３ ギルドマスターは裸になります
pv＆ブクマ、ありがとうございます！
『お早うございます！
クロエ君、インしましたー』
自分に君付けするクロエのログイン挨拶は賑やか。
『おっはー』
『はよう』
「お早う」
わたしが挨拶合戦に出遅れたのには理由ある。
ナゴヤドームからちょっと離れた人気のないところで、ちょっとした敵と戦っていたから。
いわゆる雑魚。
だから装備もいつものショーパン装備ですらない。
初期装備！
このゲームの初期装備は、女性キャラはショーパンとクロップドパンツを選べるんだけど、上はTシャツのみ。
男性キャラは長ズボンしかないんだけど、代わりにTシャツとノースリを選べるってなんだろう？
ちなみに、いつの間にか現われたクロウがその格好で、少し離れたところで同じように雑魚キャラを狩っている。
一応わたしの目的はわかってるみたいだから、なにも言わずに協力してくれてるんだけど……
『ところで、グレイさんとクロウさんがいつもの場所にいないんだけど？』
なに？ なんなの？
クロウ、セブン君に続いて、クロエまでわたしのストーカーするつもり？
そんなことを考えていたら、嫌なキャラが出てきちゃった。
「Gー！」
思わず叫んだ瞬間、クロウの斧がGを叩き潰す。
助かった……
Gっていうのはあれよ、あれ。
あの人類最大の嫌われ昆虫。
夏に現われる……今は年中見られるらしいんだけど、一応夏の風物詩と化した茶色いあいつ。
ちなみに名前を言うのもおぞましくてGって呼んでるんじゃなくて、キャラ名がGなの。
見た目はアレそっくりで、しかも大きい。
この辺りじゃあまり見ないんだけど、少し耐久力が高いところもあれそっくり。
日本列島を舞台のモデルにしてるとはいえ、こんなものまで採用しなくてもいいのに。
ちょっと運営を恨むわ。
ちなみに削除依頼を運営に出してみたけれど、ものの見事に無視された。
当たり前か
そのGを叩き潰したクロウは、またさっきの位置に戻って雑魚狩りをしてる。
あの斧には絶対に触らない！
わたしの剣もそうだけど、クロウの斧も店売りの初期装備だから、たぶん用が済んだら捨てると思う。
捨てなかったらそばに寄らせないけどね。
どうしてクロウがここに来たのかはわからない……っていうか、どうしていつもクロウがわたしの居場所を知っているのか、そもそもそこがわからないんだけど、やってることを見て目的がわかったんだと思う。
で、わざわざ一度ドームに戻って初期装備買って、自分の装備外して同じことを始めたみたいなんだけど、これ、付き合ってて面白いの？
皆と遊びに行けばいいのにって思ってたら……
『Gが出たってことは、グレイさん、ドームと城のあいだだよね？』
『さっき見たよー。
なんか初期装備で、クロウさんと雑魚狩りしてた』
あらら、他のギルドメンバーに見られてた。
せっかく見ない振りしてくれたのに、クロエが話題にするから皆に知られちゃったじゃない！
『なんで今更初期装備っ？』
カニやん、驚きすぎ。
そりゃわたしだって、今更初期装備なんて恥ずかしいわよ。
ほぼ無防備に近いし、いってみれば裸も同然。
だから人目につかないところでコソコソしてたのにぃ～。
でもこの初期装備には理由があるの。
『で、何してるの？』
『当然クロウさんもいるんだよね？』
『え？ クロウさんも初期装備なの？』
みんな、楽しそうね。
楽しい話題を提供するのもギルドマスターの使命……なわけあるかーい!!
ほんと、好き勝手言ってくれちゃって。
『あれ？ 俺が見た時はクロウさん、いなかったけど？』
の～りん、もう余計なこと言わなくていいから。
あんた、わざとみんなを煽ってるでしょ。
『あ……クロウさんも居場所表示消してるんだ』
『そうそう、二人していっつもわからないんだよね』
『で、何してるの？』
クロエ、しつこい。
ちょっと感情的になっちゃって、素手で雑魚を潰しちゃった。
うん、丁度いいところにいたからついね。
言っておくけれどGじゃないから。
『いいや、僕もそこ行こう！』
はぁ？
クロエ、なにしに来るの？
意味不明なんだけど。
気がついたら、インカムで会話していたギルドメンバーが揃ってた。
あれ？ クロエだけじゃないの？
しかもみんな、なぜか初期装備。
だってもう持ってないでしょ？
捨てるなり売るなりして処分しちゃってるでしょ？
わざわざ店売り買ってきたの？
なんでそんな無駄遣いするわけ？
ほんと、意味がわからないんだけど？
「え？ うっそ俺、一撃でGが倒せない！」
「マジかー？
……あ、俺も無理」
Gはそんなに出ないんだけど、何やってんの、あんたたち？
「装備外してもステ振ってるから初心者とは違うはずなんだけど、意外と僕も火力ないなー」
クロエまで……まぁ銃士だから、STRはそんなに振ってないだろうけど。
レベルが上がれば基本パラメーター自体が上がるから、やっぱり初心者とは違うんだけど、それでもいつもほどの攻撃力はなくなるわけで、この初心者エリアでも結構……面白い。
うん、なんか面白くなってきたわ。
面白くなってきたんだけど、やっぱりGは嫌い。
さりげなく避けようとしたら、やっぱりクロウが叩き潰してくれる。
やってるうちに楽しくなってきたんだけど、通りかかりに見た人には一種異様な光景だったかもしれない。
ギルドメンバーがほぼ全員で、ほぼ裸装備で雑魚を狩りまくってるんだから。
思わず熱中してたから気づかなかったんだけど、わたしたちがこんなことをして楽しんでいるあいだに、公式のトピックスにこの話題を上げた人がいたみたい。
でも新規加入申請はなかった。
『こんー。
アギト、インしました』
そろそろいいかなと思った頃に丁度アギト君がログインしてきた。
「こんー」
「いらっしゃい」
「こんばんは。
アギト君、今日の予定は？」
特にないっていうからナゴヤジョーにお誘いしてみた。
ついでに皆も誘ったんだけど、その時に今やってたことの目的も明かしておいた。
「プレート集め？」
「そそ。
これからアギト君とトール君のレベリングしようと思って」
の～りんはちょっと拍子抜けしてたけど、ナゴヤジョーに入るための銅プレートは、この辺じゃないと手に入らないんだから仕方ないでしょ。
でなきゃ、わざわざこんな恥ずかしい思いしてまで集めないわよ！
昨日聞いたアギト君のレベルは６、トール君は３。
差があるのは別にいいんだけど、もう少し上げないとステータスポイントもそんなにないし、スキル取得はもちろん、ダンジョンに潜るのにもレベル制限で引っ掛かっちゃうしね。
「楽しみがレベルで制限されるのは面白くないのよ、わたしがね」
「なんか、グレイさんらしいなぁ」
付き合いの長いクロエが賛同してくれたら、他のメンバーも、そういうことならと付き合ってくれることになった。
もちろん装備は戻してね！
今日のメインイベントは新人アギト君とトール君のレベリング。
そのために頑張って、恥ずかしい思いをしつつプレートも集めた。
目的を話したらメンバーも付き合ってくれることになった。
まずはログインしてきたアギト君を誘って、ナゴヤジョーの出発ロビーに集合！
