24 ギルドマスターは新人を助けます
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「おーろーちー!」
突然マメが叫んだ。
確かにちょっと奥に入りすぎてはいたけれど、まだこのエリアダンジョン蛇の道のボス大蛇が出る場所 【蛇の巣】 には遠いはず。
何を言っているのかと思ったんだけど、マメが寝ぼけたわけじゃないみたい。
初めて見るトール君も驚いている。
そういえばまだこの辺りには来たことがなく、蛇の道も初めてだって道中に話してたっけ、マメと。
ちなみにアラートが出ないのは、ここは本来の大蛇の出現位置とは離れているし、たぶん、わたしたちが洞窟に入る前から出現していたからだと思う。
「あれが大蛇なんですか?
この辺りが出現場所なんですか?」
「違いまーす!」
うん、違うわね。
周囲を見れば、雑魚の蛇がまだうじゃうじゃといる。
大蛇の巣周辺には蛇男や蛇女っていう、ただの蛇より格段に強いキャラがわんさかと沸いている。
大蛇に侍っているって感じかな?
大蛇が出現していてもいなくても、巣の中やその周辺にかなりの数がたむろしてるの。
「……おかしいわね。
どうして大蛇がこんなところまで出てきてるの?」
考え込もうとするのを、周囲でトール君とマメが、やたらと蛇をぐっちゃぐっちゃ殴る音を立てて邪魔をするの。
ちょっと面倒臭くなって、範囲魔法・業火を使って周囲の蛇を一瞬で焼き払う。
もちろん雑魚出現エリアとしては深い位置だから、これで全てを退治できたわけじゃない。
洞窟のそこここから次々に沸いてくる。
「グレイ」
一番背が高く視界の効くクロウに呼ばれ、視線の指し示す方を見てみれば、鎌首をもたげた毒々しい大蛇が、わたしたちではない別の何かを見ている。
魔法反応のくせにわたしを見ないとか、どういうつもりよ?
これってつまり、先に攻撃目標があるってことよね。
何を見ているのかと、今度はその視線を追ってみれば、岩陰に、派手な髪色をした男女がひと組、すっかり怯えて抱き合っている。
中途半端な装備はまだ初心者を思わせるから、多分そうなんだと思う。
「そこの二人、動かないで!」
どうしてこんな奥深くに、初心者に近い二人きりで入り込んでいるのか。
疑問ではあったけれど、考えている時じゃないわよね。
横殴りで悪いとは思ったけれど、装備や状態を見る限り、あの二人に大蛇は倒せない。
たぶんあの二人が不用意に大蛇を攻撃し、倒せないってことで逃げ出したんだと思う。
そりゃあの装備じゃ無理でしょうね。
で、大蛇は攻撃目標のあの二人を追ってここまで釣られてきた……と考えるなら、嫌な予感がする。
案の定、大蛇の陰から、ようやく追いついたらしい蛇男や蛇女が出てき始めた。
一緒に釣ってくるとか……何やってんのよ、あの二人は。
初心者だもんね
自分にもそんな時代があったじゃない。
正式サービス開始後はともかく、試作版とか試験版とか、確かに色々やらかしたもんね。
うん、このあいだもやらかしたわ……忘れてたけど。
「マメ、トール君、自分の身は自分で守ってね」
「はい!」
「ひゃほーい」
素直で真面目なトール君は誠意あるお返事だったんだけど、マメったらちょっと顔を強ばらせちゃって……あんたのほうがレベルも高いし、経験も多いでしょうが!
ってか大蛇、初めてじゃないでしょ!
出来たらあの二人のフォローに回って欲しいところだけれど、そこまで負わせるには、迫ってくる蛇男や蛇女のレベルが低くない。
数も半端ない。
どす黒い舌をチロチロさせて二人に迫る大蛇の気を引くため、再び沸き溜まり始めた蛇を始末するため、再起動準備が終わったばかりの業火をぶっ放す。
さっきよりも範囲を広げたから、魔法反応を起こす蛇男や蛇女までがこちらを向く。
もちろん大蛇以外は、業火の範囲内にいれば全部溶けちゃうんだけどね。
何匹かは、せっかく業火から逃れたのに、魔法に反応して業火に突っ込み自分から溶けていったけれど、業火が消えてからも、後から後から反応した蛇女蛇男がこちらに這ってくる。
その先頭をきるのが大蛇。
さすがに二発も食らえば攻撃目標を変えるわね。
業火の一撃で、大蛇にもかなりのHPドレイン現象があった。
それでも業火並みの大技を、もう二、三撃食らわさないと倒せない。
HPが残っているから、クロウの大剣・砂鉄でも胴を絶てないのよ。
でも残念ながら業火は再起動準備に入っているから、別の大技で。
「起動」
私の足下にぱっと魔法陣が展開される。
「焔獄」
業火と同じ焔蛇のスキルの一つ、焔獄。
これは範囲魔法じゃないから大蛇をピンポイント攻撃。
周囲の対応が出来ない私に代わり、クロウが襲い来る蛇たちを大剣の錆に変えてくれる。
幸いにして蛇たちは魔法反応じゃないから、次々に沸いては来るけれど、私だけを狙ってくるわけじゃない。
蛇男蛇女も、本来の沸き位置はここじゃない。
あの二人がここまで釣ってきた分だけを倒せば、残りは大蛇と雑魚だけ。
ひょっとしてこれ、若干スキル威力の足りない魔型には使える戦い方じゃない?
