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199 ギルドマスターは悩みます

pv&ブクマ&評価&感想&誤字報告、ありがとうございます!!

 みんなの話ではとってもポピュラーなゲーム黒ひげ○機一発。

 それは当たりの場所がその都度変わるというハラハラドキドキのゲームで、ノミのような心臓を持つわたしのような人間にはとっても不向きで、そのためか経験がない。

 そんなゲームがこの世にあることすら知らなかった。

 兄たちも教えてくれなかったし、両親も買ってくれなかった。


 なぜか……


「マジ死んじゃうと思ったんじゃない?」

「親だけに、娘の心臓サイズくらい知ってるだろ」

「女王の心臓って、俺の(げんこ)サイズか?」

「そんなに大きくないと思う」


 さっきまで軽快に喧嘩をしていた三人が、見事なまでのコンビネーションでわたしをからかってくる。

 しかも最後はの~りんまでが……


「だから(のみ)サイズだって」


 自分で言うのはまだ我慢が出来るけれど、人に言われるのはやっぱり腹が立つ。

 この腹立ちを思いつきに任せたいんだけれど、これをたぶん八つ当たりっていうんだけれど、わたしじゃ無理。

 絶対にSTR(腕力)AGI(速さ)が足りない。

 あの船長の速さに合わせて一撃を食らわせるとか……運動神経(プレイヤースキル)も足りない。

 あ、じゃあこういうのはどうかしら?


 肉を斬らせて骨を断つ!


 うん、決まった。

 よし、これでいこう。

 船長の攻撃を食らいながら、死亡判定が出る(死亡フラグが立つ)前に船長を叩く。

 これならわたしでもなんとかなりそう。

 他の方法も思いつかないし。


「なにを企んでる?」


 カニやんのリクエストで詠唱(アクティブ)スキル 【一刀両断】 で船長に斬り掛かり、予想通り盛大にノックバックした(吹っ飛ばされた)脳筋コンビ。

 そのフォローで前に出ていたクロウが瞬時に戻ってきた。

 相変わらず速い。

 この運動神経があればもう少しお役に立てるんだけど、わたしも結構残念な魔法使いなのよね。

 の~りんのことばっかり言えない。

 とりあえず、やるわ。

 このままグダグダしていても誰かが落とされるだけじゃない。

 そもそもクロウ、企んでるっていう言い方はやめてくれない?

 よろしからぬことを考えてるみたいに聞こえるから嫌。

 とりあえずその剣、貸して。


「どこを狙うつもりだ?」


 狙いは首。

 別に船長の首が飛ぶから……とか、黒髭ゲームのことをいってるんじゃないのよ。

 それも一つの攻撃手段なら、弱点としてありじゃないかと思ったわけ。

 もっというなら、斬撃や打撃なんかも種類としてはありで、その違いも弱点になり得るんじゃないかと思う。

 とりあえず剣を借りて斬撃を仕掛けてみるわ。

 だからちょっと剣を貸して……っていったのに、自分で仕掛けるとか。


 ちょっとクロウ!


 わたしの話、聞いてる? ……っていっているあいだにも斬り掛かってるし。

 しかも狙いどおり、首に打ち込まれた船長は大量のHPを流出させる。

 これがプレイヤーなら落ちるんだけれど、【幻獣】 はプレイヤーと対等じゃない。

 つまり落ちてくれないのよ。

 でもクロウの一撃を見てすぐさま反応するのが脳筋コンビ。

 船長の速さと一撃の重さは 【幻獣】。

 だからさすがのクロウも一撃を食らわせたら、即座に船長の攻撃範囲から離脱。

 船長だってそのまま見逃してくれるわけがなくて追撃を仕掛けようとするんだけれど、そこに脳筋コンビが時間差で仕掛ける。

 もちろん狙うのは首。

 【幻獣】 の高HPはうちのトップ剣士(アタッカー)三人の攻撃でも簡単には落ちてくれなくて、取り囲む他のメンバーもバランスよく、タイミングを見計らって船長に攻撃を仕掛ける。

 詠唱(アクティブ)スキルは使用出来ず、装備によるステータスの底上げもなし。

 日頃使い慣れた武器を使うことも出来ない状況で、首というピンポイント攻撃は結構難しいらしい。

 船長もすでにクロウ、柴さん、ムーさんと連続で首に攻撃を食らっている。

 学習するAIを搭載しているらしく重点的に首をガードしてきて、しかもそのガードが結構堅い。

 だから一人が適当な場所に打ち込み、船長がそれを短剣で受けて首のガードが崩れたところを別方向から狙っていくんだけれど、タイミングと速さがポイントになる。

 少しでも間が開くと、素早く反応する船長に両方とも受け止められてしまうから。


 同時に狙ってみる?


