202 ギルドマスターは最終戦に挑みます
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イベント開始直後の混乱が収まらないナゴヤドーム内。
【海】 エリアの偵察に行っていたベリンダの報告をインカムで聞いていたところに現われた二人の主催者は、剣士だけで構成されたギルド 【暴虐の徒】 を率いるライカさんと、同じく剣士だけで構成されたギルド 【アタッカーズ】 を率いるロクローさん。
何度もわたしを女王と呼ばないでっていっているのに全然聞いてくれない二人を、感情に任せて 「溶かしてもいい?」 と訊けば、カニやんからイベントが終了するまで待つようにいわれてしまった。
でもイベントさえ終われば好きにしていいらしい。
結構カニやんも薄情というか、冷たいというか……。
ところでここに二人が来たってことは、協力してくれるってことでいいのかしら?
「もちろんです」
「女王陛下のご下命ならば、我ら、如何にしても果たしましょう」
二人して片膝をついたりして、わたしを恭しく仰ぎ見るのはやめて頂戴。
ほんとなんなのよ、この二人は!
それこそどんな無茶な命令でも、全滅してでも遂行するとか言われても……重すぎる。
よくわからないノリに乗っている二人は平気そうだけれど、それをされるわたしのほうが恥ずかしいのよ。
しかもこんなに人の多いところで、やめてよ……泣く……みんな見てるじゃない、ちょっとー!
泣いてもいい……?
わたしが泣くとなにが大変かっていうとクロウが大変なのよ。
それにこれからイベントだし……もう始まってるから時間もないし、勝つって決めたし、時間もないからあとで泣くわ。
ちょっと涙で目がにじんじゃって、鼻水が垂れてきた……。
「一つ、陛下にお聞き入れいただきたいことがございます」
だからその呼び方をやめてってば!
どんなにわたしが訴えても全く聞いていないライカさん。
本当にこの人、人の話を聞いてくれない。
「このナゴヤドームの防衛は我々にお任せいただき、【素敵なお茶会】 は船長攻略に向かって下さい」
二人が言うには、船長の弱点はその都度変わるという問題がある。
それこそ魔法が弱点になれば、剣士しかいない 【暴虐の徒】 や 【アタッカーズ】 では歯が立たない。
しかも船長戦は沈没船で行われるんだけど、その前説として五体の 【幻獣】 が出てこないとも限らない。
そうなると確実に魔法攻撃対象がおり、この二つのギルドでは攻略出来ないのよ。
ベリンダや 【鷹の目】 の斥候が報告するところによると、すでにいくつかのギルドやパーティが沈没船に向かったけれどまだなにも反応がない。
イベントが続いていることから推測して攻略出来ていないことは確かだけど……まだそれほど時間も経っていないから攻略出来ていないのはともかく、直通会話などのインカムも通じず。
このイベントにはほとんど参加していないマメの話でも、公式サイトの掲示板に書き込むプレイヤーもいないらしい。
つまり最終イベントが始まってからの沈没船内部の様子が全くわからないのよ。
五体の 【幻獣】 が登場する可能性は多いにあり、そもそも弱点が遭遇するたびに変わる船長は、剣士だけのギルドやパーティでは倒せない可能性がある。
でも骸骨は物理攻撃でしか倒せず、剣士だけのギルドには持って来いの相手である。
確かにこの二つのギルドなら、人数も機動力もある。
ただ……
「ドームの防衛はセブン君の麾下になるけど、二人はいいの?」
「もちろん」
「それが陛下のご指示なら」
もう、わたしが黒っていえば白い物でも黒いっていいそうな感じなんだから。
セブン君の意見を伺うように見たら、ちょっと肩をすくめつつ苦笑い。
それ、了承ってことにしておく。
じゃあ早速、出入り口の封鎖とすでに入り込んだ骸骨の掃討に別れて……って話していたら、クロエが言うの。
「じゃあ僕も残るよ」
どうしたの、急に。
「僕も銃士だからね、船に向かっても中途半端にしか役に立たないし。
【特許庁】 が一緒なら半端者なんて用なしでしょ。
だったら役に立てるところで仕事をするよ」
なんだかすとんと心に落ちるクロエの言葉。
そうね、それがクロエらしいわね。
適材適所、それでいきましょう……って思ったけれど、えっと……セブン君の麾下よ?
