234 ギルドマスターは運営の巨獣好きに悩まされます
pv&ブクマ&評価&感想&誤字報告、ありがとうございます!!
イベント終了前一時間になって、やっぱりやってくれた運営。
しかも今回は巨大化じゃなくて、はじめから巨大っていうね。
alert 怪鳥ハーピー / 種族・幻獣
しかもルゥと同じ 【幻獣】 ときた。
これはヤバいと思ったらルゥが行方不明。
余計にヤバい!
ハーピーは地上近くまで降下しては 【かまいたち】 でプレイヤーを攻撃し、また高度を上げて遥か上空で旋回。
違う場所に下りてきてはまた別のプレイヤーを、あるいは一度 【かまいたち】 を食らって周辺を逃げ惑うプレイヤーを再び攻撃。
一帯は一瞬にしてパニックに陥り、わたしたちもその渦中にある。
ルゥを探しに行きたいんだけどこの状況でわたしだけ勝手な行動は出来なくて、大泣きしながら……あ、心の中でね。
本当に泣けるような状況じゃなくて、涙より汗のほうが凄い。
でも汗染みを気にしている余裕もないほど忙しくて、上空から来るハーピーからの攻撃に耐えつつ、仕掛けてくるプレイヤーを溶かしていく。
でも中には、これだけのプレイヤーが入り乱れているのに、明らかに 【素敵なお茶会】 を目指して仕掛けてくるプレイヤー……違うな、単騎じゃない。
仕掛けてきているのは団体。
連携の取り方を見れば、今わかるだけでも三つのギルドが 【素敵なお茶会】 を狙ってきている。
反撃する 【素敵なお茶会】 に、関係ない第三者の単騎プレイヤーや第三者団体が入り乱れて混乱が半端ない。
そしてその混乱に拍車を掛けるハーピーがさらなるパニックを呼び、さらなるプレイヤーやギルドを巻き込んでゆく。
阿鼻叫喚!!
「あのクソ運営!」
「今度会ったら小林、ぶん殴る!」
「俺も参戦するっす!」
「んじゃ俺もーってか、小林って誰?」
御免アキヒトさん、今は説明している暇はないの。
実際に会った時に紹介してあげるから、そのノリの良さで話を理解して参戦して頂戴。
「了解!」
本当にここの運営ってば、またこんな地獄を作り出してくれて!
マジクソッたれ!!
思わず詠唱の合間に怒鳴ったら、メンバーに爆笑されてしまった……インカムの向こうからもね。
とりあえず三人とも無事なのはわかったけれど、さっき、本隊が分断されそうになったのを援護してくれたため居場所が他のプレイヤーにバレた。
ベリンダ、動ける?
『三人の合流を支援すればいいのね?』
うん、お願い!
ベリンダも気をつけて。
『わかってるって。
せっかくの機動力の見せ所なんだから、やりきってみせるわよ』
飛び道具を持たない短剣使いは文字通り近接武器を所持するけれど、同じ近接武器を所持する剣士と比べると剣が軽すぎる。
短剣だから当然刃渡りも短く間合いも短い。
それをフォローする機動力は、移動速度はもちろん、跳躍力も抜群。
詳しくは知らないけれど、たぶんステータスはSTRよりAGI多め。
でも近接武器を持つからにはSTRもVITも持っていて、レベル差や装備、スキルを上手く使ってステータスを底上げ出来れば剣士が相手でも十分にやり合える。
もちろん真っ正面からやり合うのは不利だから、そのへん、上手くやってよね。
『グレイさん!
僕らは切れって言ったでしょ!』
また我が儘美少年が五月蠅い。
大丈夫よ、この混戦でクロエが落ちるとは思ってないから。
だって銃士のくせに全然柔らかくないんだもの。
わたしが心配しているのはくるくるとぽぽよ。
『グレイさんはこう言ってるけど、二人は?』
『まだ残り時間が30分以上ありますから、出来たら残りたいかな』
『俺も』
『じゃあ全員で合流。
ベリンダと僕が援護するから、二人は先に行きなよ』
あえて言うけれど、クロエもちゃんと合流してね。
『五月蠅いんだけど?』
うん、ごめん。
本当はもう何人か援護を送りたいけれど、こっちもギリギリ。
さっき分断され掛けた時、クロエたちもハーピーのせいで一度状況を見失ってしまい援護が遅れた。
もうこれは仕方がない。
状況を把握した瞬間に分断を防ごうとしてくれたんだけれど、ゆりこさんたちの近くにいたキンキーを回収するのがギリギリ。
機転を利かせてくれたアキヒトさん、恭平さんのコンビがフォローに回ってくれたんだけれど、タッチの差でゆりこさんを庇ってパパしゃんが落とされてしまった。
壁の薄さに気づかれて狙われたんだと思う。
続いてゆりこさんが。
でも彼女は落ちる寸前までメンバーの回復を続け、自分のインベントリにあるMPポーションをわたしに譲ってきた。
しかもこれを同時にするって、どんだけ器用なのっ?
