286 ギルドマスターはカボチャと遭遇します
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クロウと真田さんの対戦は、同じ片刃の刀。
でもクロウが使う屍鬼は長刀で、間合いに差が出来る。
もちろんそれ以外にも色々とあって、結果としてはクロウの圧勝。
当然よね
でももちろん今の3トップ体制がいつまでも続くとは思わないし、誰と誰がどう入れ替わってもおかしくはない……と思っていたのはわたしだけだったらしい。
「クロウは代わらないだろ」
意外なことに、そう言ったのはノギさん。
これに柴さんやムーさんに異論がないのは別に不思議に思わないけれど、串カツさんや不破さんまでが。
「クロウさんって、格闘技とかの経験者?」
「あ、それ、俺も思った」
「体育の授業で柔道くらいならやったことあるけど、違うよな、あの人」
真田さんとクロウの対戦を映し出す大型スクリーンを見ながら、みんな口々に話し出す。
クロウの学生時代の話か……そういえば会社でも聞いたことないな。
「あの身長だから足が長いのは認めるけど、あいつ、腕も長ぇんだよ。
屍鬼なんて使わせたら、間合いが広くて手に負えねぇ」
ふーん、大剣使いのノギさんでもそう思うんだ。
「思うね。
そもそもあいつ、大剣に変えなくても俺らに勝ってたからな。
結局大剣も重さに負けねぇし、振りの速さの割りに切り返しまで速ぇときた。
マジ手に負えねぇ」
「ちなみに大剣の重さに振り回されやすいのが不破」
串カツさんに言われた不破さんは、視線だけで不満を返す。
これがノーキーさんなら喚き散らしてうるさいところなんだけれど、まだ失意のどん底から復活できないらしく、死体安置所から上がってこない。
そんなに串カツさんに振られたくなかったのなら、頑張って勝てばよかったのに。
どんだけ串カツさん、好きだったのよ? ……あら、やだ。
自分のことじゃないのに、わたしが恥ずかしくなってきちゃった。
「はぁ? ノーキー?
安置所のドア、鍵閉めて閉じ込めちまえ!
あのクズ野郎が、しょーもないもん見せやがって」
もちろんノギさんが怒っているのは、串カツさんとの破局対戦(命名:真田)のことね。
確かに面白いくらいあっさり負けちゃったもんね。
「代わりに串カツ、お前が責任とって次、俺とやれ」
「受けて立とう。
俺に勝てば付き合ってやる」
「…………あ?」
ノギさんってば馬鹿ね。
さっきの串カツさんの宣言、聞いてなかったの?
ちなみにこの二人の対戦結果は、立ち会った人たちだけの秘密。
地下闘技場の対戦記録はないから内緒です。
そして次の週半ばに行われた定期メンテナンスで、ちょっと変わったイベントが始まった。
もちろんわたしたち社会人組がログイン出来たのは夜になってからなんだけれど、ナゴヤドーム内がすっかり変わっていた。
まるでパーティのように飾りがつけられ、あちらこちらにカボチャのオーナメントが……と思ったらこれ、動くじゃない!
しかも立体だわっ!?
『それ、NPCだよ』
クロエの声がインカムから聞こえてくる。
小さい物は手乗りサイズから、大きいサイズは一抱え以上ありそうなジャック・オ・ランタンやお化けたちが、ナゴヤドーム内をフワフワと漂っているの。
そして時々、あのお決まりのセリフをいうの。
Treat me or I'll trick you!
……ん? あれ? 違うっ?
だってハロウィンといえば 【trick or treat!】 よね?
どうして? ……というか、あれ、なんていってるの?
『今カニやんが調べてる』
『元はそれだったみたい。
言いやすく変わってtrick or treatなんだってさ』
つまり意味は同じなのね。
演出過剰な運営め、わざわざ面倒な言い方をしてくれて。
それで今回のイベントはなにをするわけ?
『また読んでないの?』
うん、読んでない。
『いっそ清々しいね、そこまで徹底すると。
でも説明はカニやんに聞いて。
僕、遊んでくるから』
『いてら。
簡単簡単。
イベント期間中だけ敵を倒したら時々お菓子がドロップするから、それをそいつらにあげたらアイテムをくれるっていうだけ』
え? それだけ?
『それだけ。
ただ時々お菓子をやっても悪戯されるらしいから気をつけて』
え? なにそれっ? ……って驚いていたら、うしろから巨大カボチャ頭に追突……というか頭突きをされた。
頭しかないのに頭突きっていうのもなんだけれど、しかもあまりにも勢いよくぶつかられたものだから転けたし……痛い。
ちょっとなんなのっ?
驚いて振り返ったら、後ろにいた巨大カボチャは一体だけじゃなくて、大小様々なカボチャやお化けに一杯集られていたっていうね……え? ちょっと待って、これなに?
なんでこんなに集まってくるわけ?
やだ、まだ向こうからこっちに突進してくるのがいるっ!
ちょ、いやー!!
『え? グレイさん?』
しかも新手が来るとわかっていても、すでに周囲を囲まれていて身動きがとれず、逃げることも出来ないとか。
どんな無理ゲー?
ちょ、ちょ、なにこれほんとに。
どんどん集まってきた。
え? ど、どうしたらいいの、これっ?
あ、あの、おも……重い……潰される……。
『あ、忘れてた。
ポストに運営からアイテムが届いてるはずなんだけど、それを身につけないと、人間と思われて集ってくるらしい』
ちょっとカニやん、それを先に言ってよー!!
絶対わざと教えてくれなかったでしょ!
