299 ギルドマスターはカボチャを全開にします
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カボチャのなにが全開かは本文で・・・(涙
あとちょっとなのに、カボチャシリーズが限界値!
ヴラドを相手に、魔法使いのいないギルド 【暴虐の徒】 は厳しいと思う。
あれだけ飛び回るコウモリの群れを物理攻撃だけで片付けるのはほぼ不可能だし、範囲魔法があればヴラド本体が変化しているコウモリの群れを炙り出せる。
まぁそこは横殴りしてきた 【特許庁】 所属の魔法使いに任せるとして、わたしたちの班は大本命の魔女メディア捜索に戻りましょう……と思っていた矢先を邪魔しに来るヴラド。
丁度いい位置で人形をとったから、これならわたしでも倒せるかもっ? ……と思ったら持っていたのは杖で、出来るのはせいぜい打撃攻撃くらい。
クロウくらいのSTRがあれば、それこそ杖でも貫通攻撃に変えられたかもしれないけれど、魔法使いのわたしじゃSTRがモヤシ過ぎた。
どのくらいモヤシだったかと言えば、打撃とはいえ、一撃を食らわせたはずなのに、その衝撃でヴラドが人形を崩さなかったくらいモヤシといえばわかるかしら?
泣ける
もう本当に情けなくて涙が出てくる。
一応ヴラドのAIに当たり判定が出ているらしく、その赤い目が、自分の左胸に追突しているわたしの杖先をチラリと見る。
その冷めた目がムカつく!
『そもそも魔法使いのくせに、どうして物理攻撃仕掛けたいわけ?』
それこそ自分はごめんだというカニやん。
もちろんわたしだってごめんよ、こんな間近で敵と対峙するなんて。
でもそこにいるんだから倒さなきゃ! ……と思ったら全然ダメでしたぁ~。
本当に涙が出てきたわ。
ついでに冷汗もね。
「躱せ」
不意に背後から聞こえるクロウの低い声。
怒っているわけじゃないと思うけれど、その声が耳元で聞こえたような気がして背筋がぞわりとする。
クロウの狙いはヴラドの心臓。
つまり対面して立つヴラドの左胸だから、わたしが避けるのは左……に動いた刹那、クロウの握る屍鬼の細い刀身がわたしのすぐ横を擦り抜け、ヴラドの左胸を貫……
……えっ?!
わたしの脇下から差し込まれるように、はずすことなくヴラドの心臓を貫くクロウの屍鬼。
けれどそれはクロウがすれすれを狙ったのではなく、わたしがそれ以上左に避けられなかったから。
クロウより一瞬早く、ヴラドのステッキに……その……胸の谷間あたり?
えっと……まぁその辺をね、ぶっすりと刺されちゃって痛い。
たぶん背中まで突き抜けていると思う、自分じゃ見えないけれど。
次の瞬間、背中からブワッとHPが大量に流出する。
もちろんこれも自分じゃ見えないけれど、でもわたしにしか見えない設定にしてあるHPゲージが一瞬で減り、色も警戒領域を示す黄色へと変わる。
しかもヴラドってば、わたしが動けないのを良いことにまた噛みつこうとして、ようやくここで霧散した。
「大丈夫か、グレイ」
「…………びっくりした」
一瞬で大量のHPを失ったことによる脱力でその場に座り込むと、屍鬼を片手にクロウが声を掛けてくる。
後方で控えていたトール君たちも、慌てて駆け付けてくれる。
本当はわたしの眼前でヴラドが人形になった時、駆け付けようとしたはず。
でも直後、止めてくれるJBの声を聞いたと思う。
それどころじゃなくてよく覚えていないけれど、JBの判断は正解。
今はヴラドの脅威は去ったけれど、それでもたくさんのお化けが闊歩する 【horror night】 は現在も進行中。
