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239 ギルドマスターは彼女の座を手に入れます

pv&ブクマ&評価&感想&誤字報告、ありがとうございます!!

「アールグレイ、覚悟!」


 しません。

 せっかくランカーのちゅるんさんが助けてくれたのに、ろくにポイントも獲らずに落ちちゃうなんてローズのアン○ンマン……じゃなくて、あんぽんたん。

 きけばちゅるんさんが落ちる前も落ちたあともPKに明け暮れていたっていうから呆れるわ。

 それでもまだ足りなかったのか、イベントを終えて樹海から戻ってきたわたしの姿を見つけ、大剣を振り上げて威勢よく斬りかかろうとしたのをノーキーさんに……あれはなんていう技かしら?


「ヘッドロック」


 誰にともなく訊いてみたら、すぐそこにいたアキヒトさんが教えてくれる。

 そのヘッドロックというプロレス技を追いかけてきたノーキーさんに掛けられ、石畳の上で足掻いている。


 元気ね


 まぁローズのことだからたいした数のPKは出来なかっただろうけれど、こっちはいい迷惑。

 大きな声で名前で呼ぶから、周囲にいたプレイヤーたちが思いっきりこっちを見てるじゃない。

 わざわざ足を止めたり振り返ったりして……イベント終了直後の落ち着かない空気が、余計にざわついたというか、浮ついたというか。

 イベントは現在ポイント集計、並びにログチェックによる不正の有無を確認中。

 終了の合図と共に樹海の外に転送された生存参加者たちの多くは、それぞれに自分の足でナゴヤドームを目指し、結果の発表まで一休みってところかな?

 もちろん中にはイベントの盛り上がりそのままに、どこかのダンジョンへ繰り出すプレイヤーもいたらしい。


 つくづく元気ね


 でも、わざわざイベントの終了と同時に、樹海の外にプレイヤーを転送したっていうのは、あの樹海は樹海でもいつもの 【富士・樹海】 ではなく、模したイベントエリアじゃないかという恭平さんの推測を裏付ける。

 たぶん当たっていると思う。

 アイテムの補充や削れた装備の修理、それに落ちたメンバーとの合流を考えてわたしたち 【素敵なお茶会】 は一度ナゴヤドームに戻ることにした。

 その出入り口を入ったところで出くわしちゃったのよね、ローズと……というか 【特許庁】 に。

 どうやら串カツさんのお出迎えのつもりだったみたい。


 そりゃそうよね


 【特許庁】 唯一の生存者で、ポイント首位(トップ)だもの。

 そのわりには凄く手荒い歓迎を受けているけれど、そこはそれでそういうものってことで。

 でもちゅるんさんが、串カツさんのお出迎えダンスではなく、クロウ並みの鉄筋STRを誇るノーキーさんを盛大に応援してローズを完敗へと導いている。

 これはきっとあれね。

 せっかく連れて逃げてあげたのに、しかも生かしてあげたのに、ろくにポイントも獲らずに落ちたローズへのお仕置きというか、恨み……はなさそうね。

 凄く楽しそうに踊っているもの。

 で、技を決めるノーキーさんにうるさがられている、と……。


「ちゅるん、うるせー!!」


 この罵声で益々プレイヤーたちの視線を集める。

 【特許庁】 が注目されるのは勝手だし、むしろ注目されたいんだと思う。

 でもわたしは注目されるのは苦手なので、こっそりクロウの陰に隠れてみる。

 そうしたら反対側に柴さんとムーさんが来る。


「こっちは俺らに任せろ」

「俺らの筋肉を見ろ」


 歩きながら怪しげなポーズをとるんだけど…………まぁこんなモヤシを見るよりはいいかもね。

 うん、そういうことにしておく。

 とりあえずクロウにくっついてひっそり歩こう……と思ったのに、なぜかすぐに見つかった。


「なにやってるわけ?」


 あらカニやん、ただいま。

 ゆりこさんとパパしゃんは?


「ゆりこさんは早めにご飯作るってログアウト。

 パパしゃんは嫁と買い物に行く時間だからって、やっぱりログアウト。

 二人とも夜はいつもどおりログインする予定」


 スケジュール管理をありがとう。

 まさか注目されるのが嫌なので隠れていました……なんて正直に答えるのも恥ずかしくて、とりあえ平静を装って話を逸らしてみた。

 でもバレていて、言い終えると同時ににひって笑われた。

 ところで顔にうっすらと怪しげな線が残ってるんだけど、ひょっとしてまだ呪いが解けないの?


