263 ギルドマスターの自立は遠いです
pv&ブクマ&評価&感想&誤字報告、ありがとうございます!!
前話の反動ではありませんが、今話は短めです。
よろしくお付き合いくださいませ。
多くのゲーム運営会社は、テスト終了から一ヶ月程度で正式サービスを開始すると思う。
それなのにここの運営ったら、テスト終了から正式サービス開始まで半年もかかってるの。
よくユーザーが待っていたもんだわ。
だから崖っぷちとか言われるのよ。
わたしもテストが終了してからずっとゲームはしていなくて、スマホをいじっていてたまたま正式サービス開始の宣伝を見た。
今からアクセスキーを予約したら、家に届くのは…………うん、初日には間に合うわね。
自宅リビングで、スマホを見ながらそんなことを考えていたら、たまたま家に居た父が聞いていたらしい。
つまり考えていたことが全部口からダダ漏れになっていたってことね、やだわ。
聞いていたのが父だからよかったけれど。
「あーちゃん、またゲームするの?」
あーちゃんというのはわたしのことね。
本名が安積藍月だから。
「さっきCMで見たけど、VR機って今は軽くなってるんだねぇ」
最新型ね。
欲しいけど高いし、兄さんがもらってきてくれたのが全然大丈夫だからあれでいい。
「泰君?」
ううん、琉輝。
「琉君、最近あーちゃんのお気に入りだね」
どうしてそういう思考になるのかわかりません。
とりあえずアクセスキーの予約をしなきゃ……と考えていたら、お父さんが出掛ける支度をしてきなさいって言うんだけれど、どこに行くの?
「アクセスキー、お店でも予約できるんでしょ?
30分くらいで支度できる?
あーちゃんすっぴんでも可愛いけど、一応お化粧するんでしょ?」
一応は余計です。
今日は天気がいいから日焼け止めは必須です。
それにすぐ唇の血色が悪くなるからリップは塗らないと……ああ、寝転がっていたから服も皺だらけじゃない。
着替えなきゃ!
「ゆっくり支度しておいで。
お父さん、車で待ってるから」
え? 一緒に出ればいいじゃない。
待ってて、すぐだから……と父に誘われるまま専門店に行って、カウンターでこのゲームのアクセスキーを予約。
ちなみにアクセスキーっていうのはゲームソフトみたいなもので、【the edge of twilight online】 をはじめとする多くのVRゲームは専用のキーがないとアクセスできない。
最初にダウンロードをする手間は省けるけれど、結構なお値段がするのよね。
これをゲーム機本体にセットして、アカウントを取得して、IDやパスワードを設定して、それから初期設定を始めるのがゲーム開始までの手順。
とりあえず正式サービスが始まらなければアカウントの取得すら出来ないから、開始日までにアクセスキーが入手できればOK。
そのお店は予約商品でも自宅配送をしてくれるんだけれど、届いた箱はわたしの予想を大きく上回るサイズだった。
それこそゲームソフトみたいなもの一つに、こんな大袈裟な梱包が必要なのかと驚くくらい。
父が一緒に何か購入したのかと思って開けてみたら、最新式のVR機が一緒に入っていた……まぁそんなわけです。
決してわたしがおねだりしたわけではないという証に、最新式のVR機を入手した経緯を簡潔に話し終えると、脳筋コンビには笑われ、カニやんには脱力された。
なぜ?
「兄貴にも呆れたけれど、親父さんもたいがいだな」
「娘に貢ぎたくて貢ぎたくて仕方がない感じがいいね」
「泰君と琉君がお兄さん?」
そう、泰輝と琉輝。
柴さん、ムーさんよりちょっと歳下だと思う。
「兄貴はともかく、親父さんは大丈夫なわけ?
娘にばっかり貢いじゃって」
なにが?
「いや、だって親父さんの嫁はどうなのよ?」
お父さんの嫁というとお母さんのことよね?
つまりそれは、お母さんがわたしに焼餅を焼くんじゃないかと言いたいわけ?
んーないような気がするんだけど……と考え込んでいたら、カニやんが割り込んでくる。
「ムーさん、それはないと思う。
前に確か、お母さんとはご飯に行ったって言ってたよな?」
うん、行った。
美味しかった。
「支払いは当然お母さん持ち」
うん? あ、そういえばそうだった。
カニやんの誘導尋問のような問い掛けに、改めて考えてみればそんな気がする。
たまにはわたしも何か奢らなきゃね……と思うんだけれど、いつも気がついたら支払いが終わっているという不思議な現象が起こる。
あれ、いつ支払いを済ませてるの?
しかも結構お高いお店だから、わたしじゃお母さんたちを連れて行くのは難しいのよね。
お父さんだってゲーム機、いつ買ったんだろう?
