295 ギルドマスターはカボチャの血を吸います
pv&ブクマ&評価&感想&誤字報告、ありがとうございます!!
カボチャシリーズ(サブタイトル)のネタが尽きてきた・・・(汗
「死ぬかと思った」
わたしが焔獄でヴラドを迎え撃つ傍らで、ホッと胸を撫で下ろすカニやんの呟きが聞こえる。
ムーさんの一撃でヴラドは再びコウモリになってわたしを襲ってきたけれど、それも今は、また手下を使って行方をくらませ中。
わたしたちの周囲を飛び回る群れのどこかにいる。
ステッキによる貫通攻撃の衝撃で宙に浮いたカニやんの体は、ステッキが消えた瞬間に解放されるも、そのまま尻餅をつくように落下。
たぶんわたし以上のHP流出で脱力があったんだと思う。
今も床にあぐらを掻いて座り、ポーションを使って回復を急いでいる。
実際、どのくらい削られたの?
「えっと……3分の2?」
それはつまりHPゲージが真っ赤になる危険領域では?
「一瞬で赤くなってビビった」
しかも貫通攻撃は継続ダメージだから、さらなるHPの流出がわかっていたから余計に焦ったでしょうね。
でもこれは……の~りんもシャチ金に入れるレベル30ギリギリだけれど、カニやんで3分の2を一瞬で持って行かれるってことは、さらにHPもVITも持たないの~りんは難しいか。
レベル30を超える剣士の人数に比べて、魔法使いの数がやっぱり足りない。
アキヒトさんには頑張って0の壁を越えてもらうとしても、そもそも魔法使いが少ないのよね。
どこかに可愛い魔法使い、いないかしら?
ん? あれ? そういえば噛みつきは貫通じゃないの?
どうなんだろう?
噛まれているあいだは継続ダメージだったような気がするけれど……。
「お前のVIT、マジで紙な」
「おうよ、しっかり守れよ」
「知るかボケ、仕事しろ」
「さっさと立てや」
カニやんのお尻が重いのも足の退化も置いといて、噛みつきは貫通攻撃じゃないの? ……と訊いてみたら、全然違う話になった。
「やっぱお前も噛まれねぇよな」
「童○じゃねぇし」
「汚れまくってるしな」
「不潔」
「うるせぇよ。
俗世の芥に塗れまくってるからな、そりゃ汚いだろうよ」
営業マンって大変よね。
今日も同期の広瀬君が失敗して、営業事務の水嶋さんから大目玉食らってたけど……あらやだ、嫌なことを思い出したわ。
そのあとなぜか水嶋さんってば、わたしにやり直しの手伝いをしろって言うのよね。
思わず 「は?」 ってなっちゃった。
だってそれは水嶋さんの仕事じゃない。
もちろんやらなかったけど。
わたしがやったって水嶋さんの評価になるんだもの。
冗談じゃない!
まったくもう……ということは、わたしも結構俗世の芥に塗れてる?
「上手いこと言って一人だけ逃げようとしやがる」
「逃がさねぇからな、カニ」
「ちょっと待て。
お前ら、俺をどんな沼に引きずり込もうとしてる?」
……その話、まだ続いてたのね。
とりあえず立ち上がったカニやんは、ポポポンッと適当な魔法攻撃でコウモリを消し去るわたしと、いつヴラドが人形に戻ってもいいよう警戒するクロウを見る。
「いい加減、ケリつけようぜ。
この吸血鬼、魔女の時より時間掛かってるんじゃね?」
そうね。
なんとなく弱点がわかったような気がするんだけれど、それを試すにはヴラドに人形に戻ってもらう必要がある。
あのコウモリの姿じゃ無理だもの。
でもカニやんは下手をすると落ちる。
しかも、もうとっておきアイテムの 【中級】 HPポーションはない。
だからやっぱり囮はわたしよね。
「駄目だ」
珍しくクロウに反対された。
しかも溜息混じりとか。
いいじゃない、わたしがやるっていってるんだから……と話しているわたしたちの真横に現われる人形のヴラド。
丁度いいところに向こうから来てくれたんだから、このチャンスを逃す手は無い。
このままわたしを噛ませる振りをして……して……どうしてクロウが噛まれるのよっ?
いい加減血が足りなくなったってわけでもないだろうけれど、人形をとったヴラドはわたしの腕を捕まえて物凄い力で引き寄せると、首か肩かわからないけれどかぶりつこうとして、寸前にあいだに入ったクロウの肩に牙を立てる。
強引すぎる割り込みにヴラドの手が外れ、わたしはクロウに押されるように後ろに倒れる。
直後、傷口から流出するクロウのHP。
でもさすが鉄筋。
これまでに噛まれるとか刺されるとかした三人に比べて、全然流出量が少ない。
STRも凄いけど、どんなVITをしてるのよっ?
「ヒール!」
みっともなく尻餅をつきながらも回復したら、クロウには 「必要ない」 といわれてちょっと落ち込みかける。
いやいやいやいや!
回復は必要でしょっ?!
必要ないってどういう意味よ、クロウ!
