195 ギルドマスターは弱点を探します
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すでに先行したグループは全滅し、浜に転送されて遊んでいるらしい。
もちろんそのメンバーでもう一周潜ってきてもいいわよって、インカムを通じて伝えたけれど待つことにしたらしい。
うん、こっちも全滅しそうだわ。
だって初見ダンジョンの上、成金のくせに万能なんだもの、この船長。
alert 骸骨船長 / 種族・幻獣
てっきりこのイベントの最終戦に登場すると思っていたラスボスの船長は、出番を待ちきれずにこんなところで登場。
成金趣味全開の成金野郎を囲むこれらの金銀財宝は、その身を飾る様々な宝飾類を含めて、全てこれまでの戦利品ってことかしら?
しかも成金趣味丸出しの短剣を持っていて、魔法攻撃は反射だった。
だからてっきり接近戦専門かと思ったら、囲む剣士や銃士を相手に、適度に距離をとられたら魔法攻撃を仕掛けるという万能職。
イベント用に創られた 【幻獣】 とはいえ、ポイント無視のステータスは激ヤバ級の超大物だったっていうね。
これを落とすとなるとちょっと厳しい。
初見だからなんの対策も準備もなくて、このエリアは通常装備も使えないしね。
でもきっと、このメンバーで落とせなければ 【素敵なお茶会】 には落とせないってことになると思う。
悔しいけど
船長は万能職の上、魔法攻撃は反射。
頼みの物理攻撃ですら、【素敵なお茶会】 が誇る重火力の三人が苦戦を強いられる有様。
付け焼き刃で接近戦に参加するクロエたち銃士二人の攻撃なんて、ぽぽの話では全くダメージが出ないらしい。
的にしかならない魔法使い三人は、カニやんとわたしで一時的に回復魔法使いに転職して支援するんだけれど、巨大骨格標本はどれも運動神経が抜群。
しかも骨しかないとはいえ巨大なのよ。
腕とか見た目以上に長くて、近接武器のくせに予想を上回る広範囲に仕掛けてくる。
踏み込みの一歩も大きく、油断をすると一瞬で眼前に迫ってくるし。
それでも部下の甲板長とか機関長にはちゃんと弱点があった。
でもこの船長は魔法攻撃を反射し、物理攻撃には高耐性。
どう攻めろっていうのよっ?
わたしたちは攻撃に参加せず後退しているとはいえ、油断すると船長がすぐそばまで来る。
クロウたちが盾になって船長の足を止め、カニやんやの~りんに引っ張られるように逃げ回らされるからなかなか考えがまとまらない。
落ち着いて考えたい。
じっくりと船長を観察して弱点を探りたいって思うんだけれど、もう全然無理。
回復と逃げるのに忙しすぎる。
この船長、魔法使いを先に落としたいんじゃないっ?
これ、狙ってきてるわよね?
そう思いたくなるくらい逃げるのに忙しい。
なに、これ?
絶対何かおかしいわよ。
最初はそんな感じはしなかったんだけど、時間が経過するにつれて違和感を覚えてきた。
もちろん一時間とかそんなレベルの時間経過じゃないんだけれど、でも五分とか十分とか経てばおかしいって思うくらいのレベル。
絶対にこれ、何かおかしいって。
「確かに」
あまりにも逃げるのに忙しくなって回復どころじゃなくなると、さすがにカニやんも認めざるを得ない。
しかも三人いる魔法使いが固まって、一緒に逃げ回っているから異様なほど追い回されているのがわかる。
「作戦を変える。
柴やん、ムーさん、どっちがいい?」
そう言われればわたしにだってすぐわかる。
すでにわたしの前にはクロウが立ちはだかり、斬り掛かってきた船長の剣を打ち返す。
その剣戟の音が、近すぎて耳に痛い。
「の~りん」
「の~りん」
…………カニやんには可哀相な結果が出た。
はじめからわかっていたことと言えばわかっていたんだけれど、声を揃えて言われるとやっぱりショックよね。
がっくりと肩を落とすカニやんに、の~りんが小さく 「ごめん」 と謝っている。
もちろんの~りんが悪いわけじゃないの。
ついでにいえば脳筋コンビだって悪くない。
強いて誰が悪いかっていえば、迂闊にも脳筋コンビに選択権をあげたカニやんでしょ?
