207 ギルドマスターはフライドポテトを食べます
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骸骨の沸きに導かれるように進んでいけば、恭平さんの予想通りひらけた対戦場所に出る。
途中、何度かコースアウトしたノーキーさんと、そのノーキーさんに金魚のフンよろしく無条件にくっついていくバロームさんは、その都度不破さんが回収……といっても声を掛けるだけなんだけどね。
それも結構酷い言葉を。
でも他の 【特許庁】 のメンバーは知らん顔。
慌てて戻ってくるノーキーさんを、不破さんばりの酷い言葉でお迎えするの。
ほんと、【特許庁】 ってよくわからないんだけど、とりあえず一人の脱落者も迷子も出さずに到着出来た。
一応お礼を言っておいたほうがいい?
「終ってからでいいんじゃね?」
そ、そうね……じゃ、あとはよろしく。
わたしはちょっと休憩するわ……とあとをカニやんに託してかがみ込めば、すぐ隣でバロームさんが床に両手を着いてわたし以上にへばっている。
まぁそうなるわよね、あの速さでノーキーさんを追いかけ続ければ。
しかもここに到着するまでに、ノーキーさんが道を間違えたのは一度や二度じゃないもの。
この先もまだこれを続ければ、バロームさんは脱落するかも……。
どうしよう?
「グレイさんが悩むところじゃないだろ?」
え? そうなの?
「そこは蝶々夫人にでも任せれば?
本当ならノーキーさんが考慮するところだけど、無理だし。
でも 【特許庁】 の問題」
うん、ノーキーさんにお任せするのは無理ね。
そもそもバロームさんを引っ張り回して疲弊させている原因じゃない。
なにかしら考えてあげるのなら、脇道に逸れるのをやめればいい。
それだけで解決する問題なんだから。
「それは無理ね」
走ってすっかり乱れた髪を直しながら、それでも悩殺ポーズを決め忘れない蝶々夫人。
ここまで来たらプロ並みのど根性ね。
「バロームも、このくらいでへばってちゃノーキーには追いつけないわよ」
あ、やっぱりそっちに向いちゃうんだ。
ちゅるんさんを信頼するポイントといい、やっぱり蝶々夫人もどこかズレてる 【特許庁】 メンバー。
しかもバロームさんはこれを叱咤激励と受け取り、「頑張ります!」 と息も切れ切れに返すとか……とりあえず休憩して、死んじゃいそうだから。
まだまだ先は長いから。
そもそもノーキーさんに追いつく必要はないと思う。
だってバロームさんはノーキーさんに振り向いてもらいたいんじゃないの?
追いついて、追い抜きたいの?
どう考えても追いついた勢いで追い抜いて行っちゃいそうなんだけど。
でもね、追い抜いたところで振り返っても、後ろにノーキーさんはいないと思うの。
だって我が道を行く人だもの。
誰かの後ろを大人しくついていく人じゃないわ。
だから追いつかなくていいと思う。
ノーキーさんには前を走ってもらって、振り向いてもらって!
「なかなか面白い恋愛談話だな」
あら、珍しいところでクロウが入ってきた……と思ったら怒られた。
飛んできた輪切りポテトが……もちろん料理長の攻撃よ。
料理長の攻撃にある輪切りポテトの投擲がこっちに飛んできていたのにも気づかないうっかりじゃ、怒られるのも当然か。
ごめん
剣士は十分すぎるほど人数がいて、しかも目立つの大好き 【特許庁】 の剣士の数が多くて出番のないクロウ。
骸骨たちじゃないけれど、【特許庁】 のメンバーも少し我先にと思いやりを忘れて暴走するところがあって……凄くあって、ノーキーさんを筆頭に料理長を叩きたい放題。
なぜかそれに参加せず当たり前のように蝶々夫人の隣に立っている不破さんなんて、それを見て言うの。
「馬鹿どもが、せいぜい頑張れ」
…………ちょっと怖い。
バロームさんは酷薄と不破さんのことを表現したけれど、これはちょっと違うような気がする。
しかもやりたい放題の剣士たちは、なにを考えたのかの~りんに飛んでくる輪切りのポテトを中途半端に焼かせたりしてる。
でも焼き切らないと駄目らしく、慌てて逃げるの~りんを笑ったりして……ちょっと、なにやってるのよっ!
柴さんやムーさんまで一緒になって!!
「いや、フライドポテトが出来るか試してみた」
「旨そうに焼いてみろっていったのに、下手くそ」
「加減が難しいんだって」
そうじゃないでしょ!
しかもの~りんまで一緒になって……最終戦に来てなにしてるのよ、みんな。
「いや、最後だから」
「これで終わりだから」
………………あ、そうか。
なるほど。
この最終戦が終れば 【treasure ship】 には潜れなくなるんだっけ。
期間限定エリア 【海】 はもうしばらくあるけれど、沈没船は撤去されるか、ただの置物に変わってしまうか。
いずれにせよ潜ることは出来なくなり、船長を含めた六体の 【幻獣】 とはさようなら。
だから悔いが残らないよう疑問に思ったことを試してるっていうんだけれど……うん、そこまではちょっと理解出来るんだけど、でもだからってフライドポテト作りは違うと思う。
何度もいうけど、食べ物を粗末にしないで!