わからないことだらけにルゥと一緒になって首を傾げていたら、勝手にカニやんが結論づける。
「つまりグレイさんの家は、揃いも揃ってグレイさんに貢いでるから問題なし」
「すげぇな」
「どんな猫かわいがり?」
たぶん違うと思う。
わたしが一番不出来だからよ。
背だって一番低いし、お給料だって低いし、そもそもわたしだけなんの才能もないし。
あーもう!
考えていたら落ち込んできたから、どこかに潜ってぶっ飛ばそう! ……と思いながら四人と一匹がナゴヤジョーに付いた時、通称 「出発ロビー」 は結構な賑わいを見せていた。
大型アップデートを前に素材が高騰しつつあるっていうから、みんなのお目当てはシャチの鱗ね。
鍛治にも調合にも使われる素材だから。
その中にトール君の姿が見えるんだけれど、他のメンバーはどうしたのかと思ったら、クロエとくるくるは樹海に行ったらしい。
相変わらずマイペースね。
ぽぽは?
一人だけ置いていったのかと思ったら、キンキーと一緒にシャチ銅に潜っているらしい。
最近この二人でのパーティが多いけれど、ぽぽなりにいい練習になっていると言っていた。
の~りんとマコト君は未だシャチ金には挑戦しておらず、今も銀に潜っているらしい。
恭平さん、JB、アキヒトさんの五人でパーティを組んで。
んーとですね、六人いたのなら三人ずつの2パーティにしてくれない?
銀だったら恭平さんとJBは余裕じゃない。
どうしてここでトール君を一人外すのっ? ……と納得がいかずに、ちょっとだけ口調を強めて抗議をしたら、トール君自身が、いつものように申し訳なさそうに説明してくれる。
「あの、俺、自分で言ったんです」
恭平さんとの~りんは、ちゃんと三人ずつの2パーティにしようって提案してくれたらしい。
でもトール君は昨日、わたしのお守りに協力するって一番最初に挙手をしたからと律儀にわたしの到着を待つことにしたらしい。
早とちりをしたわたしはちょっと恥ずかしい奴よね、これ。
やだ、耳が熱くなってきた。
「グレイさんはわかるけど、トール君まで赤くならなくていいから」
すかさずカニやんが笑いながら突っ込むと、ますます赤くなるトール君。
とりあえず銀に潜っている五人には謝っておく。
ごめん
『いいけどね、グレイさんの早とちりは珍しくないし』
『トール君は相談があるみたいですよ』
きっと恭平さんはトール君が話を切り出しやすいように言ってくれたんだと思うけれど、これを聞いて反応したのがなぜかクロエ。
『またグレイさんに相談?』
クロエってば、自分は相談に乗らない……というか、相談しにくいタイプだって自覚はあるのかしら?
もっとフレンドリーな性格だったら、トール君だってクロエにも相談すると思うの。
いい機会だから、ちょっと改善してみる気はない?
『あるわけないでしょ。
ふざけてんの?』
大真面目よ。
そういえばキンキーも相談したいことがあるって言っていたけれど、今はぽぽと二人、シャチ銅の攻略に忙しいらしい。
ぽぽはレベル的には余裕だけれど、隠れるところがないダンジョンでは壁がないと苦しい銃士。
しかも相棒はまだまだレベル10台のキンキーで、ぽぽはキンキーのフォローをするべき立場だから全然余裕がないのよね。
もちろんキンキーもまだまだ必死で、『あとでお願いします!』 と答えるのが精一杯。
うん、いつでもいいわよ。
話を持ちかけてきたのはキンキーの方が先だったけれど、わざわざ待っていてくれたくらいだし、トール君の相談を先に聞こうかしら。
「実は東京砂漠に行ったことがまだなくて。
アプデで新ダンジョン実装の噂もあるから、その前に行っておきたいと思って」
なるほど、東京砂漠か。
このあいだエピソードクエストのためトチョウに行った時は、マサカドコースを通ったから砂漠には立ち入らなかったのよね。
あそこも素材があるから人が多いような気もするけれど……と考え込んでいたら、やっぱりクロエが言うの。
『トール君さ、どうしてクロウさんがいない時ばっかり狙うの?
それも前は地下闘技場で、今回は東京砂漠とか面倒なところばっかり。
わざと?』
ちょっとちょっとクロエ、いい加減にして。
クロウがいないとクリアできないわけじゃないし、そもそも東京砂漠はクリアとか関係ないエリアダンジョン。
一通り見て回ったら脱出すればいいじゃない。
そもそも面倒なところだから、自分よりレベルの高い人に相談してるんじゃない……と考えると、わたし的には気分がいい。
クロウはいないけれどカニやんがいるし、柴さんとムーさんもいるから全然大丈夫だと思う。
他力本願
自立はどうした、わたし!!
これまでのストーリーなどのおさらいをしつつ、ゆっくりアップデートを始めたいと思います。
とりあえず、クロウには早く戻ってもらわないと(汗