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26 ギルドマスターは怒られました

pv&ブクマ&評価、ありがとうございます!

「あのさ、そもそもなんでぼったくりなんて考えたの?」


 凹んだ脳みそは、よくよく考えずに思ったことを口に出しちゃったんだけど、そんなのわかってることじゃない。

 運営が第一回公式イベントを計画中って予告を出して以来、素材が高騰してるってマメが言ってたもんね。

 うん? でも彼女の場合、依頼者に必要な素材は用意させて、自分は作業料だけをもらえばいいわけだから、素材の高騰は関係なくない?

 同じ生産職でも調合士ならともかく、鍛冶屋はみんなそうしてるわよね?

 彼女だってずっとそうしてきたのに、どうして今になって素材を自分で調達する必要があるわけ?

 あら? これ、やっぱり訊かなきゃならないことじゃない?


「先に釘を刺させてもらうけど、どんな理由があってもぼったくりは許さないからな」


 なんか、珍しくカニやんが結構本気で怒ってる。

 カニやんは正式サービス開始からのユーザーなんだけど、開始直後からのプレイだから、初期の混沌状態には結構苦労してるんだよね。

 やっと色々なことが落ち着いてきたところで……まぁ悪いことを考える人って一定数はどこにでもいるんだろうけれど、よりによって身近にいたってことが許せないのかな。

 いつになく厳しいから、ちょっとクロエも驚いている感じ。


「わかってるわよ。

 そんなんじゃないの、本当に。

 ……つい魔が差したっていうのも本当なんだけど、ちょっとレベル上げしたかったの、スキルの」

「なんじゃそりゃ、アホか」


 うん、カニやんってば時々関西訛りが出るわよね。

 ムーさんや柴さんも怪しいんだけど、三人とも関西人かな。


「わかってるわよ。

 でも、そろそろレベル上げたいって思ってたところに、マメが短剣作ってって来たから、それでつい、それ用の素材も……って思っちゃって……」


 なるほど、それだと今の素材高騰はかなりの痛手になるわね。

 でも自分で集めなさい、自分で。

 生産職にとって素材集めが大変なのはわかっていることだし、そもそもそれが理由でギルドに所属したいっていってきたんじゃない、あんたは。

 ダンジョンに潜って素材を集めるのに、ぼっち生産職は協力者を野良パーティーで集めるんだけど、協力報酬で募集してるから全然素材も集まらないし、資金も貯められないんだよね。

 だから生産職はギルドに所属したほうがいい。

 りりか様もそう考えて、結構早い段階から 【素敵なお茶会(うちのギルド)】 に所属している。

 だから問題は解決しているはずなのに、どうしてまたそこに戻ってるのよ?

 釈然としないんだけれど……


「でも、それだったらスキルの前に……りりか様、いまレベル幾つ?」

「レベル? 28だけど……」


 すぐにわたしの言わんとしたことがクロエにもカニやんにもわかったみたい。


「あーなるほどね」

「そっから付き合うの、グレイさん」

「だって普通に考えたらレベルを上げて、ステータス上げて、スキルはそれからでしょう」


 当然スキル上げをするなら、ステータスが高い方が効率がいい。

 成功率も上がるし、失敗より成功を繰り返す方がスキルレベルも上がりやすい。

 ステータスポイントを増やすにはレベルを上げるしかないもんね。

 カニやんはあんまり乗り気じゃなさそうだったんだけれど、クロエは乗ってきた。


「じゃ、とりあえず30まで上げれば?」

「簡単に言うけど、0の壁は高いよ?」


 レベルの一桁目が「0」、つまり10とか20とか30とかのことなんだけど、かなりの経験値が必要でなかなか上がらないのよね。

 カニやんが言う 「0の壁」 っていうのはそのこと。

 だから余計に乗り気じゃないのかも。

 でもその分、10、20、30、40に上がった時、もらえるステータスポイントも多い。

 クロエがレベル30を提案したのもそれが理由だと思う。


「いいじゃん。

 罰ゲームってことで、みんなに引きずり回されりゃいいんだよ」

「うわ、相変わらず黒っ!」

「グレイさんが決めたことだから、ぼったくりのことは、みんなには内緒にしておいてあげる。

 でも罰ゲーム。

 自分でみんなに頼んで、30になるまで引きずり回されといでよ。

 ついでに素材も集めてきたらいいでしょ。

 雑魚でも叩けばドロップあるし、屑でも売ればちょっとは資金だって稼げるじゃん」


 一石二鳥とかケラケラ笑ってるの。

 クロエらしいわね。

 そもそもそのためにギルドに入ったんだから、自分でも努力はしてもらわなくちゃね。

 りりか様に拒否権はないから決定! ってことでこの話は終わりだったんだけれど、わたしの知らないところで続きがあったの。

 わたしは、とりあえずギルドチャットをオープンにして、それこそ今ログインした振りでみんなに挨拶をしていたんだけれど、その陰でカニやんがりりか様に直通会話を仕掛けていたらしいのよね。


『次にろくでもないことを考えたら、グレイさんが反対しても、俺はお前を切るからな』


 ……えっと、カニやんってこんなキャラだっけ?

