251 ギルドマスターは心の準備が出来ません
pv&ブクマ&評価&感想&誤字報告、ありがとうございます!!
地下闘技場のマッチング方法は二つ。
一つは個人を指定して申し込む方法。
でもこれは申し込まれたほうに拒否権があるので、見ず知らずのプレイヤー同士だと断られる可能性が高い。
もう一つはエントリーするだけ。
あとはコンピュータが自動的に対戦相手を選ぶ。
但しこの場合も、双方に拒否権があるので成立しない場合がある。
どちらのやり方でも成立したタイミングで対戦の順番が決まる仕組み。
マッチングシステムが別というだけで、タッグマッチも成立タイミングで通常対戦の中に対戦順番が組み込まれる……んだけど、今回はノギさん、ノーキーさんはまだ地下の墓場。
本当に誰かが棺桶の蓋を釘で打ち付けでもしてくれたのかしら?
それとも串カツさんから逃れた一時の安息を味わうノーキーさんに、ノギさんが付き合わされているのか。
まだ期限の一週間初日だっていうのに、先が思い遣られるわ。
ノギさんにもいい迷惑よね。
わたしは助かるけれど。
そしてさっきまでわたしたちのそばで話していた串カツさんと不破さんは、現在進行形で対戦中。
その血湧き肉躍る剣戟に、観覧席は大いに盛り上がっている。
なのに……
なぜか対戦順番にキャンセルが出て、わたしたちのタッグマッチがどんどん早められていくの。
なに、これ?
前に対戦した時はノギさんや不破さんたちの仕切りで、あえて他のプレイヤーたちにキャンセルしてもらって順番を早めてもらったけれど、今回はそんなことは一切していない。
その必要もないし。
ちゃんと順番を待つつもりで、対戦成立のタイミングで順番も確認した……ら、ウィンドウを見ているあいだにもどんどんキャンセルが出て、わたしの心の準備が出来る前に順番がまわってきてしまった。
なんと現在進行形で対戦中の、不破さん v.s. 串カツさん の次って……早すぎるっ!
なに?
ねぇ、何があってこんなことになってるの?
どうしてこうなるの?
誰かが声掛けをしてキャンセルを促したようにも見えなかったし……何が起こってるの?
わたしは心の準備が出来ずに挙動不審だっていうのに、発起人とでもいうべきアキヒトさんは呑気なもの。
「ギルマスって顔パス?
便利ですね」
そうじゃないから。
他のプレイヤーたちにあまり気を使わせるのもよくないと思う。
「それは関係ないだろ?
ここにいる連中みんながみんな対戦したくて来てるわけじゃないし、面白い勝負が見られるならそっちの方がいいって思ったんじゃね?」
対戦したいわけじゃないのに、わざわざ地下闘技場に来るの?
「記録じゃ見られないじゃん。
直接見に来ないと」
なるほど、みんな運営の思惑に嵌まりまくっていると。
わたしの疑問に冷静に応えてくれるカニやんだけれど、ずっと自分のウィンドウを開いて申し込まれる対戦を断りまくっている。
前にノギさんと引き分けているから、カニやんも地下闘技場じゃ有名なのよね。
わかっていたことなんだから野次馬なんてやめておけばよかったのに。
「だから記録じゃ見られないじゃん」
ああ、カニやんもその口か。
「見逃し厳禁の好カードだし?」
なぜ尻上がりの疑問系?
「アキヒトを見ておきたいってのが本心かな。
グレイさんとクロウさんが勝つのはわかってるし、そこは心配してない」
わからないわよ、どこで番狂わせが起こるか。
そもそもタッグマッチを提案したアキヒトさんの思惑は?
ただ本当にわたしと対戦してみたかっただけ?
