240 ギルドマスターは嫉妬します
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ん? んん? んー……どうなってるの?
いや、どうっていうことじゃないんだろうけれど、ちょっとわたしの頭はついていっていない。
………………つまり、【特許庁】 は今回のイベントでも主催者の彼氏彼女の座を賞品に、ポイントを競い合っていた。
前回はノーキーさん自身が勝っちゃったんじゃなかったかしら?
「違います!
前回は移動に遅れたビリがギルマスの彼女になれるはずだったんです!」
うん、さすがバロームさん。
恋する乙女は憧れの人に関する情報は絶対に忘れない、間違えない。
おかげでわたしも思い出した。
確か 【treasure ship】 の 【Gの逆襲】 だったと思う。
あの混乱で、【特許庁】 に反対側の出入り口の防衛に回って欲しいってお願いして、その移動で一番遅かった人がノーキーさんの彼氏、あるいは彼女になるっていう……結局あれのビリは誰だったの?
一週間の期限付きだったとはいえ、わたしは絶対にお断り。
あの時も蝶々夫人の提案にメンバーみんながブーイングをして、物凄い勢いで走り出して。
バロームさんまでうっかりその勢いにつられて走ってしまい、ノーキーさんの彼女の座を逃してしまった。
うん、そんなことがあったわね。
結局あの時のビリは誰だったの?
「混乱でわかりませんでした」
なるほど。
あまりにもバロームさんの懇願がうるさすぎて根気負けした蝶々夫人が、今回は個人ポイント首位にその座をあげるという提案をしたらしい。
もちろん一週間の期限付きらしいんだけど……だけど……もちろん串カツさんは知っていたのよねっ?
知っていて、わたしの提案に乗ってあのあと蝉をとりまくっていたのよね?
そして 【特許庁】 のポイント首位に輝いたのよね?
「もちろん知ってたよ」
通りかかるプレイヤーたちの迷惑など気にも掛けず、依然ローズとプロレスファイトを続けるノーキーさんを、無理矢理その腕をとってローズから引き離そうとする串カツさん。
その行動の意味もわからないんだけれど、筋肉対決が凄い。
一見三つ巴なんだけれど、ローズのSTRはこの二人と比べると全然凄くなくて、いともあっさりとノーキーさんに抑え付けられている。
そもそもノーキーさんはわたしに斬り掛かろうとしたのを止めてくれたわけなんだけど、お礼を言う気になれないのはどうしてかしらね?
なぜか言いたくないの
問題はノーキーさんと串カツさん。
レベル差がある分、ノーキーさんはローズに掛ける腕力が残っているんだと思う。
しかも最初はノーキーさんも串カツさんもお遊び感があって、串カツさんはわたしの質問にも答える余裕があった。
でもどんどん二人とも本気になってきちゃって、どんどん余裕がなくなってくる。
そのうちに変な声をあげたり、呻いたり、雄叫びを上げたり……ローズだけがほとんど声にならない悲鳴を上げているんだけれど、わたしがここにいるあいだは放してもらえないと思う。
そうして完全に余裕のなくなった串カツさんなんだけど……
「他の女とイチャついてんじゃねー!」
……完全に彼女気分なのね。
そしてこの行動は嫉妬なんだ。
やっとわかった。
「串カツに代わってお答えしますと、クズが首位で終ったら面白くありませんからね。
最後まで生き残った責任をとって、叩き落としてもらわないと」
前置きしたとおり串カツさんに代わって喋る不破さんなんだけど、おかしなことを言っていると思う。
でもこの発言で、どうして不破さんが次席だったのかがわかるような気がした。
ノーキーさんが、自分で首位に立って賭け自体をドローにしようとしていたことに気づき、そうさせまいと追いかけたんだと思うの。
残念ながら追い抜く前にわたしが落としちゃったわけだけど、追い抜いた時点で一週間ノーキーさんの彼氏になるのはいいわけ?
「どんな彼氏がいいか、色々考えたんですよ。
一番の候補はDV彼氏です。
いいと思いませんか?」
…………そ、そんなことをわたしに訊かれても……わからない。
わたしはノーキーさんの彼氏になることに抵抗はないのかと訊いたんだけど、そこを通り越した斜め上の返事に呆気にとられる。
彼氏になることを前提に、すでにどんな彼氏を演じるかを考えていたなんて、わたしの求めた返事の遥か斜め上も上すぎて手が届かない。
だって久々にいうけれど、わたしは 年齢 = 彼氏いない歴 をすでに二十三年も続けている喪女なの。
この先も記録を更新し続ける予定の喪女なの。
どんな彼氏がいいかなんて訊かれても、それ以前の、自分に彼氏が出来た場合というものがそもそも想像できないの。
お手上げ
そもそも私が訊きたかったのは、不破さんも串カツさんもノーマルなのよね?
その……女の人がす……なのよね?
「もちろん」
ちょっと、その、ね。
どうしても言い淀んでしまうんだけど、わたしの言いたいことを察してくれた不破さんは、それはそれは楽しそうな笑みを浮かべながら優しく答えてくれる。
言葉や意志ははっきりきっぱりしてるけど。
でもノーキーさんは男の人じゃない。
それで彼氏……いや、彼女?
うん、どっちでもいいけれど、ノーキーさんのパートナーの座を争うって……。
「ゲームですよ。
誰も相手にしなければそれはそれで白けますし、さすがにノーキーも可哀相でしょう」
ほらね、なんだかんだいって愛されてるのよ、ノーキーさんは。
不破さんだっていかにも憐れんでやっているみたいな口ぶりだけど、そんなの口先だけ。
騒ぎを遠目に見る目は優しそうだもの。
う……羨ましい……
なんだか腹立たしくなって、腕をとられるどころか、背中から串カツさんに抱きつかれて悲鳴を上げているノーキーさんを睨みつけてしまう。
このどさくさに紛れてローズは上手く逃げ出したらしい。
姿が見えなくなった。
「鉄砲玉ですか?