 わたしは全く気づいてなかったんだけれど、気づいたクロエが……たぶんクロウも気づいていたと思うけど……あとでこっそりりりか様に吐かせたらしいの。

 で、カニやんがこんなこと言ってたらしいよってわたしに教えてくれた。

 カニやんはサブマス権限持ってるもん、出来るよね。

 でも実際にりりか様がギルドを脱退しても、それは一律 「脱退しました」 としか表示されないから、当人の自由意志なのか、権限を持つ四人の誰かが解除したのか、わからない。

 でもわたしは、カニやんをサブマスターから解任しようとは思わない。


 わたしが一番狡いんだよね


『グレイさん、こんばんわ』


 みんなの挨拶に混じって、久々のマコト君の声がした。

 高校生の彼は、試験(テスト)のため三週間ほどお休みをしていたの。

 そんなに長くログインしなかったのに、どうしてクロウが切らなかったのかといえば、ギルドメンバーリストの横にコメントを書く欄があるんだけれど、そこに試験(テスト)の予定が書いてあったから。

 クロウには何回か前科があったから、マコト君と一緒に考えた方法なの。

 もちろん予定日以降もログインがなければ即行切られたんだろうけれど、でもこの日付って……


「久しぶりね、マコト君。

 無事に試験(テスト)は終了したの?」

『無事かどうかはわかりませんが、とりあえず終わりました。

 あとは野となれ山となれーです』


 そうね、終わってしまったものを足掻いても仕方がないものね。

 追試とか留年とかは結果が出なきゃわからないし。


「でも、今日まで試験(テスト)だったんじゃないの?」

『そうです。

 昨日徹夜だったんで眠くて眠くて、今日は挨拶だけしたら寝るつもりでグレイさん待ってたんです』

「あらら、遅くなってごめん」


 ついでにコメント欄も書き直すつもりで、わたしを待っている間にウィンドウをポチっていたらしい。

 わたしに挨拶をしたらクロウもマコト君の復帰を知って、切られることはないだろうってことでもあったらしいんだけどね。


『じゃ、今日はもう……』


 たぶんログアウトしようとしたマコト君の挨拶を遮ったのは、運営の通達だった。


information 運営 からメッセージが届きました


 もちろんわたしにも、クロウにも届いている。

 四人が固まっているところを誰かに見られると面倒なので、すでにカニやんとクロエとは別れたんだけど、二人のところにも届いているはず。

 それどころかいつもの要望に対する返事ではないこのメッセージは、【the edge of twilight online】全プレイヤーに一斉に届いていた。


『第一回イベントの告示だね』

『やっときたかー』

『なにするつもりだろう?』


 ログイン中のメンバーの声がインカムから聞こえてくる。

 おおむね期待に満ちた感じかな?


『リバティ島へ向かえ?

 不自由の女神を解放せよ?』

『イベントエリア・ニューヨーク実装だって』

『イベントエリアってことは期間限定か』

『そうだね、伊勢湾に実装だって』

『あそこなら初心者でもいけるしな』

『ソロ参加不可?』

「みたいね、二人以上五人までのパーティーってあるし。

 でもこの、イベントエリア転送後の装備変更不可とか、棄権不可とか、どういうこと?」

『意味はそのまんまだと思うけど?』

『グレイさんがいつも途中で着替えるからじゃない?』

「どうしてわたしご指名なのよ」


 特定のプレイヤー対応じゃないと思うんだけど……ちょっと気になるわね。

 他には開催日時と、参加表明(エントリー)締め切りが書かれているくらいかな。


『詳細なルールは当日発表って、もったいぶってるなー』

『ただのもったいぶりならいいけど、罠っぽい』

『おーい、どんな罠だよ』


 ムーさんはイベントを楽しむ気満々っぽいけど、わたしもカニやんに賛成。


『俺も、何かありそうな気がします』

『トールちゃんも心配性だねー』


 トール君も剣士(アタッカー)に決めたけど、柴さんみたいに筋肉寄りじゃないだけよ。


『で、どうするの、グレイさん』


 みんな言いたい放題だから、そろそろ仕切れってクロエが急かしてきた。

 うん、このまんまじゃマコト君も落とすに落とせないもんね。

 眠いのにごめん。


「そうね、今日はログインしてないメンバーもいるし、とりあえず全員がこの告示を読んでからかな。

 参加表明(エントリー)はパーティーごとですることになってるから、まずはギルド内で参加不参加を確認して、パーティー分けはそれからね。

 野良とか、フレンドとかと組みたい人は個別で言ってくれる?」

『え? ギルド入ってるのに?』

『それ、ぼっちでいいじゃん』

『そういう奴、ギルドに入る必要なくね?』


 わたしなりに個人の意思を尊重しようと思っての配慮だったのに、なぜか散弾を浴びた。


『あ、ソリストって参加できないのか!』

『いや、そこは野良でしょ?

 参加さえ出来りゃ、共闘の必要はないし』

『うーん、それもわからないんじゃない?

 ルールの詳細がまだわからないし』

『お、カニやんの罠はそこか?』

『おいムーさん、俺が張ったみたいに言うなよ』


 あ、カニやんに飛び火した。

 でも確かにこのルールだとソリストたちは参加し辛い。

 そうなると厄介な人が一人参加できなくていいんだけど、野良パーティーっていうのもありなのよね。

 そんなことを話していたら、早速マメが最新情報を仕入れてきた。


『公式掲示板(トピ)にー今回のイベント用野良パーティー募集スレが上っがりましたー』

『はやっ』

『みんなやる気満々だね』

『そりゃ記念すべき第一回だからな、参加しなきゃ』

『まだまだ無所属、多いもんね』

『あ、そーだー、グレイさーん』

「なによ、マメ?」

『すっかり忘れてましたー。

【特許庁】のマダム・バタフライがー、なんか双子のことでー、グレイさんに相談があるって言ってましたー』


 それ、忘れてていいことじゃないからね、マメ。

 双子っていうと、このあいだノーキーさんが大蛇(おろち)に放置していった子たちのことよね?

 やっぱり希土(ミスリル)(インゴット)、要る?

 だったら蝶々夫人とはフレンドだし、ポストに送りつけておけばいいわね。

 そう思って開いたウィンドウには、またクロウからわたしのポストにHPポーションが送りつけられてたっていうね……


 ほんとこれ、いつまで続くの?

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