293 ギルドマスターはカボチャを串に刺します
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「さすが吸血鬼。
マジで真っ先に処女を狙いやがる」
えっと……どこから突っ込めばいい?
とりあえず気絶せずに済んだわたしは……それでも一瞬意識が飛んだように思う。
杖を手放しそうになりながらもクロウにしがみついてなんとか堪えたけれど、とりあえずムーさんには言っておく。
関係ないから!
偶然わたしの立ち位置が、五人の中で一番外側だったってだけだと思う。
丁度背後にこのボス部屋に入るための出入り口があって、いざという時は退避場所に使えるかと思って背にしていたのが余計にいけなかったのかもしれない。
そしてそれをAIが自分で演算して割り出したのか、あるいは運営のプログラマーが、これまでのプレイヤーの行動データから割り出してAIにプログラミングしてきたのかはわからない。
けれどかなり対処してきてるわよね。
後ろの通路は退路、つまり安全な場所とプレイヤーは無意識に思い込んでいる。
その隙を衝いてくるなんて。
少なくともわたしが、その…………かどうかなんてことを知っているはずがないし、そんなデータも組み込まれていません。
絶対に!
しかも天井近くまで飛び上がる、いくつかのコウモリの群れを目で追い続けるのは首が辛い。
結構速さもあり、プレイヤーの眼前近くで二つの群れが交差して視界を塞いだりして、挑発しているようにも見える。
とりあえずすぐ近くを飛ぶ群れに向けて、杖を叩きつけるように振ってみたら……コウモリに一匹くらい当たらないかしら? と思ったんだけれど甘かった。
急に何かに引っ掛かるような手応えがあり、慌てて引こうとしたけれどビクともしない。
ハッとして顔を上げたそこにヴラドの顔があり、すぐさま杖を握る手から全身が姿を現す。
しまった!
「やっぱ狙われてるって!」
カニやんの声とともにみんなが一斉にわたしを見て、援護すべく攻撃をヴラドに集中させる。
違う!!
駄目よ、火力を集中させては!
ヴラドはわたしを狙っているのではなく、プレイヤーの隙を狙っているの。
案の定、手薄になったカニやんにコウモリが襲いかかる。
「起動……焔獄!」
一番近くにいたクロウの攻撃が真っ先にヴラドに反撃。
左肩から袈裟懸けに斬られたヴラドは、笑いながらまた無数のコウモリとなって場を離脱。
そのあいだにもわたしはカニやんに向けて焔獄を放つ。
これはきっと、狙われているのはわたしじゃない。
たぶんカニやんよ。
「俺?
……童○じゃないけど?」
「訊いてねぇよ」
「知ってる」
…………わたしも訊いてない。
お願いだからそこから離れて。
頭に血が上って上手く考えられなくなるから、やめて……。
たぶん最初に襲われた時、上手く対処できなかったから、きっと一番弱いって思われたのよ。
「このメンバーじゃ、実際、俺が一番弱いでしょ」
「貧弱なモヤシめ」
「運動音痴め」
ムーさん、甘いわよ。
わたしが一番運動音痴だと思うわ。
OLの運動神経と筋力の退化を舐めないでね。
だからきっとカニやんが落とされれば次はわたしだと思う。
ちなみに……たぶん斬ったクロウは気づいていると思うけれど、屍鬼の斬撃を受けたヴラドはコウモリに変化したけれど、その際にHPの流出現象はなかった。
斬撃を受けた衝撃で人形が崩れた、そんな感じだったと思う。
そしてそれだけだったと思う。
与ダメ0
「それって、物理無効?」
「だな」
「だよな」
わたしもそう思うんだけれど、なぜかクロウは考え込んでいる感じ。
何か気になることでもあった?
「いや、まだなんとも」
いつもながら慎重ね。
でも物理攻撃が無効なら、魔法使いであるわたしとカニやんから狙ってくるのもわかる。
カニやんが落ちていない状態でわたしに粉をかけてくるのは、たぶんわたしがかけやすい位置にいるから。
それだけで特に意味はないと思う。
だからクロウに張り付いておくことにする。
一応ね、杖で殴っても打撃として有効だけれど、使い手のSTRがモヤシなので全然ダメージが出ない。
結局クロウに張り付いていてもヴラドはわたしの正面に姿を現し、杖の一撃を受けても人形が崩れることなく、牙を剥いてニヤリと笑う。
ガシッと両肩を掴まれ引き寄せられるけれど、今度は詠唱できる。
「起動……焔獄」
魔法攻撃に、刃物のようにすぱっと切断できるようなスキルは少ない。
しかもそのほとんどは狙った場所に届くことはない。
だから急所である首を一撃で落とすのが難しく、高HPの高VITを誇る 【幻獣】 を相手に一撃で片を付けることは出来ないといってもいい。
でも焔獄ならそれなりに削れるはず。
そう思ったわたしの思惑は完全にはずされた。
焔獄の焔に包まれて動きを止めるヴラドだけれど、本来ならばあるはずのHP流出現象が起こらない。
被ダメ0っ?!
「グレイ」
声を掛けるのとほぼ同時に横を擦り抜けてヴラドに斬り掛かるクロウ。
魔法攻撃の直撃でダメージが出るかを確認していたから少しタイミングが遅くなってしまい、身動きが出来るようになったヴラドは後方に跳ぶようにクロウの一撃を躱す。
その先に待ち構えていた柴さんが背中に一撃を食らわすけれど、やっぱりヴラドは人形を崩してコウモリになって場を離脱する。
どういうことっ?
