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200 ギルドマスターは面談をします

pv&ブクマ&評価&感想&誤字報告、ありがとうございます!!


そして祝200話!

ここまでお付き合いくださいました皆様にはお礼申し上げますと共に、今後ともお付き合いくださいますようよろしくお願い申し上げます。

 現実世界でサトミ課長代理に電話をかけたわたしは、最後に一つだけ念を押した。

 それはなにかといえば、かつての悪い癖を再現しないように。

 つまり勝手にメンバーを切らないでね! って……。

 今回の対象はラウラなんだけど、以前のクロウならとっくに切ってたレベルよね、今の状況って。


 切らないで


 まずはもらった助言に従ってゆりこさんに相談してみるから……って思ったのに、ゆりこさんまで悩ませてしまう結果になるとは有能な営業マンも予想しなかったらしい。

 その部下である平凡な営業事務になんてもちろん予想不可能よ。

 ゆりこさんのことは、ラウラと同じようにずっと彼女のお世話になっていたジャック君とキンキーが相談し合い、それぞれにメッセージを送っていたらしい。

 そのゆりこさんから 【Gの逆襲】 より早い時間に呼び出されたわたしは、ギルドルームで彼女と面談をすることになった。

 もちろんこの話は、カニやんだけでなくクロウにも話していない。

 助言はもらったけれど、なんでもかんでもおんぶに抱っこってわけにはいかないもの。

 ちょっとは自分で考えて動かなきゃ。

 そう思ってログインしたら、すでにゆりこさんがギルドルームで待っていた。

 ウィンドウで確認したら他にも何人かログインしていて 【海】 で 【treasure ship】 に潜っているらしい。

 その中にラウラもいて……もちろんいるのはかまわないんだけど、ギルドチャットから聞こえてくる彼女の声がかなり聞き苦しい。

 声がっていうか、言っていることが無茶苦茶。

 誰かにあれをしろこうしろと命令していたかと思ったら、思い切り馬鹿にするようにダメ出し。


 ちょっと何様っ?


 さすがに突っ込みたくなったけれど、待っていたゆりこさんに 「静かに」 とゼスチャーで示される。

 先にログインしていた彼女はずっとこれを聞いていたらしく、ギルドチャットを切った早々に酷い溜息を漏らした。


「なんなのよ、あの子は!」


 酷くご立腹ね。

 ゆりこさんが先にログアウトしたあとの1周であったことは、ジャック君やキンキーがメッセージで伝えていたらしい。

 でもあまり文章が上手じゃない上、文字数制限で要領を得なかったらしい。

 二人とも中学生だし、そこは加減してあげて。

 そこで改めてわたしに話を聞こうと思ってこのお呼び出しをしたんだけれど、待っている間のギルドチャットで二人がなにを伝えたかったかをほぼ理解出来た。

 で、頭を抱えてわたしを待っていたらしい。


 大変お待たせいたしました


 テーブルを挟んでゆりこさんと向かい合ってすわると、どう見ても面談されているのはわたしよね。

 ちょっと学生時代を思い出して小さくなってしまった。

 ゆりこさんのログインは表示が出るから先にログインしていたメンバーは知っているけれど、表示を消しているわたしのことはゆりこさんしか知らない。

 だから急に呼ばれることはないと踏んでギルドチャットを切って話し出したんだけれど……わたしも溜息を吐いちゃった……。

 だって……理解出来ない。

 ひょっとして……ひょっとしてだけれど、わたしも普段、さっきのギルドチャットで聞いたラウラみたいな感じなのかしら?

 あんな風に威張り散らしているように見られているのかしら?


「そこを見ちゃうのがグレイさんよね」


 だって気にならない?

 気になるでしょ?


「全く気にならないといえば嘘だけれど、でもグレイさんはギルマスなんだから。

 それにあんな横柄じゃないわよ」


 それはですね、あそこまで横柄ではないけれど、ちょっとは横柄だってことよね。

 度合いの差こそあれ、横柄ということに変わりはないのよね。


「……まぁそっちに行っちゃうのがグレイさんよね。

 でも! グレイさんはギルマスなの。

 ちゃんと攻略やら戦略やらを考えてるわけでしょ。

 でもラウラのあれは全然そうじゃないわ」


 うん、そこは激しく同意。


「つまり、わたしはまた子育てに失敗したってことね」


 ……そこはよくわからない、ごめんなさい。

 だってわたし、子育てはもちろん結婚すらしたことがないんだもの。

 する予定もなくて、彼氏すらいないし……落ち込んできたわ。

 わたしにとっては人生の大先輩でもあるゆりこさんは、おそらく 【素敵なお茶会】 の最年長で……おそらくっていうのは、ちゃんとした年齢を聞いたことがないから。

 現実では専業主婦で、旦那さんと二人の息子さんがいるらしい。

 その息子さんもすでに中学生と高校生で手が離れてきたんだけれど、どうも現在の態度がよろしくないらしい。

 男の子だから、中学生にもなればお母さんと一緒に買い物に行ったりなんてしなくなるのも世間では珍しくないらしく、そこはゆりこさんも理解している。

 反抗期兼親離れ、子離れってことかしら?