こう……恭平さんのことがあったから、ついつい穿ったことを考えてしまう。
あの時の恭平さんは明らかに様子がおかしかったけれど、今のアキヒトさんはいつもと変わらない気がする。
でもその内心まではわからない。
こういうところはJBとキャラが被らないのよね。
どちらかというと恭平さん。
「うわ、やめてよギルマス。
俺、恭平みたいに根暗じゃないし」
ちょっとアキヒトさん。
それは嫌がる本人と、無理矢理腕組みをしながらいうことじゃないと思う。
「大丈夫、大丈夫。
俺、ノーマルだから」
ん? ああ、別にそっち系の人でもわたしはかまわないの。
ただ迫る相手の好みを尊重して、合意? ……この場合は同意か。
うん、同意をちゃんと得てねってだけだから。
同性カップルとか、全然気にしないというか、ならないというか。
「喪のくせに心が広いな」
喪は余計です。
そもそもわたしに、他の人の恋愛事情に口を出す余裕はございません。
だって全然わからないんだもの!
「はいはい、錯乱するのはあとにして。
順番来たよ」
不破さん v.s. 串カツさん の対戦は不破さんの辛勝。
うーん、やっぱり串カツさんも強い。
観戦用大型モニターに表示されていたHPゲージだと、あと一撃食らわせていれば……くらいのところまで不破さんを追い詰めていたのに。
もちろん不破さんの凌ぎ方も見事だった。
今の対戦を見ていて思ったのは、串カツさんって、大剣を所持するノギさんやノーキーさんと同じ力押し大好きパワープレイヤーかと思ったら、意外にも速さで攻めるスピードプレイヤーだったってこと。
長刀屍鬼を所持する不破さんとは、わたし自身、何度も斬り結んだことがあったからスピードプレイヤーだって知ってたけど。
今後、恭平さんやJBには、この速さに対抗できるようになってもらわないと。
でも 「頑張ってね」 という応援はあとで。
だって今からその恭平さんと対戦するんだもの。
「グレイ、転送だ」
敗れた串カツさんが、いきなり地中から現われる棺桶に押し込められて死体安置所に強制転送。
勝者の不破さんだけが大歓声の中、観覧席に迎えられる。
対戦が終ったあとの大型モニターに文字で対戦結果が表示される中、実況をするNPC(仮)が次の対戦をアナウンス。
直後、表示が消えて次の対戦プレイヤーが表示される。
次はタッグマッチだから四名のプレイヤー名が。
再び起こる大歓声の中、大型モニターは一度暗転し、転送までのカウントダウンを表示する。
……1……0
直後、対戦するわたしたち四名が対戦エリアへと転送される。
タイムラグは数秒。
気がつくと、わたしは何度か見たことのある廃墟の中に立っていた。
直後、ほぼ同時に発せられる言葉。
「スパーク」
「スパーク」
わたしと恭平さんの声。
もちろん互いを狙っての最初の一撃で、互いにヒット。
INTを所持する魔法使いのほうが威力はあるけれど、剣士にはVITがある。
だから互いに大きく後退させられながらも、さしたるダメージは受けない。
すぐさま剣を構え直し、正面にわたしを見据える恭平さん。
わたしも杖を、いつでも大鎌に変化させられるように構える。
もちろん恭平さんは知っているからフェイントには使えないけれど。
どうなってるの?
タッグマッチだから同じエリアに転送されると思っていたけれど……あ、いる。
うん、ちゃんと同じエリアにクロウもアキヒトさんもいたわ。
でも味方同士で固めて転送されるんじゃなくて、バラバラになるのね。
それでわたしの近くには恭平さんがいて、アキヒトさんの前にはクロウが立っている……立ちはだかっている、に訂正しておく。
転送直後に開いた視界、その最初に見た景色と一緒に恭平さんの姿が入ったからとっさに反応してしまったけれど、たぶん恭平さんも同じだと思う。
そもそも恭平さんは昼間にタッグマッチを経験していて、相方とはバラバラに転送されることを知っていたはず。
だからこういう配置に転送される可能性もわかっていたと思う。
互いに相棒が対角にいるのよ。
どちらも最短距離で合流しようとすると中央でぶつかるっていうね。
わたしたちが後退している隣でアキヒトさんの詠唱が聞こえる。
接近戦が主体の剣士と中距離攻撃の魔法使いじゃ当然間合いが違うわけで、転送位置は魔法使いの間合い。
さすがのクロウでも、あの距離を一瞬で踏み込むのは難しい。
二人のレベル差とクロウの高VITを考えれば、アキヒトさんの攻撃を正面から食らっても一撃で落ちることはない。
でも馬鹿正直に正面から突っ込んでも、間合いに捉える寸前に詠唱なしのスパークで後退させられ、再び魔法使いの間合いに戻される。
そこで二撃目を食らう。
以下、繰り返し
もちろん一瞬でもタイミングが遅れればアキヒトさんの首が落とされる。
アキヒトさんのMPが切れるのが早いか、クロウのHPが尽きるのが早いか、それともアキヒトさんがタイミングを外して首を飛ばされるか。
三択
でもね、クロウはそんな持久戦に付き合うような性格じゃないの。
とっても頭のいい人なの。
すぐさま遮蔽物を使ってアキヒトさんの攻撃を躱す。
「アキヒト、回り込ませるな!
