298 ギルドマスターはカボチャと再会します
pv&ブクマ&評価&感想&誤字報告、ありがとうございます!!
本当に苦しくなってきたカボチャシリーズ(サブタイトル)。
ネタが・・・
土曜日のハロウィンに合わせて始まった、期間限定イベント 【trick or treat】 の最終イベント 【horror night】。
夜時間の暗闇に、ハロウィンのお化けたちが闊歩する世界。
その中で最終攻略対象の魔女メディアを探し出し、倒すことがこのイベント。
安全地帯であるナゴヤドーム以外……お化けこそいるけれど、ドーム内のお化けは襲ってこないから安全なんだけれど、そのドームを一歩出ると、通常の敵NPC以上の数のお化けが闊歩していて、初心者、あるいはそれに近いレベルとおぼしき装備のプレイヤーがそこら中で死亡状態に陥っている。
死屍累々
イベントが終われば蘇生してもいいんだけれど、この状況の中ではわたしも油断が出来ない。
うっかりでギルドのみんなまで巻き込むわけにはいかなくて、自重中。
このイベントはPKなしで死亡回数に制限もない。
だから自力復活できなくても、ナゴヤドーム内にある墓場に死に戻ればイベントに復帰できる。
まぁ経験値は大幅に溶かしちゃうことになるけど。
そんな細かいことなんてまったく気にしない 【特許庁】 と遭遇したのは、紛れもなく大失敗。
だって……
「よぉグレイちゃん、今日も美人だな」
「ありがと、真田さん」
今日も調子のいい挨拶をしてくる真田さんだけど、その周辺には死屍累々。
もちろん死亡状態になっているのは 【特許庁】 のメンバーなんだけれど……あら? そこで踏ん張ってるのはライカさん?
共同戦線?
「というか、【特許庁】 の横殴り」
そういう真田さんは、ライカさんと一緒にヴラドを追いかけ回しているノーキーさんを顎で指し示す。
先客がいた状況でも気にせず斬り掛かったってことね。
そして主催者のノーキーさんに呼応して、【特許庁】 のメンバーがなだれ込んだ。
「当たり」
そういって真田さんは笑う。
「まったくこいつらと来たら、回復がないと次々死にやがる。
どうするんだよ?」
「どうもしないでしょ」
眼前で起こる騒ぎなんて我関せずで、安定のホスト感満載の不破さんは、わたしを見て 「グレイさん、こんばんは」 と艶っぽい挨拶をしてくる。
わたしの内心同様、状況も穏やかじゃないんだけどね、全然動じないというか、なんというか。
腕組みをして、当たり前のように真田さんの隣に立っている。
あら?
今日は蝶々夫人がいないのね。
そういえばここ数日、見掛けないような……?
「よぉグレェ~イ、丁度いいところに来た!
クロウ、貸せや!」
大剣を振り切ったノーキーさんは、一瞬で人形を崩してコウモリになって逃げるヴラドに苛立っている様子。
ちょっと焦りも感じるかな。
自身が変化したコウモリの群れを特定されないよう、この夜の闇と手下のコウモリを使って所在をくらませるヴラド。
襲いかかってくるコウモリの群れに、ノーキーさんの姿がかすむ。
あの派手派手しい金の髪が凄い数のコウモリに襲われて、背景の夜の闇に紛れそうになるの。
一体どんな数に集られてるのよ、あの金髪……じゃなくて、助けなきゃ。
ついうっかりしていたら、わたしより一瞬早く……この声はバロームさんね。
「ギルマス、助けます!」
どこかにいるバロームさんのホットポットで、キーキーとうるさいコウモリたちが焼け落ちる。
その直後を狙ってわたしもサポートしておく。
「ヒール」
『え? グレイさん、なんかと遭遇?』
『見つけた?』
ほぼ同時に、別班を率いるカニやんと恭平さんの声がインカムから聞こえてくる。
「あ、ごめんごめん、違うから。
対ヴラド戦中の 【特許庁】 と 【暴虐の徒】 と会っちゃっただけ」
『また賑やかなのと……』
『深入りしないほうがいいと思う』
うん、出来たらこのまま立ち去りたい。
そういえばクロウを貸せってノーキーさんに言われたけど、クロウはわたしの所有物じゃないのでわたしに言わないで。
他のメンバーを後方に控えさせた状態で、すぐ後ろに立っているクロウを見上げる。
恭平さんからは魔女一択にしたんだから、深入りはしないほうがいいって忠告されちゃったけれど……
どうする?