 よくわからないわたしが余計なことを差し込むのはやめておく。

 でもゆりこさんの話によれば、普段から旦那さんは結構お忙しい人らしくて素っ気ないんだけれど、息子さんたちまでが……


「あいつらはね、お母さん(わたし)のことを家政婦か飯炊き女だと思ってるのよ。

 クソガキどもが」


 まぁなんか、よくわからないんだけれど、ゆりこさんがそう思ってしまうような腹立たしいことばかりされたというか、言われたというか。

 三食昼寝付きでいいね……みたいなことを言われ、そういう扱いを受けたらしい。

 稼ぎがないのは息子さんたちだって同じなのに、なにを言っているのかしら?

 自分たちはまだ子どもだから、未成年だから稼ぎがないのは当然っていうのなら、その子ども、あるいは未成年っていう立場は 「親」 が有ってこそ確立している地位であって、その 「親」 がいなければ一日も早い自立を周囲から求められるのがこの世知辛い世の中。

 そんな世間の荒波にもまれずに済んでいることを感謝するどころか、お母さんに向かって 「三食昼寝付きでいいね」 なんて……処刑ものだわ。


 斬首よ


 でもこの手合いにはなにを言っても無駄。

 だからゆりこさんは 「子育て」 を放棄し、最低限の家事しかしないことに決めたらしい。

 食事作りのため早めにログアウトはするけれど、ご主人や息子さんたちの帰りを待たずに自分だけさっさと食べちゃって、そのあとはゲーム三昧。

 で、ちょっと早めにログアウトをして片付け、入浴、就寝という生活。

 なんだかちょっと殺伐としているけれど、実際の状況は知らないから余計なことは言わないでおく。

 ゆりこさんはそんな息子さんたちのことを 「子育てに失敗した」 といい、今度はラウラの 「子育て」 に失敗したという。

 別にゆりこさんの失敗ってわけじゃないし、そもそもお願いしていたわたしの失策。

 ゆりこさんに責任を問うつもりはない。

 ただ、今のラウラをどうしたらいいか?

 それこそ子育て経験者としてご意見をいただけたらと思う。


「急に性格が変わることなんて珍しいとは思わないけど、あそこまで行っちゃっているのはここが仮想現実(ゲーム)だからだと思う」


 つまり遊び感覚なのね。

 もちろん遊び方は人それぞれ。

 でも……それだけじゃ納得出来ないわたしにゆりこさんはさらに言う。


「あの子にとって周囲にあるアバターは全てNPCなのよ」


 中にプレイヤーがいることはわかっているけれど、自分の思い通りに動かせる、あるいは動かしていい存在(もの)

 だからゆりこさんの言わんとするところを正確に変換すると、NPC同然の扱いって意味ね。

 だったらそもそもコンシューマーゲームで遊べばいいことで、MMOの必要はないと思う。

 ほんとこれ、いつ、どこでそんな感覚にすり替わったのかしら?

 キンキーにも話を聞いたほうがいい?


「聞いてもいいけど、たぶん無駄よ。

 だってわたしたち、仮想現実(ゲーム)の中でのみの付き合いでしょ?

