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233 ギルドマスターは鳥と再会します

pv&ブクマ&評価&感想&誤字報告、ありがとうございます!!

 以前にあったアットホームなファミリーイベント金魚すくい。

 その実体は大量虐殺(ジェノサイドゲーム)で、終了時にはエリア中に死体の山が築かれる始末。

 ただPKはなしで、参加の有無にかかわらず全プレイヤーにポイが配布された。

 でも今回は虫取り編みも虫かごもなし。

 PKがあるため、おそらく換装の手間を考慮してのことだと思う。

 ノーキーさんなら、換装する手間ですら競いそうだけどね。

 でもわたしみたいな不器用には生死にかかわるミスにつながるので、余計な手間を省いてくれるほうに一票。

 生死を分ける凡ミスって、洒落にならないわ。

 だから助かってるんだけど……何か腑に落ちないっていうか、物足りないっていうか……この違和感は何かしら?

 一帯の蝉を根こそぎ獲ってはちょっとずつ移動し、遭遇する単体プレイヤーやら団体様(ギルド)やらを落としていたんだけど、やっぱり違和感がある。

 こう……何か物足りないような……?


「ああ、ガルムがいない」


 偶然隣に立った恭平さんに言われ、わたしもようやくハッとする。

 そうだ、あの憎ったらしいガルムがいないんだ!

 イベントだし、うっかりメンバーとして登録してしまったけれど……試してみたいっていうのもあったんだけれど、ガルムがいたら危ないところだった。

 えっと……確か正式名称は 赤い魔犬ガルム / 種族・魔獣 だったと思う。

 種族としては 【魔獣】 だから 【幻獣】 のルゥより全然格下なんだけど、以前に虐められてルゥにもわたしにも苦手意識がある。

 あ、わたしは虐められてないけれど元々犬嫌いというか、怖いというか……ルゥは可愛いんだけどね。

 でもやっぱり犬はまだ駄目で、現実(リアル)では、昨日も散歩中の犬と遭遇して逃げてきた。

 ルゥもガルムに追いかけ回されて崖から落ちちゃったことがあって、勝手に遊びに行ったルゥも悪いけれど、可哀相なことをしてしまった。

 その樹海でのイベントに、うっかりルゥをメンバーとして登録してしまうなんて……わたしってば飼い主失格?

 幸いにしてガルムは本当に一匹も見当たらなくて、ルゥはご機嫌に蝉とりを楽しんでいる。

 さっきまでわたしの顔にすわって毛繕いしてたけど……。


「ここさ、イベント用かも」


 どういう意味?


「見た目は通常の樹海と同じだけど、実際は通常の樹海じゃなくて、イベントの参加登録(エントリー)したプレイヤーしか入れないのかも」


 条件を満たしているプレイヤーしか入れない 【イベントエリア】 ってこと?


『でも、そう考えたらガルムや鳥もいない理由に納得が出来るよ』


 クロエに言われて、頭上に鳥も飛んでいないことに気づく。

 もうこれはあれね、最初に足を踏み入れた瞬間のあの蝉の鳴き声。

 耳をつんざく破壊的な鳴き声に気をとられて、そこからすっかりイベントモードになってしまった感じ。

 あまりに違和感なく切り替わったから、樹海の様子がいつもと違うことにすら気づかなかった。

 これも意味があると思う?


『わからないな』

「そうだな。

 でも、そろそろカニやんが警告していたイベント残り時間一時間になる」


 わかった、用心しましょう。


『それとさ……』


 珍しくクロエが言い掛けたなにかを呑み込む。

 いや、これ、違うわね。

 呑み込んだんじゃなくて、言い掛けてなにかを思い出した。

 あるいは考えている。

 そんな感じだと思う。

 実際それほど間を置かず 『グレイさんさ』 と言葉を継いできた。


『【鷹の目】 のアキラって奴知ってる?』


 なるほど。

 わたしがその人物を知っているかどうか、わからないってことを言ってしまってから思い出したのね。

 たぶん知らないと思う。

 【鷹の目】 のメンバーって、セブン君以外結構口が悪いんだもん。

 あまりかかわりたくないのよね。


『そうそう、その口の悪い代表みたいな奴』


 ん? ひょっとしてそのアキラって、サブマスの人?

 前のイベント 【treasure ship】 の時、【Gの逆襲】 か最終戦の時、なんの話をしていた時かも覚えてないんだけれど、セブン君の後ろにいて余計なことを言われたような気がする。

 こう……わざわざ言わなくてもいいような当たり前のことを、あえて言われてカチンときたような……そんな嫌な感じの記憶が残ってる。


『たぶんそいつだと思う。

 でも 【鷹の目】 も三人くらいサブマスいるけどね』


 そうなの?

 わたしが知ってるサブマスはあの時の人だけなんだけど。


「それがどうかしたのか?」


 うん、恭平さんったらバッチリカニやんのポストに嵌まってるわ。

 わたしを無視して話を進めようとするところまで、真似して欲しくないんだけど……。


『さっきからチラチラ近くに来てるんだよね』


 え? それって 【鷹の目】 が来てるってこと?


『本隊は見えない。

 ちなみに銃士(ガンナー)の数で負けてるから、僕らが落とされても、奇襲を掛けられたら一度引きなよ』

『そのアキラって人、さっきからチラチラこっち見てるんですけど、すぐにいなくなるんです』

『俺でも見つけられたから、わざと見つけさせてるんじゃない?』


 んー……ずいぶんとぽぽが自分を卑下してるんだけど、そんなことはないと思うわよ。

 でもそのアキラって人、何をしているの?

 【素敵なお茶会(わたしたち)】 を追跡してるとか?


