291 ギルドマスターはカボチャに仕返しをします
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大型アップデート期間中に始まった期間限定イベント 【trick or treat】は、ナゴヤドーム内にハロウィン飾りが施され、エリアやダンジョンに出現する敵NPCにハロウィンキャラが混ざるというもの。
ただしナゴヤジョーに三つあるダンジョンには、完全なるハロウィンキャラオンリーヴァージョンとわたしが勝手に命名したレアダンジョンが時々生成される。
ダンジョンボスももちろんハロウィンキャラで、たまたまパーティを組んだメンバーの火力を鑑みて選んだシャチ金で、わたしたちを待ち構えていたのはやや体脂肪率が高そうな魔女。
魔女メディア / 種族・幻獣
い、一応ね、同じ女性としてちょっと配慮して言葉を選びました。
でも相手は遠慮も配慮もまったくしてくれず、パンチラなんて古典的で姑息なお色気作戦を使ってきた。
気遣いの欠片もない下品な作戦に、よりによって引っ掛かったムーさんが一回死亡を計上。
こう……カラスの翼を模した刃で首をすぱっと切られちゃって。
ほんと、男の人ってどうしてこうなのかしら?
単純っていうか、なんていうか。
幸いにしてわたしが蘇生スキルを持っているから、死亡制裁もなしに復活したけど。
ドスケベ!
「いや、ほんと、面目ない」
ムーさんったらさっきからそればっかり。
まぁその……結果としてスカートをめくったのはわたしなんだけれど、不可抗力よ。
あんな派手にめくれ上がるなんて思わなかったんだから。
「同感。
俺も危うく次、ウォータースライサー撃つところだった」
同じ魔法使いのカニやんは、一手あとだったために助かったとかいって安堵してるの。
撃てばよかったのに。
そうしてスカートを思い切りめくってやればよかったのに。
なんだったら今から撃ってもいいわよ。
「謹んで辞退する。
あんなえげつないパンツ、二度も見たくねぇわ」
そうね、真っ赤な紐パ○ツなんて……冗談じゃないわ。
スカートめくりどころか、同じ愚を繰り返してたまるもんですか。
そもそもこの魔女に魔法攻撃は通じない。
でも魔女は魔法攻撃を仕掛けてくる。
そこでわたしはその攻撃を受けてMPを回復しつつ、物理攻撃を仕掛けるべく握った杖を大鎌に変える。
「それ、久々だな」
隠し武器って、そうそう使うもんじゃないと思う。
「そりゃそうだ」
声を上げて笑うカニやんは、出現したカラスを魔法の一撃で焼き落とす……というか、氷水系だから溶かす?
うーん、特に今まで気にしていなかったけれど、表現が難しいわね。
ま、いいわ。
落としましょ
後背を四人に任せて魔女の前に出たわたしは、大鎌を構えて大きく踏み込む。
けれど振りかざして斬り掛かろうとするのを見て、魔女はすかさず飛んで移動。
置き土産の如く魔法攻撃を仕掛けるけれど、それは常時発動スキル 【愚者の籠】 に吸収されてわたしのMPを回復してくれる。
魔法での攻撃は、お互いに無効である以上足止めにもならない。
でもこの魔女、たぶん自分の足で逃げたら遅いからってほうきを使うのは反則でしょっ?
「魔女だしな」
魔女はほうきで飛ぶものだってカニやんは笑う。
それこそほうきを手に持って地面を歩いているほうが違和感半端ねぇ……だって。
確かに、それじゃあ魔女のコスプレと変わらないか。
空を飛んでこそ魔女……というわけでもないけれど、飛んでいるところを見れば、確かにいかにもって気もする。
どうでもいい
ほんっと、どうでもいい。
この速さ、なんとかならない?
ほうきにまたがって飛ぶ魔女は、わたしに魔法攻撃が効かないと看破するが否や……まぁ一撃食らったらバレバレなんだけれど、大鎌の攻撃を躱しつつ、普通ならば攻撃目標になるはずのわたしをあえて外し、わたし以外の四人に対して魔法攻撃を仕掛ける。
ちょーっとこのAI、頭が良すぎない?
