表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

201/806

201 ギルドマスターは憂いを払って戦います

pv&ブクマ&評価&感想&誤字報告、ありがとうございます!!

 そもそも運営とプレイヤーは対等じゃないと思う。

 それはもちろんわかってるんだけれど、これはちょっと酷くない?

 あの期間限定エリア 【海】 の浜辺に落ちていた無数の頭蓋骨。

 わたしを待っている間、ルゥが暇潰しに叩いたり転がしたりして遊んでいたあれね。

 あれが急に復活し、ナゴヤドームを目指して移動を始めたの。

 最初は一体くらいでプレイヤーも気づかなかったんだけど……もちろん何人かのプレイヤーは気づいていたけれど、その時点では攻撃の通じないNPC扱い。

 だから最終戦用の効果……いや、置物(オブジェ)

 まぁ雰囲気を出すための小道具のようなものと勝手に解釈。

 取り立てて騒ぎにならなかったのが災いして、開始時間の3時にはすでに数十体がドーム内に侵入していた。

 開始直前に発表されたイベントの趣旨は、船長が奪われた財宝を奪還するため部下を使ってナゴヤドームを襲撃。

 それを阻止せよ! ……ということらしい。

 ちなみに骸骨が一体でもドーム内にあるNPC長官室に侵入したらプレイヤーの負け。

 全プレイヤーが集めた全ての金貨が没収されてギルドランキング、個人ランキング、どちらもdrawに終わる。

 船長に奪還されたってことになるらしい。

 そんなルールを読んで確認しているあいだにも開始時間が来て、わたしたちの前をドームに侵入していた骸骨の一体が横切る。


「起動……焔獄」


 敵を見たら攻撃を仕掛けるのはプレイヤーの性。

 だからとっさに攻撃を仕掛けてしまった……えっと、駄目だった?

 だって急にみんなが静かになってわたしを見るんだもの、気になるじゃない。

 なにか悪いことした?

 ひょっとして久々にやらかしちゃった?


 ねぇお願い!!


 誰かなにか言って?

 沈黙を守るのはやめて。

 この沈黙が耐えられない。

 怖すぎて耐えられないからなにか言って!


「…………あ、とりあえず落としとくわ」


 みんなと一緒に沈黙していた柴さんがふと思い出したように呟き、そしてさっきの骸骨を一撃で落とす。

 すっかり忘れてたけれど、骸骨は物理攻撃しか効かない。

 うん、だから焔獄を食らって動きは止めたけれどほぼ無傷だったっていうね。

 そんなわたしのうっかりにみんな呆れて黙り込んじゃったのかと思ったら、全然違っていた。

 なんかね、メンバーの誰よりも早く反応したから驚いたって……なんなのよ、それ?


「俺らより先に動くとは思わなかったからちょいビックリ」

「しかもとっさに焔獄。

 業火じゃないんだな」


 ごめん、業火がよかったのね。

 うん、わかった。

 今度から脳筋コンビにはリクエストどおり業火を撃ち込むわ。

 そうね、二人一緒がいいのなら業火よね。

 単体魔法は駄目だったわ。

 ここはドーム内だし、範囲魔法はご近所様のご迷惑になると思って遠慮したの。

 それだけだから、他に巻き込みがなければちゃんと業火で二人一緒に落としてあげるわ。

 どうせ一撃じゃ落ちてくれないだろうけど。

 でも言われてみれば、確かにとっさの判断にしてはわたし、ちゃんと考えて行動してたじゃない。

 それを褒めてくれるどころか、みんなして驚いて沈黙って……どういうことよっ?


「脳筋の公開処刑は任せた。

 煮るなり焼くなり好きにしてくれ。

 それよりどうする?」


 脳筋を庇うようなタイミングで指示を仰いでくるカニやんだけど、言っていることは全然庇ってないわよ。

 それどころか煮ても焼いてもいいって生贄に差し出して、ちょっと状況に戸惑っているトール君たちに、手近な骸骨を落としていくよう指示を出している。

 すでに周囲では他のプレイヤーたちも、見つけた骸骨を片っ端から落としていて結構騒々しくなっている。

 これ、すでに結構な数の骸骨が入り込んでるんじゃない?

 まずは状況を確認したいけれど、イベント時間は3時間しかないからゆっくりしている余裕もないと来た。


 どう攻める?


 もちろんそれも重要なんだけど、気に掛かることもある。

 ねぇこれ、初心者は大丈夫なの?

 だってナゴヤドーム内って初心者以前の、それこそ導入(チュートリアル)中のご新規プレイヤーだっているのよ。

 これ、絶対にヤバくない?


「心配するところがそこ?」


 そこよっ!