 そのへんのタイミングとかは参加するメンバーに任せるわ。

 魔法使い(わたしたち)は攻撃参加出来ないもの。

 手数で押すこの持久戦。

 数の優位を失わないため、攻撃参加をしない魔法使い(わたしたち)はまたしても一時的に回復魔法使い(ヒーラー)に転職。

 回復魔法を持たないの~りんは、本当にすることがなくて暇そうだったけど。

 少し時間は掛かるけれど、文字通り持久戦だもの。

 ベテラン勢はともかく、若手組が少し戦い辛そうにしているのは見ていてわかったけれど、ここで無理な攻めに転じて誰かが落ちるのは避けたい。

 それがわたしの考えだったんだけど、またラウラがやってくれる。

 他のメンバーと攻撃タイミングを被せたり、ラウラに任せてみようとしたら打ち込まなかったり……特にクロエに絡んじゃって。


 しつこい


 そのとばっちりでぽぽやくるくるにまで絡んで、全く何がしたいのかわからない。

 柴さんとムーさんのカバーで誰も落ちずにクリア出来たものの、こう……終わってからの空気が凄く悪かった。

 クリア直後、報酬の配分でも勝手に好きなだけ金貨を取ろうとしてカニやんにも怒られ、むくれた挙げ句に悪態を吐いてクロウに拳骨を落とされた。

 ここはやっぱりわたしが怒るべきよね。


 主催者だし


 情けないくらいモヤシな魔法使いだけれどギルドの責任者だもの。

 ここはビシッと注意しなきゃ駄目よね。

 そう思ったのに、脳筋コンビに先を越された。


「ラウラ、いい加減にしろよ」

「お前、ギルド戦の意味をわかってるのか?」

「わかってるよぉ~ん。

 ちゃんとクリア出来たじゃん」

回復(サポート)があったからだろ」

「お前のせいで結構ヤバかっただろうが」

「え~、全然平気じゃん。

 あたしが本気出せばあんなのすぐ落とせるしぃ~。

 だいたいギルマスとかカニさんの回復(ヒール)って、ゆりこさんより全然回復しないし」


 挙げ句に 「ヘボい」 とまで言ってわたしを落ち込ませてくれた。

 ちょっとこれ、なんなの?

 なにがどうしてこうなってるの?

 ラウラのお巫山戯の注意で、自分がダメ出しされるとは思ってなかったから結構なダメージを受けたみたい。

 わたしが呆気にとられているあいだにもラウラは巫山戯続け、脳筋コンビの怒りのボルテージを上げていく。

 まぁ二人はカニやんとも仲がいいから、友達を馬鹿にされたら面白くないわよね。

 うん、気持ちはわかるんだけど……


「二人は本職の回復魔法使い(ヒーラー)じゃない」

「本職は攻撃魔法使い(ソーサラー)だ」

「でも魔法使いなんだし、回復出来て当然じゃん。

 あんなへぼい回復力でみんな最強とか持ち上げちゃって、ウケルんですけどぉ~」


 さすがに三対一はまずいと思って黙っていたカニやんも、わたしの隣で 「あいつ、溶かしてやろうか」 と呟いている。

 その表情が結構怖いのよ。

 本当にちょっと待って。

 これ、どうしてこうなってるわけ?

 はっきり言ってしまうと、ラウラの火力って全然ないわよ。

 まだ全力は出してないって本人はいうけれど、全力でしょ?