わたしには無理!
しばらくしてぽぽとくるくるが、倒木の向こうから合流。
遅れてクロエとベリンダが合流したんだけれど……なに、クロエ?
キョロキョロしちゃって、どうかした?
「チビ助は?」
え? ルゥ?
ルゥがいたのっ?
どこにっ?
「どこって、見掛けたから声を掛けたんだけど」
合流する途中でボロ泣きしているルゥを見掛けたクロエは、「ご主人様は向こうにいるよ」 と声を掛けてあげたらしい。
でも抱っことかして連れてきてはくれないのよね。
「当たり前でしょ。
あいつ、噛むじゃない」
……ルゥ、自業自得よ。
「でも全然被弾はなかったみたい。
さすが 【幻獣】 だね」
うん、それはルゥに言ってあげて……と話していたら、四人が来た方角からルゥが、本当にボロボロと泣きながら短い足で一心に走って来た。
わたしよりクロエのほうが足が速いから見失ってしまったのかしら?
とりあえずおいで……とルゥに声を掛けているわたしの背に向かって、クロウの声が掛かる。
「来るぞ」
何が来るのかというと、もちろんハーピー。
ということは、また 【かまいたち】 が来る。
飛ばされる前にルゥを回収しようと思ったら、わたしに向かって一直線に走って来ていたルゥが、ボロボロと涙をこぼしながらも不意に目つきを変える。
あら? この感じ、前にも覚えがあるような気がする……と思ったら、ルゥってばわたしの横を擦り抜けて行っちゃった。
え? ちょっとルゥっ?!
「なに逃がしてるのっ?」
信じられない! ……と罵ってくるクロエの声を聞きながら、走り去るルゥに手を伸ばして追いすがろうとするわたし。
でも 【かまいたち】 に備えたクロウにガッツリホールドされて身動きがとれない。
片腕でわたしを脇に抱えて、片手でその大剣を振るうって……ほんと鉄筋なんだから。
わたしの横を擦り抜けたルゥは、どうやらわたしたちの背後に急降下してくるハーピーの姿を見たらしい。
攻撃目標を発見したルゥは……そういえばハーピーって、【フェンリルの森にようこそ】 で正式に登場したのよね。
つまりルゥとは知己ってこと?
そのわりにハーピーを目指すルゥの目は怒りに燃えていて、鼻に皺を寄せて牙を剥き、ちっちゃな爪をシャキーンと伸ばしている。
その短い足が空気を含んで見る見る大きくなり、あっと言う間に全身が巨大化して本性であるフェンリルの姿に戻る。
もちろんこれはアラートが出ない。
表示が出たら完全な不具合よ!
ルゥは今回一人のプレイヤーとして参加してるんだから。
地上近くまで降下したハーピーは滞空し、その翼を大きくはためかせようとするのを巨大化したルゥが前足で……顔面を叩いた。
ビンタ?
これ、ビンタでいいのかしら?
バシコーンと強烈なのを横っ面に張って……しかも鋭い爪をハーピーの顔面の肉にガッツリ喰いませていたから、衝撃だけでなく裂傷を……これ、攻撃としてはどう分類されるんだろう?
打撃?
斬撃?
……元々ルゥはNPCとして開発されているはずだから、プレイヤーの定義には当てはまらないのかもしれない。
でもハーピーもただ食らうだけでなく、その屈強な両足でルゥを蹴り返してくる。
当然こっちも頑健な爪を全開にしての攻撃で、食らったルゥの額から大量のHPが流出する。
もちろん怒ったルゥの反撃も凄まじくて、まずは空へ逃がすまいとあの巨大な片翼を食い千切りに掛かる。
学習しない残念なAI搭載のルゥだけれど、本性に戻った時の戦闘能力はとにかく高い。
そして凄く残虐非道な知能を有する。
でも一つルゥを弁護しておくと、ハーピーも残虐だからね。
物凄く非道だからね。
こうして巨大幻獣対戦……いや、巨大幻獣大戦?
