203 ギルドマスターは衝撃を受けて吹っ飛びます
pv&ブクマ&評価&感想&誤字報告、ありがとうございます!!
末尾の休閑小話は、次話につながるおまけですw
短いのですが、視点が変わるので次話と分けてこちらに置いておきます。
「おい、見ろよ。
【素敵なお茶会】 だ」
「あれ、【素敵なお茶会】 じゃね?」
そんなプレイヤーたちの囁きを久々に聞いたような気がする浜辺。
まだ昼時間の 【海】 エリアは太陽が眩しくて、どうせすぐに畳まなければならないとわかっていても、思わず日傘を差してしまう。
そのぐらい太陽が眩しいのはわざと?
なんか色々と演出過剰気味なのよね、ここの運営ってば。
これで日焼けまでしたら泣くわよ。
「普通は怒るところだけどな」
そう言いながらカニやんも、日を遮るように手を額当たりに当てている。
事前に 【鷹の目】 の斥候が調べてくれたとおり、最終戦の 【海】 エリアも通常装備の使用は不可能。
この期間限定エリア 【海】 専用装備とでもいうべき水着に換装して浜を歩けば、結構なプレイヤーがここで防戦に励んでいた。
でもきっとこれ、効率が悪いと思う。
マメ情報によれば、沈没船に潜るまではエリア外とも連絡がとれて公式サイトへの書き込みも可能。
その書き込みにあったらしいんだけれど、骸骨は沈没船周辺に沸く泡の中から沸いてくるらしい。
でも呼吸こそ出来るけど、プレイヤーは海中での行動にちょっとした制約のようなものがある。
水の抵抗を模した感じのものがあって、思うように動けないのよ。
わたしなんて一歩も進めなかったのにルゥがガシガシ力強く歩いていたのは、あんな可愛い姿をしていても 【幻獣】 だから。
このゲーム最強生物の一種なのよ。
だから例外
水中のプレイヤーは自由に動けず、しかも通常武器は装備出来ない。
素手で殴る戦いは明らかに不利だから沸き位置で叩くことは出来ず、陸に上げるしかない。
でも陸に上げてしまったのなら、いっそ通常装備が使える 【海】 の外で戦った方が楽じゃない。
少しでも楽に、有利に戦うべき。
ゲーム終了まで無限沸きである以上数の有利は船長側にあるしね、せめてもの抵抗にプレイヤー側は少しでも火力を維持したい。
なにかしら異変があった時に対応出来るよう、足の速いプレイヤーを何人か配置しておくのもいいけれど……そんなことを考えていたら、すでに横でカニやんがクロエと連絡を取り合っている。
浜辺にいるプレイヤーには柴さんやムーさんが話しかけている。
いつのまに?
もちろんみんながみんな協力的というわけではなくて、中には露骨に悪態を吐くプレイヤーもいる。
「ちょっと火力有るからって、偉そうに仕切るなよ」
まぁそんな感じのことを言われた。
嫌な役をさせてごめんね、二人とも。
でも持久戦は一歩間違えれば消耗戦。
少しでも長くイベントを楽しみたいのなら……まぁいいわ、ゲームの楽しみ方は人それぞれ。
自由に楽しんで頂戴。
わたしたちも行きましょうか! ……って声をかけたら、傍らの蝶々夫人が頭痛を堪えるようなポーズでわなないている。
不破さんは暴走したノーキーさんを取り押さえるべく串カツさんと二人、先行しているから一人なんだけど……どうかした?
「あの馬鹿どもがぁ~」
…………なんか、蝶々夫人の麗しいお姿からは想像出来ないくらい低い声が……ちょっとね、男の人っ?! って疑っちゃうくらい低く野太い声の呟きがしたの。
とりあえず取って食われないようクロウにしがみついておくわ。
なんだかそんな気がして怖かったから。
それで、どうかした?
「殺り合ってるわよ、ノギと」
うん、わかった。
じゃあわたしがぶっ殺すわ。
行きましょう!
なぁ~んて威勢よく声を掛けたけれど、お恥ずかしいことにわたしは沈没船まで自力で移動出来ない。
【素敵なお茶会】 のメンバーだけならそろそろ慣れてきたんだけれど……もちろん恥ずかしいものは恥ずかしいのよ。
でも 【素敵なお茶会】 のメンバーは、わたしに扱き使われるクロウを憐れんであまり見ないようにするとか気を遣ってくれていたし。
今回は 【素敵なお茶会】 以外のメンバーもいてちょっと恥ずかしいんだけど……凄く恥ずかしいんだけど、我慢してクロウに運んでもらう。
あ! あの、別にクロウが悪いわけじゃないのよ!