だって今もまだヴラドに噛みつかれたまま、HPが流出……してない?
どういうことかと思ってよく見れば……尻餅をついた状態のわたしからは、ほぼ密接したクロウとヴラドを見上げる角度になるんだけれど、クロウの左肩に牙を突き立てたままのヴラドの心臓を、右手に持った屍鬼で貫くクロウ。
ヴラドの背から、マントを突き破るように屍鬼の先端が顔を出す。
やっぱりね
わたしが気がついたヴラドの弱点。
それは心臓に杭を打つ代わりに、物理攻撃で貫通攻撃を仕掛けること。
魔法が効かないのは、すでにカニやんが貫通攻撃である 【氷雪乱舞】 を仕掛けているからわかっている。
杭を打つ
そこに運営がこだわった結果、あくまで物理攻撃じゃなきゃ駄目だったみたい。
しかもクロウったら、たぶん少し前から気づいていた感じ。
さっきから考え込んでいる風だったのはきっとそうだと思う。
断末魔の声を上げてヴラドが霧散すると、周囲を飛び交っていたコウモリたちも霧散。
天井もいつもの状態に戻る。
「お、勝った」
「お~!」
「長かった」
諸手を挙げて喜ぶ三人だけど、わたしは気が気じゃなくてクロウのHPを回復する。
だって必要ないっていいながら、ヴラドが消えたあとに自分でポーション瓶を割って回復してるんだもの。
全然平気ってわけじゃないはず。
そりゃこの五人の中では一番ダメージが少ないんだろうけれど……どのくらい減ったの?
ふと気になって訊いてみる。
「……どのくらいだと思う?」
やっぱり素直には教えてくれないか。
とりあえず回復しておく。
「自分でするから大丈夫だ」
うるさいわね、おとなしく回復されてなさい……ということで、未だ毎日のようにクロウから送られてくるHPポーションを、ここぞとばかりに使ってやる。
誰かいい加減、クロウの記録を破ってよ。
「あ~あれな」
「まだ貢がれてるんだ」
「ってか旦那、いまヴラドに噛まれた?」
ふと柴さんが思いついた瞬間、カニやんとムーさんが驚いたように息を呑む。
ん? それがどうかした?
だから今、回復してるんじゃない。
鉄筋VITだからたいしたダメージじゃなかったみたいだけど……というわたしの話なんて全く聞いていない三人。
「まさかまさかの旦那○貞説っ?」
「うわ……意外なところに伏兵が」
「ちょい待て、処○と童○って……先が見えなくね?」
『割り込ませてもらうと、それは心配ないと思う』
頭を抱えるような恭平さんの声に、笑いを堪えようとして堪えられず漏らしているハルさんが続く。
『俺もそう思う。
クロウさんは違うでしょ』
違うって、なにが?
ついには堪えきられず大声を上げて笑うこの声は、お店にいるりりか様ね。
『お、おか、おかしぃ~!』
なにがおかしいのよ、りりか様は。
『だってクロウさんが童○って、想像つかないんだもん』
………………えっと、想像ってどんな想像?
当事者じゃないけれど、話についていけない私は困惑しきり。
でも当事者のクロウは溜息一つで終わりにしちゃうんだけど、なにか言い返したほうがいいんじゃない?
「なにを?」
……えっと、それをわたしに訊かないで欲しい。
ここで気の利いたことの一つでも言えたら、喪女を卒業できると思う。
でも話について行くことさえ出来ない現状に、卒業の遠さを思い知る。
とにかく出てくる単語が恥ずかしすぎて顔が熱い。
平気で口に出来るりりか様が凄いっていうか、なんていうか……その……。
「少なくとも意味はわかってるんだ」
カニやんってばなんてことを言うの?
わたしだってそのくらいは知ってます!
どこまで喪女だと思ってるのよっ?
「果てしなく喪……と思ったけど、ここまで来るとなんていうか……」
表現しづらそうに言葉を濁すカニやんの視線を受けるクロウ。
でもクロウはなにも言い返さず、恥ずかしさに頭を抱えるわたしを抱き寄せてくる。
もうね、耳とか、みんなの声が聞こえにくくなるくらい熱くて、恥ずかしくてたまらない。
たまりかねたわたしも、クロウを木の代わりにしがみついておく。
お願いだから、そういう話はわたしのいないところで、男の人同士でしてよ。
無理!
このダンジョンは 【富士・火口】 と違って、前の組が出なくても次々に生成できるから長居をしても大丈夫。
落ち着くまでここにいるから、カニやんたちはさっさと出ていって! ……って言おうとしたら、突然クロウに首に噛みつかれた。
えっ?! ちょ、クロウっ?
まさかまさかと思うけれど、ヴラドに噛みつかれてクロウまで吸血鬼になっちゃったとか?
だってそんな話があるわよね、吸血鬼に噛まれたら噛まれた人も吸血鬼になるって。
まさか、本当に?
ちょっと、クロウっ?!
前書きから続く→ でも期間限定イベント 【trick or treat】 のあいだはカボチャシリーズで行きたいと思います。