259 ギルドマスターは脳天をぶっ刺します
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「賑やかだな。
なんの騒ぎ?」
なんの騒ぎも何も…………あら不破さん、お帰りなさい。
なにを勘違いしたのか、不破さんを弱っちぃ呼ばわりして、にっちもさっちもいかなくなった見知らぬプレイヤー。
前門のノーキーさん、後門のノギさんって感じ?
完全に逃げ道を塞がれたところに、周囲を囲う他のメンバーたちがわざとらしくニヤニヤ笑って圧力をかける。
そんな不穏な空気満載のところに、地下墓地から不破さんが戻ってきた。
見たところいつもと様子は変わらない。
変わらないけれど、やっぱり言うべきことはちゃんと言わなきゃね。
というわけで不破さん、本当にごめんなさい。
「何がです?」
「クロウがあんな意地悪なことをして。
始める前にわかっていたら止めたんだけど……」
「あなたにそんなことをいわれたら、許さないわけにはいかないでしょう。
そもそも怒っていませんから、あなたが謝る必要はありません。
元々クロウさんと俺じゃ、実力に差がありすぎますから」
それはそうだけれど……というのは内緒。
これをいうのは謝罪する側の態度じゃないもの。
しかもクロウってば、いつものようにだんまりを決め込んじゃって。
そのクロウを見て不破さんのほうが口を開く。
「負けは認めます。
ですがまだ勝負はついていません。
俺は諦めるつもりはありませんから」
勝者って大変ね。
ずっと勝ち続けなければならないなんて。
しかも不破さんみたいなあきらめの悪いタイプは、相手にするのも大変そう。
「分かってないって平和でいいな」
「だなー」
「女王だしな」
なんだか外野がうるさい。
でもこれにわたしはかまっている余裕がない。
だって……左手に、刀身を収める屍鬼の鞘を握るクロウ。
空いているはずの右手が動くのを、わたしの視界が隅で捉える。
直後に私は動いていた。
不破さんに向かって、大きく踏み込みながら右手に柄を握って屍鬼の刀身を引き抜くクロウ。
これ、居合いっていうんだっけ?
よくわからないけれど、クロウは引き抜く勢いで不破さんに斬り掛かろうとする。
刀身が鞘から抜けるその一瞬に狙いを定め、わたしは握った杖に渾身の力を込めて打ち込む。
クロウっ!!
いつものクロウならこんなミスはしない。
けれど横からわたしに打ち込まれるとは全く思っていなかったらしく、その手から弾き飛ばされた屍鬼が、弧を描きながら高い地下闘技場の天井に舞い上がる。
その軌跡を、この場に集まるほぼ全てのプレイヤーの目が追う。
みんなが我に返ったのは、その屍鬼の落下地点にいたとおぼしきプレイヤーが 「あ……」 というなんともいいようのない間の抜けた声を上げたから。
「トップ剣士より速いとか、ギルマス何者っ?」
大きく見開いた目から、それこそ眼球が飛び出しそうなほど見開いて驚いているアキヒトさん。
その肩に手を置いて息を吐いている恭平さん。
「あ、ヤバい」
「回収いってくるわ」
脳筋コンビは、たぶんわたしが弾き飛ばしてしまった屍鬼の刀身を回収に行ったんだと思う。
わざわざ断わりを入れられたカニやんは 「おう」 といって二人を送り出す。
恭平さんが代わりに行こうかといったけれど、地下闘技場では脳筋コンビのほうが都合がいいとカニやんに断られる。
すぐに戻ってきた二人の話によると、刀身は一人のプレイヤーの頭頂に刺さっていたらしい。
………………ごめんなさい
後で謝りに行くわ。
まさかそんな被害者が出るとは思わなかったっていうか、とっさのことだったからあとのことを考える余裕なんて全くなくて、とにかくごめんなさい。
でもちょっと体力的に限界で……ほんと、あの一瞬で残っていたHPを全て使い切った感じ。
杖を支えにしても立っている余裕がなくてその場にへたり込んでしまったわたしに、戻ってきた脳筋コンビの話を聞いてアキヒトさんが言うの。
「謝んなくても大丈夫でしょ?
だって地下闘技場に来てるってことは、それなりに自分のことを強いって思ってる剣士でしょ?
それが自然落下してくるだけの剣を避けられないとか、初心者から鍛え直したほうがいいんじゃないですか?
わざわざ謝られたら本人も恥ずかしいですって、絶対」
もちろんアキヒトさんのいいたいことはわかってる。
ちなみにわたしも避けられません。
避けられないからわたしは魔法使いなんだもの。
「俺もです。
絶対に避けられない自信があります。
でも魔法使いだからいいんですよ」
笑っていってくれるアキヒトさんがいい人だってこともわかってる。
でもちょっとだけ自然界に存在する天然の毒みたいな人ね。
特に最後の念押しみたいな 「絶対」 がかなり猛毒。
正論といえば正論で、普通に矜持のあるプレイヤーなら……追い詰めるわけじゃないからそこは優しいんだけれど、でも反論が出来ないっていうか、身動きがとれなくなるような言葉の選び方。
アキヒトさんは優しくて、頭のいい人だと思う。
「でもほんと、ギルマス凄いですよ!
魔法使いなのにあんなことが出来ちゃうなんて。
なのに剣士が脳天に剣ぶっ刺すとか、あり得ませんって」
うん、わかった。
わかったから、これ以上そのプレイヤーの傷口に塩を塗りたくるのはやめてあげて。
血中の塩分濃度が上がるわ。
高血圧でぶっ倒れちゃうかも。
だからやめてあげて。
「後で俺が謝りに行く。
グレイさんが頭を下げると、またそれはそれで騒ぎになるから」
それこそ目立つから大人しくしておけとカニやんにいわれ、仕方なく言われるとおり謝罪はカニやんに託すことにする。
ほんと、ごめんね。
いつもカニやんにばかりそんな役目を押しつけて。
同じ副主催者なのに、クロウときたらなにしてるのよっ!
