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213 ギルドマスターはルゥと水浴びをします

pv&ブクマ&評価&感想&誤字報告、ありがとうございます!!

 二週間に及ぶ期間限定イベント 【treasure ship】 はプレイヤー(わたしたち)の勝利に終り、ナゴヤドームの平和は守られた……っていうストーリーじゃなかったっけ?


「違う」


 いつものことだけど、突っ込みをありがとうカニやん。

 でもイベント全体を見れば合っていると思う。

 【Gの逆襲】 でGにナゴヤドームを攻められたし、今日の最終戦でもナゴヤドームを攻められた……というか、開戦前には侵入を許してたけど。

 本当にここの運営は演出過剰で用意周到。

 その頭の良さには本当に脱帽もの。

 しかもこのあとでまたやってくれるんだけど、それはまた後の話。

 今回はイベントの内容的に表彰式はなく、いつものインタビュー熊の出番もなし。

 そういえばあの熊についての~りんがぼそっと呟いていたんだけど


「あの熊さ、出てくるたびにちょっとずつ手直ししてるよね」


 ……そうなの?

 プレイヤーに気づかれないくらい微々たる変更なんて、してもしなくても同じじゃない。

 そういうのは気づいてもらってナンボのもんでしょう? ……って突っ込んだら、カニやんに突っ込み返された。


「グレイさん、ちょっと思考が 【特許庁】 化してるよ」


 …………なぜか冷汗が出た。

 そ、そう?

 気をつけるわ。


 ヤバい……


 よりによって思考が 【特許庁】 化なんてしたら目立っちゃうじゃない。

 絶対に嫌!

 むしろ日々、目立たないようにこっそりひっそりゲームを楽しんでるんだけど?

 そのつもりなんだけど?

 わたしは 【素敵なお茶会(ギルドのメンバー)】 で楽しく遊べればそれで十分なの。

 目立たなくていいの……というか、目立ちたくない。


「それ、今更でしょ?」


 どこが?

 どうして今更なのっ?


「だって最初の頃から 【素敵なお茶会(おちゃかい)】 にグレイありって感じだったじゃん」


 そんなの知らない……。

 熊もね、どうせ改良するんだったらもっと可愛くすればいいのに。

 登録してからのアバター変更なんて、運営の特権だし。


「無理矢理誤魔化してやんの。

 顔、真っ赤」


 わかってるから、いちいち言わないでよ。

 それもわざわざわたしを見てにひって笑いながら。

 団体戦(ギルド戦)では、わたしが目指していた6位入賞を上回る4位入賞!

 上々の成績じゃない。

 団体戦(ギルド戦)の賞品は主催者が申請する決まりだから、わたしもウィンドウを使って手続きを終了。

 目的どおりギルドボーナスにSTRをもらった。

 次はAGIかVITをもらいたいわね。

 個人戦でもみんな結構いい成績だったらしく、それぞれに賞品をもらったらしい。

 ん? わたし? ……そういえば何位だったのかしら?

 団体戦(ギルド戦)ばかり気になっていたから自分のことは忘れていたわ。


『グレイさん、2位ですよぉ~。

 おめでとうございまぁ~す』


 結局このイベント中、ギルドルームから出てくることのなかったマメがインカムの向こうから教えてくれる。

 今もギルドルームにいるらしい。

 ん? 2位? わたしが? なんで?

 次々に浮かぶのは疑問ばかり。

 だってみんな、そこまでの順位じゃないわよね?

 基本的にみんな一緒に潜っていたんだから、金貨の取得枚数は似たようなものなんじゃないの?

 どうしてわたしだけがそんな順位にいるのよ?


 おかしくない?


「あ、それさ、貝のこと、覚えてる?」


 個人順位(ランキング)の話をしていたのに、カニやんが唐突に貝のことを言い出すから全然思い出せない。

 カニやんこそいきなり話を変えないでくれるって思ったら、ちゃんとつながっていたっていうね。


「いや、あの貝の中って個人闘技場みたいになってたらしくて、引っ張り込まれた奴は無理矢理骸骨と対戦させられたらしい」


 ここまでを聞いて、ようやくあの浜に落ちていた貝のことだって思い出した。

 そういえばバックリ食べられたルゥが中で暴れてたっけ。

 つまりルゥは、中で骸骨と対戦してたってこと?

 それで勝てば金貨がもらえると……そんでもってルゥの取得ドロップや経験値は全てわたしに流れてくるから、わたしの金貨が増えた、と……。

 ちなみに骸骨に負けると死体置き場に強制送致されるらしい。

 でもナゴヤドームには、水着と通常装備の換装を面倒くさがったプレイヤーの多くが水着のままでウロウロしていたから、死体置き場から水着装備で出て来ても目立たずに済んだらしい。

 骸骨の弱点は物理攻撃のままだったから、ほぼ魔法使いは全滅。

 その恨み節が公式サイトの掲示板にツラツラと書き連ねられているらしい。

 こ、これについては運営も真摯に聞いて上げて欲しい。

 でもルゥってば、そんなに貝にバックリやられていたっけ?