ここはダンジョンじゃない……というかエリアダンジョンみたいなものでプレイヤーの横殴りOKだけれど、NPCの横殴りもOK。
つまりナゴヤジョーで生成したダンジョン内で対峙するように、ボス戦ならボスだけが相手というわけではなく、ボスと対峙していても、周囲にいるNPCからの攻撃も受けることになる。
JBならともかく、たぶんそこまでの混戦はトール君の火力ではちょっと厳しいと思う。
ヴラドには使い魔もいるしね。
だから同じ班のJBとトール君、くるくるにはヴラドの攻撃範囲には入らないように言っておいたんだけど。
ちなみに班分けは、わたしの班はわたしとクロウ、トール君にJBとくるくる。
カニやん班はカニやんと柴さん、マコト君、ぽぽ、ベリンダ。
そして恭平さんの班が恭平さんとムーさん、アキヒトさん、ジャック君、の~りん、キンキーとゆりこさんの師弟コンビに、護衛のパパしゃんと一番の大所帯。
ちなみにクロエもこの大所帯にいて、ヴラドと遭遇した時には徹甲弾でヴラドの心臓を撃ち抜いたらしい。
さすが……
『魔女は最終攻略対象らしく一体しかいないみたいだけど、ヴラドは結構いるね』
「え? そうなの?」
『そんな気がする。
いまクロエが一体落としたけど、たぶんそこ、もう一体ヴラドがいる』
恭平さんの話だと、茂みの向こう側で別のグループが対峙しているらしい。
コウモリの鳴き声が結構うるさくて、あっちだ、こっちだと叫ぶプレイヤーの声がするからたぶん間違いないだろうって。
クロエが全然狙えるよって余裕をかましているらしいけれど、余計なトラブルは避けたいから横殴りは必要最小限にしましょう……といったんだけれど、結局向こうからSOSを出してきたらしい。
まぁ先客がOKしているのなら、もちろん好きにしちゃって。
但し手を出す以上、必ず落としてよね。
『さりげにハードル上げるね、グレイさん』
『いつものこと。
で、終わった?』
『クロエの一発』
『容赦なし』
『ちょっとカニやん、なにか言った?』
『なにも。
こっちもヴラド戦』
う~ん、本当にヴラドが多い。
ちなみに魔弾以外の銃撃は物理攻撃なので、貫通攻撃である徹甲弾もヴラドには有効。
だからカニやんは、狙えるなら撃っても良いってぽぽに言ったらしい。
もちろんはずしてもOK。
但し攻撃を仕掛ければヴラドの攻撃対象に入ってしまうから、はずした時はすぐにベリンダと移動するように指示を出しておく。
実際にはずしちゃって、情けない声で 『ごめん』 って謝っていたけれど、別にいいのよ。
カニやんが撃っていいって言ったんだから、全責任はカニやんがとってくれるから。
『はいはい、とります。
とるから、チャンスあったら狙っていって』
『は、はい』
うんうん、頑張れぽぽ。
『PK出来ないんだから、別にカニやんや柴さんに当てても大丈夫だしね。
どんどん撃てばいいよ』
『当ててやれ』
ちょっとクロエ、余計なことをいわないでよ。
そのクロエと同じ班にいるムーさんまでが大笑いしちゃって。
それにしても魔女はどこにいるのかしら? ……とよそ見をしていたらカボチャに頭突きを食らった。
痛い……
「これを押し返せないSTRって、どんな感じっすか?」
ゲームを始めた時から剣士を選んで育成していたJB。
きけば今までにしてきたゲーム全てで剣士、あるいはそれに準ずる職でしかプレイしたことがないって……それじゃ他の職の感じはわからないか。
プレイしたことがないんだものね。
「どんな感じって、痛い」
そういって別のカボチャを……わたしに頭突きを食らわせたカボチャはとっくにクロウが斬ってしまったから、別のカボチャを両手で押す振りをしたら、そのぽっかり開いた口で腕を噛まれそうになった。
しまった!
