252 ギルドマスターは両腕に花を抱えます
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さすがにこの時間は眠い・・・Zzzzzz
「しょうもないものを見せるな」
観覧席に戻ってきたわたしとクロウを迎えるノギさんの第一声がこれ。
失礼しちゃうわ。
てっきり地下墓地で、三角関係が拗れまくっているものだと思っていたのに。
それこそ派手な刃傷沙汰とか起こして、戻ってこなくてもよかった。
この分だとアキヒトさんや恭平さんが戻ってきた時はもっと酷いことをいいそうで嫌。
特に同じ剣士の恭平さんにはね。
「相手にしないだろ?
恭平は昼にも散々負けてるし。
そもそもノギさんって、グレイさん以外の魔法使いには興味ないし」
そんなことはないと思う。
だってノギさんは以前に一度、カニやんと引き分けてるじゃない。
絶対勝ちに変えてすっきりしたいと思ってるはず。
でもアキヒトさんは……そうね、アキヒトさんのほうからちょっかいを出さなければ、ノギさんは存在すら気づかないかもしれない。
そんなことを呑気にいっているカニやんだけれど、まだ性懲りもなく対戦の申し込みが続いているらしい。
そして断り続けているらしい。
どれか一戦くらい受けたら静かになるんじゃない?
「ならねぇよ」
そう? いつものことながらモテモテよね、カニやんって……って嫌味のつもりで言ったのに、にひって笑われる。
「羨ましい?」
全っ然!
「だよな。
目的は果たしたし、帰ろうぜ」
この地下闘技場を出れば、地下闘技場のシステムから退場することになり、申し込まれた対戦は全て自動的にキャンセル扱いになる。
一つ一つキャンセルするのも面倒臭くなったカニやんは、手っ取り早くていいとか言い出すんだから。
本当に面倒くさがりよね。
でも恭平さんたちにはインカムで伝えればいいし、先に戻りましょうか……って話していたら、なぜかクロウの首に腕を回してガッツリとホールドしたノギさんが割り込んでくる。
「おいおい、あんなくだらないものを見せてそのまま帰るつもりか?」
見せたつもりはありません。
ノギさんが勝手に見たんじゃない。
てっきりあのまま地下から戻ってこないつもりかと思っていたのに、どこから見ていたのよ?
「最初?
スパークの応酬から全部」
それは最初の最初から全部ね。
ノギさんもわかっているはずだけど、魔法使いの対戦は地味なの。
今回はアキヒトさんとわたしの対戦が主体だから、巻き込まれただけのクロウと恭平さんが目立たないのは当然です。
対戦するからには勝つつもりで挑むけれど、アキヒトさんのリクエストが一番。
クロウもそれを考えて動いてくれたからアキヒトさんには直接手を出さなかった。
ただ恭平さんがちょっと面倒なスキルを所持しているのが問題で、その対処のためスパークの応酬になったのは不可抗力。
おかげで転びまくって……これ、現実だったら足が痣だらけになっているところだったわ。
まぁ、団体に所属する意志のないノギさんには、こんなこと理解出来ないでしょうけれど……と思ったんだけれど、そうよね、そもそもノギさんはそういうのが面倒臭いから絶対ギルドに所属しないって決めてるのよね。
そのノギさんに、調和とかそういうのを求めるのがそもそも無理な話?
いや、今回の対戦は、調和とかそういうものとは関係ないけど。
「けっ、あんなモヤシな連中なんぞどうでもいいんだよ」
うん、どうでもいいわよね。
それも知ってる。
ところでいい加減、クロウを放してくれない?
理由はわからないんだけど、どんどんムカついてきた。
もちろんクロウも自力で脱出できなくはないんだろうけれど、ここで暴れると魔法使いが二人、巻き添えを食らうので我慢してるんだと思う。
チラリと見たらすっごく迷惑そうな顔をしてるし。
これはこれでなかなか見られない顔を見られて楽しい……という本心は秘密。
だってバレたらあとで絶対に怒られる。
「異様な感じだよな、ここだけ」
唐突にカニやんがぼそっと呟くんだけれど、わたしには意味がわからない。
どういうことかと訊こうとしたら、カニやんに周囲を見るよう促される。
で、見てみたら……なるほど、そういう意味か。
ノギさんがクロウの首に腕を回してガッツリホールドしているだけでなく、すぐ近くで串カツさんもノーキーさんをガッツリ腕組みでホールドしてるのよ。
なに、この状況?
ただ同性カップルが二組いるだけでなく、こう……筋肉がむっちりしている感じ?
筋肉カップルが二組、こんな近くでラブラブしてるって……VRあるある?
「ねぇよ」
「あるかー!」
本当に嫌そうな顔をしたカニやんの声に被せてきたのはノーキーさん。
綺麗な筋肉をした腕同士を絡めて串カツさんは楽しそうだったのに、ノーキーさんが声を上げた次の瞬間、体を反転させてノーキーさんの背中に肘打ちを食らわせる。
あら、いい音
「おま、い……」
串カツさんの肘が、ヤバいところに入ったのかもしれない。
よっぽど痛かったらしノーキーさんの言葉はほとんど声に出ていなかったんだけど、さらにそれを串カツさんの声がかき消す。
「誰と喋ってんだよ、この浮気野郎!」
……凄い束縛ね。
わたしも呆気にとられちゃって、すぐに言葉が出てこなかった。
ノーキーさんってばどれだけ串カツさんに愛されてるのかしら。
ちょっと羨ましいかも……って思わず物欲しそうな顔をしてしまった。
ひぃ~
自分が情けなくて、恥ずかしくて顔が熱くなってきた……これ、泣く。
「なに百面相してるんだか」
バッチリカニやんに顔の変化……というか心の変化? を見られていた。
余計に恥ずかしくて泣けるんですけど……。
「俺なんて、そのへんで隠れ腐が喜んでそうで反吐が出る」
吐いてもいいけど、後片付けは自分でしてね。
わたしは先に逃げるわ。
「クロウさん置いて?」
だってノギさん、放してくれなさそうじゃない。
「相変わらずひでぇ嫁」
「そんなクールなグレイさんも素敵ですよ」
「ブレない人だね、不破さんも」
わたしもそう思う。
不破さん自身も、いつもの営業スマイルで 「もちろん」 と自信たっぷりにカニやんに答える。
【特許庁】 のゲームとはいえ、あの二人を一日そばで見ていてもなにも思わないところといい、本当にブレない人。
「ノーキーと串カツ?
