250 ギルドマスターはまた魔法使いに挑まれます
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『グレイ、そこを動くなよ』
ん? なに?
クロウの、すっごく不機嫌そうな低い声がインカムから聞こえてきた。
どうしたの、急に。
シャチ金でなにかあった?
それともわたしがなにかした? ……ってことはないと思う。
だって再ログインしてから、ナゴヤドームにあるギルドルームからナゴヤジョーまで、ルゥと一緒に散歩がてら歩いてきただけよ。
他にはなにもしていません。
しかもクロウが呟いた直後、シャチ金でなにかあったのかしら?
急に脳筋コンビやクロエの慌ただしい声がインカムから聞こえてきた。
『ちょ、旦那!』
『速いって!』
『くるくる、ついて来てるっ?』
くるくるの返事はありません。
ダンジョンの外にいるわたしたちには何があったのか全くわからないんだけど、くるくるの初シャチ金なんだから無事にクリアさせてあげてよね。
返事がないのがすでに不安だけど。
ちなみにアキヒトさんのお誘いにはまだ返事をしていません。
だって行き先が地下闘技場よ、簡単にOK出来る場所じゃない。
むしろ行きたくない。
なにが楽しくて見世物にならなきゃいけないのよ。
しかもあそこにはノギさんとかノーキーさんとか、日頃からわたしを斬りたがっている人がたむろしている。
ほんと、なにが楽しくて自分から斬られに行くの?
わたしは色々やらかす性格ですが、そこまでお馬鹿じゃありません。
「そもそもアキヒトさんって、グレイさん対策はしてあるわけ?」
あー疲れた……という前置きをしてからのクロエの質問に、アキヒトさんは理解しかねるように首を傾げる。
どうやらクロウが悪い癖をだし、超ハイスピードでシャチ金をクリアしたらしい。
もちろん初挑戦のくるくるを脱落させず。
いや、ま、それは当たり前なんだけどね。
これでくるくるが落ちていたら、なんのために潜ったのかわからないもの。
馬鹿
一応主催者として怒ったら、なぜか拳骨を落とし返された。
待って、ここはわたしが怒られるところじゃない。
わたしが怒るところで合っているはず。
それなのになぜ拳骨を落とされたの?
「ギルマス対策ってなに?」
とりあえずクロウのことは置いておく。
まずはアキヒトさんね。
「あちゃー」
「アキヒト、そりゃ無理だ」
「なにが無理?
意味わかるように説明してよ」
地下闘技場の記録は見られない。
あそこは生での観戦が売りっていうこともあってか、運営は記録を保管してはいるんだろうけれどプレイヤーには公開していない。
だからわたしが恭平さんと対戦した時のことを、当時は休止中だったアキヒトさんが知ることは出来ない。
対戦したってことは、誰かから聞いたんじゃないかな。
今日のイベント 【ボクとワタシの夏休み】 でも……いや、【シシリーの花園】 を相手にした時、【愚者の籠】 が発動するのを見ているはず。
つまりわたしに通常の魔法攻撃は通じない。
闇属性か光属性のみが有効だけれど、今のアキヒトさんのレベルで取得できる両属性の攻撃魔法ってそんなにあったっけ?
