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222/806

222 ギルドマスターは感染します

pv&ブクマ&評価&感想&誤字報告、ありがとうございます!!

 ナゴヤドームから琵琶湖に行く途中、道端にうずくまって泣き出してしまったわたし。

 背後に人の気配を感じて、邪魔になるな……とは思ったけれど恥ずかしさも相まって立ち上がることが出来ずにいたら、いきなり腕が伸びてきて脇の下に差し込まれたと思ったらそのまま持ち上げられた。


 なにっ?!


 驚いて顔を上げたら、すぐそこにクロウの顔があってもっと驚いた。

 たぶんルゥに勝てるくらい目を剥いていたと思う。

 そんなわたしの驚いた顔を見てクロウが笑う。

 もう、見ないでよ! って怒ったら顔を肩に押しつけられた。


「溜め込まずに出してしまえ」


 背中ぽんぽんされたら、また涙が出てきた。

 うん、泣く……恥ずかしいけど。

 子どもみたいに縦抱きされてクロウにへばりついて泣いていたら、しばらくして柴さんたちも追いついてくる。


「まさかと思うけど、寝てる?」


 なかなかアキヒトさんも愉快な人ね。

 でもすっかり慣れた脳筋コンビが正しく訂正してくれる。


「さっきから鼻すする音がしてる」

「たぶん泣いてる」

「よくあること?」

「よくある」

「だいたい旦那に任せておけばいい」

「じゃあ俺たちは大蜘蛛を叩けばいい?」


 自分でするわよ……っていいかけたら、ここで問題が発生。

 わたしの前を走っていたルゥが、ようやくのことでわたしがついて来ていないことに気づいて戻ってきたの。

 迷子にならなかったことは褒めてあげるけれど、ルゥだからね、ルゥなのよ。

 号泣しながらあの短い足で必死に走って戻ってきたんだけど……気づかないままどこまで行ったのかしら?

 それはそれで疑問だけど、その疑問は放置しておく。

 戻ってきたルゥはわたしたちを見つけた瞬間、ボロボロ涙をこぼしながらも目つきを変える。

 そのことにまずは柴さんが気がついた。

 続いてムーさん。


「これ、ヤバいかも」

「狙いは旦那か?」

「旦那だな」


 そういった二人は何も知らないアキヒトさんを見る。


「よし、ここは旦那のために一肌脱げ」


 本当に何も知らないアキヒトさんに、クロウの前に立ちはだかれって……そんなことをしたらどうなるかなんて言わずもがな。

 泣きながら戻ってきたルゥは一直線にクロウを目指して走って来たと思ったら、邪魔をするアキヒトさんをバックリ。


「Oh! No!」


 …………なかなか愉快な人ね。

 確かにちょっとJBタイプだけど、恭平さんとJBを足して綺麗に二で割った感じ?

 真面目なようで、巫山戯ているようで……面白い人が増えたわ。

 結局わたしはクロウに抱えられたまま、五人と一匹で大蜘蛛の住み処になっている琵琶湖湖畔に到着。

 他にプレイヤーがいなくて良かった、こんな恥ずかしいところを見られずに済んで。

 でも他にプレイヤーがいなくて良かったと思ったのはわたしだけじゃなくて、これ幸いとばかりに柴さんがルゥに話しかけたの。


「チビ助、勝負だ」


 不機嫌そのものに鼻に皺を寄せたルゥは、ぎゅ? と不満げな声をあげて柴さんを睨み返す。

 もちろん気に入らないことがあれば即座に体当たりでも食らわせるつもりなのか、ちっちゃな爪をシャキーンと伸ばして短い足を踏ん張っている。

 えっと柴さん、ルゥの跳躍力はわかってるわよね?

 そんなちっちゃな体をしているけれど 【幻獣】 だってことは忘れてないわよね?


「ご主人様のために大蜘蛛を狩る。

 誰が一番多く狩れるか競争だ」


 最初は柴さんの話を不機嫌そうな顔をして聞いていたルゥだけど、理解したのか……最近ちょっと進化したのかしら?

