231 ギルドマスターは赤と黒の魔法使いに会います
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……今、そういう装備が流行ってるの?
確か 【グリーン・ガーデン】 のアンジェリカさんやフレデリカさんが、そんなスカート丈の短いフリフリでヒラヒラなミニドレスを着ていたような気がする。
赤と白を基調にしたミニドレスを着たココちゃんは、その上に真っ赤なショートマントっていえばいいのかしら?
ショートコートのマント版みたいなのを着ていて……あーこれはあれね。
赤頭巾ちゃん
なんかそんな印象の装備に変わっていた。
もちろん装備なんて個人の自由だしどうでもいいんだけど、杖の代わりに花かごとか持ったりして、ほんと、いかにもって装備……というか演出というか。
やっぱりここは誰かが狼になって襲うべき。
よかったらわたしがするけど、どう? ……と思ったけど、クロエの銃口が狙ってるからやめておく。
『本当に撃つよ』
だからやらないってば!
クロエは撃つといったら本当に撃つから気をつけないとね。
もちろんわたしは一発くらい当たっても落ちないけど、ココちゃんはどうかしら。
【素敵なお茶会】 を脱退した時は、の~りん以上に紙のようなVITしか持たない回復型魔法使いだったけど。
そもそも今も回復型魔法使いなの?
シシリーさん自身はその攻撃的な性格そのままの攻撃型魔法使いだし、元メンバーの恭平さんもアキヒトさんも攻撃型魔法使い。
しまった!
もっと早く 【シシリーの花園】 に所属する魔法使いの構成を聞いておくべきだった。
こんな形で当たるとは思ってもなかったから、迂闊だったわ。
【素敵なお茶会】 のギルド運営はかねてよりかなり緩ぅ~いとは思っていたけれど、一番緩いのは主催者だったっていうね。
まぁ後悔先に立たず、よ。
なるようにしかならないし、とりあえずココちゃんがどう出るのか、何をしに来たのか、確かめましょう。
驚くの~りんに演技たっぷりな挨拶をしたココちゃんは、外部に対しての警戒をしつつ彼女の動向を見守る他のメンバーを見回す。
「知らない顔がいるのね」
「ちょっと色々あって、何人か入れ替わってる」
戸惑いながらも答えるのね、の~りんってば。
『馬鹿なの?』
当然のようにクロエの罵りが返ってくる。
でもとっくの昔に 【素敵なお茶会】 を脱退したココちゃんにクロエの声は聞こえないから、何が起こっているのかはわからない。
「ふ~ん、そうなんだ。
カニやんさんがいないけど、辞めたの?」
「さっき落ちた」
「なんだ、辞めちゃったんだったら勧誘しに行こうと思ったのに」
イベント中になにを言っているのかしら、この子は。
しかもまだカニやんを諦めてないんだ。
もちろん諦めていないのは、ココちゃんじゃなくてシシリーさんよね。
執念深いっていうか、なんていうか……。
不意にココちゃんの目が、比較的わたしの近くにいた恭平さんをチラリと見る。
「裏切り者はいらないけど、他に有望な魔法使いは入った?
もちろんグレイさん以外にね」
「えっと……」
ココちゃんの狙いがなんなのか?
わからないの~りんは戸惑いつつも根が正直者だから、その目がチラリとアキヒトさんを見る。
接近戦をするわけでもないのに動きやすさを重視したアキヒトさんの装備は、一見……いや、じっと観察しても魔法使いに見えない。
だから黙っていればわからないんだけど、正直者のの~りんの視線を辿ったココちゃんはアキヒトさんを見る。
そして小走りに駆け寄る。
「新人さんね、初めて見る顔だわ。
今レベル幾つ?
名前はなんていうの?
よかったら 【シシリーの花園】 に入らない?
こんなギルドにいるよりずっと楽しめるわよ」
……知らないって幸せね。
きっと恭平さんは腸が煮えくりかえる思いで、アキヒトさんを勧誘するココちゃんを見ていたと思う。
かつての 【シシリーの花園】 と恭平さん、アキヒトさんの関係には口を挟めないわたしたちも複雑な胸中でその様子を見ていたんだけど、もう一人の当事者であるアキヒトさんの様子がおかしい。
腕組みをした彼は考え込むようにココちゃんを見ている。
しかもいつの間にか詠唱を終えていて、足下には見覚えのある魔法陣が展開している。
発動を待つだけの状態にあるこの魔法は 【ホットポット】 よね。
ついこの間バロームさんが使っているのを見たから、まだちゃんと覚えている。
船長は魔法反射だからって注意しても止めてくれないし、必要以上に乱発もして……嫌なことを思い出してきた。
そのバロームさんはさっきカニやんが落としてくれて、いま、彼女ご愛用の 【ホットポット】 を起動しているのはアキヒトさん。
わたしが知らなかっただけで、実は 【ホットポット】 って結構ポピュラーなスキルなのかしら?