「ああ、これ?

 だいぶん薄くなったな」


 そういってカニやんは袖をまくって腕を見せてくれるんだけれど、顔と同じようにうっすらと怪しげな線が残っている。

 カニやんが蝶々夫人から食らったのは、(たち)の悪い闇属性のスキル 【浸食(しんしょく)】。

 詠唱なしで即時発動するこのスキルは、毒効果でプレイヤーのHPを徐々に削ってダメージを与えるものなんだけど、罹患プレイヤーに()れられると感染する(うつる)というまるで呪い。

 しかも一度掛かると解毒できないという難物で、かなり効果時間が長く、今のところプレイヤーが落ちるまで有効としかわかっていない。

 そうしてカニやんは落とされた。

 ひょっとして、あれから二時間以上経っているのにまだ解毒出来ていないの?

 ヤバそうだからそのへんに触らないでね……って笑顔でお願いしたら 「ひでぇ」 と嘆かれた。

 だって感染したら嫌だもの。

 もちろん他のメンバーに感染させ(うつし)てもダメよ。


「そんなに心配しなくても大丈夫。

 さっき……」


 言い掛けるカニやんの言葉を遮ったのは蝶々夫人。

 諸悪の根源ね。

 いきなりカニやんの肩を掴んで割り込んできた彼女は、そのままカニやんを押しのけるようにしゃべり出す。


「ちょっときいてよグレイちゃん。

 カニやんったら酷いのよ」

「どっちが酷いんだか」


 やっぱり一緒にいる不破さんの突っ込みに 「あんたはちょっと黙ってて」 と鋭いヒステリー突っ込み返しを食らわせて黙らせる。

 うん、一番酷いのは不破さんだと思う。

 カニやんが蝶々夫人に何をしたかは知らないけれど、不破さんなんてわたしの顔を真っ二つに斬ったんだから。


「呪いが切れてるかどうか確かめるから触らせろって、わたしの玉のような肌に感染させよう(うつそう)としたのよ。

 なんて鬼畜な男」


 相変わらず研究熱心ね。

 カニやんは一度死んで、自身への被毒効果は解消されているはず。

 呪いの入れ墨だけが残っているのか、それとも感染効果も残っているのかどうかは他のプレイヤーに触ってみれば一目瞭然で、その相手に諸悪の根源である蝶々夫人を選ぶのもいい人選だと思う。


 どこが酷いの?


 そもそもここは一般エリアでPKは出来ないんだから、感染したって(うつったって)HPは減らないんだからいいじゃない。

 実験にもならないわ。

 せいぜい呪いの文様が入るだけよ。


「あんな気持ちの悪い入れ墨、お断りよ」


 うん、わたしもお断り。

 でも全然酷くないわよ。


「そんなこと言ってると、【シシリーの花園】 ご一行様に逆襲されますよ」


 さっき蝶々夫人も言ったけれど、不破さんは黙っていて。

 顔を真っ二つに斬ったこと、わたしはまだ怒ってるんだからね。

 イベントの遺恨は残すべきじゃないってことはわかってる。

 だから 【特許庁】 が襲撃してきたことも、それでカニやんが落とされたことも根に持たないけれど、でも顔は許さない。


「申し訳ありませんでした」


 ここで素直に謝るのは不破さんだと思う。

 でもね、どうしてその手でわたしの顔を触るの?

 こう……自分で斬ったあたりを撫でるの。

 そんでもっていつもの妖艶な笑みを浮かべてわたしを見るの。


 ひぃ~


 こ、こういうのダメだって知ってるくせに!

 か、顔が熱い……不破さんに会ったら訊こうと思っていたことがあったのに、こ、これじゃ訊け、訊けな、い。

 とりあえず不破さんから離れようとして、出来る精一杯で失礼のないようにさりげなく離れようと思ったんだけれど、ダメだ、ぎこちない。

 無茶苦茶ぎこちなくてバレバレだ、これ。

 しかもすぐクロウにぶつかった。

 どうしてそこにいるのよ?


「不破、いい加減にしろ」

「そうやってすぐ独り占めするんですから、クロウさんは」

「クロウはむっつりスケベだから」


 蝶々夫人にまでいわれてムッとしたクロウは 「黙れ」 だって。

 でも不破さんも蝶々夫人もニヤニヤ笑っちゃって……これ、笑われてるのはわたしなのよね?


 そうよね?


