194 ギルドマスターは庶民でした
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なんなのよ、あの金ぴか成金骨格標本はっ?
眩しすぎて直視出来ない!!
これまでも出てくる骸骨みんな綺麗に歯が残っていて、しかも真っ白でぴっかぴか。
あんたらは芸能人かっ?! って突っ込みたくなるくらい真っ白で綺麗な歯並びの骸骨ばっかりだったんだけど、ゴテゴテと飾り立てた成金趣味全開の椅子にすわる巨大骨格……あ、成金が抜けたので言い直し。
ゴテゴテと飾り立てた成金趣味全開の椅子にすわる成金骨格標本の歯は……自分で言ってなんだけれど、わざわざ言い直してまでなんだけど、やたら長くて言いにくくて噛みそう……全部が綺麗な金歯でぴっかぴか。
しかも食後は欠かさず磨いているみたいで、びっかびかよ。
毛のない頭はもとからつるっぴかなんだけど……【素敵なお茶会】 はみんなフサフサで禿げる心配はなさそうだけど…………あ、そうでもないか。
ちょっとムーさんの生え際が……
「なんか言ったか?」
ムーさんの地獄耳……ゲフゲフ……じゃなくて、なんでもありません。
骸骨たちはそもそも頭皮のない骨だけだから当然頭髪なんてないわけで、昼時間に甲板で見る骸骨たちの頭は、太陽の光を受けて眩しいくらいに光っていた。
でも今わたしたちの前にいる成金骨格標本は……ほんとこれ、言いにくいから、もう成金野郎と略します。
成金野郎 = 成金骨格標本
こういうことでお願いします。
成金野郎は元々眩しいくらいつるっとした頭蓋骨に金色の王冠とか被っちゃって、さらにまぶしさが倍増。
ただその王冠、あまりにも綺麗な金色をしているから折り紙で作ったおもちゃの王冠を疑っちゃったわ。
違うわよね?
胸元には大きなルビーを中央に飾ったペンダントや、金銀ぎらぎらのネックレスとか何重にも下げ、腕にも指にもゴテゴテのアクセサリー。
ベルトも黄金で、黄金で作られた鞘と柄をした短剣を手に持って……ごめんなさい、わたしの言葉ではこの豪華さは到底語り尽くせない。
普段からそういった物に囲まれた生活をしていればもっと語彙も豊潤に出てくるんだろうけれど、残念なくらい庶民なのよ。
わたしはどこにでもいる、ありふれたOLなの。
ただの事務職なのよ。
だからこれ以上は無理。
「グレイさんって結構なお嬢だと思ってたけど」
そんなことはこれまでに一言だって言ったことありません。
どこにでもいる一般庶民です。
そこらにいる有象無象なのよ。
「そうなの?」
なぜか納得してくれないカニやんはわざわざクロウに確かめるけど、事実だから。
クロウが私の実家を知っていたかどうか……うん、知ってたわね。
一度来たことがあるような気がする。
用件は忘れたけど、来たことあったわよね?
「そうだな」
ちょっとクロウ、どうしてそこで笑うの?
わたし、なんかしたっけ?
そもそもその肯定はカニやんに対して?
それともわたしに対して?
笑いを隠すように口元に手を当てたクロウに、しがみつくように答えを迫ってみたんだけれどそのまま誤魔化される。
確かに家はちょっと大きいけど両親が建てたものだし、家政婦さんもいるけど雇っているのは両親で、わたしはただの居候……自分で言ってて無力さに泣けてくる。
食費は入れてるけど、家賃とか光熱費とか払ってないから居候よね、家事なんて全然しないし。
「……それをお嬢って言うんじゃね?」
庶民です。
どうしてカニやんが納得してくれないのかわからないんだけど、庶民にこの成金度数を言葉で表現することは出来ません。
とにかく金ぴかギラギラの骨格標本が現われたの。
落ちくぼんでいるだけで目玉の入っていない眼窩。
けれどまるで目玉がある、見えているかのように顔を上げる成金野郎は、喉とかないのに……喉仏とかはあるけど、でも発声って骨だけじゃ出来ないんでしょ?
それなのにしわがれた低い声で呟く。
「よくも、部下たちを……」
部下って誰?
まぶしさに目がくらみ、わたしは頭までくらんでいたみたい。
でもその言葉で閃く。
部下って、ひょっとして骸骨甲板長とか、料理長とか……五種類の巨大骨格標本のこと?
