表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

238/806

238 ギルドマスターは目的を忘れません

pv&ブクマ&評価&感想&誤字報告、ありがとうございます!!

 無意識のうちにクロウにしがみついていたとか、自分でもあり得ないと思う。

 でも気がついたらしがみついてて、思わずそこに立っていたクロウが悪いってことにしちゃった。

 すぐにでも離れればいいんだけど、これは緊張してる?


 硬直?


 よくわからないんだけど、体が動かない。

 顔が熱くて、冷汗が止まらない。

 これ、どうしたらいい?


「クロウさん、どうなってるんだ?」


 串カツさんったら、わたしが困っているのを見て笑うのはやめて。


「気にしないでやってくれ」

「まぁあんたがそう言うなら」


 背中を向けて行きかけた串カツさんの肩越しに、キラリと光るなにかが見える。

 ほんの一瞬だったけれど、ずっと向こうの木の枝、茂る葉の中に何か……あれはっ!


 危ない!!


 串カツさんに呼びかけた次の瞬間に轟く銃声。

 でもクロウに引き戻されてわたしの手は串カツさんに届かなかったんだけど、刹那、弾道がわたしの頬をかすめて細い筋状にHPが流出する。

 ほんのわずかだったけれど、思わず自分の手を当てる。

 もちろんそれで止められるわけじゃなくて、HPはダメージ分しっかり流出する。

 直後、眼前に串カツさんの背が迫る。


「狙撃警戒!」


 みんなに緊急事態を知らせるわたし自身の視界は完全に塞がれ、前後を串カツさんとクロウに挟まれて身動きがとれない。

 ランカーの筋肉って圧が凄い。


『グレイさんっ?!』

『大丈夫っ?』


 心配する他のメンバーの声に混ざり、インカムからくるくるとぽぽの声が聞こえてくる。


「片付けるのが先だろ!」


 二人を怒鳴りつけたクロエが、すぐそこで片膝をついて銃を構える。

 照準器(サイト)をのぞき込んだと思ったら、狙いを定める間がどこにあったのかわからないくらいの速さで引き金(トリガー)に掛けた指に力がこもる。

 通常弾って連射できたっけ?

 ううん、出来ないはず。

 だからこれは普通に引き金(トリガー)を何度も引いてるんだと思う。

 連射を思わせる速さで数発を撃ち返したクロエ自身も反撃を受け、その一発が肩に食い込む。

 銃床を支える左肩から、筋状にHPが流出しているのが見える。

 でも正確なその狙いは、決してぶれることなく狙撃手を撃ち落とす。

 ほどなくわたしが光を見た葉陰から電子分解しながら落下したプレイヤーが、地面に落ちる前に完全に消失する。


「二人とも、仕事が先。

 忘れないで」

『ごめん、うっかりしてたよ』

『つい……』


 串カツさんに、近くに姿がない二人の銃士(ガンナー)の声は聞こえないけれど、クロエの活をきいて肩をすくめる。


「二人?

 そうか、【素敵なお茶会(おちゃかい)】 の銃士(ガンナー)は三人いたっけ。

 それにしても厳しいね」


 でもこの状況で生かさなければ、普段の練習が意味を為さないもの。

 二人ともいつも頑張ってるから無駄にさせたくないんだと思う。

 それより串カツさんこそ、わたしの壁になる必要はないんだから。

 次からは自分の身を守って頂戴。


「俺も仕事しないとね。

 あとでノーキーとか怖いし」


 理由はよくわからないんだけれど、蝶々夫人や不破さんにも嫌味を言われかねないらしい。


「俺のことは気にしなくていいよ、やりたいことをやりたいようにやってるだけだから。

 それで落ちても悔いはないし」


 うん、やっぱり 【特許庁】 よね。

 しかもその言葉だけを聞けば男前。


「それより顔、まだ真っ赤。

 可愛いね」


 か……からかわないで!

 話を逸らそうったってそうはいかないんだから。

 とりあえず顔は隠したいから、丁度いいところにいるクロウにしがみついておく。

 今回のイベント開催エリアは樹海だからいくらでもしがみつけそうな木はあるんだけど……あるんだけど、その……わたしのほうがクロウに捕まってるのはなぜ?

 軽く四桁を超えるクロウの鉄筋STRに、魔法使い(モヤシ)がかなうはずのないことはわかっている。

 わかってるんだけれど…………放してくれないのはなぜ?

 一応ね、抵抗は試みてみたの。

 でもビクともしないどころか、クロウってば眉一つ動かさないんだけど……なにがしたいの、これは?


 ちょっとクロウっ?


 巫山戯(ふざけ)ないで。

 回復も終ったし、もう少し移動したいから放して。


「まだ移動するのか?」


 それこそ主戦場から離れすぎないほうがいいんじゃないかって串カツさんは言うんだけれど、それって、まだPKを狙ってるってことよね?

 反応を見ると、他のメンバーも串カツさんと同じみたい。

 時間がもったいないから移動しながら話しましょうってことで、周囲を警戒しながら、主戦場とは反対方向に移動を始めるわたしたち。

 それが運営の狙いだったとは思わないんだけど……いや、狙いだったのかも。

 ハーピーにプレイヤーを襲わせて、人数の減ったプレイヤーを大きく移動させ、遭遇しやすくした。

 これは遠回しにPKを誘導するのが目的だったとも考えられる。

 実際、遭遇したプレイヤーは派手なPK合戦を始めちゃったしね。

 しかもあんな密集状態でのバトルロワイヤルとか、無謀すぎるんじゃない?

