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28 ギルドマスターはニューヨークに行きます

pv&ブクマ&評価、ありがとうございます!

「なんだろう、この 【魂の欠片】 って?」


 何気なくウィンドウを開いたクロエは、インベントリに入っている見知らぬアイテムに気づく。

 わたしもそうだけど、ドロップは自動拾得にしているから、気づいたら入っているのよね。

 だっていちいち拾うのは面倒臭いじゃない、腰も痛くなるし。

 だからなんでもかんでも拾っちゃうんだけれど、屑でも屑屋に売ればHPポーションやMPポーション購入費用くらいにはなるし。


「……ふーん、これを10個集めると 【魂】 になって、【魂】 を幾つか集めると何かもらえるみたい」

「じゃ、欠片集めも争奪戦ね」


 気のない返事をした直後、視界の上の方で何かがキラリと光った気がした。

 これはヤバい……と思った次の瞬間、クロウに襟首を掴まれて崩れかけたコンクリート塀の向こう側へと引きずり込まれる。


 く、首が……


「トール!」


 クロウに呼ばれ、トール君も慌てて物陰へ。

 残ったクロエだけが銃を構え、高くそびえるビルの屋上へ向けて一発。

 もちろん撃った直後には物陰に退避。

 そのすぐあと、わたしたちの視界に 【5P】 の文字が見えた。

 つまりまた一人、クロエに落とされたってわけ。

 しかも 【5P】 ってことは、敵じゃなくてプレイヤーね。


「今の、【鷹の目】 よね?」

「うん、迷彩ズボンだったね。

 でもセブン君じゃない」


 クロウに引っ張られて絞まった襟元を戻しながら、クロエと囁きあう。

 さすがにあの距離は魔法じゃ届かない。

 一番射程の長い銃士(ガンナー)にだけ出来る攻撃手段。

 しかも上を取られてるっていうのはちょっと痛いかな。


「どうする、グレイさん?」

「【鷹の目】 は銃士(ガンナー)が多い。

 1パーティーに銃士(ガンナー)一人ってことはなさそうだから、迂闊には出られないわね」


 どうするか思案しているところに別のパーティーが通りかかる。

 わたしがこれをチャンスと思った時には、建物の陰ギリギリの場所でクロエが銃を構えていた。

 そしてビルの屋上から、【鷹の目】 の銃士(ガンナー)が新たな獲物の一人を撃った次の瞬間、クロエがその銃士(ガンナー)を撃ち落とす。

 当然といえば当然だけれど 【鷹の目】 のパーティーも全員が銃士(ガンナー)じゃないし、新たに通りかかったパーティーも一人じゃない。

 わたしたちが隠れる壁の向こう側、広い通りの向こうにある崩れかかったビルから 【鷹の目】 の剣士(アタッカー)たちが飛び出し、通りかかったパーティーに襲いかかる。

 三つ巴の乱戦もいいけれど、ここで無駄な消耗はしたくない。


「起動」


 パッとわたしの足下に魔法陣が展開される。

 当然 【鷹の目】 はわたしたちがここにいることを知っているけれど、通りかかったパーティーは知らない。

 挟み撃ちにされれば一溜まりもないだろうけれど、面倒なのは 【鷹の目】 よね。

 1パーティーは五人まで。

 すでにクロエが二人落としたから、あとは多くて三人。

 それを頭に入れて業火を発動する。

 挟み撃ちにされたパーティーは四人、全員が業火で落ちる。

 巻き込まれた 【鷹の目】 も二人。

 でも一人はかなり高い魔法耐性を持っているらしく、業火の中でHPドレイン現象を起こしながらも耐えている。

 これだから課金装備は厄介なのよ。


 あと一人……?