動きもよく出来ていて、大鎌の攻撃を躱しつつ上手くわたしの後背に回り込もうとするの。
しかも速いから、その、たぶんAGIの問題じゃないと思う。
わたしの反射神経の問題というか、運動神経の問題というか……ようするに、魔女の速さに私が対応しきれていない。
腹が立つ!
それでもわたしが魔女の相手をしようと決めたのは、空を飛ぶから。
超巨大金ぴかシャチや、本性に戻ったルゥが四肢で立つことの出来る天井の高さを飛び回られると、刀剣を使った攻撃は届かない。
でも魔女の攻撃手段は魔法だから、攻撃範囲は中距離射程。
あの高さからなら、十分床に立つプレイヤーに届く。
だから刀剣が届かない剣士だと、一方的に攻撃されることになる。
ここにクロエがいたら、あの憎ったらしい眉間にズドンと撃ち込んでくれるんだろうけれど、いないのよね。
もちろんわたしの大鎌も届かないけれど、魔女の魔法攻撃も効かないからおあいこ。
でもやっぱり重量オーバーに近いのか、移動の時に高度が下がることがある。
ダイエットしたら?
あ、もちろんイベントが終わってからね。
今ダイエットされたら高度が下がらなくなって困るから。
「相変わらず勝手だな」
カニやんに呆れられた。
でもそんなツッコミはいらないから攻略方法を考えてよ。
もちろんわたしを盾にするのは全然ありで。
だってこの魔女の魔法攻撃、たぶんまともに食らったらかなりのHPを削られると思う。
その根拠は、わたしのMPがあっと言う間にゲージfullまで回復したから。
それだけ強力ってことよ。
直撃は避けて。
「やべぇ」
うん、ヤバいと思う。
回復はマメにしましょう。
『呼んだかぁ~?』
呼んでません、間違えました。
こまめに回復しましょう、です。
すかさずインカムからマメに割り込まれてしまった。
「うっす」
「あいよ」
応えながらも回復する柴さん。
魔女の魔法攻撃ではなく、カラスの翼に掠ったらしい。
敵NPCはMPに際限がないから、それこそ際限なく攻撃を連発してくる。
でも複数の魔法を同時に発動することは出来ない。
それはこのゲームの縛りで、プレイヤーはもちろん敵NPCも対象。
それこそ 【幻獣】 であってもこの縛りは破れない。
だから同時に発動しているのではないんだろうけれど、同時発動を思わせるほどの早さで複数のカラスを召喚し、そこに魔女自身の魔法攻撃を加えてくる。
目下、ピンチにあるのはカニやん。
レベルこそ脳筋コンビより高いけれど、ステータスの振り方で影響を受けるHPはさほど高くはなく、おそらく二人よりも低い。
そして魔法使いである以上、わたしと同じくVITは紙。
でも魔法攻撃を吸収するわたしと違い、物理攻撃も魔法攻撃もダメージを受ける。
だから集中的に狙われると、この状況ではすぐに追い込まれてしまう。
そのカニやんを庇ってカラスの翼に掠ってしまった柴さん。
これはかなりまずい状況だと思う。
だって、間違いなく消耗戦からの敗北コースだもの。
打開策……
ちょっと邪道だと思うんだけれど、でも向こうだってパンチラ攻撃なんて仕掛けてきたのよ! ……スカートをまくったのはわたしだけど。
でもそこは不可抗力ってことにして、手段を選ばす仕掛けます!
重量オーバー気味の魔女がほうきの高度を落としたタイミングを狙い、大鎌をほうきに引っ掛けて引きずり下ろすことにしたの。
あまり褒められた方法じゃないけれど、でも魔女を引きずり下ろさないと、消耗戦からの敗北コースまっしぐら。
背に腹は代えられません!
誰がそんなコース、まっしぐらに進んでたまるかーっ!!
