289 ギルドマスターはカボチャに微笑まれます
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初見はまず銅から始めるべきだった?
銅というのはもちろん、ナゴヤジョーにある一番レベルの低いダンジョン。
そこで初見を済ませ、要領を掴んでからレベルを上げていくのが正しい攻略方法だったのかもしれない。
うん、通常の育成はそうよね。
育成しに来たわけじゃないけど。
経験の積み方もそうよね。
経験値が欲しいわけじゃないけど。
普通に攻略しに来たわけで、火力から鑑みて最強ダンジョン・金を選んだら最悪ダンジョンだったっていうね。
だってメンバーがわたしにクロウ、カニやん、脳筋コンビの五人だったのよ。
これでパーティを組んでシャチ銀じゃ物足りないでしょう。
それこそ敵の争奪戦で、いつも出遅れるわたしはなにも出来ずに攻略終了となってしまう。
だから金を選んだら、まさかまさかのハロウィンキャラオンリーヴァージョンというレアダンジョンが生成され、超巨大カボチャたちに翻弄されっぱなし。
でもこれ、まだハロウィンオールスターズじゃなかったっていうね。
なにが出るの?
それはあとでのお楽しみ! ……全然楽しみじゃないけどね、わたしは!
またうっかりカボチャの頭突きを食らったというか、角で出会い頭に突っ込まれ、吹っ飛ばされた…………痛い……。
「グレイっ!」
なに、これっ? ……あ、出会い頭なんだけど、文字通り頭突きを食らって吹っ飛ばされ、壁に叩きつけられた。
マジ痛い。
痛すぎて涙が出てきた。
だってこのカボチャ、かなり固いのよ。
普通にぶつかられただけでも痛いのに、ぶつかられた勢いで吹っ飛ばされるくらいって、どんだけよ?
しかもそのまま壁に叩きつけられるとか……痛すぎる。
わたしのVITってどんだけ紙よ? って改めて思ったわ。
カボチャの一撃にはHPを削られたけれど、幸いにして壁に叩きつけられた分はセーフ。
い、痛い……とりあえずムーさんが鼻の下を伸ばしているから、まくれたスカートを直しておく。
ズボンを穿いているから絶対に素足は見えないんだけど、ムーさんってば!
「そのポーズが好き」
「このフェチが!」
カニやんは言葉で突っ込みつつ、片手でわたしを立たせ、もう一方の手でHPポーションを割って回復してくれる。
ごめん、ありがと。
「カニやん、すまん。
ムー、あとで殺す」
うん? 何かさりげなくクロウが物騒なことをいってるけれど、わたしは聞かない振りをしておく。
「俺も」
「ちょいちょいちょい、俺の首ヤバいっ?」
知らないわよ、このドスケベ親父!
でもそのムーさんの首は、クロウより先にこのレアダンジョンのレアボスが飛ばしてくれた。
alert 魔女メディア / 種族・幻獣
ボス部屋に着いたわたしたちを出迎えるアラート表示。
そのウィンドウの向こうに見える…………妖艶な美女?
趣味じゃない
もちろんわたしの趣味じゃないって意味よ。
同性のわたしがいうと僻みにとられるかもしれないけれど、でもあんな大きな胸って、まるで牛よ、牛!
その、なんていうの?
こういう表現は苦手なんだけれど、その……に、肉付きがいい?
ちょっと太っているともいうわね。
うん、わたしの基準ではぽっちゃりを少し超過してるかな。
むっちり
真っ黒のワンピースを着て、なぜか裏地がオレンジ色をした黒いマントを羽織り、わたしより背の高い三角帽を被った魔女が……ちょっと化粧も濃くない?