 それでもわたしの関心が、残っているかどうかわからない五人目に向いているのは、業火が消えた直後、耐えきった 【鷹の目】 の剣士(アタッカー)に、息を吐く間も与えずクロウが胴を断ったから。

 わたしが、彼らが出てきた崩れかかったビルの中、潜む五人目を見つけた直後にクロエが撃ち落とす。

 たぶんわたしと同じ魔法使い。

 混戦になったところを後ろから狙うつもりだったのかもしれない。

 だとしたらクロエが撃たなければクロウが撃たれていた。

 わたしたちとは逆の作戦ね。


「トール君、遅いよ」

「あ……」


 呆気にとられているトール君に、銃を下ろしたクロエが笑う。

 クロエの言いたいことはわかる。

 トール君は剣士(アタッカー)だから、クロウと同じタイミングで動いてなきゃダメなんだよね、本当なら。

 でも連携(マルチ)には慣れもあるし、まだ難しいかな。


「クロエはああ言ってるけど、無理しなくていいから」

「え、でも……」

「とりあえずね、最終ステージまでついて来てくれる?」


 途中で落ちてもらっちゃ困るのよ。

 ふふ……優しく笑ったつもりだったんだけど、上手く笑えてたかしら?


「トール君、マッドティーパーティーにようこそ」


 クロエが、不意に恭しくトール君にお辞儀をする。

 ちょっと演技じみた所作にトール君は呆気にとられていたけれど、クロエはふざけていてもクロエなのよ。

 深々と下げた頭を上げてにやっと笑ったと思ったら、トール君の肩越しに一発ぶっ放す。

 直後、まだまだ随分遠いところでゾンビが一体、落ちる。


「終わらない、狂気のお茶会の始まりだよぉ~ん」

「クロエ、やめなさいって。

 トール君が怯えるから」

「だってみんな忠告してたでしょ、このパーティーに入るのはやめろって。

 でも入っちゃったし、イベントも始まっちゃったし、後には引けないよ。

 ね、トール君。

 女王様の命令は絶対だよ、機嫌を損ねたら首を刎ねられちゃうからね」


 もう、ほんとにね、クロエ、やめなさいって。

 マジでトール君、ビビってるから。

 誰かもう一人いてくれれば上手くフォローしてくれたかもしれないんだけど、いないのよね。

 しかもこういう時に限ってギルドチャットも使えないし……。


「とにかく、最終ステージまで行きましょ。

 不自由の女神とやらを拝みにね」


 こんなところでのんびりしていたら、誰かに先を越されるじゃない。

 それに派手に銃声を鳴らしちゃったし、たぶん所在がバレたと思う。

 長居は無用ってことで、わたしたちはリバティ島とやらを目指して移動することにした。

 銃士(ガンナー)の射程を考えれば、とりあえずビルに沿って、少しでも射線を切れる立地を選んで進む。

 間違っても通りの真ん中なんて歩くもんじゃないわね。


 さっきまで歩いてたけど……


「【鷹の目】 のパーティーが一つってことはないか」

「セブン君、いなかったしね」

「あ、そっか」


 つまり、最低でもあと一つは 【鷹の目】 のパーティーがあるはず。

 セブン君が入っているパーティーが。

 それにたぶん、お祭り大好きの 【特許庁】 パーティーも二つくらいはありそうね。

 そしてソリストが一人。

 面倒そうなのはそれくらいかな?


「来るよ」


 教えてくれた直後、クロエが一発ぶっ放す。

 直後に上がる 【5P】 の文字と、廃ビルから飛び出してくる剣士(アタッカー)たち。

 もちろんその後ろには魔法使いが控えている。

 このイベントの開催時間は三時間。

 そのあいだに不自由の女神を落とせばいいルールだから、前半戦を対人(PK)戦に当てているパーティーも多いみたい。

 適当な場所で待ち伏せをして、通りかかったパーティーを襲うっていうね。

 射程の問題もあるけれど、戦略の問題もある。

 今度のパーティーも、剣士(アタッカー)を相手に剣士(アタッカー)を当てて、後ろから魔法使いが仕掛けるって戦略。

 うん、悪くないけどさ、クロウだからね、魔法で攻撃を仕掛ける間もなく剣士(アタッカー)たちをぶった斬り。

 魔法使いの出番なし……っていうか、魔法使いは剣士(アタッカー)たちが剣を斬り結んでいるあいだにクロエに撃たれちゃうっていうね。


 ……あ、あれ?


 ねぇ、わたしの出番は?

 わたしのお仕事は?

 ちょっと! わたしにもお仕事頂戴よ!!