クロウに我慢してるわけじゃないの。
むしろ感謝してます、凄く感謝してます!!
思わず早口になって弁解してしまうくらい感謝してます。
でも 【特許庁】 メンバーの、無遠慮な好奇の目が……水の中なら泣いてもわからないわよねっ?
あ、でも顔の赤さが隠せない!
「問題なのはそこ?」
すぐ隣を泳ぐカニやんには呆れられ、クロウには肩を震わせるように笑われてしまった。
ちょっと、二人とも酷い!
何度も言うけれど、わたしは泳げないわけじゃないの。
泳げるの。
水だって怖くないし、顔も浸けられる。
息継ぎだって出来るのよ。
前に進まないけど
「俺もな、何度も言うけど、それを泳げないって言うんだよ。
世間ではそれをカナヅチっていうんだよ」
どうしてわたしと世間のあいだに認識のずれがあるのかしら?
「俺が知るわけないだろ。
てめぇの旦那に訊けや」
それもいつも言ってるけど、意味がわかんない。
でもわからなくていいらしく、スルーされてしまった。
着いた沈没船ではノギさんとノーキーさんが素手で殴り合ってるとか。
沈没船周辺には他にも船長戦に挑戦しようとするギルドやパーティが幾つかいたんだけど、みんな怖くて遠巻きに見ているだけ。
不破さんや串カツさんも最初は止めていたらしいけれど、二人が全然聞かないから諦めたらしい。
串カツさんはともかく、不破さんは全然止めなかったような気もするけど……これはわたしの胸に止めておく。
とりあえず二人とも!
「起動……業火!」
今回のイベントは通常攻撃でPKは出来ない。
だから二人が落ちることはないんだけど、でも水の中とはいえちょっとは熱いわよね。
しかも動けないわよね。
「ちょ、グレイ?
おま、やめ!」
「来たか、灰色の魔女。
待ちくたびれたじゃねぇ~か」
反応はそれぞれなんだけど、とりあえずついでだから畳んだ日傘でも二人を殴っておく。
どうせわたしのSTRなんて全然痛くないんだろうし、モヤシな魔法使いだって自覚もある。
でも、これから共闘するプレイヤー同士で殴り合ってどうするのよ!
ノギさんの参加を聞いたトール君とマコト君が、ナゴヤドームに残って防衛班に参加するって言い出したんだけど、ジャック君と三人で残してきたのは正解だったかも。
船長戦の真っ最中でもこの二人、斬り合いを始めそうなんだもの。
【特許庁】 も火力に不安のある剣士と銃士はドーム防衛戦へ。
ノギさんが参加してもいつもと変わらないくらいの人数で、しかも物凄い重火力メンバーばかりで船長攻略班を組むことになったんだけれど、なんだか先が思い遣られるわね。
しかもこれだけ火力があるなら、わたし、要らなくない?
却って足を引っ張りそうな感じがしてきた。
「面倒から逃げたいだけだろ?」
あらカニやん、大正解。
「絶対逃がさないけどな」
カニやんにそう言われたら逃げられない気がするから怖いから、とりあえずクロウにしがみついておく。
潜ってみなければ船長戦がどうなっているかはわからないから、クロエ経由で、ドーム防衛班にこれから潜ることを伝えてもらい、わたしたちは沈没船に突入する。
転送されたのは、すでに荒れ狂う嵐の真っ只中にある甲板。
そこでサンバホイッスルを派手に吹き鳴らして踊り始めたちゅるんさんが真っ先に脱落する。
低い姿勢で甲板に張り付いていないと振り落とされるのよね、骸骨甲板長戦は……というかちゅるんさんのあれはなんなの?
あの羽根飾り、水着装備として新しく作ったらしいんだけど、あれをつけて沈没船まで海を泳いできただけでも十分に凄いと思ってしまう。
しかもその衣装を見せつけんばかりに踊り出したそうそう……それこそワンフレーズも踊らないうちに船の揺れに吹っ飛ばされてエリアアウトしちゃうとか……ほんと、【特許庁】 ってわかんない。
わたしが理解出来る範疇を遥かに超えてる。
だって 【幻獣】 が登場する前に落ちるとか……ありなの?