ここはナゴヤドーム内じゃないから、このカボチャを含めて出てくるお化けは全部敵。
つまり攻撃してくるんだってことをすっかり忘れてました。
そしてうっかりをクロウに叱られました。
「グレイ」
即座にカボチャを斬り落とすクロウに、久々に拳骨を落とされる。
痛い……
「カボチャの頭突きとクロウさんの拳骨、どっちが痛いっすか?」
ちょっとJBがしつこい。
ちなみにPKエリアではないのでクロウの拳骨は痛いだけですが、カボチャの頭突きにはバッチリHPを削られました。
まさかあれも攻撃の一つだとは思わなくって、ほんとうにうっかり。
打撃ってことよね、きっと。
やられた感というか、やってしまった感というか……反省します。
「ねぇくるくる、あそこを飛んでいるのはカラス?
コウモリ?」
捜索を再開しようとした矢先、何気なく見上げた右手の空に飛んでいる黒い影。
まぁそこら中を何かが飛んでるんだけれど、ちょっと気になって訊いてみる。
わたしの目じゃ、あの高さを飛ばれたらカラスもコウモリも黒い物体にしか見えないんだもの。
紐だけを肩から掛け、でもすぐに構えられるよう両手に持っていた銃の、銃床を肩にあてて照準器を覗いたくるくるは、すぐさま 「あ」 と声を上げる。
「またハズレ?」
「いえ当たりです」
え? 当たり?
あれ、カラスなの?
「はい、カラスです」
『ビンゴ』
『やっぱりグレイさんの班か!』
『くるくるの位置情報確認。
行こう!』
『合流まで交戦待てる?』
インカムからカニやんとか恭平さんとかクロエの声が忙しく聞こえてくるんだけれど、ちょっと待って、一気に喋らないで。
とりあえず状況を確認するわ。
ただのフェイクかもしれないし……と思って慎重に進んだら、パ○ツが全開だったっていうね。
『見てぇ』
『何色?』
またすぐに食いついてくる脳筋コンビのドスケベ親父どもが。
えっと……とりあえずパ○ツの色は置いといて、つまり先客がいたわけ。
しかもパ○ツ全開は一人じゃなくて二人も。
「魔法が効かないじゃない!」
「うるさいわね!
だからさっきからずっとそう言ってるでしょ!
あんた、なに聞いてたのよ」
「そもそもそんなこと言ってないじゃない、あんた!
とりあえず撃ってみてっていっただけでしょ!」
「だからあんたは言われたとおりにすればいいのよ!」
「言われたとおりにしたわよ!
でも効かないって言ってるの!」
……まぁいつもながら賑やかだこと。
ギルド 【グリーン・ガーデン】 のアンジェリカさんとフレデリカさんのマシンガントークが炸裂する周りで、【グリーン・ガーデン】 のメンバーたちが苦戦中。
すでに何人か落ちて死亡状態で待機の中、また一人、落とされる。
魔女の火力は相変わらず。
もちろん二人も参戦してるんだけれど、言い合うほうに集中しているらしく、あまり攻撃参加していないのはどうなの?
魔女が繰り出す魔法攻撃は、それこそパ○ツを全開にしながらも綺麗にかわしているんだけれどね。
相変わらずヒラヒラのフワフワ衣装だこと。
可愛いけれど、ちょっとわたしには着られないかな。
だってあの装備、スカートがとにかく短くて足が凄い出るんだもの。
今更素足とか……タイツを穿いても無理、あそこまでの露出は。
『アンとデリカのパ○ツか!』
『微妙なパ○ツだな』
微妙なパ○ツとは如何なものか? ……あ、説明は要らない!
別の班にいながらも妙に呼吸の合う脳筋コンビは置いといて、とりあえず魔女を発見したから全員集合でよろしく。
『OK』
『いま向かってる』
相変わらずの火力を誇る魔女メディアは、ほうきの操縦も相変わらず下手くそ。
ずいぶんバランス悪く飛んでいるくせに、腕に抱いた猫は落とさないのね。
ん? 猫?
2020/11/07 VRゲーム(SF)部門でランキング(日間)86位に入っておりました!
ありがとうござます!!
そして次話はいよいよ300話です。
どうぞ、今後ともよろしくお付き合いくださいませ。
2020/11/08 藤瀬京祥