302 ギルドマスターはカボチャパンチを食らいます
PV&ブクマ&評価&感想&誤字報告、ありがとうございます!!
今回のカボチャシリーズ(サブタイトル)は、パ○ツではなくパンチです。
読み間違えのないようにお願いいたしますw
ダンジョンで遭遇した時にはいなかった、魔女メディアが抱く黒猫。
夜時間の闇の中で黒猫って、不気味というより見づらい。
でもそこにいるのはちゃんとわかる。
クロウの反撃で片足の膝から下を失い、損傷部分からのHP流出を続ける魔女だけれどまだまだ元気。
その腕に抱いた黒猫を可愛がるようにゆっくりと撫でたりして……早く落ちてよ!
そうじゃないとルゥを呼び出せないじゃない!!
わたしもモフりたい、も……モフ……
「やばい、グレイさんがまた薬切れ」
「根性ねぇーな」
「一つ提案なんだが」
笑いを堪えられないカニやんとムーさんに、柴さんが言い出したのは……。
「あの魔女みたいに、ワンコ抱えながら戦えばいいんじゃねぇの?」
「あんな風に足組んで優雅に?」
「絵になるね」
それが出来たら嬉しいわよ!
でも無理。
だってルゥが、この状況でおとなしくしているはずがないし、あのSTRで暴れられたらわたしに抑えるのは無理。
あとはどうなるか……ご想像にお任せします。
「一応自重してるんだな」
「してます!」
「それを言うなら、自重じゃなくて自覚だろ?」
「案外、グレイさんにチビ助を出させて混乱させるのが狙いなんじゃない?」
ん? クロエ?
その狙いっていうのは誰の?
「もちろん運営」
小林さんかーっ!!
うん、まぁあの人の考えそうなことではあるわよね。
だ、だったら我慢するわ。
我慢するからさっさとあのムカつくむっちり魔女を落として!
「大丈夫、グレイさんのほうが全然美人だから」
「あの魔女、美人には入らないだろ?」
やや下がり気味に位置をとる銃士のクロエと違い、当然のように前に出ている脳筋コンビ。
その声が聞こえたのか、しかもその意味を理解出来るほどのAIを搭載しているのか、魔女の範囲魔法が二人を狙う。
ついさっきまでわたしを標的にしていたはずなのに、どうして勝手に変えるのよっ?
ほんと、どんなAI搭載してるの?
ちょっとだけルゥにも……いや、いい。
ルゥはちょっとお馬鹿なくらいが可愛いわ……と思ったこの時のわたしを、あとで心底恨むことになる。
まぁ 「後悔先に立たず」 だからこれは仕方がないとして、とりあえず魔女を落としましょう。
せめてあの猫だけでも先に落とせないかしら?
落としたい
「無理っぽい」
クロエの話によると、ぽぽと 【グリーン・ガーデン】 の銃士がすでに誤射で猫を撃っているらしい。
猫を狙っても魔女のHPが削れるのなら万々歳だし、もし猫が単独でHPを流出させるのなら猫と魔女は別の存在である可能性が出てくる。
使い魔のように魔女の消失と一緒に消えてくればいいけれど、別の存在だと猫は猫で攻撃を仕掛けてくる可能性もある。
化け猫
…………嫌なことを思い出しちゃった。
でもここの運営はNPCの再使用率が高いから、魔女を倒したあとに化け猫になって襲ってくる可能性だって十分に考えられるわけだけれど、幸いにして二発以上の誤射で、猫はHPを流出させないことが確認できた。
つまりただのお飾りってこと?
「そこまではまだわからないけど、少なくともグレイさんの要求には応えられないことは確かだね」
わたしの要求? ……ああ、先に猫だけでも片付けてっていうお願いね。
そうね、きっと魔女を倒したら一緒に消滅するパターンだと思う……っていうこの予想も実際にはちょっと違ったんだけれど、とりあえず倒すわ!
いっそ猫なんてどうでもいい。
魔女さえ倒せればイベントが終わってルゥをモフれるんだから。
「前向きだね。
でもあの猫、魔女が倒されてから動き出す型ってこともあるから」
うん、猫自体も消滅するまでは油断がならない。
周辺から集まってくる雑魚NPCを相手に、膠着……はしてないんだけれど、こう、はっきりとした進展がない状況にアンジェリカさんが焦燥を隠せない感じ。
「あれ、体当たりとかしてほうきから落とせば良くない?」
「やってみるか?」
「駄目よ!」
「あかん!」
その提案に乗ろうとするムーさんを、慌てて止めるわたしとカニやんの声が被る。
だって魔女は 【幻獣】 だからノックバックしない。
プレイヤーの体当たりぐらいでどうこう出来るVITじゃないわ。
「そっか、残念」
「ヤベ、忘れてた!」
少し落胆するアンジェリカさんと違い、ちょっと舌を出す感じのムーさん。
茶目っ気もいいけれど、万が一にも落ちたりしたら、魔女が落ちるまでにドームから戻ってきてよね。
ダッシュよ、ダッシュ!
「どんな罰ゲーム?」
「肉体派には丁度いいんじゃない?
それより 【幻獣】 のHPってほんとムカつくんだけど」
わたしに賛同してくれるクロエは、他の銃士三人の残弾を気にしている感じ。
現状では主戦力になっている銃士の四人。
でも徹甲弾を使っても 【幻獣】 である魔女の高HPと高VITに手こずっている。
ここで一人でも弾切れを起こしたら確かに面倒ね。
ここはやっぱり、わたしがまた大鎌をほうきに引っ掛けて引きずり下ろす?