 学習しないはずのAIなのに。

 柴さんの話を聞き終えたルゥは、少ししてグルルルル……ってまるで本性のフェンリルみたいな低い唸り声を上げる。

 それがまるで 「用意」 という合図みたいで、姿勢を低くして柴さんかムーさんが 「ドン!」 をいうのを待っているみたいに見える。

 ちょっと待って待ってルゥ。

 駄目よ、柴さんやムーさんに懐いたら。


 脳筋が伝染する(うつる)


 えっと脳菌?

 脳筋菌?

 あ、なんかこれは長くて嫌。

 いいや、面倒臭いから脳筋でいい。

 可愛いルゥがモッフモフからムッキムキになったら凄く嫌。

 絶対にやめて、わたしの可愛いルゥがー!!


「錯乱してやがる」

「なんか、凄く可哀相なんですけど?」

「そこ、天地無用な」

「あ、そうか」

「じゃ、始めるか」

「チビ助、スタートだ!」


 嗚呼、ルゥ!! ……ボロボロ泣きながら叫んで止めたのに、ルゥってばムーさんの合図で一番近くにいた大蜘蛛にいの一番に食らいつく。

 【幻獣】 のルゥは格下の種族 【妖獣】 が相手でも容赦なく、足や頭や腹をフェンリルの本性そのままに食い千切る。

 残念なAIを搭載してるルゥだけど、プレイヤー相手にはいつも加減をしているらしくこっちが本性。

 これでもまだパワー全開ではないと思うけれど、その残虐性に初めて見るアキヒトさんはビックリ。


「ちょっと柴さん、これと競争って、勝てないじゃん!」

「勝つんだよ」

「さっさと殴れ。

 横から殴って邪魔しろ」


 非道を堂々と口にするムーさんだけど、ルール無用の争奪戦といえばそうなんだけど、そんなことをすれば当然バックリよね。

 がーっ!! とか悲鳴を上げて、腕にルゥをぶら下げている。

 で、そのあいだにも柴さんがそこらの大蜘蛛を殴る殴る。

 呆気にとられながらも、アキヒトさんも一緒になって大蜘蛛を殴り出す。


「あ、これ楽しい!」

「そういやお前、エピは?

 大蜘蛛退治があっただろう?」


 ようやくルゥを引き剥がしたムーさんが言うのは、少し前に年少組がクリアしたエピソードクエスト 【大蜘蛛を退治しよう!】 のこと。

 そういえばアキヒトさんは結構長くお休みしていたって恭平さんが言っていたっけ?


 どうなの?


「あんなのとっくの昔にクリアした。

 昔過ぎて大蜘蛛叩くの久しぶり」


 それで楽しいらしい。

 確かにあのクエストは初歩中の初歩だもんね、とっくにクリアしてるか。

 ところで、アキヒトさんを見ていて疑問に思ったことが一つある。

 面白がって柴さんやムーさんと一緒に素手で大蜘蛛を殴ってるんだけど、たぶんSTRがモヤシ過ぎるんだと思うけど、全然ダメージが出ていないの。

 すぐ近くで大蜘蛛を食い千切っているルゥが優越感に浸ってみせるくらいのモヤシ。

 もちろん 【幻獣】 のルゥと比べるのは間違いだし、レベル30越えの脳筋コンビと比べるのも違うのはわかる。

 いやいやいや、そもそも違うのはそこじゃない。

 だってアキヒトさんって魔法使いよね?

 わたしと同じ攻撃型魔法使い(ソーサラー)よね?


 どうして素手で殴ってるの?


「……どうしてって……忘れてた」


 わたしの指摘に呆気にとられるアキヒトさん。

 つまりここにも脳筋感染者がいたってことね。

 ちょっと柴さん、ムーさん!

 これで殴る楽しさを覚えて、アキヒトさんまで剣士(アタッカー)転職(クラスチェンジ)なんて言い出したらどう責任とってくれるのよっ?