シャドーの入れ方も変だし、服のコーデを考えたらあのカラーチョイスもちょっと。
真っ赤な艶々リップなんて定番過ぎるし。
鮮やかな赤毛をくりんくりんに巻いて、こう……肩に掛かる髪を手で鬱陶しそうに払う仕草でわたしたちに流し目をくれる。
ちなみにこのお色気むんむんの魔女はほうきに乗っていて、黒いロングのワンピースに真っ赤なハイヒールのコーデもどうかと思う。
「男がデザインしたんだろ、どうせ。
自分の願望の投影」
カニやんは冷静に、でも少しわたしをからかうように言うんだけれど、それでもちょっとどうなの、これは。
一応美女の演出なんだろうけれど、わたしの好みじゃないのよね。
「珍しく辛口だね」
「女王も同性だと厳しいな」
「でも俺、全然好み」
ムーさんの好みなんて訊いてません。
しかもカニやんったら、それを聞いて考える素振りをしつつわたしをチラリと見るの。
ん? ねぇ……ちょっとカニやん、今、チラリと胸、見なかった?
見たわよねっ?!
「あー……俺はグレイさんがタイプかな。
デカけりゃいいってもんじゃないでしょ」
「俺はどっちも好み。
デカいのもいいし、バランスも大事」
「ん? 俺は別にギルマスの胸が小さいとは言ってないし。
むしろデカいよな」
とりあえずこのドスケベ三人はあとで殺す!
絶対コロス!!
沸き起こる殺意にこの場で殴りかかりたい衝動を堪ぇ……え?
「グレイ!」
クロウが叫ぶより一瞬早く、わたしは視界に入る黒い物を払うように杖を振った。
さすがにね、ダンジョン攻略にあのカボチャスティックはちょっとあれなんで杖に持ち替えていたんだけれど、何か飛んできた! ……そう思うより早く、わたしは反射的に杖を振っていた。
それこそ 何か……くらいのタイミングで杖を振ったら確かに手応えがあり、黒い塊が床に落ちる。
直後に上がる独特な鳴き声。
カァァァァ……カァァァァァ……
カラス? え? ちょっと待って、どういうこと?
突発事態に弱いわたしは混乱しそうになり、鳴き声を響かせるカラスを呆然と見ていたんだけれど、そのあいだにも体勢を立て直し、再び飛び立とうとしたカラスをすかさず柴さんが斬り落とす。
「今のを躱すか?」
「さすが女王、最強」
「もう少しSTRがあれば落とせてたんじゃね?」
さすがにクロウを含めた四人は冷静なんだけれど……その、反射的にカラスを叩き落としていたってことよね、わたし。
「そうだな、大丈夫か?」
少し前に出ていたクロウが戻ってきて、背にわたしを庇うように話しかけてくる。
うん、大丈夫。
ちょっとびっくりしたけれど……それより今のカラス、どこから飛んできた?
誰か見てた?
「気づかなかった、すまん」
「俺もわからなかった」
「見なかったな」
「見てなかった」
誰も、それこそクロウですら気づいていなかった。
そうよね、わたしも気づかなかったわ。
一瞬で視界に入ってきたっていうより、不意に視界の隅に出現したって感じがする。
まさかと思うけれど、湧き位置不定?
少なくとも柴さんの一撃で落ちたってことは、今のカラスは間違いなく敵NPC。
このナゴヤジョーのダンジョンは、全てPKエリアじゃないから。
しかもアラートが出なかったってことは、あのカラスは独立した存在じゃない。
たぶん……
わたしはクロウの背中越しに、ほうきに乗ってフワフワと飛んでいる重量級魔女を見る。
向こうもこちらを見ていて、目が合うと……わたしの気のせいかと思ったんだけど、でもたぶん合ったと思う。
だってちょっと口の端を上げて笑ったもの。
そしてまたカラスが湧く。
来る!
今度はわたしの頭上、右上あたり……っていうか、またわたし狙いっ?
両手に握った杖でもう一度打ち払おうとしたら、寸前にクロウの砂鉄が斬り落とす。
ちょっとこの、どこにでも不意に湧くっていうのは怖い。
「やっぱ今ので反応できるんだ、すげぇ」
「カニには無理だな」
「お前、意外に鈍そうだもんな」
「うるせぇよ」
三人は余裕なんだか、諦めてるんだかわからないけれど、わかったこともある。
わたしの読みどおりカラスを操っているのはあの重量級魔女で、出現直前、その手元に掌サイズの魔法陣が現われていた。
たぶんあれが詠唱で、カラスは魔女の攻撃手段。
ん? カラス?
