この月曜日に一週間のだいたいの予定と目処を立てるんだから、邪魔しないで欲しい。
いずれにしたって時間もないし、断ったけどね。
帰ってきてから散々恨み言を吐かれたけれど、それで課長にミスがバレて大目玉食らってた。
さすがにこの時は思ったわ。
馬鹿なの?
いちいちわたしのすぐ横に椅子を運んできて座り込んで、聞いてもらえない恨み言をツラツラ吐き続ける暇があるのなら、さっさと資料を直して取引先にとって返せばいいのに。
「広瀬もな、いつまで学生気分が抜けないんだよ、お前は」
先輩営業に頭を小突かれ、小言を言われながら連れ去られていったけど。
そのあとで課長にも小言を言われてたけど、わたしはフォローを入れてあげる暇もないから。
「安積ぁ~、最近俺に冷たくね?」
「いつもどおりです。
時間がないから邪魔しないで」
広瀬君の無駄な電話連絡のせいで作業が中断され、その分予定より遅れてるのよ。
これ以上邪魔しないで頂戴!
しかも今週は広瀬君のミスが炸裂しまくって……以前にしたミスを、どうやらずっと隠していたらしい。
それが他のミスと一緒に突如として露呈……やっぱり悪いことなんでするもんじゃないと思う。
取引先を巻き込んでちょっとした騒動になり、また課長がお詫びに出向くことに。
さすがに話を聞いているだけのわたしも、ちょっとイライラしてきた。
でも今日の昼間には定期メンテナンスが行われ、二回目のアップデートがあった。
その内容が気になって気になって仕方がないわたしに、よりによって残業を持ちかけてきた時にはキレそうになったわ。
しかも水嶋さんまでがいうの。
「ちょっと広瀬君は落ち着きがないのよね。
丁度いいからあなたたち、付き合いなさいよ。
男の子って、彼女でもいたら落ち着くと思うの」
そんな神話は聞いたことがありません……というか付き合いたての恋人同士って、浮き足だって却って落ち着きがないと思う。
喪女のわたしが言うのもなんだけど。
「広瀬は却って仕事が手に付かなくなりそうだけどね」
わたしの内心を読んだかのように、隣の席の先輩が口を挟んでくれる。
先輩GJです。
せっかくの援護なので、わたしも肯定しておきます。
「わたしもそう思います」
「ここは姐さん女房的に、水嶋さんのほうがいいと思いますけど?」
さすがに……えっと、広瀬君はわたしと同期だから今年24よね?
水嶋さんのとんでもない提案に、「いいっすね」 とか 「俺、安積って結構好み」 なんてデレデレした顔で言っていた広瀬君も、年齢が倍近いアラフィフの水嶋さんを彼女候補に挙げられて露骨に狼狽える。
ちょっと失礼とも思える広瀬君の反応を見て、水嶋さんも顔を強ばらせる。
これはあれね、怒り心頭状態を頑張って隠している感じ?
こういうところで年長者の意地を見せられても、ね。
亀の甲より年の功
「生憎だけど、わたしはサトミ君の同志だから」
ん? 意味がわからない……いや、わかるんだけど、その、いつもいってるアレよね?
仕事に人生捧げてます的な?
でもそのわりに、言いながら課長を見る目に、ちょっと下心を感じるのはわたしの気のせい?
まぁ喪女のわたしが言うことだから宛てにならないんだけど、でもあとで聞いた先輩の話によると……
「あの人は同志とかいって仲間意識を課長に植え付けて、恋愛感情抜きに同志として……とかいって課長を狙ってるの」
「そうなんですか?」
「それこそ恋愛感情抜きに、同志として結婚とかいってるらしい。
でも専業主婦希望らしいのが笑える。
それ、同志じゃねーし」
「確かに、専業主婦になって家庭に入ったら同志とは言えなくなりますね」
珍しく喪女の予想が当たっていたらしい。
しかもわたしが驚いたのは自分の予想が当たっていたことになんだけれど、先輩はそこを勘違いし、わたしを呆れる顔で見る。
「あんたの鈍さは知ってたけど、本当に鈍いのね」
「なにがですか?」
「だから色々」
「はぁ……」
意味がわからず曖昧な返事を返すと、先輩は小さく息を吐く。
「まぁ課長のほうは全然水嶋さんに興味はないみたいだし……ってか、あるわけないよね」
「お仕事人間ですからね」
「ほんっと、鈍っ!」
そんな強調していわれなくても、一応わかっているつもりなんですが……これはどうしたらいいの?
