218 ギルドマスターは六人目と会います
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恭平さんもよく覚えていないけれど、おそらくアキヒトさんのレベルは30前。
ということは0の壁越えのお手伝いとか、まだまだ色々と手伝えることがありそう……なんて呑気なことを言っていたら、脳筋コンビが会話に割り込んできた。
てっきりまたルゥにバックリいかれたのかと思ったら……確かにバックリいかれてたんだけど、ただバックリしたルゥがぶら下がっていたのは脳筋コンビの手じゃなくてゆりこさんっていうね……あわわわわわわわ!
駄目よルゥ、今すぐ放しなさい!
その人は駄目!!
絶対駄目なのよ……って止めても後の祭り。
怒られました。
「グレイさん、ちょっと躾がなってないみたいね、この犬」
すいません、申し訳ありません。
みんなに呆れられながらもルゥを両手に抱いて平謝りするんだけど、全然反省しないルゥがまた腕の中でモゾモゾと……なに?
わたし、いま凄く忙しいの。
もうしばらく大人しくしていてってお願いするんだけど、相変わらず空気を読まないルゥは自分の興味の赴くまま。
わたしのお願いなんて無視して腕の中からモゾモゾと這い出したと思ったら、今度は花火じゃなくてわたしの髪にじゃれだした。
またそれっ?!
やめてやめてルゥ、痛いから駄目!
前にもルゥに髪にじゃれつかれて、爪とかに絡んじゃって大変なことになった。
あの時のことを思い出してわたしは慌てるんだけど、いつも気づいた時には手遅れ。
今回も手遅れで、目一杯伸ばしたちっちゃな爪にわたしの髪が絡む。
だからやめてっていったのに、ルゥってば全然聞いてくれないんだもの。
しかも引っ掛かってるって気づいたら、慌てたルゥは力一杯引っ張って……毟るつもり?
これ、解こうとしてるんじゃなくて、絶対に毟ろうとしてるわよねっ?
は……禿げるからやめて!!
痛い痛い痛い、やめてってば……あまりにも痛くて涙が出てきた。
もう、なんなのよルゥってば。
さっきまでご機嫌に花火で遊んでもらっていたじゃない。
さっきまで怒っていたゆりこさんも、突然痛がるわたしに驚いたと思ったら 「あらあらあら」 と呑気な声を上げている。
「おチビちゃん、駄目よ」
そういって脳筋コンビにルゥをの前足を抑えさせ……片足ずつガッツリ握る感じに抑えさせてるの。
もちろん怒ったルゥはグルグル唸って鼻に皺を寄せるんだけど……その顔、ちょっと怖いからやめて。
ほんとに痛くて目に涙が浮かんじゃったんだけど……あ、こぼれた。
「お前、ご主人様泣かすなよ」
「チビのくせに、最強魔女より強いとか」
「そこは 【幻獣】 だからな」
「そういやこのチビ 【幻獣】 だっけ?」
「だな」
「ちょっと二人とも、黙って抑えていなさい」
「うぃっす」
「おっかねー聖女だな」
やっとの事でゆりこさんが解いてくれたと思ったら、またルゥがじゃれつこうとする。
慌ててルゥを自分の体から引き離そうとしたら、急に誰かが後ろに立ってわたしの髪を一つに束ねてくれるの。
頭の上で吐かれるこの溜息って……クロウよね?
チラリと横目で見たらクロウの手がわたしの髪を束ねて持って、ルゥから遠ざけてくれている。
でも諦められないルゥはガッシガッシと力強く肩にまでよじ登るんだけど、残念なことにわたしの肩はルゥの足場になるほど肉厚じゃなくて足を滑らせて落っこちた。
残念すぎる
本当にルゥってば残念すぎる子なんだけど、馬鹿な子ほど可愛いともいうのよね。
砂浜に落っこちたルゥは、それでも頑張ってぴょこぴょこ跳ねてわたしの髪にじゃれつこうとするの。
落ち方は無様だったけど着地は綺麗で百点満点。
でもそのあとはまた残念なんだけど、可愛いから許す。
「長い髪が好きなのかしら?」
そう言ってゆりこさんも自分の長い黒髪でルゥをからかおうとするんだけど、なぜかルゥは見向きもしないの。
あ、一瞬は見たんだけど、すぐさまぷいっとしちゃって興味なし。
またわたしの髪にじゃれつこうとする。
いつものルゥならすぐ目新しいものに興味がいっちゃうんだけど、全然ゆりこさんの髪には興味を示さないの。
どうして?
疑問に思ってゆりこさんや脳筋コンビと首を傾げていたら、わたしの髪を束ねて持ったままのクロウが言うの。
「グレイの髪は花火の色が映る。
それが面白かったんじゃないか?」
ゆりこさんの髪は黒だけど、わたしの髪は白いから……なるほど。
何気なく確かめてみようと手を首の後ろに回したら、クロウの手に……さ、触っちゃった、ごめん。
「いや」
わざわざ見せてくれなくても自分で出来るんだけど……うん、確かにちょっと花火の色が映ってるかも。
とりあえずクロウ、髪を放してってお願いしたら、クロウってばわざわざインカムをしていないほうの耳元でこそっと呟くの。
「なかなか綺麗なうなじだな」
ひーっっ!!
思わず悲鳴を上げてクロウから離れようとしたら、足下でぴょこぴょこしていたルゥに蹴躓くとか……泣く。
「もうしっかり泣いてるよ。
クロウさんもそれ、セクハラギリのラインだから」
「アウトじゃね?」
「それ、口説き文句か?」
結局わたしは転けずに済んだんだけど、助けてくれたクロウに抱えられた状態で、カニやんと脳筋コンビの意味不明の話を聞くはめに。
「気をつける」
うん? クロウが何に気をつけるの?