 広場内での様子を見る限り、骸骨は自分から仕掛けてくるアクティブタイプではなく、プレイヤーの攻撃を受けてやり返す感じ。

 たぶん船長の命令に従って、長官室を探し出すことが最優先なんだと思う。

 でも知らずに仕掛けたり、偶然近くにいて巻き込まれたりしたら結構なトラウマになりそう。

 だってご新規さんってステータスもゼロで、初期装備なんて 「装備」 とは名ばかりのただの服だもの。

 あんなので骸骨の攻撃を食らったら一溜まりもないじゃない。


「相変わらず面白い人ですね」


 やぁ! と手を挙げて挨拶をしてくるのは不破さん。

 その隣では、当然のように派手な悩殺ポーズを決めて立っている蝶々夫人がいる。


「はぁい、グレイちゃん」


 その声の陰でカニやんが 「また面倒なのが来た」 と呟いたのはわたしの胸の内に秘めておく。

 立ち位置的に不破さんには聞こえていたみたいで、チラリと怪しげな流し目をカニやんに送っていたけれど、それも見なかったことにする。

 二人の話では 【特許庁】 のメンバーは三々五々に、骸骨を蹴散らしているらしい。

 もちろんその先頭に立って盛り上げているのはノーキーさん。

 さすがお祭り大好き 【特許庁】 だわ。


「今は初心者のことを考えても仕方ないと思うわ。

 だってもうこのイベント、始まっちゃってるんだもの、ね?」


 蝶々夫人は、初心者さんたちを憐れむ振りをしながらもこの状況を楽しんでいる様子。

 うん、この人も紛れもなく 【特許庁】 のメンバーなの。

 自分の楽しみ最優先の主催者(ノーキーさん)に代わって、実質的に 【特許庁】 を率いてる人なのよ。

 でも言っていることも至極まっとうでごもっとも。

 イベントが始まったばかりのナゴヤドーム内は少し混乱というか、混沌としていて、初心者の保護どころではない。

 これは下手なことをしているより、さっさとイベントを終わらせるべきかも。


 もちろん勝つわ


 やるからには勝ちを目指すのが当然よね。

 【Gの逆襲】 最終戦を勝って終えて、なんとかHPは取り戻している。

 今のところ負ける要素もないしね……ちょっとわたしのメンタルがへばっているけれど、夏バテだと思って気にしないで。


「あの子のこと?」


 うん、ラウラのこと。

 あれからなにか言ってきた?

 【Gの逆襲】 最終戦を終えた直後、話し合いの最中にギルドを飛び出したラウラ。

 その後の様子は、キンキーが教えてくれる程度にしかわからないんだけれど、あれからの一週間、彼女は毎日ログインしているらしい。

 でも蝶々夫人の話では 【特許庁】 に顔を出しているわけでもない。


「元々あの子は、【特許庁(うち)】 の不手際で 【素敵なお茶会(グレイちゃんたち)】 にお願いしたわけだし、約束もあるからちゃんと勧誘はするわよ。

 もちろん受けるかどうかはあの子次第だけど」


 あの態度のままのラウラをギルドに居続けさせるのは無理。

 かといってこれまでギルドで活動していた彼女を、急に一人で外に放り出すのは少し酷だと思う。

 そこで 「少し頭を冷やして来なさい」 と、彼女の古巣でもある 【特許庁】 に預けることを決めた。

 もちろん 【特許庁】 側と約束を取り付けてからね。

 ただこのゲームのルールとして、ギルドに所属していたプレイヤーは退会をすると二週間は新しいギルドはもちろん、元のギルドに戻ることも出来ない。

 退会したプレイヤー側からギルドに加入申請を出すのはもちろんだけど、ギルド側からの加入勧誘も出来ないようになっている。

 しかもこのイベント期間中に限っては、ギルドを退会することは出来ても新規加入は理由如何にかかわらず出来ない。

 つまり 「移籍」 ではない 「ご新規加入」 であっても不可。

 おそらく今回のイベントには団体戦(ギルドランキング戦)があるから、ポイントの不正移動を防ぐため。

 個人ランキング戦で上位のプレイヤーに、イベントのあいだだけポイントを持って移籍してもらうなどの不正を防止するためだと思う。

 そのこともあってわたしはこのイベント終了をもって移籍をと言ったんだけれど、ラウラは、【素敵なお茶会】 が団体戦(ギルドランキング戦)上位に入賞しても追い出される自分はその恩恵を受けられない。

 それが癪だからと早々にギルドを自分から退会してしまい、その消息も素行も今のわたしにはわからない……いや、すでに結構な悪評が流れてきてる。

 どこからともなく流れてきて、わたしのへこんだメンタルをさらにザリザリと削ってくれている。

 キンキーを通して……まるで連絡係のように使ってしまってキンキーには申し訳ないんだけれど、まだ加入は出来なくても、すでに 【特許庁】 側に行動参加出来るよう話が通っていることは伝えてある。

 蝶々夫人にもお願いしてメッセージも送ってもらったけれど、まだなにも返事はないらしい。


 はぁ~


 問題児を押しつけてしまって蝶々夫人には申し訳ないんだけれど、彼女は麗しい悩殺ポーズで快諾。

 今もいつでもフォロー出来るよう待っていてくれているという。

 その隣にいる不破さんは 「関心ありませんよ、俺は」 とホストのくせに女の子に冷たい態度をとってるけどね。

 でもホストだから、きっと加入したら面倒は見てくれると思う……とわたしは思ってるんだけど、無理なのかしら?

