193 ギルドマスターは成金趣味になります
pv&ブクマ&評価&感想&誤字報告、ありがとうございます!!
「全滅してもいい」
先行したメンバーに対して柴さんやムーさんまでがそんなことを言い出して……えっと、まぁクロエもそんなことをしょっちゅう言ってるんだけど、毒舌はいつものことだし、本心がどこにあるのかわからない我が儘キャラだからね。
でも柴さんやムーさんまでが同じことを言い出すなんて……二人ともいつものように笑いながらラウラの相手をしていたけれど、実は腸が煮えくりかえるほど我慢していたってこと?
すっごく怒ってたのっ?
ごめん、わたしってば全然気がつかなくて……って慌てるわたしを見て、二人は手振り付きで 「落ち着け」 という。
「いや、そうじゃなくて……」
「言い方が悪かったのは謝るが、それ、全然誤解」
「好きにやれるなら全滅してもいいんじゃないかって話」
「楽しく全滅してこいやって話」
……んーっと、つまり何事も経験ってこと?
ちょっと落ち着いて二人の話を聞けば、わたしなりに二人の考えがわかったような気もする。
一つだけ言わせてもらえれば、わたしも全滅は経験したことがない……全滅させたことはあるけど。
まだカニやんすらいなかった頃に、【灰燼】 を使ってクロウやクロエすら落としちゃって……ふふ、わたしの最大の黒歴史。
「このあいだのバトルロワイヤルでも、生存プレイヤーを全滅させただろうが」
あら、そんなこともあったっけ?
記憶がだいぶんあやふやなのに、なぜが冷汗が噴き出す。
えっとカニやん、そこはいま関係ないってことで。
「全滅っていっても、あのメンバーだとゆりこさんは難しいだろうけれど、恭平とJBは平気だろ?」
「あの人にはちゃんと言ってある」
「織り込み済みで一緒に行ってもらった」
恭平さんとJBは生き残れるだけのスキルがあるから全滅はないってカニやんは言うけれど、さすがの脳筋コンビも、ゆりこさんの同行は貧乏くじだってわかってる。
同じ紙のようなVITしか持たない魔法使いでも、自分で敵を排除出来る攻撃魔法使いと違って回復魔法使いは誰かに壁役をしてもらわないと防御手段がない。
あのメンバーだと恭平さんやJBですら壁役はやってこなかったから、たぶん誰も気づかないわよね。
でも一緒に行ってもらった方が、ラウラたちの生存率を上げることが出来る。
特に今は昼時間だから、物理攻撃しか効かない骸骨が相手では、魔法使い候補のキンキーが生き残るのは難しい。
全体の火力を鑑みても、ボーナスステージならともかく、通常ステージのクリアは難しいかもしれない。
でもこれでいいのよね?
たまにはこういうことも必要なのよね?
わかった
何事も経験ってことで一応納得出来たから、わたしたちも潜りましょうか?
ここでただ待っているだけなんて時間の無駄じゃない。
話が終わったからギルドチャットを 【on】 にしたら、早速悲鳴というか、雄叫びというか……阿鼻叫喚を思わせる声でうるさいくらい賑やかになる。
全部先行グループの声ね。
厳しい状況にそれなりにみんな必死になっていて、おかげで待機組がギルドチャットを切っていたことに気づいていない様子。
だいぶん苦戦してるみたいだから、いつもよりクリアに時間が掛かりそう。
これなら今から潜っても追いつくかも。
もちろん別のダンジョンになるけど、同じくらいの時間で終われそうな気がする。
「んじゃ、行くか」
「行くベ、行くベ」
脳筋コンビを先頭にわたしたちも沈没船に向かったんだけれど……あ、ルゥなら言うまでもないと思うけど、逃げられた。
二人の声に合わせてルゥを回収しようと思ったら、とっくの昔に海底散策に出掛けていたっていうね。
ほんと、こういう時だけは反応が早いのよ。
楽しそうに尻尾を振り振り、いつものようにフンフンしながら海に入っていくのをくるくるとぽぽが、手を振って見送ってあげたらしい。
ねぇ二人とも、どうしてわたしに教えてくれないの?