【浸食】 なんて取得条件が厳しすぎて、レベル以前の問題だし……とか真面目に考えていたんだけれど、まぁ案の定というか、なんというか。
「え? 魔法通じないのっ?」
このへんのキャラがJBに被りすぎてます。
ええ、通じないの。
すべて自動的に発動する常時発動スキル 【愚者の籠】 が吸収して、わたしのMPを回復してくれます。
「じゃあどうやって倒すの?」
「どうって……」
「そりゃ剣でしょ?」
すっかりみんなを困惑させちゃって。
無邪気というか、無計画というか。
それが悪いとは思わないけれど、ちょっと思い遣られるわね。
魔法使いじゃない脳筋コンビの答えが物理攻撃になるのも仕方がない。
でも正確には闇属性と光属性も有効。
この両属性の攻撃魔法には 【愚者の籠】 も 【震える鏡】 も反応しない。
でも 【スパーク】 や 【クロノスハンマー】 でわたしを落とすのは結構難しいと思う。
これらは攻撃魔法というより状態異常だし。
明確な攻撃魔法としては 【フォグブレス】 もあるけれど、わたしは解毒手段を持っている。
かといって 【セントクルス】 をはじめとする光属性の攻撃魔法は、そのほとんどがプレイヤーに対してほとんど威力を発揮しない。
あれはNPC種族 【妖獣】 【妖魔】 【魔獣】 などに有効で、【幻獣】 や 【聖獣】 が相手だと効くかどうかわからない。
光属性のほとんどは 【ヒール】 などの回復系魔法だから、攻撃魔法であったとしても 【聖獣】 が相手だと回復させてしまう恐れがあるのよね。
ちなみに 【聖獣】 は運営の公式発表にあるけれど、まだ出現はしていないため試せていない。
【幻獣】 は……足下にいるけれど、絶対に試しません。
嫌われる!!
いくら飼い主でもさすがにバックリやられちゃう。
チラリと見るわたしと目が合うと、ルゥは大きな目をキラキラさせてご機嫌に尻尾を振る。
期待させちゃったからその大きな頭をゆっくりと撫でてあげる。
そうしたら きゅ! と嬉しそうな声を上げてくれるから、絶対に試しません。
まぁそんなわけで、わたしを倒す基本的な手段は物理攻撃。
もちろん銃でもOKです。
「じゃあこうしません?
タッグマッチ」
めげないところもJBとキャラが被っているアキヒトさんは、隣に立っていた恭平さんの腕を、まるで恋人のように取るの。
この二人ってそういう関係なの?
「違うに決まってるだろ。
この状況でそっちに発想がいけるって、ある意味凄いな」
乱暴にアキヒトさんの腕を振り払う恭平さんだけど、めげないのよ、アキヒトさんは。
「そんな邪険にするなって」
とか言いながら、嫌がられているのに、何度振り払われても恭平さんと腕を組もうとするの。
まぁ別にいいんだけど……つまりアキヒトさんは恭平さんと組んで、わたしとタッグマッチをしたいってことでしょ?
昼間に見たのがよっぽど面白かったのね。
それはわかったから、そろそろ恭平さんに絡むのはやめた方がいいんじゃない?
そのうち本当に嫌われるわよ。
問題はこの場合、わたしは誰と組めばいいの?
「誰って、旦那以外と組むのか?」
「俺はまだ死にたくない」
「俺も」
言いたいことはわかった。
つまり脳筋コンビは組んでくれないのね。
クロウが組んでくれるのならもちろん嬉しいけれど、ちょっとあれじゃない?
レベル差がありすぎて火力に偏りがありすぎる。
それこそアキヒトさんがクロウと組んで、わたしが恭平さんと組んだほうがまだ均衡が保てるような気がする。
でもわたしの提案に、脳筋コンビはなんとも言えない表情をして、カニやんや恭平さんは露骨に嫌そうな顔をするの。
JBは別のことを考えていたけど。
「それだとただの最強剣士 v.s. 最強魔女になりません?」
そんなことはないと思う。
この意見にはクロエも賛成してくれたけれど、別の意見でもって反対してくる。
「火力を分割するのはいいけど、その組み合わせだとアキヒトさんがなにも出来ないよ」
どういうこと?
「だって二人とも魔法攻撃が効かないじゃない」
そういえば恭平さんは 【震える鏡】 を持っているんだった。
ついつい忘れがちだけれど、これ、個人戦になった時は結構重要よね。
頭に叩き込んでおかないと。
「ステを振り直して大技は使えないって聞いてるけど、対剣士戦に使えそうな近距離の詠唱なし術を使えるなら、ちょっとは火力の補正入るんじゃない?
だったらアキヒトさんの提案どおりでもいいと思うよ」
「でしょ、でしょ。
クロエ君もこう言ってることだし、どうです?」
アキヒトさんはしきりにわたしに同意を求めてくるんだけれど、巻き込まれた恭平さんやクロウの同意は要らないわけ?