「まぁ広瀬のほうが全然若いし、でもたいがいさ、あれだけ歳が離れてれば広瀬みたいな反応見せるのが普通だと思うよ。
もちろん水嶋さんが凄く仕事が出来るとか、人柄がいいとか、なにかあれば憧れる年下男がいてもおかしくはないけど、あの人、仕事はしないし性格悪いし。
勤続年数の長さだけで、わたしらより給料もらってるのが許せないくらいで、憧れ要素がどこにある? って話よ。
そりゃ課長が広瀬みたいに露骨な反応するとは思わないけど、でも内心は同じじゃない?
そもそも課長、水嶋さんの魂胆に気づいてそうだし……ってかあれ、絶対気づいてるし」
先輩の根拠がどこにあるのかはわからない。
確かにサトミ課長はとても仕事がよく出来る人だし、頭も良いと思う。
でも性格がいまいちわからないのよね。
仕事人間なのに、なぜか仮想現実ではむっつりスケベっていわれてるし。
結局先輩のこの話は時間切れで終わり、その前の、広瀬君のミスによる残業のお誘いは、課長の仲裁で収束をみる。
「とりあえず今日は二人仲良く残業しなさい。
親睦を深めるいい機会でしょ」
「助かったー!」
深める気のないわたしは断然お断り。
今日は、それこそたまにする30分程度の残業だってお断り!
なのに水嶋さんの提案に超乗り気の広瀬君は、自分のデスクに戻り 「資料を送るねー」 なんてこういう時だけ行動が早くて頭にくる。
「水嶋さん」
「はい」
不意に口を開くクロウ……じゃなくてサトミ課長に、水嶋さんはなぜか待ってましたとばかりに嬉しそうな反応を見せる。
でも課長の口から出た言葉は彼女が望むものではなかった。
「さっきからずっと聞いていたんですが、ハラスメントに関わる発言があります」
「そんな固いこといわないでよ。
若い奥手な二人をくっつけてあげようと思ったんじゃない」
余計なお世話です!
「今は非常にデリケートな問題として扱われています。
法令遵守に従い、今後は慎んで下さい。
安積は自分の仕事が終わったら帰っていい」
「え? 俺の手伝いはっ?」
本当に手伝ってもらう気満々……いや、ほとんど全部わたしにやらせようとでもしていたかのように意気込んでいた広瀬君も、課長の 「自分でやれ」 の一言で撃沈させられる。
反論の余地なし!
もちろんこれが当然なんだけどね。
それでもまだ未練があるらしく、どんどんデータを送ってくるから全部削除しておく。
だってPCのデータ領域はなるべく空けておきたいじゃない、少しでも処理を速くしたいし。
「あの、課長に手伝ってもらうわけには……」
「俺には俺の仕事がある」
そうよね。
広瀬君のせいで、取引先と対応を協議したりして時間をとられちゃったし。
明日もとられる予定だし。
とりあえずわたしは今の作業を終えたら、課長が今している仕事を引き継いで……これはもともとそのつもりでいたから問題はないんだけれど、ここでまた水嶋さんが割り込んできた。
「だったらその仕事はわたしがするわ。
だから安積さんは広瀬君を手伝ってあげなさい。
同期なんだし、助け合わなきゃ」
広瀬君を助けてあげたいのならあなたがすればいいのでは?
そもそもあなたの担当ですよね?
あなたのお仕事ですよね? ……さすがに喉まで出かかったこれらの言葉を飲み込むのに苦労した。
この直後、水嶋さんはまた課長のお説教を食らう羽目になり、さっきよりもかなり重い注意を受けていたのは自業自得。
でもだからって、課長まで残業に巻き込まないでよ。
ひょっとしたらこれも水嶋さんの作戦なのかもしれないけれど、でもたぶん、無駄よ。
だって課長も早くログインしたいと思っているはず。
もちろんお仕事人間だから、しなければならないお仕事を放り出すことはないけれど、でも絶対気になってるはずなのよ。
レベル上限値解放
・・・えーっと、ついにですね、総合評価ポイントが憧れの四桁を超えました!
ありがとうございます!!!!
でもたまに減るから・・・しかも今話はちょっと脱線してるし・・・(汗
ふ、不安でたまらなかったりする小心者ですが、どうぞ、今後ともよろしくお付き合いくださいませ!! 2020/11/18 藤瀬京祥