「俺かぁ~?」
ええ、「俺」 です。
サクッとどっちに守って欲しいか決めればよかったのよ。
それこそカニやんが好きな方を選べばよかったんじゃない?
「その言い方は誤解されるからやめろ」
どうして?
どこをどう誤解されるのよ?
だって今、カニやんは白衣の天使なんだから平気でしょ。
「それ、関係ないと思う」
「どうでもいいからさっさと決めて。
の~りんが選びなよ」
鬱陶しいと言わんばかりのクロエに促され、の~りんが恐る恐る選んだのはムーさん。
その発言があった直後の柴さんの嫌そうな顔ったらなかったわ。
面白すぎる。
カニやんはいつも自分じゃ決めないし、脳筋コンビに選択権をあげたら絶対二人ともの~りんご指名だし……確かこのあいだもそうだったわよね。
もういっそ、これで固定したら?
ムーさんはの~りん、柴さんはカニやんで……っていったら、ムーさんは 「賛成」 ってすぐに応えてくれたけれど、柴さんにはさっき以上に嫌そうな顔をされた。
いいコンビじゃない
クロエたち銃士二人は散って無理のない程度に援護して。
絶対に固まらず、無理に攻めず、魔法攻撃はなしで……っていっているそばからうっかりくるくるがファイアーボールを放っちゃって、自分に返ってきたっていうね。
もう! さっき焔獄が派手に反射されたの、見てなかったの?
すぐに回復をしつつクロウにくるくるのフォローに入ってもらう。
でもそうするとフリーになるわたしが狙われる。
これ、ひょっとして……最初にムーさんが吹っ飛ばされた時、船長が追撃するように見えてクロウと柴さんが慌てて足止めに掛かったけど、あれはムーさんを追いかけようとしたわけじゃなくて、固まっていた魔法使いを狙おうとしていた?
しかも今、魔法を使ったぽぽに狙いを変え、でもすぐに回復魔法を使ったわたしに狙いを変えた。
間違いなく魔法に反応してるわよね。
じゃあの~りんは、このまま魔法を使わないようにすれば攻撃対象から外れるはず。
そんでもってこの船長って……
「先に言っておくけど」
わたしの思考を遮ってクロエが言い出す。
「僕らが全滅したら、グレイさんは 【灰燼】 を使ってあいつを落としなよ」
…………え? 【灰燼】?
えっ?! 【灰燼】 を使えっていったのっ?
ちょっと待ってクロエ、さすがに 【灰燼】 は反則でしょ?
いくら船長が万能過ぎるっていっても、さすがに 【灰燼】 をこのイベントで使うのはちょっと……。
「今回はダンジョンイベントなんだし、平気じゃん。
他のプレイヤーが落とされるわけじゃないし、僕らだって浜に転送されてしまえば使ったかどうかなんてわからないんだし」
それこそ他のプレイヤーには使用すらバレないってクロエは言うんだけど、そういう問題じゃないでしょ。
よりによって 【灰燼】 だなんて……そりゃ魔法攻撃無効でも効くと思う。
【灰燼】 がぶっ壊れスキルっていわれるのは、無効も反射も意味を為さないから。
発動させれば、本来はPKが出来ないはずの一般エリアですら一人残すことなくPKするのがその最大値。
ダンジョンのような限られたエリアなら被害は最小限に留められるけれど、運営に知られずに使用することはまず不可能よね。
「運営?
なにも言わないでしょ?
前のイベントの時、その話は出たじゃない。
イベントなんかで特定のスキルを使用禁止にするのなら、あらかじめ周知するべきだって。
同じ轍を踏むなら、非難されるのは運営じゃない。
プレイヤーは関係ないよ」
…………さすがクロエ、腹黒い。
うん、まぁ言っていることも筋が通っているような気がする。
でも個人的に 【灰燼】 の使用頻度を上げたくない。
【灰燼】 の発動がどれだけのMPを消費するか知ってる?
魔法なのに、発動するとHPまで消費されるって知ってる?
