23 ギルドマスターは鉄を拾います
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「【特許庁】 で何かあったんですか?」
ログインしたら、いきなりトール君からそんな質問を受けた。
何がどうしてそうなったのか、とりあえず順序立てて話してくれるかな?
「昨日、凄い格好をした人たちが凄い勢いで走り回ってたんです。
で、マメさんに聞いたら 【特許庁】 の人たちだって言ってたんで」
それはさぞかし奇天烈な集団だったでしょうね。
蝶々夫人の悩殺コスに始まる 【特許庁】 の連中の、衣装というか、装備は独特。
デザインや組み合わせもさることながら、色もね、極彩色とか、鮮やかというか、艶やかというか……表現に困るわ、あの集団……ま、そんな集団の移動を見たわけだ。
普段は結構バラバラに行動しているところがあるからそんなに目立たないみたいなんだけど、あれが集団行動をとっていたらそりゃ目立つだろうけど……あの連中が集団行動?
半端ない違和感が……
「誰かを探しているみたいでしたー」
今日の主賓マメこと豆の木。
ステータスの振り直しを決めた彼女だけれど、まだ教会には行っていないらしい。
もちろんお財布事情ってわけじゃなくて、本人なりに決めていることがあるとか。
「【特許庁】 が捜索を掛けるとしたらノーキーさんだと思うけど、なんだろうね?」
そんなことを言っているけれど、本当はなんとなくわかってる。
昨日遅く、ノーキーさんが例のコメントを挙げていたから。
たぶん蝶々夫人に無理矢理書かされたんだと思う。
ノーキーさんは脳筋だから、ああいうことは苦手だろうしね。
あとでセブン君に訊いたら、コメントアップのあとで蝶々夫人が事後承諾を求めてきたんだって。
それも酷く怒っていたっていうから、そもそも蝶々夫人とノーキーさんのあいだで何かあったんじゃない?
触らぬ神に祟りなし
わたしだって暇じゃないんだから。
ま、そういうことにして、今日はマメの付き合いでエリアダンジョン蛇の道に向かっていた。
中部東海エリアの西、関東エリアとの境界に近いところにある洞窟ダンジョン。
ちょっと初心者には難しくなるあたりで、マメが短剣を作りたいってことでその素材集め。
今日のマメはちょっとベリンダに似た装備に換えてるんだけど、上にロングコートを着るのはわたしの軽装備に似てるかな。
もっともわたしは、ここしばらくあれは着ていないんだよね。
さすがにちょっと生足に抵抗が出てきた。
そもそもあの装備は、本当は別の目的で作ったもの。
だからその目的の時だけ着用することにして、インベントリに封印中。
で、今日も平常装備でメイスを振り回してる。
装備といい、作りたい武器が短剣っていうから、マメは短剣使いに変わるつもりなのかな?
……正直、不安しかない。
だって短剣使いってあんまり人気が無いんだよね。
職としてっていうか、役としてあんまり出番もないし、立ち回りも難しいっていうより、あれ、どう立ち回るんだろう? っていうレベル。
少なくともわたしの中ではね。
短剣使いって、確かβ版ではなかった職のはず。
クローズド版からの採用だったと思うんだけど、やっぱり人気は無かったのよね。
正式サービス開始後もあんまり見掛けないから希少ではあるけれど、今のところそこに価値はない。
うちのギルドは人数が多いこともあって色んな職もそれなりにいて、短剣使いも一人。
ベリンダね。
たまにパーティーを組んで動きとか見てるんだけど、今ひとつよくわからない立ち回りで判断に困ってる。
ベリンダ自身、明確な動きがなくて、身の置き場に困っているような気もする。
それでも気の強い彼女のことだから自分で色々考えていくと思うけれど、マメは?
止めたほうがいい?
結構真剣に考えていたわたしに、トール君がこんなことを話しかけてきた。
「このゲーム、顔はいじれないんですね」
「うん。
少しくらいなら身長はいじれるけれど、顔は無理ね」
大胆にいじれるのは髪型や色、瞳の色かな。
もちろんある程度デザインは限定されているんだけれど、課金カスタマイズを使えばかなり個性は出せる。
そうしてカスタマイズされまくった集団が 【特許庁】 なんだけど、あそこは装備も同じくらいセンスの塊だから 「色物集団」 とか言われちゃうんだよね。
何を思ってトール君がそんなことを言い出したのかはわからないんだけれど、どこかにいるらしいクロエがインカムで口を挟んでくる。
『そそ、だからたまに見掛けない?
幼児体型の老け顔』
120とか130㎝くらいの身長に、凹凸のない体型とかしてて、でも顔だけは……ってキャラね。
たぶんVRの中くらい願望を叶えたいってことなんだろうけれど、だったらそれが出来るゲームを選ぶべきじゃない?
ゲームの内容で選んじゃ駄目よね。
わたしも出来たらもう少し身長を伸ばしたかったし、胸ももう少し盛……ゲフンゲフン……今のはなしで。
わたしがしょうもない後悔を思い出しているあいだにもクロエの悪態は続いていて……
『あれ、無理があるよねぇ~。
全然可愛くないどころか、憐れみさえ感じちゃうよ。
しかも装備も子供装備だし』
うん、クロエの言いたいことはわかった。
わかったからそれぐらいにしてあげて。
うちのギルドにはいないけれど、なんだか可哀相になってきたからもうやめてあげて。
遠回しにわたしのコンプレックスまで刺激されるからやめて。
『あそこまでやっちゃうと不細工だよねー』
うわー、もう最後までいっちゃった。
もうね、少し前まで生足出してた自分が恥ずかしくなってきた。
ゲーム内だから好きな格好というか、動きやすい格好をしていたつもりだったんだけれど、そんなことを言われると二度と着られなくなるじゃない。
軽装備を着る時は……あれは使用目的があってわざわざ作った装備なんだけど、誰にも見られないところでこっそり作業するしか……もう着られない……
「……クロエ、それ、よそで言っちゃ駄目よ」
わたしみたいに再起不能になる人がいるから、きっと……。
落ち込みそうになる気分を、とりあえずマメのことを考えることで留めてみる。
「ねぇマメ、新しい職はもう決めた?」
「まーだでーす!」
………………これはどうなんだろう?
