２ ギルドマスターは新人を勧誘します
pvありがとうございます！
りりか様の店で整備したばかりの装備一式をまとったクロウは、嘘偽りなく格好いい。
赤と黒の、割と軽装っぽい鎧なんだけど、クロウの赤い髪とかに似合ってる。
その背中のごつい剣がバランス悪いんだけどね。
でもまあ格好いいんだよね、うん。
ドーム内を出入り口に向かって歩いていると、結構女性プレイヤーが振り返るの。
そんでもってすぐ後ろをついていくわたしを、羨望の目で見てくれるならいいんだけど、たいてい嫉妬よね。
ああ、鬱陶しい！
でもね、ここはVRMMORPGの中なわけで、アバターは女でも実体も女とは限らないわけ。
質の悪いことに、ネカマはいかにもそれらしく振る舞ってくるから紛らわしいのよ。
今クロウを振り返った女プレイヤーの中で、実体女が何人いたのか？
ちょっと気になるところなんだけれど、クロウは全く気にしないでずんずん歩いて行く。
うん、あんた、全く興味なしだね。
それとも慣れてるの？
あんまり勢いよく歩くもんだからそのまま外に出るのかと思ったんだけど、一歩手前で急停止。
忘れ物でもしたのかと思ったら、わたしに忘れ物はないかと聞いてきた。
「装備、それでいくのか？」
換装し忘れてないかってね。
忘れてないわよ、大丈夫。
本格的な戦闘にはちゃんとするんだけど、いつもは外見変更で取り入れた他職のショーパン装備でその辺をフラフラしてる。
ただ歩いているだけで耐久が減るわけじゃないから別にいいんだけど、なんとなく気に入ってる。
ショーパンにロングコートなびかせて、スニーカーで闊歩するの。
濃いめの色なんで地味に見えるけれど、髪が真っ白なんでこれでいい。
ちなみに外見変更っていうのは、それぞれの職種別装備の外見だけを他職の装備に変える特殊加工。
今着ているショーパン装備は、本来は短剣使い用なんだけど、外見がそう見えるだけで、性能は魔型専用の装備だから短剣使いは装備できない。
ただこの特殊加工には希少な課金アイテムが素材として必要なんで、滅多に出来ることじゃないんだけどね。
でもせっかくクロウが声をかけてくれたんで、一応武器だけは装備しておこうと思って、インベントリからメイスを取り出す。
ま、これも本気用じゃないんだけどね。
見てくれ重視のちょっと華奢なメイス。
可愛いのよこれ、先端がキラキラしてて。
「これで十分でしょ」
軽く振り回して見せたら、クロウは小さく頷いて先にドームを出る。
一歩外に出たらナゴヤドーム周辺は廃墟。
そんでもって敵が出てくる。
それでもこの辺はまだ初期位置ってこともあって、全然手強くないんだけどね。
数も全然出てこない。
初心者のレベル上げに協力して私たちはなるべく手は出さないようにしてたんだけど、道を塞がれちゃ仕方ない。
まぁ全部、クロウが素手で叩きのめしてくれたんだけどね。
あんた剣士でしょ？
開いたウィンドウでギルドメンバーを指定すると、同じエリアにいれば地図に居場所が表示される。
クロエはナゴヤジョー近くにいるみたい。
ナゴヤジョーにはダンジョンがあって、最初のクエストで潜る場所。
ということは初心者を捕まえたのかな？
「あ、来た来た」
ナゴヤジョーのダンジョン前ロビーじゃなくて、城を出たところ、雑草ぼうぼう廃墟の中でクロエは待っていた。
綺麗な金髪を長く伸ばした、緑色の目をした美少年プレイヤーがクロエ。
中身は全然美少年じゃないんだけど、このギャップがわたしは結構好き。
彼は初心者装備の男性プレイヤー二人と、なにやら話しながら待っていたらしい。
「紹介するよ、うちのギルマスのグレイさんとサブマスのクロウさん」
「初めまして。
【素敵なお茶会】を主催しているアールグレイです」
わたしが営業スマイルで初心者二人に自己紹介した時、近くを通りかかったパーティが、ぎょっとした目をこちらに向けてきた。
その中の一人が禁句を言ったのよ。
「げ、マッドティーパーティー」
小さな声で言ったつもりだったんだろうけれど、ちゃ～んとはっきり聞こえたわよ。
メイスを振り上げようとしたら、先にクロエに撃たれちゃった。
ラピッドマスター
クロエは遠距離攻撃を得意とする後方支援職の銃士なんだけど、このスキルは超近距離射撃。
魔弾じゃないからINTの影響は受けないし、外しようがないくらい超近距離射撃だからDEXも関係なし。
武器とSTR依存の三連発で、三発目に敵がノックバックするんだけど、わりとこのあたりは初心者でも歩けるエリア。
クロエの火力じゃ、一発目で敵影が消滅しちゃった。
「僕たちに気を取られてる時じゃないでしょ？
気をつけないと」
クロエが親切ごかしていえば、通りすがりのパーティは恐縮しきりで礼もそこそこに立ち去っていく。
なんだかすっきりしないわ。
見覚えのない顔だから古参組じゃないんだろうけれど、それでもわたしたちのことを知っているってことは、それなりに中堅クラスってところかな？
ま、気を取り直して営業スマイル営業スマイル。
「こっちはトール君とアギト君。
なんか、今日登録したてで潜っちゃったらしいんだよね。
PT全滅でダンジョン入り口に放り出されてたんだ」