 せいぜい二、三回だったと思うんだけど……でもルゥを褒めておく。


 おいでぇ~


 イベントの間中腕輪に格納されていたルゥは、さっき外に出してあげたらいつものように張り切ってフンフンフンフンしながら周囲の散策をはじめた。

 ここはいつものナゴヤドーム内なんだけどね。

 それもいつもの中央広場の噴水側。

 でもルゥの興味は尽きないらしくフンフンと臭いを嗅ぎながら探索をしていたんだけど、わたしが声を掛けると物凄い速さで戻ってくる。

 何度見ても凄いわよね、あの短い足でこの速さ。

 あっと言う間に戻ってきたんだけど、うっかり油断をしてしまい久々にルゥの頭突きを顎に食らってしまった。


 はうっ!!


 受け止め損ねたルゥと一緒に、そのまま後ろの噴水に頭を突っ込む。

 その水音で広場にいたプレイヤーが一斉にわたしを見るとか……これ、どんな羞恥プレイ?

 でもわたしってば顎が痛くて痛くて、起き上がるのを忘れて水の中で顎を押さえて藻掻く。


 あ、顎がぁぁぁぁ……


 しかも一緒に水に落ちたルゥは、やっぱりなにか勘違いしているらしく、わたしの真似をして悶える振りをして転がり、噴水の中を一周してくるとか……楽しそうね……。

 一周して戻ってきたルゥは、両手で顎を押さえて悶えるわたしの側頭部にぶつかって、今度は逆回転。

 水の中にいたわたしはそれどころじゃなくて知らなかったけれど、噴水の中を転がるルゥの勢いで噴水の水が凄いことになっていたらしい。

 そのせいでカニやんがわたしを救出するのが遅れてしまったのは、本当かどうかはわからない。

 でも実際にカニやんの手を借りて噴水から出てみれば、噴水の水は減っていて周囲が水浸し。

 残っている水も激しく波打っていた。


「ねぇカニやん、わたしの顎、ちゃんとある?」


 見てって言ったのに、カニやんってばわざわざそっぽを向くの。


「はいはい、あります。

 今日も美人ですよ」


 本当にある?

 物凄く痛いんだけど?

 久々だったせいか、今までで一番痛いような気がするの。

 顎、半分くらい砕けてなくなってそうな気がするの。


『そんなことあるわけないでしょ。

 だいたいクロウさんがいない時になにやってるの?』


 そのクロウを含めた何名かと一緒に、NPC武器屋に銃弾の補充に向かったクロエの声がインカムから聞こえてくる。

 イベントが終了して一度解散したんだけど、時間があるメンバーだけで久しぶりにナゴヤジョーに潜ろうという話になって、銃士(ガンナー)は当然銃弾の補充なんだけど、剣士(アタッカー)連中はなにか縛りゲームをするらしい。

 それでNPC武器屋に行ったってことは、たぶん通常装備の武器を使わないっていう縛りかな?

 シャチ金はちょっと無理だけど、レベル的にシャチ銀までなら好きに遊んで全然大丈夫なメンバー。

 だから好きにしてくれていいんだけど……そういえば恭平さんはなにか用事があるといって不参加。

 いよいよ脱退宣言されるのかしら、わたし。

 夜に企画している花火大会はとっても楽しみなんだけど、その最中に宣言されたらどうしよう?

 よし、花火大会の最中は恭平さんから逃げ回ろう。

 そんなことを考えつつ、わたしに遅れて水から自力で上がってきたルゥにご褒美をあげるべく、その癖っ毛をモフる。

 もう頭を撫でてあげるなんて可愛いもんじゃないわ、全身モフモフよ。

 いよいよ恭平さんが脱退してしまうって考えると落ち着かなくて、震えてくる手でルゥをモフる…………っていうか、モフ毛の洗濯っぽいことになっていた。

 なんかこう……両手でもみ洗い?

 いや、これは押し洗いか?