どっち?
……これ、どっちも当てはまらない?
どっちの漢字表記が正解? ……というか、適切?
どっちも正解でどっちも適切すぎて、わたしには決められない。
しかも悩む時間的余裕もくれない。
突然始まったこの巨獣の戦いに、呆気にとられて手を止めたプレイヤーもいるんだけれど、中には気にせずPKを続けるプレイヤーも多い。
ルゥがハーピーを抑えている限り 【かまいたち】 が来ることはないし……あ、もう来ないか。
ルゥが片翼もいじゃったし。
どう頑張ってもハーピーに 【かまいたち】 は発動できなくなっちゃった。
ただ、ルゥも似たようなスキルを持ってるのから要注意。
あの堅牢な岩屋を破壊したスキルね。
使っちゃ駄目よ
でもプレイヤーの中にはそのルゥを狙う極悪非道な奴もいて……ぶっ殺す!
当然生半な剣士じゃ巨獣二匹のそばには寄れなくて、魔法使いでもちょっと厳しいかな。
でも巻き込まれる心配のない距離から狙える、長距離射撃の銃士が……
「撃っていいよね、クロエ」
「わざわざ断わりなんて入れてたら、僕が撃っちゃうよ」
珍しく怒っているくるくるなんだけど、言いながらも本当に先攻しちゃうのがクロエ。
すでに照準を合わせていたらしく、続いてくるくるも発砲。
「ぽぽも撃っちゃいなよ」
「え、でもちょっと……」
攻撃目標の銃士以外の誤射を案じるぽぽだけど、クロエは撃ち続けながらも平然という。
「外してもいいよ。
だってあれ、全部味方じゃないし。
どうせチビがあの鳥落としたら、全部敵になるんだから。
今のうちに落とせるだけ落としちゃおうよ」
いいでしょ? と同意を求めるようにこちらをチラリと見てくるクロエ。
そのあいだも撃ち続けているのがクロエで、くるくるも、それこそ多少の誤射もお構いなし。
うん、いいわよ。
あの距離は魔法使いにも届かないし、剣士たちの援護で手一杯だもの。
ルゥを守るためにも殺っちゃって頂戴。
ルゥを虐める奴は許さないんだから!
お仕置きよ!!
「また厳しいお仕置きだね」
ちょっと苦笑いを浮かべたぽぽなんだけど、クロエに全然誤射OKといわれてちょっと安心したみたい。
銃を構えて撃ち始める。
身を潜ませる必要がない……というか、潜ませていられない状況だから、撃ちたいだけ撃ってポイントを獲って頂戴。
反撃はもちろん承知の上……と思ったら、撃ち手を休めずクロエが言う。
「キンキー、ヒールぐらい持ってるんでしょ?」
あまりクロエと話したことのないキンキーは早口に 「はい、でも……」 と戸惑い気味の返事。
持っていても、当然だけれど本職ほどの回復力はない。
もちろんそれはクロエも分かっていて言っているの。
「筋肉はチビチビしかHP減らないから、チビチビ回復してやればいいよ」
まだ戸惑い気味のキンキーはわたしを見てくるんだけれど、恭平さんのほうが口を開くのが早かった。
「ワンコがハーピーを落としたらすぐ離脱するから、ちょっとでも回復しておきたい」
「わかりました、やってみます」
うんうん、頑張れキンキー。
クロエも恭平さんも、キンキーが攻撃型魔法使い志望だということはもちろん知ってるんだけど、PK可能なこのイベントエリア内。
比較的味方が密集しているこの状態では誤爆しかねず、まだまだ不慣れなキンキーは攻撃に参加しかねていた。
それを見かねたクロエなりの助言だったんだと思う。
だから頑張って、キンキー。
ルゥも頑張ってね。
なんだか大量にHPが流出してるんだけれど、もちろんハーピーも大量にHPを流出させてるんだけど……まさか、まさかよね、ルゥ。
落ちないわよね?
場外乱闘ではなく、人外乱闘が正解でしたw
この後も混乱は続きます。