『止めたら噛まれるし』
『犬が言うことを聞くのって、飼い主の言葉だけですよね』
『ワンコが早いんじゃなくて、グレイさんが遅いんだよ』
転送された沈没船内、わたしの小言にちゃんと応えてくれる二人に続き、カニやんの声がインカムから聞こえてくる。
『ほんと、いつもおっとりしてるよね』
クロエまで……。
だって、潜るまでは自由に遊ばせてあげたいじゃない。
あんなに楽しそうにしてるんだし。
見てるだけでも可愛いし。
『ラストが本音な。
で、どうする?』
なにが?
『今回の攻略』
そうねぇ……いつもとはメンバーが違うのよね。
じゃあ今回は、わたしたちも趣向を変えましょうか。
『へぇ、どういう風に?』
クロエにはずいぶん期待されちゃったけれど、そこまでのものじゃないの。
ほんとごめんなさい、期待に添えなくて。
ただ、いつもは甲板に全員集合して火力を調整した班分けをしていたじゃない。
それをやめるわ。
剣士三人は甲板に向かわず、転送位置からそのまま花火と金貨を回収しつつ、閉じ込められているメンバーの解放と鍵の捜索。
えっと、今回閉じ込められているのは誰?
『俺』
『俺も』
カニやんとぽぽね。
じゃあの~りんとわたしは甲板に向かいましょう。
そこでカニやんの合流を待つわ。
魔法使いは昼時間じゃ逃げ回るしか出来ないもの。
クロエとくるくるはどうする?
『僕はねぇ~どうしよっかな?』
わざと気を持たせるようなことを言っているクロエは放っておく。
くるくるはどうする?
『えっと……クロウさんはどうします?』
ん? どうしてクロウに訊くの?
剣士三人はもう行動を開始しているはずだけど?
『甲板に向かう』
ギルド一我が儘なクロウは我が儘で甲板に向かうって……もういいわよ、好きにして。
それを聞いてくるくるも決めたらしい。
『じゃあ俺は捜索班で』
『あ、じゃあくるくるも一度甲板に来てよ。
僕と組もう』
そうね、柴さんとムーさんなら骸骨を相手に単独行動も平気だけれど、STRを持たないくせにDEXで骸骨を落とせるとはいえ、銃士のVITは全然高くない。
同じ後衛職の魔法使いと同じく紙のVITなのよ。
だからクロエとくるくるが組むのは正解だと思う。
ぽぽは解放後、わたしたちと合流で。
夜時間は使えない方法だけど、ひょっとして、昼時間はこのほうが効率的?
う~ん、一週間が経過して今更だけれど、攻略方法を変えるのもあり?
『いんじゃね?
条件のクリアも出て来たし、幾つか試そうや』
カニやんは同意してくれたんだけど、問題なのは明日から平日だから昼時間はもうほとんどないってことね。
骸骨がゾンビに変わる夜時間で考えると、物理攻撃が効かないから剣士の単独行動は非効率。
かといって 【素敵なお茶会】 は魔法使いが少ない。
まぁこれは他のギルドでもいえること。
なにしろゲーム全体で剣士の占める割合が凄く高いから。
だから魔法使いだけで構成される 【シシリーの花園】 なんて凄く珍しくて、逆に剣士だけで構成されるギルドは 【暴虐の徒】 や 【アタッカーズ】 以外にも結構ある。
今回みたいなイベントだと、この偏った構成は結構致命的だったみたい。
個人戦でも団体戦でも、こういったギルドのランキングは芳しくない。
でもうちもまだ9位だけどね。
あと一週間で7位まで上げるわ。
『7位?』
『8位でいいだろ?』
『また女王の気まぐれか?』
『欲張っちゃいかんぞ』
そうじゃないわよ!
8位だと、土壇場で逆転されたら困るから。
それを防ぐためにも7位まで上げます。
「貪欲」
不意にカニやんの声がインカムではなく直接聞こえたと思ったら、照りつける太陽を見上げ、眩しそうに目を眇めながら甲板に上がってくる姿が見える。
あとはぽぽと鍵が一本。
これ、どっちが早いと思う?