「責任とって指導してやるよ」

「手取り足取り」

「いや、断る。

 野郎に手取り足取りとか、鳥肌もの。

 転職(クラスチェンジ)するつもりないし」


 よかった。

 アキヒトさんの言葉を聞いて心底ホッとしたわ。

 結局わたしはクロウに抱えられたまま大蜘蛛狩りを終え、ナゴヤジョーに向かうことになる。

 その先頭を歩くのはルゥ。

 わたしたちプレイヤー一行を率いるように、得意気に前を歩いているの。

 ひょっとしたらさっきの大蜘蛛狩りの勝者のつもりかもしれない。

 誇らしげに顔を上げて歩いているの、短い足で。


 可愛い


 ところでクロウ、そろそろ下ろしてくれない?

 いい加減泣き止んだし、恥ずかしいから自分で歩く。


『そっちも終ったんだって?』


 不意にカニやんの声がインカムから割り込んでくる。

 カニやんはナツコさんと話し合うあいだギルドチャットを切っていたけれど、一緒に残った恭平さんは、何かあった時に備えてチャットをそのままにし、でも邪魔にならないように今の今まで黙っていたらしい。

 ちょっとちょっと、いまクロウにお願いしているところなんだから邪魔しないでよ。

 いっつもこういうタイミングで邪魔が入ってわたしの目的は阻止されるんだから。


『お姫様抱っこじゃないんだろ?

 そんなに恥ずかしいか?』


 なに、それ?

 いま何か、カニやんの口から恐ろしい言葉が出て来たような気がする。

 お、おひ……それ、これよりも恥ずかしいわよね?

 しかもクロウが何やらモゾッと動いたから、ヤバいと思ってクロウの首にしがみつく。

 待って待って、クロウも待って。

 大人しくしているから、お姫様は駄目、やめて。

 あれは顔を隠せなくてもっと恥ずかしいからこれでいい!


 これで我慢します!!


「それ、我慢するところ?」


 ん? 違うの?

 訊こうと思ってアキヒトさんを振り返ろうとしたら、またクロウに顔を肩に押しつけられた。

 しかもまた耳元で囁くのはやめて……


「大人しくしているんだろ?」


 …………ねぇ、これ、なんのゲーム?

 どんなゲームなの?

 結局このままナゴヤジョーまで連れて行かれてトール君たちにも見られるし。

 しかも心配されてしまった。


「グレイさん、体調悪いんですか?」


 違います。

 ようやくのことで下ろしてもらい、心配してくれるメンバーに大丈夫アピール。

 なにかが当たったような気がして見下ろした足下では、さっきまで見せていた残虐性などどこへやら。

 可愛らしくお座りをし、大きな目をキラキラさせながらわたしを見上げているルゥがいる。

 あ、そうか。

 ご褒美よね?

 うん、さっき一杯蜘蛛の糸を集めてくれたもの。

 ありがとう……ってわっしわっしモフっていたら、また手が増えてるじゃない。

 ちょっとカニやん!

 何度もいうけれど、勝手にわたしのルゥをモフらないで!!


「ちょっと今だけモフらせろ」


 あら、なんだか不機嫌ね。

 なにかあった?


「あったっていうか、なんていうか……」

「あのナツコって奴、結構手強くて」


 言い淀むカニやんに代わり、立ち会っていた恭平さんが簡潔に教えてくれる。

 わたしは一度泣いてすっきりしたけれど、また彼女の話を聞くとダメージを受けそうだから聞かないでおく。

 代わりに大役というか代役をしてくれたカニやんには、ちょびっとだけルゥをモフらせてあげる。

 ちょびっとだけよ! ……って念を押したのに、わたしが許可したとたんモフるどころか、ルゥにあ~んなことやこ~んなことをするの。


 やめたげてーっ!!

不甲斐ないご主人様を持つとルゥも大変です(汗

それでもご主人様だけが大好きなんですw

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