 たぶん……魔法使いのわたしと一対一で対戦してもわたしが勝つわよ。

 詠唱時間という縛りはあるけれど、中距離攻撃(ミドルレンジ)だもの。

 剣士(アタッカー)の物理攻撃が届く前に魔法(スキル)を発動出来れば魔法使いの勝ちだし、そもそもラウラはわたしにしてもカニやんにしても、それどころかの~りんにしても一撃では落とせない。

 でも逆に、わたしやカニやんなら一撃で、の~りんでも二撃くらいでラウラを落とせる。

 ねぇ、そのへんの現実を見て言っているのかしら、これ。


「見てないだろ?」


 そうよね、見えてないわよね、全然。

 でもラウラの主張では、それこそみんなみたいな強い装備があれば全然自分は強いって……装備を含めての強さなのは当たり前だけれど、ある程度の強さがなければ強い装備は手に入らない。

 廃課金プレイヤーは例外だけど、一般的なプレイヤーは必要な素材を集めたり、必要経費を貯めなければならないから。

 つまりその 「強い装備」 を入手出来るっていうのはやっぱり強いってことでもあるわけで、まだ入手出来ないってことはラウラにそこまでの強さはないってことを意味する。

 でも今の彼女にこの理屈は全く通じていない。

 その過剰なほどの自信は、いつ、どこから来たのかしら?

 わたし自身、まだまだ若いつもりでいたけれど……今時の子が理解出来ない。


「安心しろ、俺も理解出来ん」


 それ、全然安心出来ないから。

 カニやんがわたしより歳上なのはわかってるから。


「サラリと酷いこと言ってきたな」


 だって事実だもの。

 こんな感じでわたしとカニやんは、言い争う三人とは少し離れてぼそぼそと話していたんだけれど、三人のほうはボルテージがガンガン上がりっぱなし。

 もちろん柴さんとムーさんは声を荒らげないよう抑えてはいるんだけれど、ラウラは気にすることなく二人を挑発するようなことを連発してくる。


「そういえばギルマス、団体戦は7位目指すっていってたけど絶対1位」

「1位が欲しけりゃ個人戦で狙えや」

「7位なんてぬるいじゃん。

 絶対1位!

 個人戦で1位狙いは当たり前。

 だから金貨、全部ラウラに頂戴っていってるんじゃん。

 次からはみんなに分けないでラウラに頂戴ね」

「無理」

「独り占めしたけりゃ一人で潜ってこい」


 もちろんラウラが一人で潜っても、船長への挑戦権を持っているとはいえ必ずしも船長と当たるとは限らない。

 でも船長にしても他の 【幻獣(ボス)】 にしても、物理攻撃対象と魔法攻撃対象とがあってソロで回るには不向きな 【treasure ship】。

 ギルド戦でもあるってことを考えれば、ソロで潜るようには設定されていないんだと思う。

 それすら分かっていないのか、ラウラってば……


「いいよ、行ってくる。

 あたしが本気を出せば、ほんと、マジ最強よ」


 ……同じ意味の言葉を重ねるところに、ラウラの自信の薄っぺらさを感じるのはわたしが捻くれてるから?

 意地悪をしたいわけじゃないけれど、これ、止めても無理よね?

 それどころかカニやんに、余計なことを言うなと逆にわたしが止められてしまった。

 しかもラウラってば一人で行ってくるって言ったはずなのに……


「行くわよ、キンキー」


 あら、キンキーを道連れ?

 もちろん声をかけられたキンキーは、戸惑い感満載でラウラ以外のメンバーを見る。

 これは助けを求めているのかしら? ……と思って助け船を出そうとしたら、やっぱりクロウに 「黙っておけ」 と止められてしまった。

 代わりに脳筋コンビがいうの。


「一人で行くんだろ?」

「最強なんだろ?」


 まぁこう言われればこの二人は誘っても無駄よね。

 じゃあ潜るのをやめるのかと思ったらやめなくて、かといって一人で潜るわけでもない。

 なにをどうしてそういう選択が出て来たのかはわからないんだけれど、彼女が声をかけたのはクロウ。

 双子の兄弟であるキンキーはわかるわよ。

 これまで仲のよかった脳筋コンビも、この状況じゃ誘えないのもわかる。

 でも彼女とクロウって、この状況で相棒に選ぶほどの接点があったっけ?


「断る」


 予想通り、一言のもとに断られちゃってる。


「いいじゃん、たまには。

 だいたいギルマスって、いっつも一番最初に落ちそうになるくらい弱いじゃない。

 さっさと落としちゃえばクロウさんだって自由に出来るのに」


 …………えっと、わたしって外からそんな風に見えているのかしら?