脳筋コンビから返された屍鬼を大人しく鞘に収めたクロウは、珍しくわたしから視線をそらせる。
え? その反応はなにっ?!
「さぁな」
逸らせながらもわたしに手を貸して席にすわらせてくれる。
斬るつもりだったとは限らない。
それはわかってる。
刀を抜いて、不破さんの喉元に切っ先を突きつけるだけだったとか。
でもそういう虚仮威しみたいな真似はさせたくなかった。
だってクロウらしくないじゃない。
「不破さんも口が減らないっていうか」
「わざわざ挑発すんなっての」
「あいつも往生際が悪いから」
あら、三人はクロウを庇うの?
「庇うつもりじゃないけど、ほら、あっちも怒られてるし」
クロウばかりが悪いわけじゃないというカニやんは、視線で不破さんを見る。
釣られるように視界を動かして見れば、不破さんに串カツさんがお説教じみたことをいっているところだった。
ちなみに先程の、不破さんを弱っちぃとか言った不届きなプレイヤーはとっくに逃げた。
このどさくさに紛れてさっさと逃げた。
でも見逃したノギさんってば……
「行けよ、今は見逃してやる。
面は覚えたから十分だ。
次も俺の気分のいい時に会えたらいいな」
…………怖い脅し文句ね。
さすがノギさんというか、なんというか。
そのプレイヤーもここで逃げなければ逆に、事態の収束時に恩赦みたいなもので見逃してもらえる展開もあったかもしれないのに。
ノーキーさんなんて単純だから、気が削がれるだけでも無罪放免にしてくれそうだもの。
それをよりによってノギさんに見逃してもらうなんて……一番質の悪い人に縋ったんじゃない?
馬鹿ね
いや、ま、それだけノギさんに睨み続けられるのは怖かったんだろうけれど。
でも同情はしない。
自分でいった言葉には責任を持ってよね。
「いい加減にしろよ、不破」
「個人の因縁をギルド関係に持ち込むつもりはない」
「そうじゃなくて!」
「せっかくクロウさんが受けて立ってくれたんだから、俺だってチャンスのあるうちにアピールしたい」
「ふざけんな」
「ふざけてんのはお前だろうが、串!」
全然耳を貸そうとしない不破さんにがっくりと肩を落とす串カツさん。
その串カツさんの腕をいきなり取って組んだノーキーさんが、串カツさんの耳元で声を荒らげる。
ん? この展開はなに?
「邪魔すんな、ノーキー」
「俺のことを邪魔者扱いする気かっ?
てめぇの彼氏をっ?」
「彼氏ならどっしり構えて見てろや!」
「俺のケツがデカいってか?
散々尻軽呼ばわりしやがって!」
あら? あらあらあらあらあら?
ノーキーさんまでおかしくなっちゃった?
それともこれを見ているわたしの頭がどうかしちゃったのかしら?
「大丈夫、俺たちにもおかしく見えてるから」
「ノーキーがな」
「自分から腕組みにいったぞ」
串カツさんは演技というか、なりきりってわかっていたつもりだったけれど、ノーキーさんはそういう性格じゃないわよね?
でも……なんとも言えない不思議な図式。
串カツさんにお説教みたいなことを言われている不破さんは、それこそ他人事のようにいつもの澄ました顔をしていて、説教をする串カツさんはノーキーさんの焼餅にうんざり。
ノーキーさんは演技とも思えない迫力で、串カツさんの興味を自分に向けようとしている。
これ、なに?
そんなわたしの問いに答えをくれたのはアキヒトさん。
「おっさ○ずラブですよ」
それ、ちょっと前に放送していたドラマよね?
男の人同士の……よね?
二人ともオッサンという歳にはまだちょっと若い気もするけれど……というわたしの認識は甘いらしい。
今時の小学生や中高生には、アラサーも30オーバーもみんなまとめて 「オッサン」。
お、恐ろしい……
ひょっとしてわたしもすでに 「オバチャン」 なのかしら?
まだ23だけど、あの子たちには 「オバチャン」 世代ってこと?
「ギルマスは大丈夫ですよ。
まだ女子大生でも十分に通りますから」
ありがと。
でも実際に女子大生とそんなに歳は変わらないのよ。
社会人二年目にして23歳なのは、三月生まれだからです。
今年入社した新人のほとんどは同い年なんだから。
まぁわたしに比べればノーキーさんも串カツさんも歳上だけどさ。
「ノーキーは、あんま女王と変わらないはずだぜ」
「せいぜい24、5だから、あいつ」
「旦那よりチビッと若いんだよ」
「なぁノギ」
「俺に訊くんじゃねぇよ。
本人に訊きな」
不意に脳筋コンビに話を振られたノギさんは、苦虫を噛み潰したような顔でけっと吐き捨てる。
どうして二人はここでノギさんに話を振ったのかしら?
ノーキーさんの歳なんてノギさんが知ってるとは思えないんだけど。
だってこの二人、凄く仲が悪いじゃない。
いやいやいや!
そんなことよりも今の問題は、ノーキーさんと串カツさんのカップルが、一週間後にちゃんと破局出来るかってことじゃない?
ノギさんとノーキーさんの不仲より、そっちの方が気になるのはわたしだけ?
ちゃんと破局するかどうかも気になるけれど、どんな形で破局するのかしら?
あ、これはヤバい。
興味が出て来た
物騒なサブタイトルが続いておりますが、今話も大丈夫です。
内容はおかしな方向に進みつつあるようですが・・・(汗