275 ギルドマスターはスキルを考えます
pv&ブクマ&評価&感想&誤字報告、ありがとうございます!!
お薦めスキル……ちょっと抽象的すぎるというか、難しすぎるというか。
んー……適性……これもちょっと違うかな。
プレイスタイルとか……いい言葉が思い浮かばないんだけれど、キンキーが蝶々夫人を例えに出したからわたしも彼女の場合で説明すると……最初に言ったとおり 【浸食】 はとにかく危険なスキルなの。
『でもグレイさんには魔法攻撃って、効かないんですよね?』
残念ながら、闇属性なのでわたしも感染します。
わたしが所持する 【愚者の籠】 も、恭平さんが所持する 【震える鏡】 も闇属性の攻撃を防ぐことは出来ない。
だからわたしも恭平さんも感染するの。
【浸食】 の、質の悪い呪いにね。
『そうなんですね。
だから蝶々夫人はどちらも取得していないんだ』
それはちょっと違うと思う。
どっちも取得方法が面倒だから、たとえ 【浸食】 の呪いを防ぐことが出来ても蝶々夫人は取得しないかもしれない。
始めに言ったとおり蝶々夫人で説明するけれど……そういえば、この話は前にもしたような気がする。
まぁキンキーのためなら何度でもするけれど、蝶々夫人ことマダム・バタフライが 【浸食】 を所持するのは自己防衛のため。
前衛職の接近を阻むためにね。
そういう意味では、キンキーは目の付け所がいい。
でも 【浸食】 がお薦めスキルかといえば、正反対です。
呪いよ
あのスキルは解毒できない猛毒で、しかも感染するという呪いのテンプレ。
だから彼女は 【浸食】 所持者という看板で、自己防衛をしているわけ。
使用自体が諸刃の剣で、自身も感染させられる可能性があるから気軽に発動ってわけにもいかないのよね。
基本的に彼女を狙うのなら中距離以上の攻撃手段。
特に遠距離の銃士は安全圏から狙えるけれど、射線を切るという方法で防がれる。
しかも回復系魔法使いだから、なかなか落ちないし。
『回復系魔法使いなのに?』
そりゃ重火力が相手だと落とされるし、彼女が 【浸食】 を使えない混戦状況を上手く利用するとか、方法は色々とある。
その 【浸食】 が使えない状況であったとしても、彼女は回復系魔法使いだから、一撃で彼女の回復力を上回る必要がある。
逆にいえば、回復系魔法使いも回復力を上げれば落とされる確率が低くなるということ。
だからゆりこさんは余計な寄り道をせず、レベル上げとスキル上げに励んでいる。
でもキンキーの考えが間違えているとは思わない。
ちょっと寄り道だから本職のレベル上げには時間が掛かると思うけれど、キンキーがそれでいいのなら全然かまわない。
たぶんゆりこさんも同じ考えで、だからわたしに相談することを勧めたんだと思う。
彼女は攻撃魔法に詳しくないから。
問題はある
そう、それでもやっぱり問題はあるのよ。
何かといえば、根本的な話よ。
ここがゲームの世界である以上、どうにもし難い問題。
それは本体のレベルによるステータスの差、こればっかりはね。
そりゃマメのように、レベルは上げても出鱈目ステータスで火力を出せない残念プレイヤーも少なくはないけれど、勝ちや強さにこだわればやっぱりこの違いは避けて通れない。
レベル上げとスキル上げに専念するのが一番の早道ってことに間違いはないんだけれど、キンキーの考えも面白い。
一撃必殺
面白いんだけれど、実はこれが難しい。
説明したとおり、蝶々夫人が所持する 【浸食】 だって一撃で致命傷を与えるどころか、自分の身さえ危険にさらしかねない。
わたしの場合の一撃必殺技は、やっぱり 【灰燼】。
でもこれはすでに取得できないし、次に強力な 【焔蛇のスキル】 はキンキーのレベルでの取得は難しい。
だって初見で焔蛇をソロクリアよ。
出来る?
『無理だと思います。
だって、カニやんさんもの~りんさんも挑戦してないんですよね?』
『【富士・火口】 って聞くだけでも怖いんだけど?』
『ん~、俺の趣味と合わないんだよな』
自分に正直なの~りんと違い、カニやんはどこまで見栄を張っているのかしら?
