247 ギルドマスターは髪型が似合っていません
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1位 ………………
2位 ………………
3位 ………………
4位 ………………
5位 ………………
6位 グリーン・ガーデン
7位 素敵なお茶会
8位 特許庁
9位 ………………
10位 ………………
ギルドルームでの話し合いを終えた直後、運営がイベントの順位を発表した。
【鷹の目】 や 【暴虐の徒】 が上位に入っていなかったのは意外だけれど、【特許庁】 が上位に入っていたのも意外だったわ。
しかもわたしたちとのポイント差がわずかだったのも意外というか、なんというか……正直、胸をなで下ろした。
でも逆に、【グリーン・ガーデン】 と 【素敵なお茶会】 との差もわずかだったのが残念。
【特許庁】 や 【シシリーの花園】 の襲撃にハーピーパニックがなければもっと集中して蝉とりを出来たんだけどな。
実際上位ギルドのほとんどは、あのハーピーパニックに巻き込まれずに済んだことを幸いに、蝉とりに集中していたらしい。
羨ましい
でも当初の目的どおり上位に入賞し、【素敵なお茶会】 はギルドボーナスを手に入れることが出来たんだけど、今回はどのステータスをもらうか散々悩んだ。
今までにSTRとDEX、INTはもらっているから、次はAGIかVITか。
それともすでにもらった三つのどれかをさらに強化するか。
どれも魅力的で凄く迷った。
みんなの意見も聞いて、結局選んだのはVIT。
生産職にはあまり関係ないステータスではあるけれど、戦闘職は職にかかわらず恩恵を受けることが出来る。
特に紙のような防御力の魔法使いは。
銃士だって自分のステータスポイントでは、あまりVITには振らないし。
生産職だってレベル上げでダンジョンに潜る時や、素材採取時には役に立つと思うわ。
そういう意味では自力でポイントを振っている剣士にはあれだけど、防御力が上がるんだから文句はないはず。
底上げされるんだから
話が終って早々、久々に外に出ろとマメをギルドルームから連れ出したカニやん。
どこに行くのかと思ったら、りりか様の店で装備の損耗修理を終えたトール君たちと一緒にナゴヤドームに潜るって。
行ってらっしゃ~い
「グレイさんは?」
ギルドルームを出る前、マメの首根っこを捕まえたままのカニやんに訊かれたんだけど……そうね、まずはルゥのHPゲージを見せてくれる?
膝に抱えたルゥをこちらに向けてお願いしてみる。
そうするときゅっと短く鳴いて、ルゥのおでこあたりにゲージが表示されるのをルゥと一緒に見る。
位置が近すぎてルゥには見づらいと思うんだけど……やっぱりもうちょっとね。
ルゥはプレイヤーではないけれど、たぶんナゴヤドーム内にいればHPやMPが緩やかに回復するのは同じはず。
それにこうやってご機嫌に過ごしていてくれれば 【ルゥのご機嫌モード♪】 でさらに回復する。
わたしも少し疲れちゃったし、ルゥと一緒に休憩するわ。
ギルドルームに残るというわたしにカニやんはあっさり 「そう」 と了承してくれたけれど、首根っこを掴まれたマメは少し残念そう。
「グレイさんも一緒に遊ぼー」
あとでね。
「絶対ですよー」
うんうん、それまでみんなと楽しく遊んでてね。
「はい、みんなぶっ殺しておきます」
そんなことをいってカニやんに引き摺られていったマメだけど、マメだからね。
逆に、シャチに混じって泳いでくる鯉にバックリやられ、そのまま通路を逆走。
久々だったこともあって、連れ去られちゃったマメの悲鳴にパーティメンバーはビックリ。
『今更それで驚くのかよ、お前ら……』
カニやんに激しく同意だわ。
カニやん自身はキンキーに付き合ってシャチ銅に潜っていて、銀はトール君やマコト君にジャック君だから、そこにマメが入ればちょっとしたカオスよね。
いざという時はマメを捨てていいから。
頑張って
一応ね、カニやんがギルドルームを出て行く時にクロウにも声を掛けてくれたの。
それこそ一応。
「一応訊くけど、クロウさんはどうする?」
本当に一応。
しかもどうして笑っているの?
