287 ギルドマスターはカボチャに悪戯されます
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巨大カボチャのワンピース? ……うーん、ちょっと違うかな?
いや、そんな感じ?
『どっち?』
よくわからないから直接見に来てくれない?
わたしには判断が付かないからそこはカニやんに任せるとして……うん、まぁマメはマメよね。
「マーメでーす」
そんなに大きな声を出さなくてもわかってます。
巨大ジャック・オ・ランタンにマメの頭がついていて、手と足が出ている。
そんな感じのマメが目の前に立っている。
だからてっきりカボチャを着ているのかと思ったら、脱げないんですって。
しかもジャック・オ・ランタンって中が空洞だから、下にちゃんと装備を着ているのかと思ったら……あら、覗けない。
これ、どうなってるの?
「マーメにもわーかりーませーん」
うん、状態がわからないのはわかった。
じゃあどうしてこうなったわけ?
「それはですねぇ~」
マメの説明はちょっと回りくどいので聞いた話をわたしが要約すると、例のお菓子はどこに出る敵NPCからでもドロップする。
そのドロップしたお菓子を早速無人バザーで販売を試みたプレイヤーがいて、マメはそれを購入。
当然そんな面白そうな物を入手すればすぐにでも試してみたくなるのがマメで、早速近くにいたジャック・オ・ランタンに食べさせたというか、あげたらしい。
そうしたらこうなった。
「カボチャ、可愛ぃ~でーす」
どこまでも前向きなマメはそのカボチャが気に入ったみたいだけど、一見ワンピースにも見えるそれはカボチャで、マメはそのカボチャに乗っ取られてるんじゃないの?
呪われたっていうか、なんていうか……ちょっとどう表現していいかわからないけれど、わかることもある。
つまりマメはお化けに悪戯されたってことね。
「マメだからな」
あらカニやん、お早いご到着で。
しかもなぜか柴さんやムーさんまで一緒なのね。
どうかした?
「面白いマメを見に来た」
「あれ、中身どうなってるんだ?」
「覗いてみるベ」
「覗いてみるベ」
この脳筋ドスケベコンビ。
覗いたって無駄よ、なにも見えないから。
ちなみにカニやんのハロウィンアイテムは靴で、きゅっと絞った先端と縁にボンボリ飾りが付いた魔法使い……というより道化師の靴でちょっと可愛い。
ずるぅ~い
でもムーさんのは、道化師の鼻につけるような赤っ鼻。
それはわたしの蝶ネクタイより残念と思ったけれど、ムーさん自身は気に入っているらしい。
まぁね、本人が気に入っているのなら別にいいのよ。
しかも本当に気に入っているらしく、今もその鼻の先に付けている。
柴さんの、白いお化けの飾りの付いたチョーカーも微妙なんだけど、まぁそれも本人がいいのなら別に…………ねぇ、本当にそれでいいのっ?
「可愛いだろ?」
「邪魔にならねぇし」
なんだかちょっと憐れに思えて念押しするように訊いちゃったんだけれど、二人ともいつもどおり飄々としちゃって本当に気にならないらしい。
でもカニやんの感覚はわたしに近いらしく、気にはなるけれど、結局本人がそれでいいのなら仕方がないと思うことにしたという。
大人ね
「言いたいことはあるんだよ、俺も。
でも俺が付けるわけじゃねぇし、いいかなって」
そうね、じゃあわたしもそう思うことにする。
だったら無駄なことは止めて、さっさと調達しちゃいましょう。
せっかく三人が来てくれたから、わたしの欲しい物を公式サイトで案内されているガチャ一覧で指定する。
なにしろ無人バザーは、一軒一軒まわってウィンドウを開いて出品されている物品を確認しなければならないから、クロウと二人だと時間が掛かって仕方がない。
五人だと早いわよね……と思ったらマメにひどく驚かれた。
「どうしてマメは手伝えないですかっ?」
いえ、手伝って頂戴。
そもそもマメがここにいたのは、今回のガチャアイテムで探している物があるとかで、公式サイトの掲示板で、売買専用の話題に 『買います』 とコメントを残して売り手が現われるのを待ちつつ無人バザーも当たっていたところらしい。
相変わらずなにやってるんだか。
でも無人バザーをまわるのは同じだからと、一緒にわたしの買い物を手伝ってくれた。
おかげで無事、希望していた魔女の黒いマントと黒い三角帽を手に入れました。
よし!
これで蝶ネクタイを外せるわ……と思ったら、クロウが持っていたスティックを持たされて、完全にハロウィンの魔女コスプレになってしまった。
一方のクロウは、バザーをまわっている時に見つけた腕輪に変更。
その白いお化けの飾りは、たぶん柴さんのチョーカーとお揃いだと思う。
……………………
「ちょ、待て待て待て、妬くな女王。
腕輪を選んだのは旦那だって。
これ、俺の方が先にしてたから!」
別に妬いてません。
ちょっと羨ましいと思っただけで、そのチョーカーも腕輪もわたしの趣味じゃないし。
「それを焼餅って世間は言うんだけどな。
余った蝶ネクタイはどうする?」
なんだかカニやんに、サラリとおかしなことを言われたような気がする。
でも追及する前に話題を変えられ、わたしもあっさりとそれに乗ってしまった。
それこそ要らないならバザーで売ってしまえばって言われたんだけれど、ちょっと考えがあるの。
まずは腕輪に仕舞っていたルゥをポンッと呼び出して、きゅっと短く鳴きながら出てくるルゥを抱き留める。
次にモフッとした可愛いボディをぎゅっと抱きしめて、鼻チューでご挨拶。
そして石畳に下ろして、装備できるかを試してみたら……あら、可愛いじゃない!