そんなことを考えていたら、大蛇がクロウの一撃で首を落とされる。
もちろん大蛇が撃破されても、一緒に釣られてきた蛇女蛇男は残るから始末しておく。
本来は沸かないはずの場所にそこそこ高レベルの敵がいるのは、知らずに入った人たちに迷惑を掛けかねないからね。
幸いにして珍しく気を利かせたマメが、トール君を連れてあの二人のカバーに入っていて、初心者とおぼしき二人も無事だった。
岩陰を上手く使って蛇男蛇女の攻撃を……撃退できたら格好いいんだけれど、そこはマメだからね、マメなのよ。
トール君と二人、与ダメと被ダメの我慢大会。
どうしてレベル20を過ぎてるあんたが、まだ20にならないトール君と同じなのよ?
どんな考えがあるかは知らないけれど、とっととステータスを振り直して鍛えてくれる?
「うわーん、毒食らったー」
「マメさん、解毒剤」
「あ、そーだ」
全然ほほえましくないのよね、マメだけに。
毒を食らった傷口部分から怪しげな煙が上がっていたんだけれど……これが被毒によるHPドレイン現象。
被毒レベルによっては全身が毒々しい色に変わり、全身からこの毒々しい煙を上げてほどなく死亡状態になる。
通常の被弾と違い、毒効果が続く間中HPドレイン現象が続き、毒レベルによっては死亡状態に至るってわけ。
だからついでにHPも回復しておいてくれる?
「まったく……?」
沸きが収まることのない蛇を叩いて溜息を吐いたら、後ろに立ったクロウに、何か硬い物で頭を小突かれる。
何かと思って振り返ったら、希少なドロップアイテム希土塊を持ってるじゃない。
大蛇撃破報酬なんだけど、ドロップは確率でかなり低い。
そもそも大蛇が常駐じゃないからね。
「面白いモノ持ってるじゃない」
面倒だったからそのまま知らない顔をしようと思ったのに、私が受け取らないのを見越して頭に乗せるのはやめて。
仕方がないからとりあえずインベントリに仕舞う。
もちろんこのままこの場を去ってもよかったんだけれど、とりあえずマメとトール君にポーションで回復してもらった問題の二人を見る。
この装備って……
「ひょっとして……あんたたち 【特許庁】……?」
まだ初期装備に近いものがあるんだけど、チョイスのセンスがね、どう考えてもあの連中のセンスなんだもん。
思わず訊いちゃったわ。
「そうですが、あの、なにか?」
一人がキョトンとした顔で訊き返してくる。
予想はしていたけれど、当たってもちっとも嬉しくない。
そもそもどうしてそのレベルでここに二人で来たのか?
ギルドに入っているのなら、それなりにアドバイスももらえるはずなのに、あまりにも無謀すぎる。
だってきいたらこの二人、まだレベル4っていうのよ。
シャチ銅ソロだって難しいレベルじゃない。
中部東海エリアでも、こんな外れまで来るのも難しいはず。
たどり着けたのがちょっと奇跡に近いものがあるレベルなのよね。
「主催者が連れてきてくれたんです」
「装備用に素材が欲しいって言ったら」
「あの人、馬鹿なの?
っていうか、どこにいるのよ、ノーキーさん!」
「主催者はもう帰っちゃいました」
「他の人と約束があるそうです」
「そんな約束、クソにでも食わせてしまえ」
「グレイさん、言葉がおかしいです」
「言葉遣い、汚いでぇ~す」
「ちょっと二人は黙ってて」
とりあえずどんどん蛇が沸き続けるのが邪魔なので、わたしたちは洞窟を出ることにした。