「いいよ。
むしろこの連中を動かすの、面倒臭そうだから嫌」
本人たちを前にして、ちょっとは言葉を選んで欲しい。
まぁそこはクロエだからね、クロエなのよ。
さりげなくカニやんが 「口が悪くてすまん」 と二人に謝っている。
ごめん
いつもうっかりしちゃうんだけど、それ、わたしの役目よね。
こういう時は早く動けないとか、主催者失格かも。
でもセブン君とクロエたちが残ったのは大正解。
あ、そうそう。
クロエに尋ねられたぽぽとくるくるもドーム防衛に残ったんだけど、また運営にやられたのよ。
防衛組はセブン君の指示でドームに二つある出入り口を封鎖。
【暴虐の徒】 と 【アタッカーズ】 を中心にした剣士は、出入り口の封鎖班とドーム内の掃討班に分かれて行動。
最終的に骸骨が行き着くのはNPC長官室だから、その前に張り付くのも忘れずに。
このNPC長官室が陥落したらプレイヤーの負けが確定する。
うん、このへんまでは順調だったの。
夜時間に出てくるゾンビと違い、骸骨は結構シャキシャキ動くから歩くのも速い。
だから一体に気をとられて別の一体を逃すと、これを追いかけるのが結構大変。
こちらも数で対抗するしかないんだけど、おそらくイベント中は、船長かNPC長官室が落ちるまで骸骨は無限沸き。
つまり数の有利は向こうにある。
通常の状態でも数の優位をとられているのに、開始30分ほど経った頃、沸きが異常な速さになったらしい。
その頃のわたしたちは沈没船に潜っていたため応援に駆け付けることが出来なかったんだけれど、【Gの逆襲】 の時のGみたいに、骸骨が互いに押し合いへし合いしながら大挙してドームに襲ってきた。
譲り合いの精神
うん、【treasure ship】 通常攻略の時も骸骨もゾンビも譲り合いの精神とか皆無で、船内の狭い通路を押し合いへし合い歩いていたっけ。
絶対に譲らないから、解けないほど骨とか絡めてね。
その勢いで今度はドームに向かってきたらしい。
【暴虐の徒】 と 【アタッカーズ】 の剣士が主体となって出入り口を封鎖。
その周辺を多くのプレイヤーが遊撃隊となって骸骨を落としていたんだけれど、とても手に負えない速さと量の進撃。
それをなんとしても押しとどめるべくセブン君は遊撃をやめ、ドームの出入り口に火力の集結を決める。
指示を受けて自由に動けるライカさんたち剣士が協力を求めて回るんだけれど、気がついた時にはすでに大量の骸骨に侵攻されていてドーム出入り口まで後退するのも難しい有様。
ギルドの所属有無にかかわらず何人もの銃士が剣士たちの後退に協力してくれたんだけど、数の有利に押されてかなりの数のプレイヤーが落とされた。
しかもこの最終戦、落ちたらイベント時間中は復活出来ないルールなんだけど、なぜか落ちたプレイヤーは全員が通称死体置き場に強制送還。
通常なら他のプレイヤーが死亡状態回復アイテム 【復活の灰】 を使えばその場で復活出来る。
それが出来ないのはともかく、強制的に死体置き場に送還とか……
怖すぎる
通称死体置き場というのは死亡状態のプレイヤーが、その場での復活を選ばなかった、あるいは復活方法を選ばないまま一定時間が経ったら送られるのが普通で、寝落ちプレイヤーの多くがこの後者。
起きたら薄気味の悪い死体置き場っていう恐怖にパニックを起こすプレイヤーも少なくないらしい。
死体置き場はナゴヤドーム内にある施設 【教会】 の地下にあり、アイテムやスキルを必要としない代わりに、所持する経験値の半分を没収された上での復活となる。
このイベントでも同様の扱いになるのかは終わってみなければわからないんだけれど、死亡状態のまま死体置き場から出ることも出来ないとか……
マジ悪夢
この地獄のような強襲が、だいたい30分に一回くらいの間隔で起こっていたらしい。
運営は、単調な攻撃でプレイヤーが退屈しないように配慮してくれたつもりかもしれないけれど、余計なお世話よ!