氷水系を中心にスキル取得をしているのは確かだけれど、趣味って……ちょっと違わなくない?
「いいじゃん、俺のプレイスタイル」
あら、格好いい言い方。
プレイスタイルだって……って笑ったら、珍しくカニやんが照れている。
やだ、なんか楽しい。
ふふふ
話を戻すけれど、でもキンキーの考え方は面白いと思うの。
だからわたしの提案は、一撃必殺ほどの強力技を取得するにはやっぱりレベルが足りないから、その時のレベルで取得でき、攻撃に不慣れでも外さない範囲魔法。
これがお薦めかな。
今のキンキーのレベルで取得できるスキルにどんなものがあったのか、ちょっとすぐには思い浮かばないんだけれど、そこからある程度レベルが上がったらまた見合うスキルを取得する。
取得しやすいスキルと、カニやんみたいに自分のプレイスタイルに合わせたスキル、どちらを選ぶかはキンキー次第ね。
取得しやすいのは、やはり種類が豊富な火焔系。
たぶん使い勝手もいいと思う。
しかもこの方法だと、戦闘に参加出来るほどではないけれど、そこそこ攻撃スキルも取得できて、レベルが上がるほど攻撃力も得られる。
どう?
『いいですね、その方法』
どうやらキンキーも気に入ってくれたらしい。
ちょっと手間はかかるけれど、元々火力を持たない回復系魔法使いの育成には時間が掛かる。
それを本人が承知で選ぶのなら、存分に楽しんで頂戴。
あ、でもお気に入りのスキルが手に入ったのなら、レベルが上がっても使い続けたらいいわよ。
わざわざより強力なスキルを取得なんてしなくても。
『ひょっとして、蝶々夫人はそれで 【浸食】 を使い続けているんですか?』
えっとね、これも言ったような気がするんだけれど 【浸食】 の取得は全然楽じゃないの。
むしろ難しい。
つまり彼女はあえてあのスキルを選んでわざわざ取得したの……たぶんね。
本人に訊いたことはないけれど、たぶんそういうことだと思う。
『どうしてわざわざそんな面倒を?
だって 【浸食】 って自分も呪われるんですよね?』
どうしてって……それはやっぱり彼女が 【特許庁】 のメンバーだからじゃない?
このあいだの蝉とりの時だって、カニやんが誰かに感染させたり誰かが迂闊にカニやんに触って感染したら、あの場にいたメンバーどころか、イベントに参加していた全プレイヤーが汚染されていたのよ。
派手好みのお祭り大好き 【特許庁】 が好みそうな状況じゃない。
一歩間違えれば自分も感染する、そんなことは彼女たちにとってはどうでもいいの。
むしろどこまで広がるかを楽しむ。
どこまで広げられるかを楽しむ。
【特許庁】 だからね
そういうギルドなのよ。
そして彼女はその 【特許庁】 の副主催者。
普段は常識人ぶっていても、根底はどこまでも 【特許庁】 なのよ。
確かに 【特許庁】 内じゃ一番の常識人だけれど、でも 【特許庁】 なのよ!
『あの、俺、その 【特許庁】 の人たちと遊んでいるんですが……』
今日も忙しく 【東京砂漠】 の地下に広がる巨大迷宮内の掃除に駆けずり回っている 【特許庁】 のメンバーたち。
その 【特許庁】 からお誘いを受けて遊びに行ったトール君の話によると、今日は 【アタッカーズ】 の他に、昨日は連絡が付かなかった 【暴虐の徒】 も参加しているらしい。
そして今、【アタッカーズ】 の主催者ロクローさんがはぐれて迷子になり、大絶賛捜索中。
これはひょっとしてあれかしら?
場所が東京だけに、ね。
大江戸○査網
『ロッ君な。
面白いくらい方向音痴』
『いい加減地下迷宮の地図くらい覚えろって』
『覚えられたら迷子にならねぇって』
さすがに脳筋コンビもよくご存じだこと。
じゃああなぐまさんも知ってる?
『知ってる、知ってる』
『あいつも結構面白い。
今度誘って一緒に遊ぼうぜ』
いいわね
でも今日はお忙しそうだし、また今度。
それにわたしもちょっと遊びに行こうと思ってるし……キンキーはどうする?
