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244 ギルドマスターはパン○の価値を知ります

pv&ブクマ&評価&感想&誤字報告、ありがとうございます!!

 そもそも最初の一言が悪かったのよ。


「カニの穿いてたパンツを寄越せ」


 この追い剥ぎみたいな悪役のセリフは何?。

 悪役というより悪党よね、間違えたわ。

 しかもマメったらわざわざ海パンをパン……っていうのよ、紛らわしい。

 しかも欲しい(アイテム)が、女性アバターだと装備できない男性装備の海パンだなんて……そんなものをどうするのよ?

 だってマメのそのアバター、女性よね?

 このゲームは規約で公式に禁じられていないこともあって、複垢OKが暗黙の了解になっている。

 うん、でもマメが女性なら幾つアカウントを作っても、それこそ何回アバターを作り直しても男性アバターは作れないのよ。


 どうするの?


 本当に呆れちゃう。

 しかも使えない装備のために、結構な長い時間を無駄にしちゃって。

 もったいない。

 まぁマメは廃人だから、わたしたちみたいな限られた時間しかプレイできない一般人とは感覚が違うのかもしれないけれど。


「作れないけど、それらしくは出来まーす」


 うん? どういうこと?

 もちろんマメに男性アバターは作れないって話でしょ?

 設定時のことを思い出せばなんとなくわかるような、わからないような……とりあえずマメの話を聞いてみようと思ったのにカニやんが邪魔をするの。


「やめろ、マメ」

「どうしてだー」


 どうして?


 あらやだ、マメと声が被っちゃった。

 立ち話もなんだからと場所をテーブルに移し、思い思いに椅子に掛けて会話を再開する。


「どうしてって、ゲーム内には色んな奴がいるから。

 だいたいマメ、お前もそうだろう」


 カニやんの言っていることが全くわからなくてわたしは首を傾げるんだけれど、そうすると膝でご機嫌のルゥが真似をして首を傾げる。


 可愛い


「グレイさんはそのままモフッててくれない?」


 嫌よ、ちゃんと話して。

 もちろんおおよその見当はついてるわよ。

 アバターを作る時、少しくらいなら体型をいじれるもの。

 髪型は、男性アバターの場合はちょっとわからないけれど、女性アバターには男性並みに短い髪型だってあるし、装備は男性用装備を模して鍛治士に作ってもらえばいい。


 そういうことじゃないの?


「ほぼ正解」


 ほぼ?


 今度は反対側に首を捻ってみたら、ルゥもわたしを真似て反対側に首を捻る。


「話を戻そう。

 色々散りすぎてまとまらない」


 そうね。

 どうしてマメはカニやんの海パンが欲しいわけ? ……と改めて訊くわたしに、カニやんが拍子抜けをしたような顔をするの。

 ん? なに?


「いや、戻るところがそこなのかと思ってビックリした」


 他のどこに戻るのよ?

 わたしの問い掛けに対して、一拍ほど置いて諦めたように溜息を吐くカニやん。


「……どこに戻ってもいいけど、譲らないものは譲らない。

 それでいいな?」


 もちろんカニやんの所有物(アイテム)だもの、所有者の自由にして。

 いくら主催者とはいえ、個人の所有物(アイテム)に譲渡を強制することは出来ない。

 それこそマメにどんな正当な理由があったとしても。

 もっともマメの主張する理由に正当性なんて全くなかったんだけどね。

 だって……これ、どう表現すればいいのかしら?


 コレクター?


 うーん、それもなんだか違う気がするの。

 【素敵なお茶会】 では情報通で通っているマメ。

 彼女はゲーム内に限らず色々なデータやサイトにも通じていて、当然外部のゲーム関連サイトにも詳しい。

 学生たちは夏休み。

 社会人もお盆休みとか夏期休暇とか表現こそ様々だけれど、まとまった休みが取りやすい夏はどこの運営も大きなイベントを企画してくる。

 ゲーム関連サイトもそのネタで賑わうんだけれど、もう一つ、賑わせる定番のネタがあるらしい。


 水着


 マメの話では、ゲームの世界観にかかわらずたいていの運営が水着を売り出してくるのが夏の定番。

 それこそ海がない、あっても泳げる設定ではないゲームでも。

 わたしたちが遊んでいるこの 【the edge of twilight online】 では、わざわざ期間限定で海エリアを作ってまで水着の着用要素を突っ込んできた。