訊かれたクロウまで笑ってるし。
答えないし
「じゃ、ごゆっくり」
結局クロウは答えないまま、カニやんはそう言い残してマメだけを引き摺って行っちゃった。
だからギルドルームにはわたしとルゥ、クロウの二人と一匹が残されたんだけど、ドアが閉まったとたん立ち上がるクロウ。
てっきりどこかに行くのかと思ったら、わたしを担ぎ上げるっていうのはどういうこと?
しかも荷物みたいに。
失礼ね!!
なんなのよ、この扱いは!
しかも担ぎ上げられた拍子にびっくりしてルゥを落としちゃって、いきなり床に放り投げられて鳴いてる……と思ったら怒ってる。
鼻に幾筋も皺を寄せて、小っちゃな牙を剥いて低く唸り声を上げてるの。
え? ちょっと待ってルゥ。
それはわたしに対して怒ってる……のよね。
うん、ごめん。
いきなり放り投げちゃって。
でもでもでも!
でもね、わたしにも事情があったの。
いきなりクロウが、それこそ荷物みたいに担ぐんだもの。
しかもそのまま運ばれて……本当に荷物の扱いだわ。
どこに連れて行かれる……いや、持って行かれるのかと思ったら、ソファに放り投げられた。
本当に荷物扱いなんだから。
「チビ、こっちだ」
クロウに呼ばれて猛ダッシュできたルゥだけど、クロウに飛びかかったものの易々とぺしっとはたき落とされ、着地したのがわたしの膝っていうのはどんなコントよ?
そもそもルゥってば、やっぱり相手を見て加減をしてるのかしら?
それともクロウのPS?
よくわからないんだけど……でもそうね、確かに椅子よりソファのほうがくつろげるし、楽ね。
でもわたしの膝に着地したルゥは、隣にどっかりと腰を下ろすクロウに牙を剥いていたんだけど……シャキーンと爪を伸ばした短い足をわたしの膝で踏ん張るのは止めて。
痛い痛い痛い痛い……って嘆いていたら、ようやくのことでなにかに気づいたみたい。
急にキョトンとするの。
遅い……
遅すぎるわよ、ルゥ。
たぶんわたしがいないってことに気づいてくれたんだと思う。
にわかに周囲をキョロキョロして、でもまだ爪を立てたままだから痛いのを我慢して頭を撫でてあげたらようやくわたしに気づいてくれた。
鈍すぎない?
「飼い主に似て、な」
ちょっとクロウ、なに笑ってるのよ?
そりゃちょっとわたしも鈍いけれど、クロウに笑われるほどじゃないんだから。
「どうだろうな」
まだいうか、このクソ親父!
しかもまだ笑ってるし……もう!
でもせっかくだからクロウのお節介に甘え、わたしはしばらくルゥとモッフモフして遊んでいたんだけれど、ルゥのモフモフボディが本当に気持ちよくて、きゅ~きゅ~甘えてくるのが本当に可愛くて、癒されすぎてそのままクロウの膝枕で眠ってしまったらしい。
不覚!
しかもそれをギルドルームに戻ってきたハルさんに見られるなんて……一生の不覚!