でもこの作戦にも大きな問題があった……というか、大誤算があった。
カラスを躱しつつ魔女に近づき、上手く引っ掛けて内心 「やったー!」 と思ったのも束の間、渾身の力で引きずり下ろそうとしたけれどビクともしない。
もちろんわたしのSTRがモヤシってこともあるんだけれど……悲しいくらいモヤシなのよね、わかってるけれど、こうもまざまざと非力さを見せつけられると悲しすぎて涙が出てくる。
これだけでも十分に誤算だけれど、さらなる誤算があった。
せっかく大鎌を上手くほうきに引っ掛けられたと喜んだのに、わたしのモヤシなSTRじゃいくら引っ張ってもビクともせず、魔女なんて気づきもしない。
そう、気づきもしなかったのよ。
ひどくないっ?
だからわたしを引っ掛けたまま引き摺るように移動し、さらにはまた高度を上げようとする。
え? ちょっと、とっくに重量オーバーじゃないのっ?
だってわたしがぶら下がってるのよ。
引きずり下ろせなかったのがわたしのモヤシなSTRのせいなのはともかく、そのわたしを引っ掛けたままほうきはぐんっと力強く高度を上げようとするの。
凄い力で引き摺り上げらたわたしは、吊り上げられる感覚とともに、足が床から浮くのを感じる。
ヤバい
魔女に気づかれたらカラスが来る。
そのことに気づいて慌てて降りようとしたけれど、鎌がほうきから上手く外れない。
それもそうよね。
だって鎌にはわたしの重量が掛かっていて、しかもわたしの足はとっくに宙に浮いている。
振り子のように体を前後に揺すって鎌をはずそうとした……ら……え? クロウっ?!
いきなり下腹あたりをガッツリ抱えられたから、何かと思って見ればクロウが砂鉄を片手に、もう一方の手でわたしを抱えるように支えていた。
ちょ、待って待って待って、この状況はヤバいって。
さすがにこうなれば魔女だって気づく。
不破さん顔負けの妖艶な笑みを浮かべてわたしたちを見下ろした魔女は、その真っ赤な唇で呪文を唱える。
カラスが来る!
もちろんわたしだって魔法使い。
全方位攻撃で撃退できるけれど、この姿勢では視界は前面のみ。
どこからカラスが来るのかわからない。
そう焦るわたしの前で、クロウは右腕一本で持った砂鉄を魔女の顔面に向けて突き上げる。
なんて強引な詠唱の妨害……というか、女の人の顔をひと突きって……
うわ……
前にわたしも不破さんに斬られたけれど……たぶん……たぶん性別関係なく顔面にひと突きっていうのはちょっと衝撃がある。
少なくともわたしは言葉が出ないくらいの衝撃を受けた。
でもクロウは平気……かどうかはわからないけれど、魔女の顔面を刺して詠唱を止めたまま、背後に向かって声を上げる。
「ムー、頼む!」
「ほい来た!」
カニやんのカバーを柴さんに任せ、それまで装備していた片手剣を一瞬で大きな両手剣に換装したムーさんが、わたしたちに向かって大きく踏み込んでくる。
「グレイ」
クロウの声に合わせてわたしは大鎌を手放し、クロウは砂鉄を魔女の顔面から引き抜く。
刹那、ムーさんが大剣を横一文字に大きく振るう。
「一刀両断!」
さっきの仕返しとばかりに魔女の首を切断。
クロウが砂鉄を引き抜いた瞬間に詠唱を終えた魔女だったけれど、召喚されたカラスは出現するまでもなく魔女と一緒に消滅する。
それまでに召喚され、カニやんを襲っていた何十羽というカラスまでもがほぼ同時に消滅した。
わたしはといえばクロウに抱えられたまま、魔女の消滅で落ちてきた大鎌を受け止め損ねた。
受け止め損ねたポーズのまま固まるわたしを見て、小さく息を吐いたクロウが呟く。
「下手くそ」
よ、余計なお世話よ!
いいから下ろしてっ!!
ハロウィン当日('20/10/31)にようやく魔女一体退治・・・(汗
引き続き、期間限定イベント 【trick or treat】 をお楽しみくださいませw