プレイヤー用の装備だから無理かと思ったけれど、首輪代わりに蝶ネクタイが着けられたわ。
可愛すぎる
しかも小林さんからルゥにメッセージが届いていて、何かと思ったら、ルゥ用に三角帽子が届いていた。
プレイヤー用の三角帽子よりずっと小さくて、でもルゥの大きな頭にぴったりのサイズ。
小林さんったらアップデートで忙しいはずなのに、ずいぶんと手の込んだ気遣いね。
ありがと
偶然だと思うけれど、わたしがあげた蝶ネクタイと同じ色の組み合わせで、コーディネートもバッチリ。
星柄と水玉の違いはあるけれど。
でもおかげで可愛いルゥを見られたわ。
ルゥも気に入ったらしく、ずいぶんと楽しそうにわたしたちの前を、いつものようにフンフンフン……しながら軽快に歩いている、あの短い足で。
短い尻尾もブンブン振っちゃって、ほんと可愛いんだから。
わたしも早速お菓子を入手すべくナゴヤジョーに向かおうと思ったんだけれど、ナゴヤドームを出たところで足が止まる。
だって…………目の前で骸骨が踊っていたから、ちょっと呆気にとられちゃった。
え? ちょっと待って、この骸骨って……ひょっとして、ひょっとする?
【treasure ship】 のっ?!
しかもこの骸骨、夜時間の中で蛍光塗料を塗ったみたいに光ってるんだけど……だけど、前のイベント蝉とりでハーピーを再利用したみたいに、今度は海賊船の骸骨を再利用?
そりゃアップデートで運営も忙しいのはわかるけれど、これはちょっと再利用率が高くないっ?
開発者には優しいかもしれないけれど、ハーピーといいこの骸骨といい、全然プレイヤーには優しくない再利用なんだけど!
だってこの骸骨、物理攻撃オンリーで魔法攻撃効かないじゃない! ……と怒ったら、脳筋コンビに宥められた。
「大丈夫、大丈夫」
「まぁ試しに撃ってみな」
撃つ?
えっと……それは二人を魔法で撃てばいいってこと?
【業火】 がいい? それともいっそ 【灰燼】 で何もかも消炭にしちゃう?
「待て待て待て待て、俺らを撃つな!」
「【灰燼】 も駄ぁー目!」
「なんでそうなるかな?」
え? 違うの?
「違います。
骸骨を撃って」
ああ、骸骨ね……って、だからこの骸骨、反射こそしないけれど、魔法攻撃無効じゃない。
でもそれを撃てってカニやんまでが言うから、じゃあ試しにね。
どうせ効かないと思って軽くファイアーボールをぶつけたら、瞬時に骨がバラバラになって崩れた。
なんだか魔法が効いたというより、ファイアーボールが当たった衝撃で崩れたって感じの反応なんだけど……
ん? んんん?
魔法が効いたっ?!
えっ? ちょっとどうなってるの?
だって骸骨は魔法攻撃無効でしょ?
思っていた反応と違っていてすっかり取り乱してしまったわたしに、カニやんたちは笑う。
「そもそも海賊船は、夜時間だとゾンビじゃん」
そういえばそうだったわね。
そのゾンビには魔法攻撃は効くんだけど……じゃあこの骸骨は形だけの再利用で、性能はハロウィン仕様のNPCってこと?
「たぶん。
それにこのあたりは初心者が多いから、海賊船の骸骨はちょっと無理だろ」
それはそうなんだけど……そういえば、動きも違うわね。
コミカルっていうか……もうはっきりいって踊ってるじゃない、これ。
歯とかカタカタ鳴らして。
でもきっと、身につけているハロウィンアイテムを外すと、あの海賊船の時みたいに襲いかかってくるのよね、この骸骨も。
「それはたぶんね」
よかったわ、あのままナゴヤドームを出なくて。
暗闇に光る骸骨を見て、身を低くして唸っていたルゥは、その短い足で力強く地面を蹴って飛びかかったと思ったら、一瞬で崩れ去る骸骨。
しかもルゥったら、崩れ落ちてきた骨が頭に当たって怒っている。
クロウのデコピンを食らったり、最近ちょっと油断が多いわね。
そして噛み応えのない骨にはそうそうに飽きてしまったらしく、フワフワと飛び回っているお化けや大小様々なカボチャに飛びつこうとしたりと、忙しく遊び出す。
この感じは犬というより猫ね。
狼だけど
そんなルゥを楽しみながら着いたナゴヤジョーの、通称 【出発ロビー】 ではパパしゃんの頭がカボチャになっていた。
………………は? カボチャっ?
頭がカボチャって……カボチャよね?
どうしてっ?
しかもカニやんたち三人がナゴヤドームに戻る前はいつものパパしゃんだったらしく、その顔を見て一斉に笑いだす。
当のパパしゃんは、喋ることは出来るんだけれど、なにしろカボチャだから表情が変わらない。
その頭を掻くような仕草は照れているのか、あるいは困っているのか。
どっち?
「ロビーで待っている時に、その辺のお化けにお菓子をあげたらこうなってしまいまして」
つまりマメ同様、パパしゃんも悪戯されたのね。
あらら……。
そういえばパパしゃんって、化け猫屋敷の時も結構早い段階で化け猫になってたわよね。
「そういえばそうでしたね。
このアバターはそういう運命なんでしょうか?」
表情がわからないって困るわね。
声の感じは笑っているから、苦笑いってところかな。
でもその話を聞いたわたしは、ちょーっと嫌な予感を覚えたのよね。
まさか……ね