今からスキルを調べる?
固有スキルは取得方法がそれぞれだから攻略wikiを見たほうが早いけれど、それ以外ならナゴヤドームの地下にある魔術師の館かな。
知ってるわよね
行くのなら一緒に行くけれど、どうする?
もちろん私が行くのなら当然カニやんも付いてくるわけで、ちょっとうるさくなるけれど……といったらカニやんに睨まれた。
いやいやいや、そもそもクロウになにを言われたかは知らないけれど、保護者なんていらないから。
自立します!
すっかり忘れていたけれど、丁度クロウもいないことだし、この隙に……じゃなくて、この際、りっぱな成人女子として自立します。
「この隙に……ちゃんと聞いてるからな」
地獄耳
「クロウさんに告げ口されたくなきゃ、今日一日、大人しくしてろよ」
べ、別にクロウに知られたって怖くないし……し……あ、あら?
ちょっと心臓がドキドキしてきた。
わたし、どうしてこんなに怯えてるのかしら?
ややややややや、やぁねぇ……どうしたのかしら?
ちょっと痛いけど、クロウの拳骨だってこ、こ、こわ、わ……あれ?
と、とりあえずトール君は、か……あ、かじゃなくて、き、気にせず 【特許庁】 と遊んでて。
もちろん 【特許庁】 はまた糸を無人バザーに出すつもりでいるらしいんだけれど、そもそも以前の相場で売りに出すのなら、儲けは少ないけれど損はないわけで、装備の損耗修理代さえ稼げれば赤字にはならない。
【特許庁】 は気にしないわよね。
その 【特許庁】 が今日もトール君を誘ったのは、昨日、わたしたちが 【東京砂漠】 に行ったのはトール君のリクエストだったのをきいて、よかったら今日も一緒にどう? ってことだったらしい。
結局キンキーも一度攻略wikiを見て考えたいってことで、今日はこのままナゴヤジョーでみんなと遊ぶことにした。
だからわたしも自立します!
「まだ言ってるのか?
マジで告げ口するぞ」
だ、大丈夫、クロウの拳骨は……痛いけれど慣れてるから。
ルゥの頭突きも食らってたぶん鍛えられたし、い、痛みには慣れた……と思う。
あ、あら?
せっかく引いた汗がまた……お、おかしいわね。
もうやだぁ、また汗染みが……このゲームって、制汗スプレーとかないのっ?
『次のアプデで追加されたらいいですね』
うん、ハルさんありがとう。
でもそうなると、作るのは調合士のハルさんだと思うけど。
とりあえず自立を目指すべく、どこまでも付いてくるつもりのカニやんを振り切ろうと思います。
方法は簡単です。
わたしだって真面目に考えれば、これぐらいのことは思いつくのよ! ……ということで、トール君が 【特許庁】 のメンバーたちと遊んでいる 【東京砂漠】 の地下巨大迷宮に行く振りをして、カニやんが流砂に飲み込まれていくのを見送ってわたしは寸前で回避しました。
「あ、ちょ! なにしてんだよ、あんたはっ?」
なにって……だから自立。
一人で遊んでくるから、カニやんはみんなと大迷宮で遊んでて……と手を振ってお見送り。
転送による数秒のタイムラグがあって、すっかり流砂に飲まれて姿の見えなくなったカニやんの声がインカムから聞こえてくる。
『なに考えてんだよっ?
俺がクロウさんに殺されるだろうが!』
『結局保身かよ』
『情けねぇぞ、カニ』
『じゃあお前らが代わりに斬られろ!』
『断る!』
『断る!』
さすが脳筋コンビ。
最後は声を揃えてきた。
声どころか言葉までお揃い。
いつも一緒にいるとこうなるのかしら?
まぁいいわ
これでカニやんも撒けたし、久々に行ってみたいところがあったのよね。
もちろん一人で。
ここからだと近いし、カニやんを撒くのにも丁度よかったわ。
ふっふ~♪
このあとグレイがどこに行ったのか?
いよいよクロウが帰ってきてグレイが怒られる……ではなくて、アプデに入ります(汗
ちなみに制汗スプレーは実装されません、悪しからずw