 しかもラウラの性格は 【特許庁】 に合うと思うんだけどな。

 うん、とりあえずこのイベントね。


 勝つわ!


「女王のご希望が勝つってのはわかった」

「叶えてやるから指示出せや」


 脳筋コンビってば、頼もしいことを言ってくれるじゃない。

 じゃあまず、ドーム内の骸骨を一掃するわ。

 人数がいるから、ドームの防御だけでなく船長攻めも同時進行で進めたいところだけれど、【Gの逆襲】 初日の二の舞はごめんだわ。

 後顧の憂いなく確実に攻めたい。

 特にこのイベントは一発勝負だもの、失敗は許されない。


「じゃあ協力求める?

 あの連中、間違いなく参戦してるから連絡出来ると思う」


 カニやんがいう 「あの連中」 っていうのは、たぶんライカさんたちのことよね。

 そうね、協力してくれるかどうか訊いてみましょう。


「じゃ、こっちは任せて。

 グレイさんは配置を考えて」


 早速ウィンドウを開くカニやんは、たぶんライカさんに直通会話で話しかけるんだと思う。

 この状況にメッセージじゃ遅すぎる。

 すでにイベントは始まっているし、読んでいる暇もないだろう。

 でもライカさんたちが協力してくれるのなら話は早いわ。

 攻め手と守り手に別れましょう。

 【特許庁】 は船長攻めの(かなめ)で。

 【素敵なお茶会】 はドームの防衛。

 二つの出入り口を封鎖して、新たな骸骨の侵入を防ぎつつすでに侵入した骸骨を始末する。

 出入り口の封鎖はセブン君、任せてもいい?

 銃士(ガンナー)主体の 【鷹の目】 なら、出入り口防衛の剣士(アタッカー)を援護しつつHPを回復しようとするプレイヤーの後退も助けられるはず。

 【Gの逆襲】 でも敗走時、結構な数のプレイヤーを援護して助けた実績があるもの。

 わたしたちも安心だわ。

 船長戦のほうが面白そうだけど、ここはわたしの我が儘を聞き入れて一緒に残ってくれない?


「グレイさんの頼みは断れないよ。

 それにきっと、適切な 【鷹の目(ぼくら)】 の配置だと思う」


 通常装備で銃を肩に担いだセブン君はわたしと話しながら、気合いを入れるように長い黒髪を後ろで一つに束ねる。

 そのすぐ後ろには見覚えのあるサブマスが二人、配置なんかを相談しているのかな。

 周囲の喧噪で二人の声までは聞こえないけど、ウィンドウを開いてどこかに指示を送ったりもしている感じがする。


「今うちの斥候から報告が来たんだけど、やっぱり 【海】 エリアは通常装備は不可。

 銃を装備出来ない場所じゃ、銃士(ぼくら)は腕前を披露出来ないからね」


 さすが情報が速い。

 うちもすでにベリンダが 【海】 エリアの様子を見に走っているけれど、イベント開始直後にわたしがボケた分指示が遅れて出遅れた。

 ごめんね、ベリンダ。


『ううん、それはいいんだけど……凄い数の骸骨が海から上がってきてるよ。

 ほら、浜に落ちていた頭蓋骨。

 あれが一つもない。

 たぶんあれも骸骨になってドームに向かったんだと思う』


 少し緊迫したベリンダの声がインカムから聞こえてくる。

 そっか、わかった。

 ベリンダも被弾する前に一度ドームに戻って。


『わかった』

「女王陛下にお願いがあります」


 ベリンダの返事の語尾に声を重ねてきたのはライカさん。

 剣士(アタッカー)だけで構成されたギルド 【暴虐の徒】 の主催者で、一緒にいるのはお友達で、同じく剣士(アタッカー)だけで構成されたギルド 【アタッカーズ】 を率いるロクローさん。

 とりあえずライカさん、わたしを女王と呼ばないで。

 これ、もう何度も言ってるのに全然聞いてくれない。

 いい加減、溶かしてもいい?


「イベントのあとで好きにしたら?」


 うん、カニやんって結構薄情よね?

さて始まりました最終戦。

すっかり忘れられていると思いますが、謎の貝の役割も判明しますw

(わたしも回収を忘れそうになりましたw)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ( ̄□ ̄;)!!貝 ルゥのおもちゃじゃ無いのか
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