270 ギルドマスターの予感が的中します
pv&ブクマ&評価&感想&誤字報告、ありがとうございます!!
「そもそもグレイさんが糸に捕まった時点で救出できなかった?」
ねぇ、この小姑のようにねちねちと不破さんをいびるの、いつまで続けるの?
ちょっとカニやん、キャラが変わってるんだけど?
いったいどうしたの?
わたしの知らない間に不破さんと喧嘩でもしたの?
そもそもあの瞬間はわたしだって、ラウラが無事なことに気が弛んでしまった。
まだまだタランチュラは元気だから、全然安心できる状況じゃなかったのにね。
そういう意味ではカニやんたちだって傍観していたじゃない。
どうして不破さんだけを責めるのよ?
まぁ不破さんも一緒に傍観していたわけだけど、でもこんなねちねちいびるようなこと?
カニやんてば、性格の悪いOLみたいになってるんだけど……。
「OLじゃねぇし。
小姑でもねぇし」
「いや、ある意味小姑かもな」
「ある意味な、ある意味。
広義的というか、ある意味な」
なんだかムーさんがくどい。
ムーさんはただでさえクドい系の男前なのに、性格までクドくならないで頂戴。
しかも不破さんってば、こう……なんとも表現しがたい顔でカニやんに言われ放題。
遠慮はいらないから言い返して頂戴。
「いえ、遠慮しているわけじゃないんですが……案外すんなりトレードに同意したと思ったら、こういうやり方を考えていたのかと思って感心してます」
こういうやり方? ……どういうやり方?
「グレイさんはわからなくていいですよ」
そうやってまた妖艶に笑うの、止めて……ただでさえ上半身装備が裸に近くて、思い出すだけでも恥ずかしくなるのに、そんな顔で笑いかけないで……耳が熱い……って間違えて顔を両手で覆ってしまい、前が見えなくて躓いてしまった。
頭隠してなんとやらならぬ、顔を隠して前が見えないとかどんなお馬鹿よ、わたし!
「だから言ってるだろ、こういう時だって!」
同じ魔法使いのカニやんに助けられてわたしは立場がないんだけれど、そのカニやんはまたしても不破さんに絡んでいる。
でも絡まれた不破さんが不思議そうな顔をしているのはなぜ?
「柴さんたちは何もしないのかと思って」
「しないんじゃないの。
クロウさんから子守のご指名を受けたのが俺だから」
「そういうこと」
「俺たちは手ぇ出しちゃ駄目なんよ」
駄目ってことはないけれど、そもそもこれはなんの話?
もうさっきからわたしの頭は ? で一杯。
でも誰も、それこそ不破さんですら教えてくれないのはどういうこと?
「それはつまり、指名を受けたければギルドを替われと?」
「間違ってもあんたは指名しないだろ、あの人」
ちょっと待って、ちょっと待って、不破さんが 【素敵なお茶会】 に入るのっ?
それはちょっと待って!
そもそもすでにギルドに所属している人を勧誘するのはマナー違反じゃない。
わかっていてやっているカニやんは何を考えているの?
「俺は勧誘してません。
不破さんが勝手に言ってるだけだろ、人聞きの悪い」
……ん? 不破さんが 【素敵なお茶会】 に入りたいの?
「もしそうだといえばお許しいただけますか?」
そ、そんな優しそうに笑われても困る。
凄く困る。
だって不破さん、その……あ! も、もちろん蝶々夫人やノーキーさんと話がつけばいいんだけれど、でも……その……その、ね……
「駄目ですか?」
わたしが理由を言い淀んでいたら悲しそうな顔をされてしまった。
わかってる、これがホストの営業方法だって。
わかってるんだけれど、それでもほだされそうになるのね、女の人って。
で、ほだされた人がホストにはまる……なるほど、見事な営業手腕ね。
そんな別のことを考えて気を逸らそうとしたけれど、目の前に本人がいちゃ無理よ。
「どうしてそんなに困るんですか?」
えっと、そんなストレートに訊かれても返事に困る。
だって、まさか 「露出が高すぎて無理です」 なんて答えられるはずないでしょっ?!
そんな理由で加入を拒否する主催者がいる?
