206 ギルドマスターは乙女心に惑わされます
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そのことに気がついたのは恭平さん。
さすが考える筋肉といったところかしら?
走りながら、ちょっと考えながら言ってきたの。
「ひょっとするけど、骸骨が沸いてくる方を辿っていけば次の 【幻獣】 に会えるかも」
もちろん骸骨は脇道からも何体か出てくるんだけれど、圧倒的な数が一定方向から出て来ているらしい。
それってつまり、対戦場所で沸いている可能性があるってことよね?
骸骨たちのほとんどが、対戦場所から逆走してわたしたちを狙って来ている。
後ろから来ている脳筋コンビはそもそも脳筋だし……一見わたしも酷いことを言っているように聞こえるけれど、事実、あの二人は自分で考えようとしないんだもの。
仕方ないじゃない。
最近ちょっと気づいてきたけれど、あの二人、そんなに頭悪くないわよ。
でもあえて使おうとしていないってことにも気づいたわ。
だから脳筋
その超高性能危機管理センサーを有効活用し、脇道から飛び出してくる骸骨の対応に遺憾なくその能力を発揮している。
だからこれはこれで良し。
適材適所よ。
いつもなら攻略に関する細かい情報に気づくのは、このメンバーの中ではカニやんや蝶々夫人。
あと、気づいていてもなかなか教えてくれないクロウとか……不破さんも似たようなタイプじゃない。
でも今回は殿だし、前方を見ようにも隊列の中盤を占める魔法使いが視界を塞ぎ、さらにその前では恭平さんや串カツさんとか他のメンバーがいて、ノーキーさんとノギさんが勝手気ままに暴れまくっている。
だから見えないと思うし気づきにくいと思う。
あ、でもクロウだからね、クロウなのよ。
気づいていても教えてくれないわよ、絶対に。
不破さんも怪しいわね。
そのことについてはバロームさんがこんなことを言っていた。
「よくわかりますね。
マダムか串カツさんぐらいにしか喋らないと思います」
……やっぱりね。
あ、ごめんねバロームさん。
話しかけちゃうとノーキーさんの格好いい瞬間を見逃しちゃう。
「それなら大丈夫です!
ギルマスはいつでも格好いいですから!」
…………ご馳走様でした。
謎の自信に満ち満ちた気遣いをいただき、思わず合掌しちゃうわたしに横からカニやんが突っ込んでくる。
「大丈夫、あんたもよく同じようなことを言ってるし」
ん? そう? …………??? わたし、誰のことを格好いいって言ってる?
「主に旦那だけど、柴やんたちのことも格好いいとか言ってるし、ノーキーさんのことも言ってなかったっけ?」
だって柴さんたち、脳筋だけど実際に格好いいじゃない。
ノーキーさんだって喋らなければ……と言いかけたところで言葉を飲む。
もうね、これでもかって言うくらいバロームさんが、不安というか、疑いというか、こう、なんとも言い難い目でこっちを見てくるの。
穴が開きそうなくらいわたしたちを凝視してくるの。
怖い……
その目が意味するところがわからないんだけど……あ、ごめんなさい、わかります。
ええ、わかります。
大丈夫よ、大丈夫。
絶対にノーキーさんを横取りしないから。
そもそもわたしにそんな、男の人を巡って女同士で争うなんて真似、出来ないから。
怖くて出来ないし、やり方もわからないし……どう戦えっていうのよ、そんな戦いっ?
一応そんな戦いがあるってことぐらいは知ってるの。
このあいだ会社の同僚が教えてくれたから。
でも戦い方なんてわからないし、そもそもその状況に陥ることすらない。
伊達に 年齢 = 彼氏いない歴 を更新し続けてるわけじゃないから。
喪女なのよ
…………自分で言って泣けてくる……。
ちょっと一回思い切り泣きたいから、早く次の対戦場所に着いてくれない?
ついでに休憩もしたい。
本当にそろそろ息が切れてきた、無駄話なんてしちゃったからね。
「骸骨が対戦場所から沸いてきている、ね。
なかなかいい目の付け所だわ」
今日も麗しい金の巻き髪を振り乱して走るマダム・バタフライこと蝶々夫人は、ピンヒールなのに男の人の走る速度に全然引けをとらないとか。
しかも余裕がある感じ。
わたしとゆりこさんは結構ギリギリなんだけど……あ、バロームさんは、ノーキーさんを見るのに忙しくて疲れを感じ忘れているらしい。
夢中になれることがあるっていいわね。
それで蝶々夫人、なにか問題でも?
「あるわよ」
ちょっとうんざりした言葉の先を、忙しく骸骨を叩いているノギさんが継ぐ。
「俺はいいとしてだな、ノーキーは言っても聞かねぇぞ。
こいつ、やりたい放題だからな」
こちらも負けじとうんざりした感じ。
当のノーキーさんはノギさんを一体出し抜いてご満悦中……ほんと脳筋馬鹿。
ねぇバロームさん、やっぱりノーキーさんはやめない?