ということは、この成金野郎は……
alert 骸骨船長 / 種族・幻獣
来た、船長!
このイベントのラスボス……ん? いやいやいや、このイベントの最終戦はイベント最終日にあって、そこで登場するのが船長じゃないの?
こんなところで出て来ていいの?
まさかと思うけど、待ちきれなくて出て来ちゃったとか?
「いや、それはない」
「あったらオモロイけどな」
脳筋コンビ的にはそのほうが面白いのね。
二人は当たり前のようにわたしたちの前に出て、その筋肉で壁を作る。
今回のメンバーは剣士三人に、銃士二人と魔法使い三人。
んーっと、これはどうしたもの?
STRはないけれど、DEXで骸骨を殴っていた銃士二人だけれど、さすがに 【幻獣】 が相手じゃ歯が立たない。
少しとはいえ、魔弾を使うためにINTにもステータスは振っている。
初期スキルのファイアーボールくらいは持っている。
でもそれだって 【幻獣】 が相手じゃ、蚊に刺されたほどの威力もない。
そもそもこの敵の攻略方法は?
恨み言を吐いた船長がゆっくりと立ち上がるのを見て、わたしは考えるのをやめた。
だって忘れているだけのことなら思い出せるけれど、知らないことはいくら考えたってわからないんだもの。
実践あるのみ
というわけでみんな、反射したら避けてね。
「起動……焔獄」
今のわたしには両手がある。
でも水着装備だから杖はなくて、代わりに持った日傘を畳んで船長を指す。
【幻獣】 だから魔法反射は十分にあり得て、このメンバーだとの~りんのVITが危険。
いくら通常装備とは違っていてわずかに威力が落ちているとはいえ、焔獄の反射を食らえばたぶん一撃で落ちる。
しかも 【Gの逆襲】 の敗戦で、HPの最大値が1%減少されたままだしね。
もちろんカニやんも結構ヤバいダメージになると思う。
クロエもね。
でも魔法を吸収する常時発動スキル 【愚者の籠】 を持っているわたしに魔法攻撃は、反射を含めて効かないし、剣士の三人についても心配していない。
全く
だってHPもVITも高いし、そもそも運動能力が高くて当たらないもの。
超高性能危機管理センサー内蔵の脳筋コンビはもちろん、クロウなんてかすりもしないわよ。
案の定魔法は反射。
返された焔獄は若干威力を落とし、の~りんに当たるところをムーさんがナイスカバー。
ほら、やっぱり。
自分の身どころか、他の人まで守っちゃってるじゃない。
「グレイさん、お試しで焔獄はやめてよ」
助かったのにの~りんに文句を言われた。
ここはいつかのカニやんを真似て、ヘロヘロのファイアーボールで行くべきところだったかしら?
「真似すんな。
とりあえずこいつ、魔法反射。
物理オンリーだな」
同じ魔法の効かない骸骨たちは、ダメージこそ出ないけれど効果中は足を止める。
でもこの成金野郎改め船長は魔法攻撃を反射する。
反射ってことは、魔法じゃ動きを止めることも出来ないってこと。
それはつまり、魔法使いが役立たずってことを意味する。
仕掛けるために前進する剣士に変わり、敵わないまでも、骸骨から奪った剣を手にわたしたちの前に出て壁になるクロエとくるくる。
「飛んでくるなにかくらいは払ってあげる」
なにが飛んでくるのかは知らないけれど、とりあえずお礼を言っておくわ。
ありがと。
でもさすがにムーさんは払いきれない。
ムーさんっ?!
どうしてムーさんが飛んでくるのっ? と思ったら、剣士には珍しい詠唱スキル 【一刀両断】 を唱えながら船長に斬り掛かったものの、見事に打ち返されただけでなく、そのままノックバックしてわたしたち後衛の位置まで飛んできた、と……大丈夫?
さすがに味方に押し潰されるのはどちらにとってもショックだから、悪いけれど避けさせてもらったわ。
わたしたちのVITやSTRじゃ受け止められないもの。
体勢を整えきられず床に転がったムーさんはすぐさま起き上がり、落とした剣を拾いつつ顔を上げて船長を見る。
「かった!