「お前が決めろ」
うへ!
もう、面倒は全部わたし任せなんだから。
いっそクロウを残して、わたしたちだけ捜索に戻ろうかしら? ……なんて薄情なことを考えていたら、不意に私の鼻先をコウモリのひと群れがかすめて飛ぶ。
「グレイ」
刹那、クロウに抱えられるように後ろに引き戻される。
その眼前で人形に戻るヴラド。
やっぱり来たわね。
ノーキーさんにヒールを掛けた時点で参戦と判断されるだろうな……とは思ったけれど、こんなにすぐ来なくてもいいじゃない。
ヴラドって結構気が短いの?
「グレイさん!」
「グレイちゃん!」
丁度いいところに剣豪が二人もいるじゃない。
「真田さん、ヴラドの心臓を突いて!」
クロウがヴラドの心臓を狙うには、体勢的にわたしが邪魔になる。
頑張れば出来ないこともないだろうし、そもそもクロウに不可能はないように思う。
それこそいきなり魔法攻撃をしても驚かない……いや、さすがにそれは驚くか。
訂正するわ。
魔法攻撃はさすがに驚くけれど、剣技と体技じゃクロウに不可能はないように思う。
でもこの状況だとわたしを乱暴に放り出しかねなくて、いきなり引っ張られて足を絡ませているわたしは放り出されると対応できないので、ここは別口にお願いしますってことで真田さんにお願いしたんだけれど、これはこれで間違いだった。
別に不破さんでも良かったんだけど、たまたまわたしの角度から見て、真田さんのほうがヴラドに近く見えた。
だから真田さんを指名したんだけれど……
どうして右胸っ?!
まさかと思うけれど、真田さんは人間の心臓が右胸にあると思ってるっ?
真田さんの間違いを訂正しようと、一瞬遅れで、不破さんがヴラドの左胸を背中から刺そうとするんだけれど間に合わない。
真田さんの剣が右胸を突いた刹那、ヴラドの人形は崩れてコウモリに。
そこに不破さんの剣が刺さり、コウモリはブワッと群れて飛び立つ。
「グレイちゃん、ごめぇ~ん」
「この人、こういうところが残念なんです」
「待って待って、俺の言い分も聞いて」
不破さんの、フォローになっていないフォローに慌てる真田さん。
その真田さんの言い訳によると、人って対面だと左右逆になるからついつい右を狙ってしまったって……うしろから狙ってるんだから、左胸は左胸よ。
それともこの闇に騙されたとでも?
「それはありません」
きっぱりと言い切る不破さんに、真田さんも 「いや、ま、ないよな、うん」 としどろもどろ。
この短い会話に、二人の力関係を見たような気がする。
見た目は真田さんのほうが歳上っぽく見えるんだけど。
「ああ、この人のほうが歳上ですよ。
一歳だけですけどね」
「一歳でも上なんだよ、俺のほうが」
ん? そうなの?
「そう。
不破とノーキーとノギと、地元が同じ先輩後輩なの」
「言っちゃっていいんですか?」
ちょっと驚く不破さんに、真田さんは 「隠すことじゃないだろ」 という。
「真田さんがいいのなら。
俺は知りませんけど。
でもあの二人は怒ると思いますよ」
あの二人というと残りの二人、つまりノーキーさんとノギさんよね。
「聞いて驚けグレイちゃん。
実はあの二人、実の兄弟」
ん? んん? ……えっと、言っていることもびっくりだけれど、それ、わたしに話しちゃっていいわけ?