他に 【特許庁】 にいい人がいないのなら、【素敵なお茶会】 で探してもいいわよ。
ちなみにノーキーさんは放っておけばいいと思う。
ノギさんと張り合っているから、視界からノギさんが消えたら慌てて追いかけてくると思う。
いつぞやのルゥみたいにね。
わたしを追い抜いたルゥは、鼻高々に前を走っていたと思ったらわたしがいきなりコース変更をして姿が見えなくなって、泣きながら慌てて追いかけてきたっていうあれね。
いま思い出しても可愛いかったわぁ~、ふふ。
まぁノーキーさんが泣くことはないだろうし、全然可愛くもないんだけど……それどころかきっと罵声を上げながら慌てて追いかけてくると思うから放っておけばいい。
「せめて声ぐらいは掛けてやれよ」
あのノーキーさんが相手でも少し気の毒に思ったらしいカニやんが同情するから、じゃ、その役はカニやんに任せる。
「いえ、是非わたしに!」
走るのとノーキーさん観察の両立は結構忙しいはずのバロームさんだけど、ノーキーさんネタには耳聡いらしい。
すかさず立候補してくれるのはありがたいんだけど、バロームさんは駄目。
だってノーキーさんと一緒に間違ったコースを突き進みそうじゃない。
それこそ二人だけの世界になにかしら妄想を膨らませそうな気がする。
絶対に駄目
適材適所をいうのなら、ノーキーさんの監視にバロームさんは一番不適格者だから。
間違いなく一緒に行っちゃうから。
「グレイちゃん、なかなかいいところを突いてるわ。
ノーキーだけでも面倒なのに、バロームまで迷子になってもらっちゃ困るわよね。
いい? 不破」
「グレイさんと蝶々夫人に頼まれちゃ断れません。
仕方ないから引き受けます。
但し声を掛けるだけですよ」
わたしが頼んだ相手はカニやんであって不破さんじゃない。
でもまぁ目が合ったカニやんはにひって笑ってくれたから、そういうことにしてあげる。
そもそもノーキーさんは 【特許庁】 のメンバーだしね、【特許庁】 のメンバーが面倒を見るのが筋だもの。
しかも嫌々ながらも不破さんがその役目を引き受けてくれた矢先、丁度ノーキーさんの前に脇から骸骨が出てくる。
もちろん脳筋なノーキーさんの反射神経は素晴らしく一撃も食らうことなく撃退するんだけど、そのあと当然の如くそっちに曲がって行っちゃうのよ。
やっぱりというかなんというか……ついでにいえばバロームさんも、無条件について行っちゃうのよね。
こっちも予想通りというかなんというか……誰か止めてあげてよ。
不破さん、出番よ!
わたしと蝶々夫人にせっつかれた不破さんは、本当に嫌そうに溜息を一つ。
それから仕方なさそうに声を上げた。
「クーズ、そっちじゃねぇ!」
ビックリするくらい大きな声で、相変わらず酷い扱い。
しかも不破さんってば本当に声を掛けるだけで、そのままみんなと一緒に行っちゃうし。
さらには案の定というべきか、バロームさんってばバッチリノーキーさんの後ろをついて行ってるし……駄目じゃない!
でもノーキーさんの耳は都合の悪い部分は聞こえないみたいで、バロームさんを金魚のフンのようにくっつけながら慌てて戻ってくる。
それも大きな声で笑いながら。
「わりぃ、わりぃ、うっかり行っちまったぜ。
ありがとよ、不破」
…………悪気はないんだろうけれど、反省もないわよね。
しかも物凄い勢いで走ってきて、あっという間にわたしたちを追い抜いてノギさんと並んじゃうの。
なに、この速さ?
そんなにノギさんに負けたくないのっ?
ビックリするくらいの瞬発力を見せるこの二人の関係って……あ! そんなことよりバロームさん、ちゃんと付いて来てるっ?
「は、はい!
大丈夫です!」
物凄い息を切らせてるけど、その返事もほとんど声が出てないけど、でも付いて来たのね。
あの速さで走るノーキーさんを追いかけてくるとか、凄い根性というか、なんというか……恋する女の子って本当に凄い。
びっくりした
たぶんこの状況で、一瞬でも格好いい……あくまでもバロームさんヴィジョンだけど……格好いいノーキーさんを見逃したくない一心で追いかけてきたのね。
ちなみにバロームさんが迷子になった場合、ちゃんと捜索隊を編成してあげるから安心してね。
その代わり、わたしがはぐれてもちゃんと探しに来てね。
絶対に置いていかないでね、約束して!
忘れちゃ嫌よ!!
「グレイさんがはぐれたらって……そんな状況に旦那がするかよ」
そう言いながらもカニやんはチラリと後方を見る。
視線を受けたのはクロウか不破さんか。
もちろんクロウはなにも言わないんだけど、不破さんは抜け目がないというか、なんというか……。
「グレイさんのためなら、俺も手伝いますからご安心を」
……うん、安定のホスト感。
ただこれも最近わかったというか知ったというか……女の子が相手ならいつでも誰にでもホストじゃないのよね。
その証拠に、さっきバロームさんの背中を蹴ってたし。
そりゃノーキーさんに見とれて走るのが疎かになったバロームさんも悪いけど、あんなに容赦なく蹴ることはなかったじゃない。
ホスト失格
でも恭平さんの推測は正解だった。
大正解よ。
幾つも枝分かれした船内通路を、骸骨の沸きに従って進んだわたしたちは一つの対戦場所に辿り着く。
この見覚えのある広い部屋。
【treasure ship2】 で現われるのは……
alert 骸骨料理長 / 種族・幻獣
バロームの個性が濃すぎて進まない・・・恐るべし 【特許庁】・・・