 みっともなさ過ぎて泣きそう。

 もう……もうこれ以上、顔は赤くなりません。

 とりあえずそこにいたからクロウにしがみついて顔を隠しておく。

 足下のルゥが心配そうな顔で見上げてくるんだけれど、大丈夫よ、ちょっと取り乱してるだけだから。


「全然大丈夫じゃなさそうですけどね」

「不破」

「はいはい」


 結局 【浸食】 の最大効果時間はわからないままで、死亡後の被毒効果は消えるけれど呪いの文様は残る。

 これが今回唯一の観察報告(レポート)ってことね、わかった。


「わたしとしては、あまり解明されたくないんだけど」


 そりゃ切り札として使っている蝶々夫人としてはそうでしょうけれど、今のままじゃわからないことばかりで危なすぎる。

 所持プレイヤーが少なすぎて攻略wikiもあてにならないし。

 そういえば不破さん、さっき思い出したんだけれど、訊こうと思っていたことがあるの。


「なんでしょう?」


 わたしが屍鬼(しき)を使っても、あのHPを削っていく固有スキルは発動していたのかしら?


「ああ、屍鬼の 【(たま)()い】 ですか?」


 【(たま)()い】 は屍鬼という剣が持つ固有スキルで、剣を打ち合わせる相手から少しずつHPを削っていくというもの。

 つまり不破さんと対峙するってことは、通常の被弾ダメージプラス 【(たま)()い】 でHPを削られることになる。

 でも発動条件を知らなくて、STRを持たない魔法使い(わたし)でも発動するのか疑問だったの。


「ええ、ガンガン削ってましたよ。

 俺が使うより削れていた気がします。

 正確な数字は見ていませんが……」


 それはないと思う。

 そこは不破さんお得意の社交辞令よね。

 だから正確な数字が欲しいんだけれど、一般エリアじゃダメージは出ないし、かといってイベントの最中に実験させてもらうわけにもいかないだろうし……う~ん、どうしよ?


「実験ついでにそのまま落とされそうなんで、絶対に嫌」


 お言葉ですが、カニやんはVITが紙過ぎて実験になりません。

 どうせなら筋肉を……と思ったんだけど、クロウは嫌です。

 個人戦でクロウと遭遇したら、わたしは回れ右をして逃げます。

 だって絶対に無理。

 実験する前にわたしが落とされる。

 さっきだって、わざわざ 【不死の翼】 なんて使わなくても全然平気だったじゃない。

 【灰燼】 には及ばずとも、十分すぎるくらい反則級の強力スキルだったのに、クロウの強さの前にすっかりかすんでしまったもの。


 初公開だったのに……


「どうせならわたしに掛けて欲しかった!」


 いきなり会話に飛び込んでくるのはバロームさん。

 掛けて欲しかったっていうのはたぶん 【不死の翼】 のことだと思うんだけど、どうして敵のバロームさんを不死にしなきゃいけないのよ?

 しかもこの人、確かカニやんと仲が悪くて、今回のイベントではカニやんに落とされたはず。


「こんな横歩きに落とされずに済んだのに!」

「やかましいわ、腐臭女!

 臭いからこっち寄るな、指さすな!」


 ……カニやんもかなり失礼なことをいってるんだけれど、今回は吹っかけたのがバロームさんだから仕方がない。

 でもバロームさんがここまでカニやんを恨むのには理由があったらしくて……


「折角の機会をまたしても逃してしまうなんて!

 しかも今回は、よりによってあんな筋肉だるまに奪われるとは!」


 奪ったのは串カツさんね、それは 【特許庁】 の様子を見てわかった。

 意外なくらいしぶといローズとプロレスの技を掛け合うノーキーさん。

 まぁノーキーさんの圧勝なんだけど、それを囲む 【特許庁】 のメンバーが串カツさんのポイント首席(トップ)を讃えあって、串カツさんが照れている。

 どうやら 【特許庁】 は、今回も一番の人に何か賞品を用意していたらしい。

 そしてこのバロームさんの嘆き。

 ん? ちょっと待って。

 これってひょっとして……ひょっとしてだけど、今回も掛けていたのはノーキーさんの彼氏彼女の座?

 そして今回その座を手に入れたのは串カツさん?


 え? そういうことなのっ?!

グレイに期待を寄せて下さった方もいらっしゃるかもしれませんが、紛らわしいサブタイルで申し訳ございません。

でもですね、ノーキーの彼女の座ですから要らないと思いますよ、グレイもw

この話はもう一話続く予定。

そのあとに入る番外の導入付きです。


あ、もちろん予定はあくまでも予定ですが(汗

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