「それ前回失敗してね?」
「だから 【幻獣】 はノックバックしないって、自分で言ったじゃん」
そうでしたー!!
カニやんとムーさんの指摘に撃沈されました。
うん、まぁ綺麗さっぱりすっかり忘れていたわたしもわたしなんだけどね。
でもとりあえず物理攻撃しか効かない相手に杖のままじゃなんだし、とりあえず大鎌に変えるわ。
これでいざという時は首を……斬れたらいいんだけどね、うん、斬れたらね。
身長が180㎝以上ある脳筋コンビやクロウですら届かないのに、158㎝のわたしにどうしろっていうのよ。
で、でも一応準備だけはしておく。
ほら、わたしはとっさの事態に弱いから、万が一にもチャンスが巡ってきた時に間に合わなそうだから。
「さっきも言ったけど、魔法使いのくせにどうして物理攻撃したがるわけ?」
それこそさっきと同じように 「俺は絶対にごめんだね」 と言うカニやん。
もちろんわたしだって物理攻撃が得意なわけじゃないし、むしろ苦手。
そもそもSTRがないんだもの。
首を狙う以外たいしたダメージは与えられないし、ザックザックと気持ちいいくらい敵NPCのHPを削っていく剣士に比べたらほとんど草臥れ儲け。
でも一応武器を持っておけば、何かの役に立つこともあるかもしれないじゃない。
「ないない」
「あるわけない」
「あってたまるか」
「なんでよー!」
そりゃね、こんなへっぽこに助けられたくはないでしょう。
特に脳筋コンビはね。
でも一斉に否定されてちょっと面白くないわたしは、大鎌を肩に担ぐように持ち直して三人を振り返ったんだけれど……けれど……なにか今、手応えが……こうザクッとした感じの手応えが……ザク?
なにかしら?
わたしがザクッとした心地よい手応えを感じた刹那、その三人が 「あ……」 と気の抜けたというか、間の抜けた声を出す。
ついでに顔まで間が抜けてるわよ。
ぽかーんと口まで開けちゃって、どうしたの? ……と思ったら、すぐ横にいるクロウが大きく息を吐く。
「グレイ」
しまった!
わたしったらまた魔女にうっかり背中なんか向けちゃって。
呟くようなクロウの低い声に背筋が冷える。
でも慌てて振り返ったそこには……確かに魔女がいた。
ついさっきまで少し離れたところにいた魔女が、うっかり背中を向けたわたしを狙って……というか、そもそもわたしは自分から魔女の標的になっていたわけなんだけれど、魔法攻撃じゃ埒が明かないとその優秀なAIが判断したのか、わたしのうっかりを見逃すことなく背後に迫ってきたらしい。
ただこのタイミングでわたしが大鎌を肩に担ぐように持ち替え、そこに近づいてきた魔女は運悪くその刃に首を引っ掛けられた……まぁそういうことらしい。
背中に目がないからわたしは見てなかったんだけれど、聞いても答えてくれないクロウはともかく、見ていた他のメンバーの話ではそういうことらしい。
つまり魔女は首を斬られた。
あ……勝ったーっ!!
「相変わらずびっくりな人だな」
「でもまぁグレイさんだし?
ありじゃない?」
カニやんよりもさらに付き合いの長いクロエの言葉に、カニやんもなぜか諦めたようにがっくりと肩を落とす。
それを両側に挟んで慰める筋肉……と言えば聞こえもいいけれど、背中とか肩とかを思いっきりバシバシ叩いてカニやんを痛がらせている。
偶然とはいえ負けは負け。
わたしに首を斬られた魔女メディアは、最初はその首に走る一本の筋から大量のHPを流出させていたけれど、ほどなくそれが全身に広がって消滅する。
けれど彼女が完全に消滅する直前、その腕に抱かれていた猫がひらりと身を翻してわたしに向かって飛んできた。
この夜の闇に溶け込みそうなほど黒い体をしならせ、しなやかなジャンプで軽くひとっ飛び。
「グレイ!」
わたしと猫の距離が近すぎて、さすがのクロウも間に合わない。
ご主人様の仇といわんばかりに、一際大きな鳴き声を上げながらわたしの顔面に向かってくる。
その断末魔の鳴き声とともに、わたしに渾身の一撃を食らわせて消えた。
ええ、渾身の一撃をわたしのおでこに食らわせてね。
猫パンチ
しかも渾身だけあって両前肢を使った必殺の猫パンチで、その重い衝撃に一瞬頭がクラリと来る。
これ、ひょっとして打撃?
まさかHP削られたっ?
視界の隅に見えるHPゲージを確認してみれば、全然余裕の安全領域。
ひょっとしたら少しぐらいは減ったかもしれないけれど、これなら大丈夫、問題はない。
でもあまりにも重い衝撃に脳震盪とか起こした感じ。
もちろん感覚だけよ、ここは仮想現実だもの。
それでも一瞬目の前が真っ暗になって、意識も一瞬飛んだかもしれない。
気がつくと草の上に座り込んで、背を支えてくれるクロウに顔をのぞき込まれていた。
ひぃ~
ち、近い、近い!
な、ん、なんて、近くで見てるのよっ?
あまりにも近すぎるクロウとの距離に、せっかく戻った意識がまた飛びそうになった。
危ない、危ない。
「今の、なんだったの?」
「わからないが……大丈夫か?」
「とりあえず平気、です」
平気っていうからには平静を装うとするんだけれど、駄目だ、顔が熱い。
み、耳まで熱くなってきた。
これ、どうしたらいい?
イベント自体はこれで終了。
このあとはイベント後の話が入りますが、いよいよルゥの大活躍です。
残念なAIの実力をとくとご覧あれ!!