そりゃ不破さんは信頼できる人よ。
【特許庁】 じゃ権限こそもっていないけれど副主催者といってもいいほどの人だし、【素敵なお茶会】 に加入してくれたら心強い。
でもだからってその装備を毎日見続けるのは無理。
わたしには無理。
絶対無理。
どんな罰ゲームっ?
もう顔が熱いとかそんなレベルじゃなくて、カニやんには悪いけれどクロウの代わりにしがみついたら不思議と拒否されず、頭の上からカニやんの声が聞こえてくる。
クロウほどじゃないけれど、カニやんも凄く背が高いのよね。
「はいはい、ちょっと落ち着こうね。
まさかそっち方向に飛び火するとは思わなかった」
そっちがどっちかはわからないんだけれど、責任とって代わりになんとかして。
クロウはいつも頭ポンポンだけど、カニやんは背中ポンポンなのね。
これもちょっと恥ずかしい……
「無性にカニやんを斬りたくなった」
ちょっと不破さん、突然なんてことを言い出すのっ?
「断るに決まってるでしょ。
なんで俺? ……あ、いや、理由はわかってるけど、魔法使い相手に断られるってわかってて言うなよ、あんたも」
「どうして?
ノギさんと引き分けてるじゃないか。
是非ともやりたいね」
「ちょっと不破さん、目がマジで怖いって。
これ以上はグレイさんが保たないから止めてくれない?」
「グレイさん?」
ちょ、ちょっと待ってね。
ごめんなさい、なんだか頭がごちゃごちゃしてきて考えがまとまらないっていうか、状況が理解出来ないっていうか……とりあえずこっちを見ないでください。
「不破、いい加減にしておけよ。
まずだな 【素敵なお茶会】 に入りたけりゃその装備をなんとかしろ」
「この露出狂」
し、柴さん、ムーさん、グッジョブ!
それが言いたかったんだけど……さすがに露出狂とまでは思わないけれど、でもなんとなく不破さんにも伝わったみたい。
「服を着ろ、服を」
「【特許庁】 ってその装備の仕方、多いよな。
服はどうしたよ?」
「インベントリに入れっぱなしにしてたが、まだあったかな?
売ったか、捨てたか分解したか。
いっそ全部脱ぐか?」
つまりどうあっても服を着たくないのね。
その心境は到底理解出来ないんだけれど、女性アバターと違って男性アバターは上半身までなら脱げるの。
ほら、水着装備の時とかね。
でもだからって装備を外すのは止めて!
脱がないで!
わたしの前では絶対に脱がないで。
本当にこれ、どんな罰ゲームっ?
「マジ露出狂かよ。
そういうところ、趣味が合ってないから。
グレイさんと不破さんは合わないって」
ええ、わたしと不破さん……というか 【特許庁】 の人とは根本的に趣味趣向が違います。
違いすぎます。
そこだけは絶対に相容れません。
「相互理解は大事ですね。
その辺はおいおい」
ちょっと不破さん、だから理解出来ないっていってるじゃない。
絶対に相容れないって言ってるんだけど、聞いてる?
「とりあえずグレイさん、ちょっと自力で立って。
面倒なのが来た。
あれ倒したら好きなだけ抱きついていいから」
ひーっ!!
ちょっとカニやんってば、なんてこというのよっ?!
ほんと、カニやんのキャラが崩壊してる……大丈夫?
「大丈夫じゃねぇよ、クソが」
カニやんに 「クソ」 とまで言われてしまい、泣きたいやら情けないやらで久々に穴に入りたくなったけれど、そこらに窪みはあってもひと一人入れそうな大穴は開いていないから自分で掘らなければならなくて、でも掘っている余裕をくれない敵NPCがわたしたちに迫っていた。
サソリ
この 【東京砂漠】 の地下に展開する巨大迷宮で、一番に出現が多いのは大毒蜘蛛。
実際にここまで遭遇した中で一番多かった。
大蟻地獄は基本的には巣にしか沸かず、たまに攻撃目標のプレイヤーをしつこく追い回し、振り切られた場所にポツンと取り残されていることもあるけれど、基本的には巣にしかいない。
タランチュラは 【幻獣】 だけあって、他の不規則出現の 【幻獣】 に比べたら確率は高いけれど、そんなには安売りされていない……はずなのに、今日はよく遭うわね。
最悪
でもそのためか、次に厄介なサソリとの遭遇率が低かった。
不破さんや脳筋コンビはわからないけれど、わたしとカニやんは、今日は初めて見る。
もちろんサソリはサソリでも大サソリで、普通のサソリの何倍あるかわからない。
大毒蜘蛛より大きく、たぶん立ち上がったらわたしより大きいと思う。
なんか悔しい!