しかも必然的にクロウも聞いちゃってるんだけど。
だってノギさんとノーキーさんが実の兄弟ってことでしょ?
最初は同一人物説のあった二人だけれど、同時にログインしていることも珍しくなかったから、すぐにその説は消えた。
でも似てるのよね、あの二人。
しかもアバター名も 「ノーキー」 と 「ノギ」 で似てるし。
だからずっと密かに兄弟説はあったんだけれど、まさか本当だったとは。
真田さんの話だと、真田さんとノギさんが同級生で、ノーキーさんと不破さんが同級生で、四人は地元の先輩後輩の関係。
それで不破さんはずっと 「です・ます」 で真田さんと話してるわけだ……時々変わるけど。
後輩の立場にしては、扱いもずいぶんとひどいけど。
今もフォローする振りをして、先輩の沽券を蹴り落としてたけど。
うん、でもわたしも部下の立場でクロウの扱いひどいけど、これはもちろん内緒です。
「兄弟なのに、ノギさんは 【特許庁】 には入らないんだ」
「仲が良いのか悪いのか、よくわからない兄弟なんです」
「ノーキーについてはなにも言いたくないけど、ノギはもともとあんまり群れるのが好きじゃないんだよね」
それでもわりとノギさんとは仲が良いという真田さんが、ノーキーさんについて多くを語りたくない理由は不明だけれど、何かあるらしく、不破さんが笑いを堪えている。
「性格がちょっとあれなんですけど、可哀相すぎるんで言わないでおいてやります。
あいつ、その……」
思わせ振りなことをいう不破さんは、結局笑いを堪えきれず。
でもノーキーさんの名誉のためといって、その先は話してくれなかった。
つまりノーキーさんは不破さんに弱味のようなものを握られている状態で、あまり強くは……いや、言いたい放題言ってるか。
全然遠慮なく、やりたい放題言いたい放題してるわ。
今も……わたしたちの会話はエリアチャットで聞こえているけれど、動き回っているノーキーさんにも、少なくとも不破さんと真田さんの声はギルドチャットで聞こえている。
で、わたしにノギさんと兄弟であることをバラされたノーキーさんが、真田さんではなく、不破さんに跳び蹴りを食らわせて去っていった。
いつ見ても男の人ってよく跳ぶわよね。
「照れてやんの」
「あいつ……どさまぎで首斬って来ます」
「はいはい、いてら」
いい歳したおっさんたちが何をしてるんだか……。
「グレイちゃんも、感心するところが違うからね」
ん? そう?
どこが? ……と首を傾げていたら、ノーキーさんに蹴られたところを手で払い、颯爽と仕返しに行った不破さんが何かしたらしくバロームさんの悲鳴というか、怒声のようなものが聞こえてきた。
「この酷薄野郎、なにしやがるかー!!」
なにをしたのかしら?
「え? だからノーキーの首斬ったんだろ?
そう言って走っていったじゃん、あいつ」
……そうね。
PK出来るわけじゃないから別にいいんじゃない? ……とか平然としている真田さん。
とりあえずヴラドの弱点は教えたし、ここは 【特許庁】 と 【暴虐の徒】 に……あら、ライカさんがいつの間にか落ちてるじゃない。
それでも残りのメンバーが踏ん張っているから、ライカさんを蘇生してここは二つのギルドにお任せするわ。
「リカーム」
その場での即時復活を可能にする蘇生スキル 【リカーム】 で蘇生したライカさんは、跪いてお礼とか言うんだけれど、今はヴラド攻略優先でお願いできる?
【暴虐の徒】 の他のメンバーも苦戦してるし。
「仰せのままに」
いつもながら大袈裟なんだから……と思いつつ戦線復帰するライカさんを見送り、わたしたちはこの場をあとにしようとしたんだけれど、また来た。
しつこいのよ、ヴラド!
気がつくと300話まであと少し!
それまでに期間限定イベント 【trick or treat】 も終わるかっ?
・・・無理っぽい・・・(汗