「グレイさん、寝ちゃったんですか?」
「疲れていたんだろう。
作業を中断させて済まなかったな」
「いえいえ、そのためのギルドルームですから」
クロウに頼まれて席を外したハルさんは、今までキンキーと一緒にシャチ銅に潜っていたらしい。
その役目をカニやんと交代して、中断していた作業を再開すべくギルドルームに戻ってきたらわたしが眠っていた。
うん、わたしのことは気にせず作業に戻って頂戴。
作業部屋はお隣よ。
ギルドルームに入ってそのまま自分の作業部屋に向かってくれたらいいのに、わざわざ寄り道をしてソファに寄ってきた。
そしてわたしの寝顔を見るとか……やめて、お願い。
見ないで
恥ずかしくて泣きそう。
もちろんこの時のわたしは、すっかり寝入っていて全然気づいてなかったんだけどね。
ほんと、クロウの膝枕が気持ちよかったのよ……内緒だけど。
わざわざわたしの寝顔を見に来たハルさんは、わたしにぴったり寄り添って休んでいるルゥを見る。
「君は狸寝入りかな」
狸じゃなくて狼だけどね。
綺麗な顔にちょっと意地の悪い笑みを浮かべるハルさんに、声を掛けられたルゥは不快そうにちょっとだけ目を開く。
それを見たハルさんはそっと手を伸ばそうとするんだけど、小っちゃな牙で噛みつこうとするルゥ。
えっとハルさん、わたしが眠っている今はやめた方がいいと思う。
だってルゥを止める人がいないじゃない。
でもハルさんは果敢にもルゥに触れようとするの。
「ちょっと動かないで。
花飾り、曲がってるから直してあげるよ」
わたしがモフりすぎて、耳に付けたお揃いの飾りの位置がずれちゃったみたい。
しかもそのまま眠っちゃったからずれたまま。
それを直してあげるといわれ、警戒しつつもハルさんが触れることを許すルゥ。
「ほら、これでいいよ。
グレイさんとお揃いでいいね」
きゅ! とルゥが一声鳴いたのはお礼だったのかもしれない。
学習しない残念なAIのはずなのに、時々賢くなるのよね、なぜか。
しかもその賢さをわたしに見せてくれないのはなぜ?
「じゃあね、おチビちゃん。
クロウさんも、ごゆっくり」
「すまない」
ハルさんが自分の作業部屋に引き取って、再び二人と一匹が残されたギルドルーム。
まぁインカムからはずっと賑やかな声が聞こえていたんだけれど、ルゥは再びわたしにぴったりと寄り添って狸寝入り。
クロウが何をしていたのかは知らないんだけど、目を覚ましたわたしの髪ゴムが外されていたのはクロウの仕業よね?
他に誰もいなかったんだもの。
これ、自分で外したとしたら、わたし、どんな寝相よ?
しかも髪ゴムがないの。
どこを探しても見つからないってことは、クロウが持ってるのよね?
返して
せっかくハルさんがルゥとお揃いで作ってくれたの。
ちょっとクロウ、聞いてる?
返してってば!
どうして笑ってるの?
そんなに格好良く笑っても誤魔化されないんだから。
あれ、可愛くて気に入ってるの。
クロウ!!
「そう怒るな」
怒るわよ。
気に入ってるって言ってるでしょ、返して! ……って手を突き出したら、クロウに 「お手」 をされた。
なによ、これ?
どんなプレイよっ?
「一つ頼みがある」
その頼みを聞いたら返してくれるの?
聞き入れられるかどうかは別として、とりあえず話は聞くわ。
クロウにはいつもお世話になっているし、出来る限りご希望には応えたいと思ってるんだけれど、聞けるお願いと聞けないお願いというものが世の中にはあってね……といいわけじみたご託を並べていたらサクッと遮られる。
「難しいことじゃない。
髪を下ろしているほうが好きなんだ。
だから下ろしていて欲しい」
………………そういう要望が来るとは思わなかったわ。
あ、やばい顔が熱くなってきた。
えっと……その、つまりクロウは、髪を上げるのは似合わないっていいたいのよね?
だ、だから下ろせ、と。
わたしってば似合わない髪型でイベントに参加したりして、泣きたいくらい恥ずかしい。
だったらもっと早く言ってよ!
かかなくてもいい恥をかいちゃったじゃない!!
でもだからって人が寝ているあいだに勝手に髪を下ろしたり、髪ゴムを隠したりしないで。
「どちらでも似合っているが、俺は髪を下ろしているほうがいい。
だから下ろしていて欲しい」
え? ……ちょっと待って。
似合ってないわけじゃないの?
大丈夫なの?
でも下ろせって……ちょっと意味がわからない。
そんな優しい顔で言われても、こ、これ、どうしたらいいの?
ヤバい、どうしてかわからないけれど耳まで熱くなってきた。
ねぇ誰か、クロウがなにを言っているのかわたしにわかるように解説して……って誰もいないっ?!
しかもこんな時に限ってインカムが静かになってるっ?
誰かぁ~!!