クロエの暴言なんて忘れるくらいビックリしたというか、呆気にとられたっていうか……でも、マメだし?
いやいやいや、ここは踏ん張りどころでしょう。
気を取り直して押し返してみよう。
「まだってあんた、決めてないのに短剣作るの?」
それこそ万能職を気取っていたんだから、短剣なんて腐るほど持ってるんじゃないの?
そう思ったんだけれど、意外にも一本も持っていなかった。
そして面白いことを言い出した。
「短剣で剣士って出来ませんかー?」
「出来るの?」
当然のようについてきているクロウに訊いてみるんだけれど、知らんとばかりにそっぽを向かれた。
教えてくれてもいいのに。
「ベリンダには訊いてみたの?」
「ベリンダさんにはーわからないって言われましたー」
見た感じ、ベリンダ自身が短剣使いって職に迷ってる感じだもんね。
マメにアドバイスなんて出来ないか……っていうか、マメの質問自体難しいわよね。
短剣、短剣、短剣ねぇ……。
「短剣に盾とかどうですか?
剣士というより盾職ですけど」
「斧ですかー?」
一緒に考えていたトール君の意見に、思い浮かんだのはパパしゃん。
たぶんマメも同じことを考えたんじゃないかな?
大盾に斧装備の盾剣士で、シールドチャージとか結構な力業を持っている。
全く同じにする必要はないと思うけれど、ステータスの振り方とか、装備のステータス補正とか、参考にはなるはず。
ただ女の子に斧は考えもの?
そう思う理由は、このゲームでは一定のプレイヤースキルが反映されるから。
つまり剣道経験者は、長物の扱いが初心者より慣れてるって感じでね。
それを考えれば、斧を扱い慣れてる人なんて早々いないだろうけれど、女の子が日頃から力で物を振り回すってことにも慣れていないと思う。
う~ん、女の子に、近接武器の中でも重量級の斧は考えもの?
マメも嫌かな? なんて思ったんだけど、続くトール君はマイペースどころか……
「俺、大斧に腕固定の盾とか考えてるんです」
「なるほど、なるほど。
それだと盾職寄りってわけじゃないですねー」
「はい、あくまでも攻めで」
うん、マメ、乗ってるわね。
とりあえず目的地が見えてきたから二人とも準備してね。
蛇の道は洞窟内にあって、エリアダンジョンなので入場条件も入場用アイテムも無し。
当然レベル制限もなくて、横殴りOKの無法地帯。
内部は迷路になっていて、出てくる敵キャラは蛇と蜘蛛ぐらいかな?
当然入り口近くは弱っちい雑魚ばっかりだから問題ないんだけれど、奥に行くほど強くなる。
最奥にここのボスキャラともいえる大蛇が出てくる。
場所は 【蛇の巣】 に決まっているんだけれど、出現は不定期。
いつもいるわけじゃない。
そこに至るまでのあいだに塊と呼ばれる金属素材が落ちていて、これも当然奥に行くほど価値の高いものを拾得できる。
大蛇の撃破ドロップが一番希少な希土塊。
もちろんこれも素材なんだけど、今回マメが欲しいのは銀塊。
入り口近くにゴロゴロしている銅塊や青銅塊よりちょっと奥にあって、量も格段に少ないけれど、金塊や白金塊に比べれば全然楽かな。
あれらは大蛇の出現地点 【蛇の巣】 周辺に、ほんと少量しかないから。
ナゴヤドームを出る前に、二人でNPC武器屋に寄って何をしていたのかと思ったら、初期装備の斧とメイスを購入。
洞窟に入るなり、二人ともそれを持って出てくる蛇を殴りだした。
入り口近くに出てくる蛇は噛みついて毒で攻撃してくる。
それほど動きも速くないから、噛まれる前に殴れば……初期装備だと二撃くらいかな?
さすがに銀塊が出てくる辺りになると、敵の数も多く動きも速い。
しかも噛みつき以外に毒を吐いたり、ちょっと攻撃にもバリエーションが出てくる。
でもまぁマメとトール君のレベルなら大丈夫かな?
当然知ってるマメの提案で、二人で薬局にも寄って毒消しも用意してあるしね。
「……なんか、楽しーですねー、これ」
「はい、楽しくなってきました」
最初は喋りながら蛇を殴っていた二人だったんだけど、どんどん無口になってきて、この会話を最後に殴ることに集中しちゃって全く喋らない。
っていうかね、今回は蛇を殴りに来たわけじゃないの。
なんか、二人ともムキになってどんどん殴ってるんだけど、うん、トール君はそれでもいいんだけれど、マメは駄目でしょ?
あんた、ここに何しに来たのよ?
そこにも銀塊が落ちてるんだけど……拾わないの……?
なんで邪魔そうに蹴り飛ばしてるのよ?
ねえほんと、何しに来たの?
色々使い道はあるけれど、今回マメの目的とは違うから銅塊とか青銅塊はわたしが拾ってきたんだけれど、銀塊も、マメの代わりに拾わなきゃならないみたい。
仕方ないから二人のお守りはクロウに任せ、わたしは銀塊も拾い集めるため、指先で突いてインベントリに放り込む。
そろそろ腰が痛くなってきた……