PT全滅時は、一定時間が経過すると全員がダンジョンの外に放り出される。
その時の状態はダンジョンによって異なるんだけど、このナゴヤジョーは死亡状態で放り出されるから結構厳しいかも。
しかも死亡状態でロビーに放り出されてる初心者PTを誰も救助しなかったらしい。
酷い話……
で、そこに通りかかったクロエが助けてあげたらしい。
クロエらしいといえばクロエらしいけれど、いつも助けるとは限らないのが性格。
結構気まぐれなんだよね。
それにしても、このナゴヤジョーは潜るのにプレートが要る。
ダンジョンを形成するための必須アイテムなんだけど、そのプレートは、ダンジョン周辺でエリアキャラを倒せば時々ドロップで手に入るんだけど、だとしたらそれなりにレベルも上がっているはず。
なのにこの二人はどうしてレベル１なんだろう？
明らかにおかしいわよね？
「ああ、プレートね。
なんか今、初心者パックに入ってるんだって」
「は？ なに、それ？
私たちの時はなかったわよ？」
「初心者応援パックだったかな？
今登録したら、ログインした時にプレゼントってキャンペーン。
グレイさんが今更もらっても屑ばっかりだよ」
その初心者二人を前にクロエはケラケラ笑ってる。
そういうあんたがもらっても屑でしょ。
だってあんたもレベルキャップでカンストしてるじゃない。
しかもそんな酷い目に遭ったばかりの二人を前に、何をケラケラ笑ってるのよ？
なんか、色々と可哀相な二人……。
ここは是非ともギルドに勧誘して、色々と教えてあげようじゃない！
「それで勧誘してみたら、二人とも入ってくれるって」
それを先に言ってくれない？
クロエってば、絶対わざとやってるわよね？
「お試し期間一週間の説明も済んでるよ」
「お前、サブマス権限あるだろう」
今わたしが言わんとしたことを、クロウに言われちゃった。
そうよ、クロエだってサブマスターなんだから加入させてあげられるじゃない。
なんでわざわざ呼んだのよ？
「グレイさんとクロウさんのデート、邪魔しようと思って」
「あんたね……」
確かにいつも一緒にいるけど、だいたい一緒にいるけど、別にわたしとクロウはそんな関係じゃないんだけど。
これ、前にも言ったはずなんだけど。
そもそもここ、VRMMORPGだし。
現実世界なんて他人どころか、顔も本名も知りません！
『グレイさんとクロウさんって、やっぱりそうなの？』
あ、またギルドチャットが割り込んできた。
ちょっと黙ってて欲しいんだけど、割り込んできた。
しかもこっちでも蒸し返してきた。
『でもグレイさんって、ネカマ疑惑あるよね？』
『本人男疑惑？』
『そうそう、ここじゃ綺麗な女の人だけどね』
ありがとう！
でもちっとも嬉しくないんだけど。
そう、この世界じゃ真っ白なストレートロングヘアに紫の瞳をした結構な美人なんだけど、だからなに？
ちょびっと課金して、まなじりに朱をいれてピンクのリップも塗ったけど、悪い？
化粧は必須でしょ？
すっぴんで出歩けるわけないじゃない！
「ちょっと黙ってろ。
勧誘中だ」
『あ、クロウさん庇った』
『クロウさん、男前』
「いいからちょっと黙っててよ。
二人にはこの会話、聞こえてないんだから」
「まだ加入してないから、二人にはギルチャ聞こえてないよ」
『あーそっか』
『じゃ、ちゃっちゃと加入させちゃってよ』
もう好き勝手なこと言いたい放題。
ギルドマスターの威厳はどこにあるのかしら？
とりあえず二人が了承しているのなら、さっさと加入させてしまおう。
早速二人にもウィンドウを開いてもらって加入手続きを済ませると、さっきとは逆のインフォメーションが出る。
information トール がギルドに加入しました
information アギト がギルドに加入しました
『よろー』
『よろしく』
『初めましてー』
二人にウィンドウのメニューから、インカム操作を教えてギルドチャットを聞けるようにしたら、次々に挨拶が始まる。
「みんな今、潜ってるの？」
今まではしなかったんだけれど、今回は結構な人数がログインしているタイミングだったし、ちょっと集合でも掛けようかな？
で、直接会って挨拶っていうのもいいじゃない。
ちょっとギルドマスターっぽいことを考えてみたわ。
でも自分たち以外はどこにいるのかわからない。
なにしろ同じエリアにいても地図の外にいたらわからないし、表示は任意。
しかもダンジョンに潜っているあいだは表示をオンにしていてもわからない。
インカムに応答してるのが幸いだった。
『ううん、だべってる』
『休憩中』
「じゃ、とりあえずドームに集合」
『はーい』
『りょー』
『行きます』
それぞれに返ってくる返事を聞きながら、私たちもドームに戻ることにした。
ナゴヤジョーから戻る道中、当然敵は全てクロウが素手で叩き潰したんだけど、よくよく考えてみたら二人に倒させればよかった。
中にはレベル１には厳しい敵もいたんだけど、それは私たちが補助すればいいわけだし、こう見えて回復魔法もちょっとは使えるのよね。
時間を無駄にしちゃったなんて残念に思いながらドームに戻ったら、中央広場にはすでにメンバーが揃って待っていた。