「ある意味グレイさんラスボスなんだから、大人しくしてれば?」


 どういう意味よ、クロエ。

 ラスボスって……凄い極悪感があるじゃない。

 わたしと同じくあまり出番のないトール君も苦笑い。

 ただこうやって遊んでいられたのも、前半の前半くらいまで。

 不自由の女神が見えてきた頃、共闘するパーティーの挟撃に遭った。


「そっちは任せる」


 珍しくクロウに仕事を任されたわ。

 人に頼むより自分で片付けたほうが早いってタイプだから、ほんと珍しい。

 そんなに期待はされてないんだろうけれど、珍しいことだから張り切っちゃうわよ。

 わたしたちは銃士(ガンナー)の狙撃を警戒してビル沿いに進んでいたんだけれど、挟撃パーティーは両側の廃ビルに隠れていたから、片側のパーティーはわたしたちのすぐそば。

 元々待ち伏せしていたとはいえ、この近距離。

 あっという間にクロウの大剣・砂鉄の錆に。

 その騒ぎに、反対側で待ち構えていたパーティーが慌てて飛び出してくる。

 これがばらける前にわたしが業火で落とす。

 効果範囲を広げても、相手の行動範囲が広がると全員を一撃で落とせなくなるからね。

 わたしが詠唱を始めた直後、反対側から来るパーティーの対応をしようとしたトール君が、通りに飛び出そうとしてクロエに止められていた。


「ここは対人(PK)戦エリアだからね、業火で一緒に溶けちゃうよ」


 そうなの、対人戦エリアでは味方の魔法攻撃でもダメージを受ける。

 だから範囲魔法や、効果時間の長いスキルを使う時は注意が必要になる。

 使う側もだけれど、その味方もね。

 今のパターンだと、撃ち漏らして接近戦に持ち込まれた場合に備え、わたしのサポートにトール君。

 後方からの攻撃に備え、クロウのサポートにクロエって感じだと思うけど……思うだけよ。

 だってクロウにサポートなんて必要ないだろうし。

 実際、クロエはわたしの側に付いていたから、トール君の動きにいち早く気づいて止めてくれた。

 ひょっとしたら、トール君のサポートのつもりだったのかも。

 ま、考えても仕方ないわ。

 さっさと行きましょうってことで、どんどんゾンビもプレイヤーも片付けて進む。

 途中、何人かぼっちプレイヤーとも遭遇した。

 あれはパーティーの生き残りなのか、それとも……?


「あー、野良かもね」

「やっぱりそう思う?」

「うん、参加条件だけクリアして、イベントエリア転送後に解散したんじゃないかな?」


 もちろんパーティー自体は解散できない仕様だから、別行動になっただけ。

 ポイントは共有だし、パーティーチャットも繋がったまま。

 戦略としてどうなのかと思うけれど、まぁそういう考え方がソリストなのかな?

 もちろん野良パーティーのままイベントを楽しんでいるプレイヤーもいるんだろうけれど、こだわりのソリストたちには無理なのかもね。

 そんなことを考えていると、前方で両側の廃ビル群が途切れ、開けた視界の向こうに海と、自由の女神らしい巨像が見える。


「あれがリバティ島?」


 島に渡るための転送門(ゲート)らしきものも見えているんだけれど、そう簡単には渡らせてもらえないみたい。

 結構な喚声と、何発もの銃声。

 もう少し近づいて見れば、剣戟も聞こえてくる。


「……【鷹の目】 見ーっけ!」


 ついでに 【特許庁】 も見つけたわ。

 そ、セブン君を筆頭にする 【鷹の目】 と主に交戦しているのは 【特許庁】。

 名札が付いているわけじゃないし、ウィンドウを見てもプレイヤー名は表示されないけれど、あの装備や髪色、髪型を見れば一目瞭然。

 しかもそれが団体様でいるんだもん、間違えようがないじゃない。


 すっごい異色集団……


 状況を整理すると、リバティ島に渡るための転送門(ゲート)前のひらけたところで、かなりの数のプレーヤーが対人乱戦中。

 それをすり抜けて転送門(ゲート)を渡ろうとするプレイヤーを、廃ビルのどこかに陣取った 【鷹の目】 の銃士(ガンナー)が各個撃破してるって感じかな。

 で、乱戦側で暴れているのが主に 【特許庁】 のメンバーで、上から狙う 【鷹の目】 の中にセブン君がいるはず。

 これを抜けなきゃ、不自由の女神とは会えないってわけね。


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