いい味のカップルじゃないですか。
俺だと、あんなに仲よさげには出来ませんね。
さっきあれを見たバロームが焼餅を焼いて、沸騰したヤカンみたいになってましたよ」
……バロームさんの、真っ赤になって怒っている顔が想像できた。
ふふふ、ちょっと可愛いかも……ってほほえましく思っていたら、またカニやんが突っ込んでくる。
「あんた、人の恋路に首突っ込む余裕ないでしょ」
「よかったらグレイさん、俺と付き合いませんか?」
絶対に嫌!
DV彼氏なんて怖くて無理! ……って全力で拒否して、いつものようにクロウに逃げ込もうとしたら、間違ってノギさんにしがみついてしまった。
嗚呼~!!
だって、そこはいつもクロウがいる位置じゃない!
どうしてノギさんがいるのっ?!
とんでもない失敗しちゃった。
すぐに気がついて逃げようとしたのに……なんかね、こう……上手く言えないんだけど、感じが違うんだもの、ノギさんとクロウじゃ。
だからすぐに気づいて逃げようとしたのに、わたしまでガッツリホールドって……なによ、これ。
自分でも残念なくらいモヤシなSTRってわかってるけれど、必死に足掻くけれどビクともしない。
さすがノギさん、クロウ並みの鉄筋STR……じゃなくて、放して!!
「飛んで火に入る夏の虫。
逃がすわけねぇだろが」
しかもなぜかご機嫌なノギさんは鼻歌とか歌ってるの。
どうしてそんなにご機嫌なのっ?
無駄な足掻きをしているわたしを見て、カニやんってば呆れたように額に手を当ててうつむいてるの。
助けて!
「ノギさんが両手に花してるよ、勘弁して」
「ムカつく図ですね」
「じゃ悪いけど、頼める?
旦那がマジで怒りそう」
「やってみましょう。
失礼」
カニやんの依頼に答えたが早いか、不破さんの長い腕が、わたしとノギさんのあいだに差し込まれたと思ったらそのまま抱え込まれ、物凄い力で引っ張られる。
反対側からノギさんの腕が回されているから……か、体がねじれるっ?
ちょ……これ、なに?!
「邪魔すんな、不破」
「いい加減にしろ、ノギ」
ノギさんの凄味もにっこりと笑ってかわす不破さん。
凄むノギさんの向こう側で低く呟くクロウ……と思ったらノギさんの手が外れ、バランスを崩しそうになったところを不破さんに抱えられる。
体勢を保てなくてそのまま不破さんの腕にしがみついたら、すぐ横にノギさんが背中から床に叩きつけられる。
…………?
ちょっと頭がついていかなくて呆然としてしまった。
えっと……つまり、不破さんがわたしを引き剥がした直後、クロウがノギさんを投げ飛ばしたってことらしい。
すぐに起き上がったノギさんがこちらを見て……わたしじゃなくて不破さんを見てる。
「邪魔すんなっていっただろうが、不破」
「グレイさんが嫌がっているように見えたので」
見えたんじゃなくて本気で嫌がってたの!
しかもノギさんってば懲りないっていうか、めげないっていうか……したたか。
床に座ったまま、たいして痛くもない背中をかく仕草を見せながら不破さんに言うの。
「まぁいい、もう一回俺と組め」
「どういうことです?」
「だからもう一回俺と組めって。
相手は最強コンビだぜ」
そういうノギさんの目が楽しそうにクロウを見て、そしてわたしを見る。
その視線を視線で辿った不破さんは、視線をノギさんに戻してニヤリと笑うの。
それ、イベントの時に見た悪い顔じゃない。
なにを企んでるのよっ?
「面白そうですね」
「だろ?」
ちょっと待って、全然面白くありません!
なによ、その話は?
いくら鈍いわたしでもなんとなくわかるわよ。
「なんとなくって……この期に及んでなんとなくかよ」
カニやんにはほとほと呆れ果てられてしまったけれど、わたしにもちょっとは危険を察知する本能があるの。
だから二人がヤバいことを企んでるのはわかるんだけれど、自己防衛本能みたいなものが具体的に考えることを拒否する。
これはもう無意識だから仕方がない。
「グレイ」
とりあえず悪い顔をしている不破さんから離れようと思ってこっそりと手を解いたら、クロウが呼んでくれたから今度こそ間違えずにしがみつく。
うん、やっぱりこの感じが一番落ち着く……じゃなくて!
どうしてこうなるわけっ?
ノギが言うことを聞かない!
この話で対戦まで持っていくつもりだったのに、思うとおりに動いてくれない!
おかげでツッコミどころが満載になってしまった・・・