すぐ後ろに立っているクロウを振り返って見れば、「好きにしろ」 だって。
わたしの隣はルゥがしっかり陣取っているから後ろに立ってるんだけど、地下闘技場に行くこと自体はもう反対しないのね……と思ったらカニやんに突っ込まれる。
「保護者付きならいいんじゃね?」
なるほど、そういう意味か。
クロエは、恭平さんが使える程度の術でも、クロウの足を止められるなら十分じゃないかって言うんだけれど、そんなに甘い相手じゃないと思うわよ、クロウは。
でもアキヒトさんは引き下がりそうにないし、クロウは好きにしろ。
あとは恭平さんが諦めたら全員の合意ってことになるわね。
アキヒトさんもわかっているのか、恭平さんはアキヒトさんに弱い。
別に弱点を握られているってわけじゃないけれど、このまま引退してしまうんじゃないかっていうくらい長い休止状態から戻ってきてくれたアキヒトさん。
恭平さんはその原因が自分にあるって思っている。
負い目
たぶんその類いの感情だと思う。
これがいいことなのか悪いことなのか正直判断に困ることだけれど、干渉しすぎは悪いことのように思えるから二人の問題として今はそっとしておく。
結果として断れない恭平さんと四人……ルゥは安全のため腕輪に仕舞ったんだけど、野次馬としてカニやんが付いて来たから五人で地下闘技場に着いた時、丁度対戦が一つ終わったところらしく観客席は沸きに沸いていた。
誰と誰の対戦だったんだろう? ……と思ったらノーキーさんとノギさん。
引き分けて二人とも地下の墓地送りになったらしい。
それで今はここにはいないんだけど、どうせならこのまましばらく棺桶に閉じ込めておくことは出来ないのかしら?
例えば誰かに棺桶の蓋の上に乗ってもらって押さえるとか……無理?
「珍しい組み合わせですね」
順番待ちの不破さんに見つかり、串カツさんと二人で寄ってくる。
不破さんって何気に目ざといわよね……ってわたしなりに精一杯の皮肉のつもりだったのに、ホストの笑みで言い返される。
「特に美人には」
「自分で言うな」
ところで串カツさんは、ノーキーさんをノギさんに渡しちゃったわけ?
「そんなわけないだろ。
次の対戦が俺と不破なんだよ。
そうでなかったら墓場まで迎えに行って拘束してやるところなのに。
あの浮気者め。
誰も見てないからってノギとイチャつきやがったらぶっ殺してやる」
すっかり束縛彼氏が板についちゃってる感じ。
これ、一週間後に別れが来たらどうなるのかしら?
バロームさん的には、早く一週間が経って欲しいところでしょうけれど。
「バローム?
今のノーキーは俺のもの。
あんなケツの青いお子ちゃまに渡すか」
そんなことを力強くいわれてもどう返していいかわかりません。
長居は無用だし、とりあえずエントリー、エントリー……あら? タッグマッチっていうのはどうしたらいいの?
アキヒトさんは、昼間にやった恭平さんに教えてもらって無事にエントリー。
わたしはもちろんクロウに教えてもらって……知ってるってことは、タッグマッチ、したことがあるんだ、クロウも。
誰と組んだのかちょっと気になるところだけれど、長居は無用なのでさっさとエントリーを済ませる。
幸いにしてタッグマッチのエントリーは他にないらしく、キャンセルをせずにアキヒトさん×恭平さんペアと対戦できることになったけれど順番待ちが……と思っているあいだに凄い勢いでキャンセルが出る。
なに、これ?
不破さん v.s. 串カツさん の対戦中で、ノギさんもノーキーさんも、本当に誰かが棺桶を開かないようにしていてくれているのか、まだ戻っていない。
つまり以前のように誰かが仕切っているわけじゃないのに、どんどん対戦待ちにキャンセルが出て順番が早まる。
あまり早まると心の準備が……え? うそっ?!
もう順番が来たっ!!