ちなみに沈没船攻略に向かったプレイヤーも、落ちるとこの死体置き場に強制送還。
死体置き場に設置された特別大型モニターでの観戦を強いられていたらしい。
しかも死体置き場にいるプレイヤーのインカムは、全チャンネルを外部と遮断する念の入れよう。
死人に口無し
ほんと、これよね。
HPやMPの回復だけならアイテムでもスキルでもOK。
だから可能な限り落ちないこと。
まずはこれを第一にするわ。
骸骨の一体や二体くらいなら、出入り口を破られてもすぐに落とせる。
だったら無理をせず、落ちないことを第一にしましょう。
数の差をこれ以上広げないために。
もちろんこの時のわたしたちは沈没船に潜っていて、外の騒動なんて全然知らなかったんだけどね。
でもそこはセブン君。
なんだかんだいってもクロエだって抜け目がなくて、的確な判断で出入り口の防衛ラインを維持してくれる。
もちろんこの状況を3時間も続けるのは難しい。
それを回避するには勝敗を喫するしかない。
NPC長官室が陥落しても終了するし、船長が落ちても終了だからね。
勝ちます
防衛組は一致団結が肝心だけど、攻撃組はちょっと違うかな。
人数が多すぎると船内で身動きがとりにくくなるし、それこそ船長に勝つ以外は全滅しかないわけで……わたしたちの他にも、ギルドやパーティを組んで船長への挑戦を試みるグループが幾つか、沈没船に向かっている。
これはあえて止める必要はないと思った。
あえて一つにまとめたり選抜する必要はないと思った。
これは団体戦なんだから、どのグループが船長を落としてもかまわない。
それこそ三〇人ひとグループで潜っても、攻撃対象の船長は面積が限られているから一度に攻撃出来る人数はしれている。
それ以外のプレイヤーは見ているしかないんだったら、別グループで攻めましょ。
視点を変えた数で押すわ。
あ……
いざ出陣! となった時、わたしはあることを思い出して、前を歩き出そうとする脳筋コンビを呼び止める。
ねぇねぇ、ちょっと頼まれてくれない?
「なんか企んでるだろ?」
「悪い顔してるぞ、女王」
人相の悪さであんたたちに勝てるとは思ってないわよ!
こんな垂れ目の悪人がそうそういてたまりますか!!
「しかもまだ鼻水垂らしてやがる」
「ちゃんと拭けよ、どこの小学生だ」
うるさいわね!
涙腺と鼻水は、一度弛むというか垂れ始めるというか……なかなか治まらないの。
しかも垂れてないじゃない!
まんまと二人に填められて思わず鼻の下を擦っちゃうとか、わたし、マジ小学生みたいじゃない……。
「んで、なに?」
「さっさと用件言えや」
二人の切り替えの速さに遅れてしまったわたしに代わり、カニやんが言うの。
「ノギさんだったらもう呼んだ。
先に沈没船に向かうってさ。
んで、それを聞いたノーキーさんが突っ走って不破さんと串カツさんが殺しに行った」
…………うん、なんとなく意味はわかった。
負けず嫌いのノーキーさんが、特に張り合っているノギさんに負けまいと暴走して、不破さんと串カツさんがそれを止めにいったのね。
うん、これでおおむね合っていると思う。
言っておくけど、不破さんと串カツさんも含めて、互いに斬り結び合ったりしたら全員お仕置きよ。
有無を言わさずわたしが全員を落としてあげる。
大人しく待ってなさい!!
ん? まだ貝が出てないっ?!
(そこはあまり重要ではないw)