あれ、意外に逃げ足が速いんですよね」
不破さん、前に追い回したことがあるようにも聞こえるんだけど、わたしの気のせい?
「いーえ、気のせいじゃありません!
個人戦でローズを追い回したことがあります!
しかもそのままぶった斬りました!」
酷いんですよ! と割り込んできたバロームさんに腕を掴まれたら、次の瞬間、クロウが彼女の手を払う。
大丈夫よ、彼女はわたしと同じ魔法使いだからSTRはモヤシだもの。
全然痛くないから。
それより不破さんよ!
バロームさんからも酷薄とかいわれてるけれど、ローズにもそんな塩対応なんだ。
カニやんも女の人に冷たい態度をとることが多いけど、ひょっとして二人とも女の人が嫌い?
「相変わらず面白いことをいう人ですね」
「申し訳ない。
この人、天然の節穴だから」
「あの鉄砲玉を落とすなんてわけありませんよ。
追い回すまでもありませんね」
ん? わたし、何かおかしなことを言ってる?
それよりも一つ提案があるんだけれど、毎回ノーキーさんだと男の人には盛り上がりが欠けると思うから、たまには蝶々夫人っていうのはどう?
わたしにしては目新しい提案だと思ったんだけれど、カニやんにしても不破さんにしても、その微妙な反応は何?
「何って言われても、それは……」
「顔だけの交換で、意味は変わっていないと思いますよ」
どうして?
だって不破さんたちだって、ノーキーさんより蝶々夫人のほうがいいんじゃない?
「それは、この状況とどう違うんでしょうか?」
そうね、不破さんはだいたいいつも蝶々夫人と一緒にいるもの。
そんなに変わらないか……と思ったら、カニやんが言うの。
「あのさ不破さん、グレイさんの記憶力って結構悪いらしいんだよね」
「それって……ああ、そういうこと。
どおりでおかしなことを言うと思った」
うん? ちょっと待って、二人とも!
まずはカニやん待って、それはどういうことっ?
確かにちょっと忘れっぽいところはある。
それは認めるけれど、わたしが何を忘れているっていうの?
前々からなにか言われているような気はするんだけれど、全然思い当たる節がないの。
しかも不破さんまで、カニやんがなにを言っているのかわかってるみたいな反応よね?
いったいわたしが何を忘れているっていうの?
「それは自分で思い出せよ。
不破さんも、喋らないでもらえます?」
「まぁ別にかまいませんが……さっきの提案ですけど、蝶々夫人じゃなくてグレイさんの首とすげ替えたら、たぶん今までで一番盛り上がりますよ。
ノーキーの本気が見られるし、俺たちも潰し甲斐があります」
提案された瞬間に悪寒が走るほど嫌。
よそのギルドの主催者がメンバーの愛情を試すのに、どうしてわたしが借り出されなきゃならないのよ。
絶対にお断りします。
「それは残念」
不破さんってば肩なんてすくめちゃって、残念ぶっても無駄なんだから。
それ、思いっきり演技じゃない。
そもそも不破さんにしても、他の 【特許庁】 のメンバーにしてもわたしに興味なんてないくせに。
ノーキーさんを本気にさせるためだけの見世物にされるなんて、絶対にお断りよ!
だいたいノーキーさんと全力で戦いたければ、地下闘技場にでも行けばいいじゃない……と思ったら、丁度視界の隅に珍しい人が映る。
しかも珍しい人と一緒に……というか、お久しぶりではあるけれど特に珍しい人じゃない。
ただ組み合わせが珍しいと思った。
だってノギさんとセブン君よ。
そりゃ二人ともこのゲームで最も有名なレベル上限値プレイヤー七名の内の一人で、七名全員がテスト版からの顔見知り。
当然ノギさんとセブン君も知り合いなんだけど、組み合わせとしては凄く珍しいと思う。
だってわたしには共通点というか、接点みたいなものが思い当たらないんだもの。
その二人が広場の片隅で話しているの。
どうしてノギさんがそこにいたのかはわからない。
でもセブン君は偶然そこを通りかかり、ノギさんに呼び止められた。
そんな感じ
ノギさんは今回のイベントに参加できなかったから、暇を持て余し、目についた知り合いに絡んでいるだけかもしれない。
そういう図に見えなくもない。
偶然通りかかったセブン君にはいい迷惑よね。
ちょこっとノギさんに詰め寄られて困った顔をしてはいたけれど、すぐいつもの穏やかなセブン君に戻っていたから揉めているわけではなさそう。
だったら邪魔をする必要はなさそうだし、そんなことを思って見ているあいだに二人の話も終わり。
わたしたちに気づいていたらしいノギさんがこちらに向かって手を挙げて挨拶をすると、遅れて気づいたセブン君もわたしたちを振り返り、軽く手を振って挨拶をしてくる。
まぁこれだけ騒いでいれば、気づかないほうがおかしいわよね。
セブン君はそのまま行ってしまったんだけど、ノギさんがこっちに来た。
やだな
思わず警戒心を丸出しにしちゃったら、クロウには頭ぽんぽんされるし、不破さんには
「大丈夫ですよ、お守りしますから」
……情けなさ過ぎて泣きそう。
実際ノギさんがすぐそこまで来たら、不破さんとカニやんがさりげなくわたしの前に立ってくれる。
二人の背が高いこともあるんだけど、わたしの背が低いこともあって綺麗に二人の陰に隠れてしまう。
でもそこにバロームさんまでが参加するのは止めて。
危険だから!
すいません、やっぱり収まりませんでした!
もう一話入れて、番外編です。