「どこかで待ち伏せ?」

『わからないけど、ウザい。

 次に見つけたら撃っちゃおっと』


 どうやら目的がわからなくて泳がせていたらしい。

 でも面倒になる前に片付けてくれていいわよ。

 目的はわからないままだけれど、何か目的があって近づいてきているのは確かだろうし、落としちゃっても問題ないと思う。

 むしろ早めに落としてしまったほうが面倒がなくていいかも。


『グレイさんにしては珍しく即決してきたね』


 うん、だって嫌なことを思い出しちゃったんだもん。

 なにを言われたかまではやっぱり思い出せないんだけど、とりあえず嫌な奴だってことは間違いないから。


『じゃ、さっそく』


 直後銃声が数発、わりと近くで響く。

 しかもわたしの耳が聞き間違えていなければ、方向の違う音が入り交じっての数発。

 これってつまり反撃があったってことよね。

 クロエ、大丈夫?


『僕?

 どうして僕なの?』


 なんだか気の抜ける返事が返ってきたと思ったら


『すいません、俺が撃たれました』


 正解はくるくるだったっていうね。

 話しながらも、手持ちのHPポーションで回復しているっていうから大丈夫かな。

 でも早めに対処して正解だったと思う。

 これで新手が 【鷹の目】 から派遣されてきたら、ギルド戦が待ち構えていると思ったほうがいい。

 でもアキラっていうサブマスが一人で動いていたっていうのも気になるわよね。


『ねぇクロエ、あれ、なに?』


 不意にぽぽの不安げな声が上がる。

 銃士(ガンナー)の三人は裸眼で見ているのか、照準器(サイト)を覗いているのかわからなくて、何を見ているのかわからない。

 それで蝉とりをしながらインカムに耳を傾けていたら、とんでもない話が飛び出してきた。


『なにって……この高度でぽぽが見えてる?』

『そうなんだ、高度が……』


 珍しくクロエが焦ってると思ったら、ぽぽの不安が高まる。

 うん、なんだかその話でちょっとわたしにもわかったような気がする。

 既視感を覚えたのよ。

 とにかくわたしたちじゃ現状が全然わからないから情報を頂戴。


『急降下!』

『撃つ?』

『だめだ、跳弾する』

『着地点、超えるよね?』

『たぶん僕らの頭上を越えると思うからこのまま待機。

 周囲のプレイヤーに居場所を知られるな』


 銃士(ガンナー)三人の慌ただしいやりとりがインカムの中で交わされる。

 とりあえずわたしたちも強襲に備えて待機。

 対象は頭上を通過する予定……と急いで指示を出しているあいだにもわたしたちの頭上を、周囲の木々のてっぺんをかすめて巨大な鳥が滑空する。


alert 怪鳥ハーピー / 種族・幻獣


 その余波が、ほんの一瞬遅れてわたしたちを襲う。

 渦巻く風に目を庇いつつ、飛び去る後ろ姿を追う。

 数百メートル先の木々をなぎ倒しながら着地した……ううん、地に足はつけてない。

 地上数メートルのところで滞空したハーピーは、そこで大きな翼を力強く羽ばたかせる。

 何度も何度も羽ばたかせて起こした風が渦を巻き、周囲の木々をなぎ倒す。


 かまいたち


 わたしたちはその様子を、木々の向こうに見やる。

 あの周辺にプレイヤーがいたのっ?


『何人かいたみたい』


 すぐさまクロエの返事がある。

 どうやら銃士(ガンナー)三人は無事らしい。


「カニやんの予測が当たったな。

 残り時間一時間だ」

「さすが有能なサブマスだな」


 ちょっとクロウ、この状況に似つかわしくない冷静なコメントは止めて。

 恭平さんまで一緒になって。

 とりあえずここは場所が悪い、すぐに移動するわ。

 もちろん離れるのよ……と指示を出した矢先、またクロエの声が上がる。


『飛ぶよ!』


 木々の向こうに見えるハーピーの姿に背を向けかけたわたしたちは足を止め、巨大な怪鳥が再び上空に飛び上がるのを見送る。

 遥か上空、銃士(ガンナー)たちの覗く照準器(サイト)でようやく黒い点に見える高度で大きく旋回したハーピーは、その進路を変えて再び急降下を始める。


『こっちに来る!

 地面に下りるよ!』

『はい!』

『わかった!』


 全員退避……は間に合わないか!

 おそらく高い位置、それこそ木の枝にでも登っていたと思われるクロエたちのことも気になるけれど、本隊(わたしたち)も退避が間に合わない。

 なるべく姿勢を低く、耐えて。

 ベリンダ、耐えられるっ?!


『大丈夫!

 だけど、さっきの場所から逃げて来た連中がこっちに来た!』


 インカムから聞こえるベリンダの声が、ハーピーが発動させたスキル 【かまいたち】 のせいか雑音混じりに少し聞き取りづらくなる。

 こんな細かい演出は要らない!

 しかもルゥがいないっ?

 え? ちょっと待って、ハーピーのかまいたちで吹っ飛ばされた?

 それともなぎ倒された木の下敷きになっちゃったっ?

 すぐにでも探しに行きたいけれど……あんな小っちゃくても 【幻獣】 だから落ちはしないと思うけれど、やっぱり心配で、でもかまいたちの中にあってわたしも身動きがとれない。


 痛い!


 痛い痛い痛い痛い……でもわたしを庇ってくれるクロウはもっと痛いはず。

 ごめん、あとで必ず回復するから絶対に落ちないで。

 みんなも、ルゥも耐えて!


 お願い、頑張ってっ!!

予想されていたと思いますが、ハーピーの再来です。

リサイクル率の高い運営ですね。

でもこのリターンマッチは場外乱闘でw


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