 普段から家事なんてしないわたしにはよくわからないんだけど、(はた)で見ているカニやんやの~りんの目にも、一心不乱にルゥを押し洗いしているように見えたらしい。

 しかもそれを痛がらないところはさすが 【幻獣(ルゥ)】。

 魔法使い(モヤシ)のSTRなんて屁とも思わず、感じず、身をよじりながらもきゅ~きゅ~と嬉しそうな声を上げていた。

 このあと予定どおり何周かシャチ銀とシャチ銅に分かれて潜り、早めに夕食タイムで解散。

 わたしも一度ログアウトして休憩。

 早めに戻ってくると、事前に連絡をもらっていたプレイヤーやギルドに花火を分ける。

 公式サイトの書き込みでわたしたちが企画した花火大会は多くの参加希望者を集めたんだけど、中には参加できないプレイヤーもいて、使わない花火を譲ってくれるの。

 そうして集まった花火がわたしのポストには一杯で、顔の広いカニやんや脳筋コンビたちのポストにも送りつけがあったらしい。


 匿名は不可


 ゲームのシステム上、ポストには送信元のプレイヤー名が絶対に表示される。

 だからイベントが終ったら、公式サイトの掲示板を使って協力してくれたプレイヤーたちへのお礼を書き込もうと思う。

 でもわたしたちだけで消費するのは絶対に無理な量だから、こうやって取得数の少ないプレイヤーたちに分けることにしたんだけど、まだまだ全然余っている。

 全く参加していないマメやりりか様、ほぼ参加していない恭平さんなんかにも沢山渡したんだけど、全然減らないのよ。

 本当に、このゲームのプレイヤーはみんないい人ばっかりなんだから。


「まだまだ残ってるのは、浜で押しつけていこう」


 イベントは終ったけれど、期間限定エリア 【海】 はまだ健在で入ることが出来る。

 入場は水着装備でのみっていうのも健在ね。

 まぁ戦闘はしないからもういいけど、水着にも少し慣れたつもりだったけど、知らない人とこの格好で話すのはちょっとやっぱり恥ずかしい。

 でもカニやんが言うの。


「手持ちがなくなった人に分けてやって欲しいって、適当に配っておこうぜ」


 そのために見知らぬプレイヤーに話しかけなきゃならないって……クロウとルゥが一緒にいてくれるんだけど、この一人と一匹は喋らないのよ。

 だからわたしが一人で喋らなきゃならないの。

 ただ話すだけなら全然平気なのに、営業活動でも鍛えたのに……装備が変わるだけでこんなに恥ずかしいものだなんて思わなかった。

 それでも頑張った甲斐があって半分くらいには減らせたと思う。

 あとは遊びながら配るわ。


 そろそろ時間だし


 ログアウトしていた 【素敵なお茶会】 のメンバーたちも再ログインしてきて、海辺に集まり出す。

 その中に恭平さんもいたんだけど、やっぱり何か様子がおかしい。

 こう……わたしみたいにそわそわしちゃって、絶対にわたしと目を合わせないの。

 さっきのナゴヤジョーに参戦しなかったことといい、最初の頃の恭平さんを思い出すわ、これ。


 やっぱり脱退?


 日没を眺めながらそわそわと夜時間を待つわたしと違い、企画に参加してくれた多くのプレイヤーたちで海辺は大盛況。

 凄く賑やかで、楽しみにしていてくれているのがわかる。

 そんなわたしたちの前に現われたのは…………あれ、熊よね?


 例の熊


 の~りんが 「少しずつ手を加えてるよね」 といっていたいつものインタビュー熊。

 あれが夕闇を背に、小舟に乗って海上に現われたの。

 つまり逆光になっていてシルエットしか見えなくて、それでも特徴的な熊はわかったんだけど、もう一人は完全にシルエットだけ。

 暗くて見えなくて、思わず目を眇めて人相を悪くしちゃったわよ。

 でも見えないんだけどね。

 そもそも今回のイベントでは表彰式がないからインタビュー熊の出番はないはず。


 なにしに来たの?


 ざわめくプレイヤーたちの注目を集める中、小舟にランタンが(とも)ってその姿を浮かび上がらせたのは水着姿の小林さん……たぶん間違いないと思う。

 その小林さんの少し後ろでオールを持って漕ぐのは、シルエットだけでもわかったけれど、やっぱり熊の着ぐるみ。

 しかもその手にオールを持って船を漕いでいるところからも推測して、『中の人』 は運営の中でも下っ端だと思われる。

 なにを企んでいるのかは知らないけれど、突拍子もない上司に付き合わされて大変ね。

 不意に小林さんが立ち上がると船が大きく揺れ、落ちそうになる小林さんの足を慌てて熊が押さえ込む。

 きっとここで小林さん(上司)が海に落ちたら減給されちゃうのね、可哀相に。

 でもそれが下っ端の運命なのよ、よくわかるわ。

 わたしも下っ端だから。

 幸いにしてわたしの上司は小林さんみたいな無茶振りしないけどね。

 逆に、仮想現実(ここ)ではわたしが上司に無茶振りしてるけどね。

 ところで二人とも……いや、この場合も一人と一匹というべき?

 うん、それについてはまた今度確かめるとして、二人はなにをしに来たの? ……と思って首を傾げて見ていたら、立ち上がった小林さんが両手を上げて海岸に集まったプレイヤーたちに呼びかけた。


「レディースアーンドジェントルメーン!」


 あら? いつものテンプレじゃないの?

 テンプレ言わなくてもいいの?

運営はまだまだやるつもりらしいですw

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