でもタランチュラよりはだいぶん小振りのこいつの何が厄介かといえば、とにかく固い。
はっきり言って、初心者が使うNPC武器屋で売っている安い剣なんて、たぶん一体倒せば耐久値が切れて折れると思う。
そのくらい固いの。
そして固さ故か打撃は無効。
貫通攻撃は威力半減。
しかも斬撃ですら通るのは、関節部分とかの限られた場所だけ。
もちろん絶対の弱点である首は有効で、丁度その部分に関節があるんだけれど、あの大きな一対のハサミが邪魔をして攻撃がなかなか通らないという難点がある。
ハサミに気をとられたら尻尾の毒針にぶっすりやられちゃうし。
「俺右手」
「んじゃ、左手」
「俺が毒針?
一番面倒なんだけど」
「罰ゲーム」
剣士三人が何か計画を練っているんですが、足止めだけしてくれたらいいわ。
剣の耐久削れちゃうと面倒だから、魔法使いがやるわ。
「起動…………」
「起動……」
わたしとカニやんが詠唱を始めると、即座にサソリが反応してこちらへと向かってくる。
わたしたちの脇を抜けて駆け出した三人が、ハサミと尻尾の毒針攻撃をはじき返しながら足の関節を狙って打ち込む。
そのあいだにわたしとカニやんが魔法攻撃を仕掛けるんだけれど……
「焔獄」
「氷雪乱舞」
それ、貫通攻撃だから威力半減ね。
「忘れてた」
カニやんにしては珍しい凡ミスね。
しょっちゅうやってるわたしがいうのもなんだけれど、本当にキャラ変更したの?
唐突すぎてちょっとわたしは付いていけないんだけど。
「してねぇよ」
あら、そう?
サソリは確かに厄介なんだけれど、これだけの重火力だもの。
他のパーティに比べれば全然楽に倒せる。
被害も出さずにね。
そもそも一人でもこの巨大地下迷宮を歩けるようなメンバーばかり。
つまりタランチュラも一人で倒せるんだから、面倒ではあってもサソリ相手に楽勝に変わりはない。
倒せたあとは当然ドロップがあって、あって……どうして誰も拾わないの?
さっきから全然拾ってないんだけど。
いらないならいらないで、無人バザーにでも出して売ればいいじゃない。
武器の損耗修理にお金がかかるんだから、必要経費くらいは稼がないと赤字になるわよ……といっても誰も拾わないのはなぜ?
ひょっとしてすでにインベントリが一杯?
だったらとりあえずわたしが回収して、終わってから分配するわ。
だってタランチュラなんて、時々だけれど稀少な希土塊を落とすのよ。
売れば結構いい値がつくし、武器を作ったり改造したりするのにも使える優れものなんだから。
というわけでお掃除終了後に、分配という名目で四人のポストに無理矢理送りつけておく。
強制執行です
まぁこのドロップを使って不破さんってば……たぶん考えたのは不破さんだけれど、【特許庁】 でその考えを実行しちゃって、翌日には色々と物議を醸した。
当然公式サイトの掲示板は荒れて、でもそれを蝶々夫人とノーキーさんの名前で叩き潰すという荒技が炸裂。
火に油を注いで、運営も頭を痛めるほどの大炎上に。
仕方ないわよね
だいたいどこのゲームもイベントとかアプデとか、何かしらあればおかしなことを考えるプレイヤーが出て来て騒ぎが起こる。
悪意のプレイヤーや素材の高騰とか。
わかっていることだし、むしろ 【特許庁】 のやり方は大歓迎。
わたしも可能な範囲で協力しようと思っているくらい。
でもそんなことにかまっている余裕はなかった。
少なくともわたしにはね。
予感的中
【特許庁】 以上に掲示板を炎上させる話題が立ち上げられ、大炎上する渦中にラウラの名前があった。
炎上万歳!
女王陛下万歳!!
・・・詳細は次話にて。




