22【番外】 ギルドマスターは不機嫌
pv&ブクマ&評価、ありがとうございます!
いつもとは違う時間帯ですが、小話をお届けします。
「……聞いてた? ノーキー」
これはわたしとセブン君が、NPC武器屋をあとにしてからのこと。
もちろんクロウも一緒に出て行ったから、あとに残ったのは蝶々夫人ことマダム・バタフライ一人。
NPCの武器屋店員しかいない店内、くるくるに巻いた金の髪を払い、足を組み替えて悩殺ポーズを維持。
……見る人がいなくてもそうなのね、蝶々夫人って。
言う必要はないと思うけど、NPCは悩殺できないから。
一見そこに人がいるっぽく見るけれど、その武器屋の主人、NPCだから。
『聞いてたよぉ~ん』
わたしと違って全然そんな素振りを見せていなかった蝶々夫人だったけれど、やっぱり直通会話で主催者のノーキーさんと繋いでいたらしい。
いつもの締まりのない返事。
「よかった?」
『いんじゃね?
俺らが意見することじゃないだろ?』
「冷たいんじゃない?」
『なぁ~んで?
セブンの野郎が勝手に騒いだだけのことじゃねーか』
ノーキーさんの言うことももっともなんだけどね。
本当なら問題を起こしたのは 【素敵なお茶会】 なんだから、わたしたちだけで解決すべきこと。
ほんと、その通り。
『相変わらずあのむっつりスケベ野郎、グレイにべったりでやがんの』
「あんた、スレ読んだ?」
『最近目がかすれてさ』
「老眼!」
なんか余計なことも言ってるけどそこは放っておいて、目がかすれて細かい字が読めないなどというノーキーさんに、蝶々夫人の言葉は容赦がない。
いや、ま、わたしでも突っ込んでるけどね。
その前の戯言にも突っ込んでるけどね。
クロウはストーカーだけど、ノーキーさんみたいに触ってこないから!
でも実は、わたしがいる時は二人とも言わなかったんだけど、セブン君が腰を上げたのには理由があったの。
「三大ギルドだから偉そうに……とかって、飛び火してたのよ。
廃な 【鷹の目】 の連中が飛びついて、セブンちゃんも頭が痛かったみたい」
『なぁ~んでぃ。
あのオカマ、グレイの前じゃそんなこと一っ言も言わなかったじゃねぇーか。
汚ねぇーなー』
多分そうじゃないと思う、
他のギルドにも飛び火してるなんてわたしが知ったら、当分浮上しないくらい落ち込むわ。
今でも十分落ち込んでるんだけどね。
セブン君はその辺を心配してくれたんじゃないかな?
あ、もちろん蝶々夫人もね。
『だったらいっそ、【鷹の目】 がスレ乗っ取りゃよかったじゃねーか。
あいつら、そんじょそこらの奴らにゃ負けねーし。
廃だから二四時間対応だしな』
「あんた、解決する気ないでしょ」
『いやぁ~あるぜ。
お前だってわかってただろうが?
いっち番簡単な解決方法』
「なによ?」
麗しい眉根を潜める蝶々夫人に、ノーキーさんは爆弾を投下する。
いや、ま、その、ノーキーさんらしいと言えばノーキーさんらしいのよ。
でもノーキーさんだからね……
『俺がクロウの記録を塗り替えりゃいいじゃねーか』
「は?」
『そうすりゃ集中砲火浴びるのは 【特許庁】。
お前らの望みどおり、グレイは解放されっぞ』
「はぁ~?」
『それとも何か?
俺がクロウの記録を抜けねぇ―とか、舐めたこと思ってねぇだろうな?』
……ぶっ飛んでるわよね。
誰もその発想はなかったわ。
確かに、クロウと張り合う剣士三つ巴の一人だもの、ノーキーさんも。
やれば出来るかもね。
でも根本的に考え方が間違ってると思う。
さすがに蝶々夫人も開いた口が塞がらないって感じだったんだけど、あまりにもノーキーさんが自信満々なものだから、本当にやりかねないと思ったのかしら?
あ、心配はしてないだろうけれど、我慢も仕切れなかったみたい。
「舐めてんのはお前じゃー!
いっぺん死んで来いや、このクソ野郎がー!!
今いる場所から動くなよ!
動いたらぶっ殺すからな!」
このあと蝶々夫人が、サブマス権限を発動させたかどうかはわからないけど 【特許庁】 総出で主催者捜索が行われ、蝶々夫人に捕まったノーキーさんはウィンドウを使われ……本人以外にも使えるなんて知らなかった……例の運営メッセージの転載、及びコメントを出さされることになったらしい。
つまり 【特許庁】 メンバー公認で主催者を矢面に立てるっていうね。
いつでも剣でぶった斬り。
そんな単純明快さが大好きなノーキーさんにはだいぶん応えたみたい、こういうのは。
さすが蝶々夫人、わたしも見習いたい。
でもこのせいで 【特許庁】 もだいぶん批判を浴びたんだけど……うん、まぁ結構余計なコメントがあったし、しかもすっごい挑発的だった気もする。
でもね、それが全然平気っていうメンバー揃いの 【特許庁】 って、メンタル最強じゃない?
個性も十分強すぎるんだけどね……