……あ、クロエは知ってたっけ?
そうね、知ってたわ。
知ってて言ってるのよね。
でもわたしにも考えがあるの。
まずは誰も落ちていない今のうちにそれを試してもいい?
「試す?
なにを?」
久々にヘロヘロのファイアーボールを船長にぶつけ、その狙いをわたしから自分に変えたカニやん。
うん、すぐにそんなことをするから柴さんにもムーさんにも組むのを嫌がられるんじゃない。
別に狙いを変える必要はないんだから。
もちろんクロウには悪いと思ってるわよ。
でもわざわざそういうことをする必要はないの。
それなのにカニやんに船長の狙いがいってしまったから、柴さんが悪態を吐きながらも奮闘中。
それをフリーの銃士二人が援護する。
「ねぇこれ、魔法使える全員で一斉に攻撃したらどうなると思う?」
ムーさんの後ろで大人しくしているの~りんが言うんだけれど、それはなしで。
もちろん可能性として試したいところではあるけれど、まずはこの一戦、確実に落としてみたい。
落とせる方法がわかってからでもそれを試すのは遅くないけど、全滅してからじゃ遅いの。
わかるわよね?
せめてムーさんから文句を言われないように、もうしばらく大人しくしていて。
というわけで、柴さん、クロウ、気をつけてね。
「起動……避雷針」
「あ、それ……」
言い掛けるカニやんの声を轟く雷鳴が遮る。
部屋の高い天井よりもさらに上から落ちてくる稲妻が、一瞬にして船長を脳天から撃ち抜く。
避雷針は凄く燃費の悪いスキルで、このイベントはMP無制限ルールじゃないから消費分が戻ることはないけれど、ぐっと減る時の虚脱感が半端ない。
それがたまに立っているのも辛い時があって、丁度いいところにいたクロウにしがみついて耐える。
本当ならクロウは反射に備えなければならないんだけど、わたしにしがみつかれちゃそれも出来ない。
ごめん
避雷針は発動に必要とする多大なMPに見合う強力なスキルだけれど、わたしはその避雷針の反射でも直撃でも平気だから反射したら盾に使っていいわよ。
あ、放り出して逃げてもいいわね。
うん、こっちに反射してきたらわたしを放り出して逃げてね……っていってるのに、わざわざ抱えて支えてくれる。
でもこっちに反射してこなかった。
それどころか反射しなかった。
つまり直撃を食らったの。
「効いたっ?」
「え? なんで?」
「魔法無効だろう?」
「サンダーボルト!」
普通のHP流出現象は風に吹かれる煙のようだったり下に滴るような感じなんだけど、避雷針を頭頂に食らった船長は、まるで噴水のようにHPを勢いよく噴き上げている。
それを見てみんなそれぞれに疑問を口にするんだけどカニやんだけは冷静で、今の現象の意味を即座に理解。
続け様に雷撃系の魔法で船長を撃つ。
詠唱の要らない基本スキルの一つ、サンダーボルトは初級スキル・サンダーの上位スキルでたいして威力はないけれど、再起動時間がないから連発が出来る。
そもそも雷撃系のスキルって凄く少ないのよね。
初級スキルのサンダーとその上位スキルのサンダーボルト、これ以外に所持しているプレイヤーがいるなら教えて欲しいっていうくらい少ないの。
攻略wikiには避雷針すら載ってないし。
でも船長の弱点で間違いない。
サンダーボルトでも確実にダメージがあってかなりの速さで削れている。
もちろん避雷針ほどのダメージは出せないけれど、でもサンダーボルトならの~りんも使える。
だからムーさんもちゃんと働いてね。
結果としてわたしの試しでの~りんの提案を実行することになった……つまり、魔法使い三人が散った状態で攻撃を仕掛ける。
そうすると魔法に反応する船長がどう動くか?
それがの~りんの提案だったんだけど、無茶苦茶に動き出した。
【幻獣】 は高STRで高VIT、そして高HPというのが有名だけれど、実は高AGIでもあったという新事実が判明したの。
なに、これっ?
落ちそうで落ちない嫌な感じぃ~♪
でも御大なので少し頑張っていただこうと思います。