グレイさんと合流するつもりだ!」
わたしに斬り掛かろうとしながらもアキヒトさんに指示を出す恭平さん。
忙しいわね。
もちろんわたしも斬られ役になるつもりはない。
十分に距離を置いてもう一つスパークをお見舞いしておく。
一瞬遅れて恭平さんもスパークを発動するんだけれど、もちろん向かう先はわたし。
でもその一瞬先にわたしが発したスパークを食らって後退したのはアキヒトさん。
まさかわたしがここで、目の前にいる恭平さんではなく横にいるアキヒトさんを狙うとは思わなかったでしょ?
だってこの状況は恭平さん、アキヒトさんペアに有利なんだもの。
転送位置もコンピュータがランダムに決めている。
つまり意図して決められた配置ではないけれど、向こうのペアが有利になるよう状況が働いた。
偶然
最初に視界に入った対戦相手が恭平さんだったから、わたしは接近させまいととっさの回避行動としてスパークを使用。
恭平さんはわたしの詠唱を阻むため、同じくスパークで転ばせようとした。
これでわたしと恭平さんの対戦が始まって、クロウはアキヒトさんと。
でもこの状況を維持する必要はない。
だから対戦相手を交換しましょ。
わたしのスパーク発動を察し、反射的にわたしに仕掛けた恭平さん。
でも実際に私のスパークを食らって後退したのはアキヒトさん。
驚く次の瞬間、アキヒトさんの攻撃を躱すため遮蔽物に身を隠したクロウが飛び出してくる。
その接近を阻もうと再びスパークの発動を考えたんだろうけれど、詠唱の要らない術だもの。
MPの残量を気にする必要もないし、ポンポン発動しちゃうわよ。
「グラヴィティ」
ほんの数秒、その動きを上方から抑え付けるようにして止めることが出来るグラヴィティ。
状態異常に振り分けられるこの術に 【震える鏡】 は発動しない。
その数秒があればクロウには十分。
ちなみにアキヒトさんは典型的な魔法使いだった。
わたしもそうだけれど、とっさの事態に即座に反応できないっていう典型的な魔法使い。
まさかわたしが自分を狙うとは思っていなかったアキヒトさんは、気前よく後退しちゃってそのまま後ろに転倒。
慌てて起き上がったものの、状況を把握しようとした時にはすでに飛び出したクロウが恭平さんに斬り掛かり、自身はわたしが放った焔獄の焔の中。
恭平さんを援護する間もなく落ちてしまい、次の瞬間には恭平さんも首を刎ねられた。
ほぼ同時に地中から突き出してくる二つの棺桶。
力業で二人を閉じ込めたと思ったら、次の瞬間には地中に消える。
つまりわたしとクロウの勝利が確定したわけなんだけれど……
忘れてた!
そ、そうだった。
ついさっき串カツさんが閉じ込められるのを見たばっかりだったのに、自分の対戦で頭が一杯になっちゃってうっかりしてた。
わたしのノミのような心臓が止まったらどうするのよっ!! ……って対戦後に嘆いたら、インカムの向こうから脳筋コンビにいわれた。
『心臓マッサージ、立候補!』
『俺もやりてー』
二人とも死んで……
もうしばらく地下闘技場から帰れませんw