え? ちょっと待って。
カラスの攻撃って物理攻撃?
今までにこういう、何かを操って……【treasure ship】 で操舵輪を投げたり、インパクトドライバーでナットや釘とか撃たれたけれど、あれは考えるまでもなく物理攻撃だったけれど、動物を操るっていうのは初めてのパターンでわからない。
同じ 【treasure ship】 のキッチン兼食堂に現われたGは、骸骨料理長が操っていたものかどうかはわからないし、そもそもGは元々ナゴヤドーム近辺にも湧いていたから深く考えもしなかったわ。
ちょっと誰か情報ないっ?
このレアダンジョン、最初からそうだけれど、このボスもかなりヤバそう。
『魔女?
銅と銀に魔女はまだ出てないと思う』
インカムから聞こえてくる恭平さんの話によると、ハロウィンキャラオンリーヴァージョンによるレアダンジョンは銀と銅でも生成されるらしく、内容的には普段の銀や銅に出現する敵NPCが全てハロウィンキャラに入れ替わるだけ。
だから超巨大カボチャやお化けは金にしか出なくて……あ、出る出る。
ただ出現するのは最終ボスとして。
銅では銅シャチの代わりにあの白い超巨大お化けが出て来て、銀では銀シャチの代わりに超巨大カボチャがボスとして出るらしい。
ただ、普通のダンジョンにハロウィンキャラが混じるだけでもちょっと厄介になっている状況で、ハロウィンキャラオンリーヴァージョンは銅でもかなり難易度が上がり、パパしゃんが抜けたあとはキンキーとぽぽで潜っていたらしいんだけれど、用心して他にも誰かついていくことにしたらしい。
パパしゃんは時間切れで、今日はもうログアウトしちゃったから。
今はJBとアキヒトさんが一緒に潜っているらしく、しかもついさっきまでハロウィンキャラオンリーヴァージョンに呪われ続けてJBが二回、アキヒトさんとぽぽが一回ずつ落とされている。
ちょっと火力上げすぎじゃない?
あの三人が今更シャチ銅で落とされるなんて……もちろんキンキーを庇ってのことだと思う。
実際にキンキーは一度も落ちていないっていうし。
それでもあの三人のレベルで落とされるって、銅レベルじゃないでしょ?
本当に誰?
今回のイベント 【trick or treat】 は簡単なイベントだって言ったのはっ?
本当の本当に全然簡単じゃないんだけど。
わたしなんて、初見だったとはいえ自分の攻略に必死になりすぎて、他のメンバーの状況をフォローすることにまで気が回らなかった。
キンキーとぽぽの二人パーティに、アキヒトさんとJBを配してくれたのは恭平さんよね。
ごめん
『大丈夫。
成り行きとはいえ、承諾した以上は仕事するから』
ありがとう
でもね、きっと恭平さんは副主催者になっていなくても、そうしてくれたと思う。
そういう人だもんね。
だからわたしは副主催者に恭平さんを選んだわけで、クロウもクロエもカニやんも、あっけないほどあっさり了承してくれた。
でもアキヒトさんとJBを銅パーティに回した分、銀パーティの火力が苦しい。
メンバーは恭平さん、トール君、マコト君、の~りん。
つまり魔法使いがの~りんしかいないのよ。
責任重大
このプレッシャーに勝てるの~りんじゃなくて、途中での~りんが落ちたら白いお化けを倒せなくなるから、その時はダッシュでボス部屋に駆け込むらしい。
銀のボスは超巨大カボチャだから、物理攻撃のほうが有利だからね。
でもこの作戦はまだ一回しか成功しておらず、ボス部屋に辿り着く前に全滅しているらしい。
…………ん? それってつまり、銀パーティもハロウィンキャラオンリーヴァージョンに呪われてるってこと?
『大絶賛呪われ中……』
頑張れ、の~りん!
このペースで行くと、31日までにイベントが終わらない・・・(汗