304 ギルドマスターはカボチャに呪われます
pv&ブクマ&評価&感想&誤字報告、ありがとうございます!!
ルゥの牙はとっても小さい。
その小さな牙でわたしのお……その、お尻をガップリと……痛くて涙が出る。
見ていたJBの話では、なぜか突然わたしのお尻に生えた尻尾を噛もうとして、距離感を間違えたというか、勢い余ったというか……まぁそこはルゥだからね、ルゥなのよ。
残念なAIだから
しかも噛みついたまま……ちょっとルゥ、わたしのお尻を噛みちぎるつもりっ?
恥ずかしくて、みっともなくて、情けなくて、どうしていいかわからなくて、とりあえずクロウにしがみついて悲鳴を上げる。
だって痛いのよ!
も、文句はあとで受け付けるわ。
丁度いいところにいたクロウだって悪いんだから。
「逆ギレしてやがる」
「いつものことじゃん」
「そこ、旦那の定位置」
三人とも、その突っ込みも補足も要らない。
しかもルゥったらわたしのお……し……りに噛みついたまま、四肢で踏ん張って……やっぱり噛みちぎろうとしてるーっ!
「女王のケツ、肉ねぇだろ」
「肉付き悪すぎて不満なんじゃね?」
だったら代わりにその筋肉を提供してよ、このドスケベコンビ!
止めて止めてルゥ止めて、そのお肉というか、その……そこはわたしのお……りだから!
あまりにもルゥが残念すぎてすっかり取り乱していたら、背を支えてくれていたクロウの腕に力がこもったと思ったら、反対側からわたしの背をのぞき込むような体勢をとって何かしたらしい。
不意にルゥがギャン! と声をあげ、ようやく放してくれた。
「なにしたの?」
「デコピン」
クロウにしがみつきつつ、精一杯体を捻って後ろを振り返ろうとして振り返られません。
でも足下にルゥが、きゅーきゅー悲しそうな声で鳴きながら駆け寄ってきた。
カニやんが教えてくれたところによると、おでこにクロウのデコピンを食らったらしいんだけど、デコピンって……ねぇルゥ、前にもクロウにデコピンされてなかったっけ?
どうして何度も同じ手を食らうの?
可愛いんだけど……とりあえずクロウが手を放してくれないと抱き上げられない。
屈めないし、それどころか振り返られもしないし、ちょっとクロウ?
どうかした?
「別に」
うん、別にっていいながらも放してくれない。
しかもちょっと不機嫌そうなのはなぜ?
「痛みは?」
もう大丈夫。
PKエリアでもないからHPの流出もないし、猫パンチの痕が残っていないようにルゥの噛み痕も残らない……はず。
だってまさか、こんなみんなが見ている場所でお尻なんて確かめられるわけないじゃない。
一応自分の手で、スカートの上から触ってみた感じだと破れてもいないし……あ、尻尾。
わたしのお……りに生えている尻尾が手に触れ、わたしの意志に関係なくフニャフニャと動いている。
もう、本当にこの尻尾はなんなのよっ?
「ワンコはその尻尾をちぎろうとしたのか?」
「もともと飼い主のケツにはついてないしな」
「しかもフニャフニャ動いてるし?」
動くものに動物が反応するのは仕方ないんだろうけれど、だからってよりによってお……りに噛みつかなくてもいいじゃない。
もちろんルゥが搭載するAIが残念なのは大前提だけれど、どうしてこんな恥ずかしい形でそれを露呈させるのよ?
ちょっと小林さん!!
よし、あとで小林さんに苦情を送ろう。
とりあえずクロウ、そろそろ放してください。
これで何度目かの訴えを聞こえない振りをするクロウと、そのSTRと戦っていると、ずっと後ろにいたJBがふと立ち上がる。
そして疑問を口にする。
「この尻尾って、どうなってるんすか?」
どうって……ああ、どういう形でくっついてるかってこと?
そこはほら、データだから。
本当にお……りから生えてるわけじゃないし、スカートや、その下に穿いているズボンに穴が開いているわけでもない……というわたしの説明を聞いていないJBは、なんでもないことのように、それこそごくごく自然にわたしのスカートをめくり、屈んでその下をのぞき込んでくる。
…………え?
ちょ! なにしてるのよ、JB!!
そんな、カーテンめくるみたいにサラッとめくらないでっ!
「あ……」
あまりにも自然すぎるJBの動きは誰にも予想出来ず、それこそクロウやルゥにもね。
みんなが呆気にとられる中、とりあえずわたしは一回休み……じゃなくて、また意識が飛んだ。
ええ、飛びましたとも!
もう情けない。
もちろん予想出来なかったからこうなることに備えていたわけじゃないけれど、クロウが放してくれなかったことが唯一幸いだった。
ぶっ倒れてその辺の石ころで頭打つとか、もっとみっともないもの。
意識がないから痛むこともないんだろうけれど。
で、次にわたしが気がついたのはたぶんギルドルーム。
さすがに眼前にルゥの真っ赤にゃ目があったのには、心臓が口から飛び出すんじゃにゃいかってほどびっくりした。
だってあの大きにゃ目が視界いっぱいにあるのよ。
それも突然。
心臓が止まる……
たぶん状況を推測すると、わたしは横ににゃってるんだと思う。
だから枕元にいるルゥの顔がすぐそこにある、そういうことじゃにゃいかにゃ?