 ラウラは外の人じゃなくて(なか)の人だから、身内にもそんな風に見られてるってこと?

 今までにも色々ともめ事はあったけれど、今回が一番効いてるかも。

 おかげでなにも言えなくて呆然としていたら、ラウラの手がクロウの腕をとる。

 それを見た瞬間に思わずムッとしちゃったんだけど、ぐっと堪える。

 クロウはわたしの所有物じゃないし、どうするかはクロウが決めることだもの。

 理性(あたま)じゃわかってるけど、瞬間的に沸く感情までは制御出来なくてムッとしちゃったけど。

 しかも予想通り相手にされなかったけどね。

 乱暴にラウラの手を払うのを見て、いつものわたしならクロウを窘めるところだけれど、この時ばかりはちょっとだけホッとしちゃった。

 わたしってば、自分で思っている以上に性格が悪いかもって気づいて落ち込む。


「一人で行ってくればいい」


 クロウがなにを考えているのか全くわからないんだけど、乱暴にラウラの手を振り払ったわりに言葉は静かでいつもどおり。

 そのままでみんなに言うの。


「そろそろ晩飯だ。

 一度解散しよう」


 そしてわたしに確認を求めてくるから大きく頷いておく。

 ちょっとなんて言っていいかわからなくて、頷くのが精一杯だったの。

 【Gの逆襲】 最終戦があることをカニやんが確認して、クロウの提案どおり一度解散をしたわたしたち。

 そのままわたしはクロウに連れられて、ルゥを抱えてナゴヤドームに戻ったんだけど、あとでハルさんが教えてくれたところでは、何人か残っていたメンバーを誘って潜ろうとしていたらしいラウラ。

 でもみんなに断られて、それをギルドチャットで聞いていたハルさんが心配して 『俺でよかったら一緒に潜ろうか?』 って声をかけたら無視されたらしい。

 で、さらにそれを聞いていた恭平さんが 『あいつ、明らかに火力がないってわかってる奴は相手にしないみたいな態度をとりやがる』 と怒って教えてくれた。

 この時恭平さんは口にしなかったけれど、でも、やっぱり仲のいいハルさんを馬鹿にされたら面白くないわよね。

 自分より弱い人は相手にしないっていうスタンスの人をわたしも一人知っているんだけれど、でもその人は強い。

 凄く強いのよ。


 不破さん


 このゲーム内に二本しかない長刀 【屍鬼】。

 一本の持ち主はクロウでわたしが預かっているんだけど、もう一本の持ち主ね。

 本当に強い人でしょ?

 まぁちょっと性格にも問題ありそうなんだけど、基本的には強い人にしか興味がないってことらしい。

 でもラウラは違うわよね?

 自分は強いって言いながらもさっき一人で潜りに行かなかったし……【treasure ship】 がソロに向かないダンジョンだってわかっていたとは思えないけれど、でもそれは賢明な判断で、だからって誘ったのがキンキーやクロウ。

 自分の言いなりになる……少なくともラウラはそう思っているキンキーや、このゲームのトップランカーよ。

 不破さんとは全然違うじゃない。

 夕食休憩のためにログアウトしたわたしは、駄目だってわかってるけど、どうしても落ち着けなくてクロウ……じゃなくて、サトミ課長代理に思わず電話をしてしまった。

 ただでさえ食欲がないのに、ラウラのことやこのあとのことが気になって気になって仕方がなくてご飯が喉を通らないって訴えたら、サトミ課長代理がくれたヒントというか、解決の糸口として示唆してくれたのはゆりこさん。

 なるほど、ゆりこさんか。

 ここまでラウラの指導をしてくれたゆりこさんなら……って勝手な期待をしたんだけど、これはこれでまた別の問題が……。

 これ以上、わたしにどうしろっていうのっ?


 ひょっとして【素敵なお茶会】 設立以来最大の危機到来っ?!

問題を抱えたまま期間限定イベント 【treasure ship】 はいよいよ終幕へ。

すでに準備された次のイベントではあのトラブルが再現???

小林は渋沢の頭髪を毟るのかっ?!(完全な場外乱闘w)


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[一言] これがかの有名な思春期特有の無敵農業?(笑)
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