「どう?」
自分勝手に話すココちゃんは、アキヒトさんの顔をのぞき込むように返事を促す。
「どうって……つまりあんたは 【シシリーの花園】 のメンバー?」
たぶんこの状況……つまりココちゃんが言っていることとか、わたしたちの態度で恭平さんは彼女が何者かに気づいたと思う。
彼女が 【素敵なお茶会】 を脱退したこと、その理由をねじ曲げてシシリーさんが喧伝したことも知っていたしね。
だから彼女がその当事者だって気づいたと思う。
でもアキヒトさんはその時すでに休眠状態になっていたと思われ、たぶん全くといっていいほど何も知らないはず。
そのアキヒトさんが何を思ってこの質問をしたのかと思ったら……。
「ええ、そうよ」
「んじゃ死ね」
ココちゃんの返事を鼻でフッと笑ったと思ったら、アキヒトさんてばすでに詠唱を終えていたホットポットを発動。
単体のファイアーボールより少し大きい火の玉が三連続でココちゃんに襲いかかり、彼女が悲鳴を上げる。
『本隊が動いた。
来るよ』
おそらく彼女の悲鳴は交渉決裂の合図。
わたしたちはクロエの声をインカムで聞きながら、ホットポットの一撃で落ちないココちゃんの豹変振りを見る。
「いきなりなにするのよっ!」
わたしも驚いたわ。
もちろんアキヒトさんの行動は予想外だったから驚いたけど、ココちゃんが一撃で落ちなかったことにも驚いたわ。
あなたがその努力を 【素敵なお茶会】 にいた頃にしてくれていたら……って思ってももう遅いわよね。
しかもあのイベントは、迂闊に乗ったココちゃんもココちゃんだけど、あんなザルな作戦で誘ったの~りんもの~りんだもの。
わたしや他のメンバーと同じように驚いたの~りんは、彼女の名前を呼びながらとっさに助けに走ろうとし、止めに入ったマコト君と小競り合いをしている。
「の~りんさん! そんな奴さっさと殺しちゃってよ!」
「え……」
とっさにココちゃんを助けに駆け付けようとしたの~りんだけれど、まさかここで裏切りを強要されるとは思っていなくて一層戸惑い、めまぐるしい速さでマコト君とココちゃんを交互に見る。
「早く助けて!」
つまりココちゃんは、の~りんにマコト君を落とさせて自分を助けろ……まぁそう言いたいわけね。
すっかり魔法使いしかいない 【シシリーの花園】 に馴染んでしまっているココちゃんは、このゲームには魔法使い以外の職があることを忘れてしまったのか。
しかもここにいるメンバーが 【素敵なお茶会】 の全員じゃないってことも。
『片付けていいよね?』
待って、ここはアキヒトさんに任せる。
本隊が来るのなら、クロエたちはそっちに備えて。
「そうこなくっちゃね。
【シシリーの花園】 の相手は任せるっていわれてるし」
……そういえば、アキヒトさんが加入してすぐの頃にそんなことを言ったような……。
この森の中では他のメンバーたちとの距離がそれほどとれないため、迂闊に範囲魔法は使えない。
だからアキヒトさんはもう一度ホットポットを発動。
直前でココちゃんが自分を回復しようとしたんだけど、恭平さんのファイアーボールに阻まれる。
「ちょっとあんた!
こんなことをして、ギルドに入れてもらえると思ってるのっ?」
恭平さんはもちろんだけど、アキヒトさんも、もう二度と 【シシリーの花園】 に戻ろうなんて気にはならないと思う。
それどころかまるでココちゃんに興味がなくて、罵りながらも落ちていく彼女なんて綺麗さっぱり無視したアキヒトさんは、自分の仕事に水を差した恭平さんに食ってかかる。
「お前、邪魔してんじゃねー!」
「次が来てるんだ、さっさと片付けろ。
余裕かましてるんじゃない」
「相変わらずくそ真面目め」
ちょっとちょっとアキヒトさん、いじけてる時じゃないから。
来てるのは 【シシリーの花園】 の本隊だから。
仲間割れしている時じゃないから。
「それは分かってるから大丈夫」
「なにが大丈夫なんだ?」
不意に割って入る第三の……じゃなくて第四の声は聞き覚えのある女の人。
全身を真っ黒い装備で覆った自称 【漆黒の魔女】 シシリーさん。
声を掛けながらわたしたちの前に現われた彼女は、わたしを一瞥したと思ったらすぐに恭平さんを向き直る。
そして忌々しげに罵り出す。
「元気そうじゃない、この裏切り者が」
「俺は別に裏切ったつもりはない。
ギルドの脱退は任意だ。
お前にもちゃんと辞めることは事前に話したはずだ」
「そんなもの、許可した覚えはない」
不穏というか、傲慢というか……シシリーさんも相変わらずね。
恭平さんがシシリーさんと話しているあいだに、わたしはルゥを手近な木に貼り付けて、その可愛いお尻をポンッと軽く叩く。
ちょっとのあいだ、また木に登って蝉とりをしていて頂戴。
沢山獲れたらあとで褒めてあげるからね……と声を掛けたら、ルゥはきゅ! と返事をしてガッシガッシと力強く木を登りだした。
短い尻尾をフリフリしながら登っていく可愛いお尻を見上げていたら、クロエに注意される。
『ちょっとグレイさん、いい加減にしないと犬っころを撃つよ』
止めて止めて、それは止めて、絶対止めて!