すでにクロエとくるくるは合流し、二人一緒に捜索のため船内に戻っていった。
あとはぽぽさえ合流出来たらわたしたちも船内捜索に加わる予定なんだけれど、もし、ぽぽを救出する前に鍵が三本揃った場合、ボス戦にぽぽも参戦出来るの?
「え……?」
ぽぽの不安そうな声に後押しされ、わたしたちも甲板で待つのをやめて動き出すことにする。
STRもないVITもない魔法使いを三人も抱えてクロウは大変だけど、それも長くは掛からなかった。
クロエが、ぽぽの解放を待たずに三本目の鍵を見つけちゃったのよ。
『とっちゃうよ?』
そうね、一度試しておいてもいいかも。
ぽぽには悪いけれど、もし参戦出来ないとしたら、今後もこれまでどおり閉じ込められているメンバーの解放を待って三本目を回収。
参戦出来る場合、今後は鍵は見つかった時点で回収しましょう。
なんか色々と今更だけれど、この一週間は全ダンジョンのクリアに躍起になっていてそれどころじゃなかったし。
一部のメンバーをのぞいて、わたしたちは船長戦への挑戦権を得ている。
どういう形で挑戦出来るのかはまだわからないけれど、少しでも有利にしておきたいし、残りのメンバーも挑戦権を獲得しなきゃ。
そのためにも残りの一週間は効率を考えるべきね。
クロエが三本目の鍵を回収したらしく、わたしたちは 【幻獣】 と対面すべくこのダンジョンの最終戦場へと転送される。
ごめん
転送されたメンバーの中にぽぽの姿がない。
じゃあどこにいるのかと思ったら……
『浜。
みんなと合流したよ』
みんなっていうのは先行していたメンバーで、少し前に全滅していた。
ラウラとかキンキーはともかく、恭平さんやJBまで落ちたのはやっぱり意外だったわ。
『ボス戦が無理っす』
『通常の機関長は物理無効だから。
俺も頑張ったけど、全然火力が足りない』
あー……まぁ予想通りと言えば予想通りだけど。
一応恭平さんも魔法攻撃が出来るけれど、INTとMPのなさはどうにもならない。
となると主力がキンキーとゆりこさんってことになっちゃうのよね。
でもキンキーは合流前に落ちちゃって、ゆりこさんも機関長の攻撃を防御出来ずに落ちたらしい。
うん、ほとんど予想通りね。
ラウラは悔しそうに叫んでいてうるさいんだけど、でも楽しかったみたい。
そんな感じがする
わたしの気のせいでもいいわ。
だって今はそれどころじゃないんだもの。
最終戦場へと転送されて、わたしがまず確認したのはぽぽがいないってこと。
そして次に確認したのが今回の 【幻獣】 は誰かってことなんだけれど……ここ、どこ?
広さは、たぶん今までに転送された最終戦場の中でも一番広いと思う。
窓のない薄暗い部屋なんだけど、当然機関室でも台所兼食堂でもない。
部屋を埋め尽くすこのキラギラしい金銀財宝の山は、一度来たら絶対に忘れられないまばゆさ。
目が痛い!
ナゴヤジョーから溢れた金銀銅シャチに埋め尽くされた、あの恐怖の大量虐殺イベントのラストより目が痛いまぶしさだわ。
しかも脳筋コンビが確認したところによると、これらの金銀財宝の山は置物。
それらの中に立つわたしたちを前に、沢山の宝石で飾られた黄金の椅子にすわるのは見慣れた巨大骨格標本。
その骨しかない体のあちらこちらを、これでもかってくらい宝飾品で着飾った成金趣味そのものの骨格標本で、手には、黄金で作られた鞘や柄を、これまた沢山の宝飾品で飾った悪趣味な剣を持っている。
えっと……あの成金は誰?
ここに小話をねじ込もうと思ったのですが、ちょっと無理。
また機会があればということでw