とりあえず起き上がろうとしたんだけど、ん? これ、どういうこと?
「気がついたか?」
声を掛けられてクロウがそこにいることに気がついたんだけれど、クロウの背中ってこんにゃに大きかったかしら?
しかもずいぶん高いところに顔がある。
まぁいいけど、とりあえず起きるわ……と思ったらにゃににゃに、これどういうことっ?
わたしの両手に肉球がある! ……というか、両手が猫の手ににゃってるっ?!
にゃんでーっ?
「さぁどうしてだろうな?」
そう言って笑うクロウは大きな手で頭をにゃでてくれるんだけれど、ちょっと待って。
クロウの手が大きすぎて、わたしの頭がすっぽり入るってどういうこと?
いや、うん、まぁだいたいの見当はついてる。
にゃんとにゃ~くわかってるんだけど、ちょっと認めたくにゃいのよね。
同じくこの姿のわたしを認めたくにゃいのか、すぐそこでお行儀良くおすわりをしているルゥも、わたしを見て不思議そうにゃ顔をしてしきりに首を傾げている。
「つまりわたし、また猫ににゃってるのね?」
「ああ」
以前してくれたように、砂鉄の刀身を鏡代わりにその姿を確かめるか? と訊かれたけれど、いりません。
だってもう自分で見て確かめたわよ。
どこをどう見ても、灰色の毛にゃみをした足の短い猫じゃにゃい!
「お、起きたみたいだぞ」
わたしとクロウのはにゃしを聞きつけ、隣のミーティングルームにいたカニやんたちが休憩室をのぞいてくる。
「やっぱ戻らないか」
「だなー」
「無理っぽいな」
どういう意味?
にゃんのはにゃしかと思えば……わたしが倒れた直後まで時間を巻き戻すんだけれど、予想外すぎるJBの行動に思考が停止した直後、倒れると同時にわたしの姿は猫ににゃったらしい。
どんにゃ仕掛けよ?
三人が 「戻る」 という言葉を口にするから、てっきり午前零時を過ぎてイベントが終了したのかと思ったらまだ。
この姿は一時的にゃものかと思っただけって……そうだったらどれだけ良かったか。
いえ、待って。
ショックを受けて意識を失ったら猫の姿ににゃるっていうのもどうにゃのよ?
でもいいわ、あと1時間程度で今日も終わるし。
そうしたらお化けの悪戯も解けて元の姿に戻れる。
それまでここでおとにゃしくしてるから、みんにゃは遊んできたら?
時間も遅いし、ログアウトする人は休んで頂戴。
わたしも元の姿に戻れたことを確認したら休むわ。
ちょっといじけ気味にベッドの上で小さくにゃっていたら、またお尻に違和感がっ?!
もうにゃんにゃのっ?
今度は自棄気味に振り返ってみれば、さっきまでわたしの顔そばにいたルゥがいつの間にか後ろに移動していて、いつものようにフンフンフンフン……お尻の臭いを嗅いでるっていうね。
誰のお尻かって?
もちろんわたしのお尻よ!
やーめーてーっ!!
嗚呼! わたしの手、猫の手だし、猫の体だし、ブロック出来にゃいじゃにゃい!
しかもルゥのほうが大きいってどういうことよっ?
逃げても逃げてもルゥのあの短い足よりわたしの足のほうが短くて、すぐに追いつかれて、フンフンフンフン……しつこい!
いーやー!!
しかもルゥったら、途中からわたしと追いかけっこでもして遊んでいると勘違いしたのか、楽しそうに足取り軽く追いかけてくる。
いやいやいや、駄目だから。
今はルゥのほうが大きいんだから、わたし潰れちゃう。
短い足を踏ん張って頑張ってクロウによじ登ったら、ルゥまでクロウによじ登って追いかけてきて、それを見たカニやんが 「モフ塗れ」 とか羨ましそうに見てるし。
そうじゃにゃいから!
可愛いわよ、ルゥはね。
超絶の可愛さよ。
でも今はその可愛さがあだににゃってる。
超々ご機嫌にゃ顔で追いかけてくるんだけど、いつものわたしにゃらはち切れんばかりの嬉しさで抱きしめてあげるところにゃんだけど、今は無理。
だってこの体格差だと、確実に潰される……。
「残念なAIのくせに、姿が変わってもご主人様がわかるんだな」
「そうじゃないだろ?
ご主人様が逃げまくってるのを理解せず、追いかけ回してるところが残念だと思う」
「完全にじゃれ合いモードだな、ワンコのほうは」
そんにゃことはどうでもいい!
どうでもいいから助けてよっ!!
ルゥがグレイのケツを噛む!
このシーンが書きたいがために始めた今回のイベント。
無事本懐を遂げることが出来ました、ありがとうございますw