『絶対グレイさん、イベント詳細読まないと思って、黙っていたら面白いことになるかな? ってね』
ちょっとーっ!!
『でもドームにいないと見られないっすよ』
『あー、迂闊だったな』
JBまで一緒になって呑気に話してないでよっ!
頑張って頑張って、お化けたちに押し潰されながらもなんとか開いたウィンドウ。
ポストを開いてみたら、確かに 【運営からのプレゼント】 なるアイテムが届いていた。
と、とりあえずこれを受け取って、アイテムボックスから取り出し……出したいのに重ぉ~い。
な、なにが楽しくて、広場で石畳に寝そべってお化けに押し潰されなきゃならないのよ、もう!
しかも運営から送られてくるハロウィンアイテムはランダムらしく、わたしが受け取ったのはオレンジに白水玉の蝶ネクタイ……なに、これ?
と、とりあえずこれを着ければ、着けた、ぃ……んだけど、重くて……。
「グレイ、生きてるか?」
幾つか大きめのカボチャ頭を、ひょいひょいと放り投げながら顔を見せたのはクロウなんだけれど、まぁ投げても投げても寄ってくるわけでキリがない。
でも少し軽くなればなんとか手を動かせるから、急いでよくわからないデザインの蝶ネクタイを装備する。
どうだ?
するとカニやんがいったように、まるで興味を失ったように散っていくお化けたち。
このハロウィンアイテムを装備すると……そもそもハロウィンって西洋のお盆みたいなもので、出てくるお化けたちから、変装をして人間とバレないようにするのがあの仮装の理由らしい。
で、このアイテムを使って仮装をすると、お化けたちに集られなくなる……そういうことらしい。
ちなみにクロウは先端に、手乗りサイズのジャック・オ・ランタンを刺したスティックを持っていた。
ちょっと、どうしてクロウのほうが可愛いアイテムなのよ?
わたし、それのほうがいい!
「代えるか?」
うん、代えて!
だってチャイナドレスに蝶ネクタイって……どんなセンスよ?
とはいってもクロウの装備にもこの蝶ネクタイは似合わない。
悩む……
『だったらバザーに行ってみたら?』
バザー?
ちょっとカニやん、また騙すつもりじゃないでしょうね?
知っていて真っ先に教えてくれなかったことをちょっと根に持って疑ったら、カニやんに大笑いされた。
『期間限定でハロウィンガチャが出てて、課金アイテムでもOKなんだって。
被りも多いみたいだから、無人バザーに色々出てるよ』
ガチャねぇ……画像だけ見るつもりでウィンドウを開き、公式サイトを覗いてみると、そのハロウィンガチャのラインナップが出ていた。
どれも黒とか紫、オレンジなどのハロウィンを連想させる色ばかりで、当然アイテムもお化けやジャック・オ・ランタン、それに魔女とか。
ハロウィンガチャだから当然ね。
わたしの希望としては魔女の黒いマントとか、三角帽がいいかな。
もしバザーで見つからなかったら……ほら、このあいだ泰輝にもらったお小遣い。
結局ギルド倉庫購入券はマメが購入してしまって使う機会を逸したから、いっそここで景気よく使ってやることにする。
たまには運営にもお布施しないとね。
ちゃんとお仕事してくれなくなったら困るから。
そんなことを話しながら考えながら歩くんだけれど、フワフワ浮いているカボチャとかお化けが邪魔で真っ直ぐに進めない。
クロウなんて、さっきも大きなカボチャをどけて助けてくれたけれど、どうも剣士のSTRがあればお化けを放り投げることが出来るみたい。
だってちょっと手で払うだけで、まるで風船みたいにポーンと飛んでいくんだもの。
巨大カボチャが
それに比べてわたしは、もう何度お化けに自分から激突し、お化けから激突されたかわからない。
特にカボチャが固くて凄く痛いの。
本当にここの運営は演出過剰で、なにもこんなNPCにそこまでの強度を持たせなくてもいいじゃない。
そりゃここは安全地帯のナゴヤドーム内だから、どんなにぶつかってもぶつかられてもHPは減らないけれど、痛いものは痛いのよ。
しかも魔法使いのSTRなんてモヤシで、クロウを真似て手で払ってみてもビクともしない。
逆に私の手が痛い。
なんで?
…………あ、STRがモヤシだからか。
なんだか悔しいというか、情けないというか……ぁぐっ!
またぶつかられた、痛い。
「グレイ、もっとこっちへ寄れ」
あんまりにもわたしがお化けたちにぶつかられて……何回かは自分からぶつかっていってるけれど、真っ直ぐに歩けなくてフラフラしていたらクロウに心配されてしまった。
うん、クロウを盾にする。
もちろんクロウも後ろには目が付いていないから何度か後頭部に直撃を受けているんだけれど、あまり痛そうじゃないのはなぜ?
それとも本当は痛いのを、痩せ我慢してるとか?
「…………これが痛いのか?」
うん、もういい、それ以上はいわないで。
そうよね、魔法使いと剣士じゃ、STRだけじゃなくVITも違うのよね。
魔法使いはモヤシのようなSTRに、紙のようなVITしか持ってないのよ。
だから自力じゃお化けを払えないし、衝突すると痛いのよ……涙が出てきた……。
しかもようやくのことで着いたナゴヤドーム内で一番大きな無人バザーでは、店番をするNPCが全てお化けやカボチャ、魔女などに変わっていて、そのあいだをカボチャになったプレイヤーが渡り歩いていた。
え? …………あれ、マメっ?!
少し早いですが、期間限定イベント 【trick or treat】 開催です。