だってこれじゃ不死身じゃない。
とりあえずうるさいコウモリを一度焼き払うわ。
「起動……業火!」
威力最大、範囲最大で放つ業火の焔に、周囲を飛び回るコウモリの半数以上が焼け落ちる。
でもその中に無傷で残るひと群れがあった。
ヴラドだ。
人形を崩してコウモリになったヴラドは焼け落ちる使い魔のあいだを群れて飛び、天井で待機していた新たな群れを幾つか呼び寄せて、その中に紛れ込む。
つまりコウモリになっても魔法攻撃は効かない。
いえ、まだよ。
「起動……スパイラルウィンド」
威力最大、範囲最大で放つ竜巻。
その渦を巻く風に巻き込まれたコウモリが押し潰されるように消えてゆく中、やっぱりひと群れだけが無傷で生き残る。
そして新たな群れを呼び寄せ、その中に紛れ込んでわたしたちの目をくらませる。
「起動…………ウォータースライサー」
カニやんの放つ水属性魔法 【ウォータースライサー】。
スパイラルウィンドのようにうねる水の中、次々にコウモリたちを引き寄せては巻き込んで押し潰すけれど、やっぱり潰れず無傷で脱出するひと群れがある。
絶対にあれがヴラド。
見失うまいと必死に目で追うけれど、向こうもそれをわかっているのか、上手く別の群れを操ってすぐに見失ってしまう。
そもそもこれ、どうやって倒せばいいわけ?
魔法攻撃も効かない、物理攻撃も効かない。
人形であっても、コウモリであっても。
「ドラキュラって不死身だっけ」
ううん、不死身じゃない。
ほら、狼と一緒よ。
「ああ、銀弾」
うん、それ。
「このイベント用のアイテムで銀弾とかあったりする?」
『ないよ』
カニやんの問い掛けに、インカムから返されるクロエの答えは明確にして無情だった。
「ないのかよ」
「じゃあどうするんだ、こい……うぐ!」
呑気に構えていた柴さんが、不意に背後で人形に戻ったヴラドのステッキでひと突きにされる。
その先端がお腹を突き破って出てくるのと一緒に、キラキラと光るHPが大量に流出する。
刺された衝撃で背を反らせた柴さんは、すぐに自力でステッキを背中から抜き、振り返る勢いでヴラドに斬り掛かる。
でもやっぱり斬撃の衝撃で人形は崩れ、ヴラドはコウモリになって逃げる。
「ヒール!」
「ヒール!」
さすが 【幻獣】 の一撃。
決して低くはない柴さんのVITをもってしても、その直撃一撃でHPの3分の1近くを持っていかれたらしい。
しかも貫通攻撃だったから、食らった瞬間のみならずそのあとも数秒間流出が続く。
とっさに私とカニやんが回復魔法を使って応急処置をしたあとは、警戒しつつもHPポーション瓶を割って回復する。
やっぱり中級以上のポーションが欲しいわ。
「いま一本だけ持ってるが、使えんわな」
高VITの柴さんはHPも高く、通常ポーションじゃ瓶一本二本じゃ回復しきれない。
それこそ3分の1近くを一度に持って行かれれば、回復に四、五本は使うと思う。
それでも全回復にはならないだろうけれど……ん? 中級ポーションを持ってるの?
「ああ、一本だけな。
お化けに菓子やったらお返しにくれた」
「なかなか気の利いた奴だな」
「だろ?
こいつも少しは見習えっての」
お菓子をあげても悪戯をするお化けたちだけれど、悪戯されたパパしゃんとマメは、その日の午前零時で魔法が解けて元の姿に戻っている。
シンデレラじゃないんだけど……まぁそこはほら、ファンタジー要素をどうしてもねじ込みたい運営の浅知恵ってことで。
でも普通は課金アイテムである 【修験の書】 や各種ポーション、装備に素材などをくれるらしい。
たまにクズもあるらしく、装備なんかはほとんどハズレね。
性能のいい人気装備は絶対に混ぜてこないんだけれど、そんな中に……さすがに 【特級】 は無理だろうけれど、【中級】ポーションを入れてきた運営。
これでプレイヤーが便利さを覚えれば、ますます調合スキルが重宝される。
なかなか煽ってくるわね。
でも柴さんってば、持ってるなら使えばいいじゃない。
さすがに3分の1近くを回復するのは手間よ。
「剣士のVITで3分の1近くだぞ。
魔法使いが食らってみろ、半分持って行かれる」
うん、言われてみるとそうかもしれない。
しかもさっきのを見ていたら、背後で人形になったと思った次の瞬間にぶすっと刺されてたから、たぶん躱すのは難しいと思う。
「俺、ひょっとしたら落ちるかも」
ちょっとカニやん、そんな弱気なこと言ってないで、常にHPをfullにして対処してよ。
「fullにしても最大値は変えられんって。
だから中級ポーションは剣士には使えん」
柴さん、男前!
なんだかんだいってもカニやんと仲いいもんね。
最近串刺しが多いのですが、大丈夫でしょうか?
貫通攻撃としてどうしてもそうなってしまうのですが、不快に思われていないかちょっと心配です(汗