あ、説明してくれるなら、その前にとりあえず立たせて。
この前傾姿勢で支えられるのはちょっと辛い。
しかもルゥがまだわたしの髪を狙ってぴょこぴょこしてるから、このままだとまた絡まれる。
わたしたちが……主にわたしがルゥに振り回されているあいだにも恭平さんはアキヒトさんにメッセージを送っていたらしい。
そんなまどろっこしいことはやめて、もうイベントは終ったんだし手っ取り早く勧誘したら?
合流できるなら、今からでも花火に参加してもらってメンバーに紹介……の前に、まずはわたしがご挨拶したいし……ということで自分のウィンドウを開いたわたしは、それこそ手っ取り早く自分で勧誘を試みたんだけど、開いたギルド機能のウィンドウに 『勧誘』 のボタンがない。
どういうこと?
「イベント期間中っていうより今日中は無理なんじゃね?
23時59分59秒までアウトだと思う」
なに、そのカニやんらしい細かい設定は?
「俺が設定してるんじゃねーよ」
「日付の変更でデータ更新するだろうから、その時に機能解除するんじゃないかな?」
実はわたしにいわれるまでもなく、すでにカニやんに頼んで勧誘を試みた恭平さん。
でも出来なかったからメッセージを送ったらしい。
もちろんすぐに勧誘できない理由も添えてね。
そのへんはぬかりないわよ。
次の日は平日だったから、わたしたち社会人組のほとんどがログインできたのは夜の20時以降。
わたしがログインした時にはまだクロウはいなかったんだけど、カニやんとクロエがいたから二人のどちらかが承認したんだと思う。
すでにギルドメンバーが一人増えていて、ログイン挨拶をしようと思ってインカムに耳を澄ませてみたら聞き慣れない声が混ざっていた。
この声がアキヒトさんかな?
脳筋コンビやカニやんなんかと、まるで以前からの知り合いだったみたいに仲良く話している。
このあとギルドルームに戻ってきてもらって直接アキヒトさんと対面したんだけど、また背が高いの。
とりあえずそばに立たれるのが嫌で一歩下がったらクロウとぶつかった。
こっちはもっと背が高いのにすぐそばに立ってるんだけどね。
腹が立つ……
もちろん口に出して言ったりしないわよ。
でも顔には出ていたらしく、カニやんに 「美人が台無しだな」 とか言われた。
アキヒトさんはわたしと同じくらいの年齢のプレイヤーで、カニやんやの~りんみたいないかにも魔法使いらしい装備ではなく、少し軽装かな?
マントというよりハーフコートっぽい上着に、ハーフパンツにショートブーツっていうのはちょっと剣士っぽい。
杖も警棒みたいな短いものを使っていて、移動時には腰に差しているから余計に剣士っぽく見える。
「装備ね、動きやすさを重視したらこんな感じになったんです。
普段はスーツなんで、オフくらい別にいいかなと思って」
普段はスーツを着ているってことは、やっぱり会社員かな?
うん、全然大丈夫。
わたしも現実逃避丸出しのチャイナドレスだから。
「ご挨拶が遅くなってごめんなさい。
【素敵なお茶会】 を主催しているアールグレイです。
初めまして」
「こちらこそ初めまして、アキヒトです。
美人って噂は前々から聞いてたけど、想像してたのとは違うな」
どんな想像してたのよ?
「最強ギルドのギルマスだから、もっとお高くとまってるのを想像してた。
美人っていうのも噂で、盛ってるんじゃないかとか」
この程度で美人っていうのもどうかと思うんだけど、わたし、あまり噂には詳しくないの。
だから自分がどんな噂をされているかなんて全然知らないし……灰色の魔女って呼ばれているくらいのことは知ってるけど、情報操作なんて器用なこと、出来るはずないじゃない。
「詳細は恭平から聞いてると思いますが、面倒になるようなら切ってもらって全然平気ですから」
それはしない。
もちろんアキヒトさん自身が面倒を起こすなら別だけど、シシリーさんや 【シシリーの花園】 から粉を掛けてくることについては今更だから、アキヒトさん一人強制退会にしたところで解決しないし。
「あいつも執念深いから」
そういうアキヒトさんも、シシリーさんに仕返しをする機会を狙っていると聞いてるけど?
「ぶっ殺す」
じゃあなにかの時にシシリーさんや 【シシリーの花園】 の妨害が入った時は、アキヒトさんにお任せするわ。
煮るなり焼くなり好きにしてもいいけれど、必ずぶっ飛ばしてね。
負けたら許さないから。
「さすが最強ギルドのマスター、ハードル上げてきますね。
でも、本当によかったんですか?
俺を入れて」
いいも悪いもないわよ、もう加入しちゃったし。
「ここしばらく、二人ほど退会してるしね」
カニやんったら、それを言わないでくれる?
わたしだって気にしてるんだから。
しかも、よりによって退会したのが女の子ばっかり。
残ったのは、見掛けは男前なんだけど中身はオッサンとかオッサンとかオッサンばっかりで……女の子が欲しい。
わたしなりに潤いというか、華が欲しくて女の子に入って欲しいと言い続けてるんだけど、勘違いされてネカマを疑われるっていうね。
でもアキヒトさんもなかなか面白い人みたい。
わたしやカニやんの話を聞いてこんなことを言い出したの。
「……ひょっとして俺、女装したほうがいい?」
どうしてそうなるわけ?
次話は 【番外】運営の人々 の予定です。
イベント終了後の運営の様子をお届けする予定です。