 現実であの子に何かあったとしても、それは解決出来ないもの」


 そうね、うん。

 そもそもわたしたちはみんな……わたしとクロウをのぞいてだけど、他はみんなどこに住んでいる誰とも知らない他人。

 ひょっとしたら毎朝通勤途中の雑踏ですれ違っているかもしれないけれど、決して個人を認識し合うことのない他人同士。

 現実で個々が抱える問題にまで踏み込むことはない。

 もちろんゲーム内にはリア友ギルドだってあるし、ギルドメンバーから相談されれば、それが現実での問題であったとしても乗らないわけじゃない。

 でもラウラのあれは相談されることはないだろうし、そもそもそういう形での解決は出来ない問題のような気がする。


 根本的に別問題


 多分そういうことだと思う。

 どうしてラウラがあんなことを言い出したのか、あんなことをしだしたのかが問題ではなく、あの状態のラウラをどうするか。

 そこが問題なのよね。

 クロエに人の好き嫌いが多いのは前からわかっていることだし、その対象に対して当たりが強いこともわかっている。

 でも今回ラウラにしていることは、さすがに度が過ぎている。


「クロエの反応で度合いを測るのもどうかと思うけどな」


 不意にカニやんの声がしたと思ったら、ログインしてきたところらしい。

 直後、わたしとゆりこさんの手元それぞれに開いたウィンドウがそれを報せる。

 当然他のメンバーにも報せがあって、ギルドチャットでは挨拶が交わされるけれどわたしたちにそれは聞こえない。


「いや、ポーション調達してくる。

 トール君たちも 【Gの逆襲】 に遅れないようにしてくれよ」


 たぶん他のメンバーたちと 【treasure ship】 に潜っているトール君からお誘いがあったんだと思う。

 断ったカニやんは、わたしたちと同じテーブルに着こうとして気づく。


「旦那は?」


 まだよ。


「珍しい。

 ゆりこさんと二人っきりで密談」


 密談って……なんか不正を働いているみたいで嫌なんだけど。

 談合とか、そんな感じがする。


「仕事人間だよな、グレイさんって。

 それよりラウラのこと、俺に考えがあるんだけどいい?」


 カニやんの提案は、以前に、この状況ではない時にわたしが考えたこと。

 せめてキンキーに話を聞いてからとわたしは思ったんだけれど、ラウラが自分で止めを刺した。

 まずは 【Gの逆襲】 に遅れないよう、そろそろナゴヤドームに戻ろうという話になった時。

 【Gの逆襲】 戦はHPの攻防戦で、勝っても金貨はもらえない。

 ラウラが興味を持たないのはわかるし、少しでも金貨が欲しい彼女がその時間も 【treasure ship】 に潜りたいのもわかる。

 それに賛同するメンバーが一緒に残るのはもちろん自由だけれど、彼女は 「命令」 したのよ。


 ほんと、なに考えてるの?


 この時には話し合いを終えたわたしもギルドチャットを聞いていたんだけど、もう呆れるしかなかった。

 どうして 「命令」 なのかしら?

 しかもみんながその命令に従うなんて、どうして思えるのかしら?

 期間限定エリア 【海】 にいなかったカニやんにまですぐに来るよう 「命令」 して……なにも言い返さなかったカニやんだけれど、隣で凄い形相をして怒りを堪えてたのが怖かった。

 空気も悪すぎて、助けを求めるようにクロウにしがみついてしまったのは内緒でお願いします。

 だってすぐ後ろでゆりこさんまで怒ってるんだもの、怖すぎる……。

 ハルさんのこともあってすでに腹を立てていた恭平さんは、トール君たちに気まずい思いをさせないようそれまでは堪えて、【treasure ship】 もなんでもない振りをして一緒に潜ったりしていたけれどさすがに我慢の限界。

 なにも言わずに、でも誰かを誘ったりせず一人でドームに戻ってきた。

 それを追いかけてきたのが……これはわたしにも意外だったんだけれどJB。

 だってJBって空気が読めないところがあって、ひょっとしたらわたしよりマイペースかもって思ってたから。

 そのJBが誰にともなく 「遅れるっすよ」 って声をかけたらマコト君がそれに反応して他のメンバーに声をかけ、結局ラウラだけを残してナゴヤドームに戻ってきた。

 もちろん 【Gの逆襲】 は強制参加じゃない。

 だから不参加でもいいし……ここははっきりいうけれど、ラウラの火力はいわゆる 「その他大勢」 にすぎない。

 これもここで使うと言葉が悪いんだけれど 「枯れ木も山の賑わい」 で、「その他大勢」 の火力だって束になればランカー一人より重火力になる。

 でも一人欠けることに目くじらを立てる必要はなくて、それこそ頼りにしている重火力メンバーにだって参加を強制することは出来ない。


 自由参加だもの


 まぁ不参加の意思表示くらいはして欲しいかな。

 だからラウラが参加しないのは別にいいの……って思ったら参加してきて……うん、参加自由だからね。

 でも邪魔をするのはやめてくれない?

 ラウラは前にも厳しい攻防の中でお巫山戯をやっていたけれど、でもみんな真面目だから、落ちそうになるプレイヤーを見つけたら反射的に助けに入ろうとする。

 そうやって次々にプレイヤーを落とし始めた。


 やめなさい!


 ほんと、なにやってるのっ?

 おかげでなにも知らないプレイヤーが何人か落とされてしまったけれど、蝶々夫人によって無事救出。

 でもそれを見ていた他のプレイヤーたちがラウラを無視しだして、そこに 【素敵なお茶会】 のメンバーまでがラウラを放置しだしたから、ゲーム序盤でラウラは超巨大Gに踏み潰され、そのまま放置された。

 そう、この最終戦は夜時間だから超巨大Gなのよ。

 ただでさえ混乱が生じやすいのに、本当になにをしてるの!

 このあと公式サイトの掲示板で、そのことを名指しで非難されたと思ったら露骨な反論をして炎上を招いてくれた。


 頭が痛い……


「クソガキもやってくれたけど、運営も色々やってくれるよな」


 この期間限定イベント 【treasure ship】 を締めくくる最終決戦。

 【Gの逆襲】 でも運営はやってくれたけれど……夜時間にのみ登場する超巨大Gとか、本当に運営も色々と考えるんだけれど、やっぱり今回も最終戦でプレイヤーに止めを刺しに来た。

 ここの運営は、どうあってもプレイヤーに勝ちたいらしく、そのためにあの手この手で仕掛けてくるみたい。

 もうね、そう思いたくなるくらい。

 呟いたのはカニやんだけど、たぶんみんな同じことを思ったはず。

 最終戦はイベント最終日のPM3:00に始まってPM6:00に終了。

 きっかり3時間の攻防戦なんだけど、運営の布陣はその前から始まっていたっていうね。


 フェアじゃない!!

ゆりこさんの恨み言でラウラ事件が長引いてしまったのですが、いよいよ最終戦です。

ラウラ事件はこのあとも尾を引っ張るんですが、とりあえず運営との対決へ。

ルゥの大活躍に乞うご期待!! ・・・は嘘ですw

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