 あそこで落ちるなんて、とんでもなく無意味だわ。


「そういえばグレイさん、ずっとそう言ってるな。

 どういう意味?」


 改めて訊いてくるってことは、恭平さんもまだPKから頭が離れてないのね。

 困ったもの……と思いつつ、このあたりでいいかしら?

 わたしの言葉でみんなも足を止めるんだけれど、揃いも揃って不思議そうな顔でわたしを見てくるの。

 本当にみんな、わかってないの?

 こんな当たり前というか、簡単というか、単純なことというか。

 まぁあの主戦場の様子を見て触発されちゃうのもわかるけれど、困ったものよね。

 同意を求めるように足下で可愛らしくお座りをしているルゥを見ると、きゅ? と可愛らしく小首を傾げてくれる。


 いい子ね


 安定の可愛さに癒されて、そのもっふりした小さな体を抱き上げる。

 抱っこしてもらえると喜ぶルゥだけれど、お生憎様。

 もうちょっとだけ、頑張ってお仕事をして頂戴。

 そう声を掛けて木の幹に貼り付けると、意味を理解したのか、小っちゃな爪をシャキーンと伸ばして短い足でガッシガッシと上り始める。

 じゃ、みんなも張り切って蝉とりを再開しましょう! ……って声を掛けながら振り返ったら、みんなぽかーんと口を開けちゃって……どうして驚くのかしら?

 だってこのイベントは蝉とりよ!


【ボクとワタシの夏休み】


 夏休みの自由研究がメインなの。

 PKはイベント要素の一つに過ぎなくて、全然メインじゃないの。

 実際PKでポイントを取ろうとしたって、その前に自分が落とされて相手のポイントになるかもしれないのよ?

 相手も反撃してくるんだから当然ある可能性で、そんな危険を冒して、時間まで掛けてどうするの?


 無駄すぎる


 しかもPKで確実にプレイヤーは人数を減らしている。

 つまりPKで取れるポイントには上限がある。

 落とした相手が所有するポイントも一緒にもらえるのなら話は変わってくるけれど、そうじゃないのなら全くの非効率。

 比べて蝉は……全くの無抵抗じゃないし、飛んで逃げたりもするけれど、比較的リスクは低い。

 しかもイベント時間内は無限沸き。

 取れば取るほど沸いてきて、ほぼ無抵抗で取り放題。

 どうしてそんな蝉を無視して、リスクの高いPKに走るわけ?

 本当に意味がわからないんだけど?

 これはさっきも言ったけれど、このイベントはPK合戦じゃなくて、PKはイベント要素の一つに過ぎないんだから。


「本来の目的を見失ってたわけだ」

『納得したんならさっさと蝉とり再開しなよ』

「はいはい」


 納得できたと同時に肩の力が抜けた感じの恭平さん。

 肩の力は抜いてもいいけれど、気は抜かないでね。

 まだ、いつどこからプレイヤーが狙ってくるかわからないから。

 ようやくのことで納得してくれたみんなが蝉とりを再開するんだけれど、一つ、みんなに言っておくことがあるの。

 それはなにかといいますと、現在 【素敵なお茶会(我がギルド)】 のポイント首位(トップ)はルゥでーす。

 木の上から聞こえてくるルゥのきゅ~! というご機嫌な鳴き声とは裏腹に、メンバーみんなが自分の耳を疑う。

 そりゃそうでしょう。

 だってルゥは途中で迷子になったけれど、その時以外は、それこそ 【特許庁】 の襲撃を受けているあいだも一人……じゃなくて、一匹で黙々と蝉とりに勤しんでいたんだから。


 当然


 みんなはルゥに負けていることに相当なショックを受けたみたいだけど、もちろん飼い主(わたし)も負けてるんだけれど、わたしはルゥにだったら全然かまわないんだから。


「飼い犬自慢はそのくらいにしておけ」


 全然自慢してるつもりじゃなくて……うん、みんなに発破を掛けるだけのつもりだったのに、クロウに叱られた。

 意地悪、ちょっとくらい自慢したっていいじゃない。


「蝉とりをしながらにしろ」


 あ、うん、それはそうね。

 ルゥを自慢しつつ蝉とりをする。

 うん、効率的だわ。


「意外に貪欲だね、女王陛下は」


 だってポイントが欲しいの。

 今回のイベントでも上位入賞したらギルドボーナスがもらえるでしょ。

 今度はAGIかVITあたりが欲しいと思って。

 そういう串カツさんは蝉とりしないの?


「俺は護衛に専念するかな」


 それこそもう 【特許庁】 は串カツさんしかいないからっていうんだけれど、一つ訊いてもいい?

 今、【特許庁】 のポイント首位(トップ)は誰?


「【特許庁(うち)】 の?

 そういえば、生存確認ばかりしていてポイントは見てなかったな」


 わざわざウィンドウを確認してみた串カツさんは、それこそみんなが驚くくらい大きな声を上げる。


「なんじゃ、こりゃっ?

 あいつ、あんなに早く落ちたくせに首位(トップ)とか!

 どんなチート使いやがったっ?」


 うん、まぁだいたいの見当はつく。

 この串カツさんの反応と、「あんなに早く落ちた」 ときけばノーキーさんよね。

 ちなみにそのノーキーさんより先に落ちた不破さんが次点らしい。

 ノーキーさんはともかく、不破さんはさすがに抜かりがないというか、なんというか。

 というわけで串カツさん、ここは最後まで生き残った意地を見せて二人を抜いてみない?


「やる!」


 うんうん、俄然燃えてきたわね。

 さぁみんな、上位入賞を目指して頑張るわよ!

珍しく予定どおりに収まった!!ヽ(^o^)丿

だから明日は雨です、ごめんなさい・・・(涙

(本当に雨の予報が出ている地元w)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