なんじゃ、あの固さは!!」
ムーさんへの追撃を阻止すべく、船長の足を止めるため続けざまに撃ち込むクロウと柴さんだけど、確かに全然ダメージを受けていない。
そもそもスキル 【一刀両断】 って、スキルを発動させて最初に触れるものを両断するんじゃなかったっけ?
あの船長の成金趣味全開の短剣、刃こぼれ一つしてないわよ。
いくら 【幻獣】 のVITが高くても、少しくらいダメージがあって然るべき。
どうして皆無なの?
まさか物理攻撃も無効とか?
「そういうことではなさそうだが……」
船長の短剣と斬り結んでいるクロウは気づくことがあったみたい。
思わせぶりな呟きをするんだけど、確証はないのか、続きを言ってくれない。
代わりに柴さんが言う。
「ほんとちびっとだけ、ダメは出てる。
マジ、ちびっと過ぎてわからんくらいな」
なによ、それ?
本当にちびっと過ぎて、すぐそばで見ないとわからないくらいってこと?
それはちょっとちびっと過ぎない?
チビチビと根気よく削れってこと?
いくらイベント用の 【幻獣】 でも防御力には限度というものがあって……
「あの小林の考えることだろ?
限度なんてないと思ったほうがいい」
酷く呆れている様子のカニやん。
でも妙に納得出来た。
もちろん全てを小林さんが創っているわけじゃないのはわかっているけれど、似たような思考の持ち主が集まってるってことでしょ、ここの運営には。
じゃあやっぱりチビチビと根気よく削るしかないってこと?
こう……ドカンと一発ですっきり終わらせられないかしら?
「魔法無効だからね」
「絶対撃つなよ、そこの喪魔女」
同じ剣士のムーさんをクロウと柴さんがカバーしたように、同じ魔法使いのの~りんとカニやんがわたしを牽制する。
でもね、そんなことは言われなくてもわかってます。
同じドカンはドカンでも、撃つのは回復魔法よ。
だってあの船長、かなり万能。
短剣を持っているから接近戦専用かと思ったら、クロウたちが体勢を整えようとして距離をとったら、逃すまいと魔法攻撃を仕掛けるんだもの。
それこそ間髪をおかない速さで反応し、クロウたちは息を吐く暇もない。
厳しい
「……僕らも行こう」
クロエ?
ちょっと待ってよ。
剣士があれだけ苦戦してるのに、接近戦なんて付け焼き刃の銃士になにが出来るのよ?
却って足手まといになるからやめなさい。
「数で押す。
くるくるはどうする?」
「ここを離れていいのなら」
そう言ってくるくるが見るのはわたし。
つまり壁役がいなくなるけれどいいかって訊いてるのよね?
いいわよ……っていうか、そもそも壁なんて要らないから。
今は船長を落とすため、主力の剣士を温存したい。
だから見ているしか出来ない魔法使いの防御なんて考えなくていいのよ。
どうせカニやんは自力でなんとか乗り切れるだろうから、最後まで落ちずに残って、クロウ、クロエとあいつの攻略方法を探して。
鈍くさいわたしと、VITがわたし以上に紙なの~りんは諦めてよね。
「行きなよ、くるくる。
俺でもグレイさんの盾ぐらいにはなれるからさ」
珍しくの~りんが男前なことを言ってくれるんだけど、わたしの盾になれるとか考えるんだったら自分が生き残ることを考えてよね。
わたしの盾なんて不毛だから。
生産性ないから。
でも、少しくらいは出来ることもあるのよ。
ということで、しばらくのあいだ回復魔法使いに転職します。
「ヒールくらいなら俺もある」
じゃ、カニやんもしばらくのあいだ白衣の天使ね。
もちろんスキルのレベルが違うから、わたしのヒールにゆりこさん並みの回復力はないし、カニやんはもっと低い。
そんな二人じゃ、HPがそれほど高くないくるくるやぽぽなら支えられるけれど、馬鹿みたいに高いクロウたちはちょっと無理。
全く回復しないわけじゃないけれど、個々のステータスと高いプレイヤースキルで乗り切ってもらうしかない。
でもこれじゃ 【幻獣】 のステータスに比べ、圧倒的にわたしたちの火力が低すぎて持久戦にもならない。
これはひょっとして、まさかまさかの全滅コース?
死亡フラグ、見えてるっ?
いよいよ期間限定イベント 【treasure ship】 も終わりです。
その前に船長を倒さなければなりませんが、どうなりますやらw