「それも違うけどな」
「元々食えねぇーし」
「実はグレイさん、食い意地張ってる?」
最後にはの~りんに食いしん坊扱いされたんだけど、これにはカニやんが反論してくれた。
「この腹のどこに入るんだよ?」
…………それも違う。
しかもみんなでわたしのお腹を見ないでよ! ……っていったら揃いも揃って顔を見るとか、もうなんなのよ、これっ?
「安心して、今日も美人だから」
「綺麗だぞ」
「うんうん、美人」
「もうちょっと食べたほうがいいんじゃない?」
ほんと、なんなのっ?
しかもの~りんってば、まだ食いしん坊ネタから離れてくれないし。
とりあえず恥ずかしいから隠れるようにクロウにしがみついておく。
わたしなんて見なくていいから、さっさと料理長を落としてよ!
「お、女王から命令が来た」
「来た来た。
落とすベ」
最近このノリが多い二人は、【特許庁】 の暴走に少しばかり引き気味に休憩していたノギさんを誘い、あっという間に料理長を落としてくれる。
うん、二人が出来る剣士だってことは知ってる。
凄くよく知ってる。
だから疑問が解消されたら次からはさっさと落としてね。
ようやくのことで 【treasure ship2】 の料理長を片付けたわたしたちは、開かれた出口から再び船内通路を、隊列を組んで走る……んだけど、何かおかしい。
なにがおかしいかっていうと、わたしの気のせいでなければこれ、来た道を戻ってない?
料理長との対戦は通常イベントと同じ台所兼食堂で行われたんだけれど、入り口と出口は別で間違えようがない。
でも途中から、さっき来た道を戻っているような気がしてきたの。
ひょっとして、一度止まって状況を確認したほうがいい?
「あ~?」
不安を隠せないわたしを威嚇するようなノギさん。
声を怖いけど顔も怖い。
さっきは 【特許庁】 のメンバーが好き勝手しちゃって、次はノギさんが決めていいからその怖い顔をやめて。
ついついまたクロウにしがみついたら……まだ後ろにも殿のメンバーがいるんだけれど、危ないから下がりすぎるなとクロウに怒られる。
じゃああのノギさんの怖い顔をなんとかして。
「怖いって言ってやるなよ」
「そうそう、元からこんな顔なんだよ」
人の顔を怖いっていうわたしも失礼だけど、脳筋コンビのそのフォローも十分失礼だと思う。
しかも苦虫を噛み潰したような顔をしているノギさんを見てノーキーさんが大笑い。
そのノーキーさんを見てバロームさんが頬を赤らめてるって……これ、どんな混沌?
落ち着け、わたし!
うん、ちょっと落ち着きましょう。
ノーキーさんってば大笑いしてるけど、ノギさんだって十分格好いいんだからね。
そ、そうだ! ねぇバロームさん、ノギさんなんてどう?
強いし格好いいし……ちょっと怖いけど……そもそもわたしはどうしてノギさんに威嚇されてるんだっけ?
「ごめん、ノギさん。
グレイさん、いつもこんな感じだから」
「お前らもよくフォローするな」
「苦労してます」
「で、なんだって?」
うん、ノギさんだってわかってないじゃない。
わたしのことばっかり言わないでよ。
順路がおかしいって話でしょっ?
いま思い出した。
「そりゃよかった」
シラーッとした顔で応えてくれたカニやんは、ノギさんや恭平さんに確かめる。
「骸骨の沸きは合ってるんだな?」
「ああ」
「間違いなく沸いてる方に向かってる」
「オッケ。
んじゃ行こう」
え? ちょっと待って。
でもおかしいって、このままじゃ甲板に出ちゃうわよ、また。
「それはいいんだよ」
どうしてよ?
走り出すみんなに合わせ、わたしも、ほとんどクロウに引き摺られるように隊列に倣う。
でも納得出来ないというか、不安でカニやんに食らいつく。
「つぎは 3 だろう?」
うん、そうよ。
「3 は誰?」
えっと 【treasure ship3】 は確か操舵手よね。
「操舵手は甲板だろ?
だから甲板に向かって正解」
あぁ! そうだった!
順番どおりに倒していくのが正解の順路だとして、【treasure ship2】 の料理長を倒したわたしたちが 【treasure ship3】 の操舵手を目指すのは正解で、操舵手がいるのは甲板。
だから甲板に向かうのは正解なんだけど、いっそ甲板長を倒したあとに操舵手も出て来てくれたらまとめて倒せたのに……面倒臭い。
しかもしかもよく考えたら……
【treasure ship1】 骸骨甲板長 / 甲板
↓
【treasure ship2】 骸骨料理長 / 台所兼食堂
↓
【treasure ship3】 骸骨操舵手 / 甲板
↓
【treasure ship4】 骸骨機関長 / 機関室
↓
【treasure ship5】 骸骨航海士 / 甲板
↓
【treasure ship?】 骸骨船長 / 船長室?
…………これ、ずっと甲板と別の場所を行き来しなきゃならないってことじゃないっ?
「マジかっ?」
さすがにここまでは気づいていなかったらしいカニやんにも驚かれたけれど……うしろから不破さんの 「ウザ」 という呟きは聞かなかったことにする。
気持ちは凄くよくわかるけど。
前に浜辺で会った小林さんが、二週間のイベント期間を乗り切るためにダンジョンの遭遇確率を操作しているって言っていたけれど、まさかこれも、三時間というイベント時間を乗り切るための小細工じゃないでしょうねっ?
このまま迷わずに進めれば終了です!
迷わなければ、ね・・・