 しかも生産職が新たに装備を作れるという要素にまで干渉し、今回に限っては必要な素材として課金装備(既製品)の水着が必要だったらしい。

 これは生産というより改造といったほうがいいかもしれない。

 もちろんそれが出来るのも鍛冶職だけ。

 ちゅるんさんのあの派手派手しい水着ですら、プレゼントされた三着のうちの一着を改造したってことよね。

 つくづくカジさんの腕が恐ろしい。

 でもそのカジさんの腕をもってしても、運営の陰謀によって一から水着を作ることは出来なかった。

 つまり、どうあっても水着ガチャを回せという設定になっていたらしい。


 セコい


 でもそのわりにコンテストに出場する女性プレイヤーには、好きなデザインを三着もプレゼントするという大判振る舞い。

 この落差に男性プレイヤーからかなりの批判も出たらしい。

 当然といえば当然で、運営がどれだけ女性プレイヤーの獲得に躍起になっているかがうかがえるというもの。

 考えの底が浅すぎて見え見え。


「見えすぎてて逆に清々しいくらいだよな」


 そうね。

 目的がはっきりしすぎていて疑わずに済むかも。

 でも問題はそこじゃないし、各ゲーム関連サイトを賑わせたのもそこじゃない。

 もちろん一部では話題になったらしいんだけど、実際に女性プレイヤーが増えたかといえば微妙な感じ。

 ゲームの内容にもよるけれど、女性用の装備ってたいがいどこの運営も男性用装備より凝る。

 だから可愛いもの、綺麗なデザインが多い。


 かつてのMMOでもありふれた男性用装備より凝った女性用装備のほうが当然のように人気があって、男性ユーザーがわざわざ女性アバターを作って遊んでいた。

 そこからネカマなんて言葉も生まれたくらいだから、結構な男性ユーザーがそういう遊び方をしていたのかもしれない。

 その流れは今の主流であるVRにも受け継がれていて、当然のように女性用装備のほうが可愛くて綺麗にデザインされている。

 それこそ種類も豊富だし。

 ただこれを面白くないと思った男性ユーザーでも、VRでは性別を偽ることが難しいのよね。

 設定は運営次第だけど、規約にまで書いている運営もあるっていうしね。


 水着ネタも多くのサイトは女性用で盛り上がっていて、【the edge of twilight online】 はユーザー投票で上位に輝いているらしい。

 ところがところが……前置きが長くなってなにを話しているのか忘れそうになったけれど、ここからが本題。

 申し訳程度に行われる男性用水着の投票でも 【the edge of twilight online】 が上位に輝いているらしい。

 しかも投票率も凄くよくて、珍しいくらい話題になっているとか。

 さらにさらに 【the edge of twilight online】 はサービス開始からまだ一年未満。


 全てが初めて


 夏イベントも初めてなら水着の発表も初めて。

 もちろん来年の夏にはまた新たなデザインで販売されるんだろうけれど、その時に人気のあった1シーズン前の水着には価値が出る。

 毎年新デザインが発表されるたび、販売が終了している人気のあった前のデザインには希少価値がつく。

 その中でも一番最初のデザインは、流通在庫がどんどん減っていくのに反比例してどんどん稀少度が上がる。

 マメはそれを見越して男性用、女性用全デザインのコンプリートを目指しているっていうの。


 マニアっ?


 マメってただの廃課金の廃人じゃなかったのね。

 しかもカニやんの海パンは今も稀少度が高いから、来年にはもっと価値が上がるのがわかっている。


「いや、商売人根性だろう。

 商魂たくましすぎて反吐(へど)が出る」


 その壮大な計画や将来を見越した展望に私は呆気にとられちゃったんだけど、カニやんはあくまでも冷静。


「驚くことじゃないだろ?

 廃課金の連中はわりと商売上手いし、こいつら(・・・・)には前科がある」


 前科?


 なんだか不穏な言葉ね。

 その不穏な言葉を口にするカニやんは、テーブルに頬杖をついて不穏な目でマメを睨みつける。

 その視線を受けるマメもまた、いつになく真剣な表情を浮かべている。

 でもこのにらみ合いは明らかにカニやんの勝ち。

 マメは気まずそうに、でも引き下がれず踏みとどまっている感じ。

 えっと……これはどういう状況?

 わたしはどうしたらいいの?

 情けない話なんだけど、どうしたらいいかわからなくてクロウに助けを求める。


「ウィンドウを出せ」


 唐突にそんなことを言い出したクロウは、カニやんとマメには自分のインカムを指し示して合図する。

 つまりギルドチャットを切れってことね。

 わかったから自分で操作します。


「春雪、いるんだろう?

 悪いがしばらく席を外してもらえないか?」


 わたしたちにギルドチャットを切らせるだけでなく、隣の部屋で作業をしているハルさんの退室まで促す念の入れよう。

 ここまでの会話をインカムで聞いていたハルさんは、苦笑いを浮かべながら作業部屋から出てくるとギルドルームの空気の悪さを察して足早に退散。

 わたしも一緒に退散したかったけれど、それは出来ない相談よね。


「……見たのか?」


 ハルさんが出ていったあとの重苦しい空気の中、先に口を開いたのはマメ。

 あまりにも表現が抽象的すぎてわたしには意味がわからない。

 でもカニやんにはちゃんと通じていた。


「下の方に落とし込んで、わざわざ色んな話題(トピ)を立てて紛らわせてたみたいだけどな」

「マメが考えたわけじゃねーよ」

「知ったことか。

 最近の書き込みもあったのにあんな下にあったってことは、わざわざ下げてるんだろ。

 隠してるのバレバレじゃん。

 お前の書き込みもあった」

「小細工しすぎなんだよ、あいつ」

「俺もさ、そこまで根性悪いつもりじゃないから、探そうとして探したわけじゃねーよ。

 ひょっとしたらあるかもしれないと思って覗いたらビンゴ。

 呆れた」

「覗くな、スケベ」


 ねぇクロウ、これ、なんの話?

 一応ね、わたしも本題を忘れたわけじゃないの。

 裏掲示板がどうのってノギさんの話がそもそもで、これはその話とはつながらない別件よね?

 しかもマメの前科ってわたしには一つしか思い当たらないんだけど、それで合ってる?

 その心当たりすら噂でしかなくて、実際のところはわからないんだけど……。

サブタイトルのわりにシリアスな内容になりました。

この話の結末は、カニやんの 「にひっ」 で終われたらいいなぁ~と思っているのですが・・・

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