でもインパクトは十分。
あまりの衝撃に、油断したわたしも転がり落ちそうになったもの。
ううん、わたしだけじゃなくゆりこさんやJBとか、の~りんも。
それぞれすぐに近くにいた剣士のフォローが入って事なきを得たけれど……ん? いまの、何かおかしくない?
だって不破さんとか串カツさんとか、たまたま近くにいたとはいえ 【素敵なお茶会】 のメンバーを助けてくれたのに、どうしてちゅるんさんを見殺しにしたのっ?
ちゅるんさんが踊り出した瞬間にわたしたちは呆気にとられちゃったけど、見慣れているというか、それがいつものことなのか 【特許庁】 のメンバーは全然平然としていて、そもそもちゅるんさんが踊り出すことがわかっていたのなら、はじめからフォローに入っているべきで、それをしなかったということは見殺しにしたってことよね?
それこそ器用な串カツさんなら、踊っている状態でもちゅるんさんをフォロー出来たんじゃない?
「いや、さすがの俺でもそれは無理です」
柴さんたちから聞いてはいたけれど、本当に通常モードの串カツさんはいたって真面目で普通の人なのね。
しかもちゅるんさんのことがあっても平然としている。
【特許庁】 の参加メンバー全員が平然としているみたい。
「開始早々、見苦しいものをお見せてしまって申し訳ありません」
不破さんなんて 「見苦しい」 とか言っちゃってる……同じギルドの仲間なのに。
「あの子、足腰丈夫だから大丈夫かと思ったけど、面白いくらい飛ばされたわね」
うん、蝶々夫人も信頼の仕方を間違ってると思う。
あれは誰であっても止めるべきところよ。
サブマスがこれだもの、主催者のノーキーさんは言わずもがなよね。
「なんでぇ、あれっぽちで終わりかよ。
全然盛り上がらねぇじゃねぇか、ちゅるんの奴」
じゃあ代わりに俺が! とかいって勢いよく立ち上がって、船の揺れに負けて盛大に転がっていく。
でも落ちないのが元祖脳筋剣士。
縁のところで踏ん張って堪えてる。
それを見た 【特許庁】 のメンバーが煽るのよ。
「落ちろ!」
「そこで止まるな!」
「誰か蹴れ」
「蹴り落とせ」
…………結構酷いことを言われてるんだけど、みんな楽しそうにゲラゲラ笑いながら。
あ、でもバロームさんだけは違ったかな。
「落ちるなら一緒に落ちまーす!」
……………………うん、それも違う!
まさかそう来るとは思ってなくて、一瞬、白目剥いて失神しそうになったわ。
バロームさんてば結構可愛い顔しているのに、どうしてあんなのがいいわけ?
もちろん蓼食う虫も好き好きとはいうけれど、あれと心中したいなんて……どれだけす……す…………。
「好きが言えないとか、いつにも増して重症だな」
なによ、カニやんだって、わたしほどじゃないけど、初っぱなからの衝撃に動揺を隠せてないくせに。
蓼食う虫まではちゃんと言えたのに……。
「好きの意味が違うからじゃね? って喪女にいっても無理か」
また馬鹿にして! って怒っていたら、クロウとノギさんに、ほぼ同時に言われた。
「来るぞ」
「来た」
alert 骸骨甲板長 / 種族・幻獣
休閑小話:ルゥの大冒険~今日もルゥは頑張ります!
ルゥは知ってるでしよ、ご主人しゃまはピカピカのまるまるを集めてるでし。
だからルゥも集めるでし。
一杯一杯集めて、ご主人しゃまに一杯一杯褒めてもらうでし。
小林しゃんが、ルゥは一緒にお船には乗れないって言ってたでし。
だからルゥ、お海を散歩してたでし。
ガッシガッシ歩いてお散歩してたでしよ。
楽しかったでし。
そうしたら一杯一杯見つけたでしよ。
箱の中に一杯一杯入ってるでし!
ご主人しゃま、喜ぶでし!
まだまだ一杯あるでしよ!
全部拾うでしよ。
ご主人しゃま、ルゥを一杯一杯褒めてくださいでし♪