怒ったルゥが何をするかわからないから絶対駄目よ。
わかってます、ちゃんと戦闘に集中します。
だから止めて!
そもそも主催者の許可がないとギルドを脱退できないとか、そんなルールはこのゲームにない。
ローカルルールにすら。
あ、でも 【シシリーの花園】 はシシリーさんがルールみたいなものだから、彼女が駄目っていったら駄目ってこと?
超局地的なローカルルールね。
でもローカルルールってある程度認知されている物をいうから、やっぱりローカルルールですらないか。
ただの独裁よね。
そんな不穏で傲慢なことをいっているシシリーさんと、冷ややかな顔で返している恭平さんを見ていたアキヒトさんが 「ちょっといい?」 と二人のあいだに割って入る。
でも彼がなにかを言う前に、その顔を見たシシリーさんが声を上げる。
「お前、アキヒト!」
「やっぱシシリーかっ?
ってかお前、そんな真っ黒だったっけ?」
……えっとね、ちょっと前にイメチェンしたらしいの。
わたしたちもこのあいだ久しぶりに会って真っ黒になっていたから……日焼けじゃなく、ね……すぐにはシシリーさんだってわからなかったもの。
アキヒトさんが恭平さんのメッセージを見てゲーム復帰をしたのは、前回のイベント真っ最中のこと。
だから初日のコンテストは見ていない。
これが彼女と久々の再会で、アキヒトさんが驚くのはわかる。
凄くわかる
あの醜聞騒ぎのあと、ギルドを辞めた六人のことをシシリーさんがどう思っていたのかはわからない……けど、気に掛けていなかったと思う。
四人が引退したことは噂になっていたから知っていたと思うけど、恭平さんが彼女にとって宿敵である 【素敵なお茶会】 に加入したことを知らなかったし、今、アキヒトさんが休眠から復帰して、やっぱり宿敵である 【素敵なお茶会】 にいることを初めて知ったかのような驚きを見せているもの。
「お前、ここで何をしているっ!」
「なにって、イベント参加」
シシリーさんの剣幕など意に介さず、アキヒトさんはのらりくらり。
真面目なのか不真面目なのか、本当にわからない人。
逆にシシリーさんは本当にわかりやすい人なんだけどね。
「まぁいい、お前も手伝え」
「手伝う?
何を?」
「もちろん魔女を落とすんだ。
手伝えばギルドの復帰を許してやる」
「はぁ?」
「魔女と落とせれば、恭平の復帰も考えてやっていい」
「俺、戻らねぇーし。
恭平もたぶん戻りたくないと思うし」
「多分じゃなくて戻らない。
前に会った時にもそういったはずだ」
アキヒトさんはのらりくらりしてるんだけど、恭平さんは 「しつこい!」 ってちょっと怒ってる。
前に会った時のやりとりもあるし、まぁ仕方ないか。
そもそもこの状況でそんなことをすれば、恭平さんもアキヒトさんもプレイを続けることが難しくなるんじゃない?
そろそろシシリーさんのキャラはゲーム内で固定しつつあるけれど、それでもここで二人が 【素敵なお茶会】 を裏切れば、シシリーさんも 「キャラ」 では済まなくなると思う。
わたしもそろそろこの傲慢 「キャラ」 にも飽きてきたし……。
『じゃあ撃ってもいい?』
お預けを食らい続けているクロエがそろそろ焦れてきた。
気持ちはわかるけれど、ポイントを取らせてあげるからもうちょっと待って。
二人を説得……というか、今も二人を自分のギルドメンバー扱いするシシリーさんは、他の五人を率いてゆっくりとわたしに近づいてくる。
ほらね、またわたしが本命よ。
【特許庁】 に続いて、また。
まぁシシリーさんがわたしの首を狙っているのは前からだし、ココちゃんがわたしたちの前に現われて、シシリーさんが本隊を率いて近くに潜んでいるってわかった時点から予想は出来ていたから驚かないけど。
いいわ、相手をしてあげる。
よく狙って、一撃で落とすのよ。
さもなくば蜂の巣にされちゃうから。
あ・・・クロエが撃つ予定だったのに・・・