192 ギルドマスターは分裂します
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……別にわたしのせいじゃないと思うんだけど、【Gの逆襲】 二日目第一部はプレイヤーの負け。
寝坊して遅れながらの参戦になったけれど、無茶苦茶頑張ったわよ。
頑張って爆撃しすぎて 「被弾効果が邪魔」 ってクロエに怒られたくらい。
破られたのは反対側の出入り口。
イベント終了時間を待たず、終了を告げるブザーの音と共にプレイヤーの敗北がインフォメーションで宣言された。
ちょっとは予想していたとはいえ、ノーキーさんを筆頭に 【特許庁】 の集まりが悪かったことと、昨日の勝利で気が緩んだのか、参加プレイヤーが少なかったのが敗因と思われる。
勝って兜の緒を締めよ!
この言葉に尽きるわよね、寝坊したわたしが言うのもなんだけれど……わざとじゃないのよ、わざとじゃ。
結局恭平さんの 「頼み事」 というのもまだわからないし、そこはまだ気になったまま。
でも話の本題はイベントが終わってから。
つまりイベントが終わるまでわたしがなにも喋らなければ、少なくとも恭平さんが急にギルドを辞めるなんてことにはならないはず。
もちろん気になって気になって仕方がないんだけど、それで今日は朝から腕を落としちゃってちょっと反省。
お昼からは気合いを入れて頑張るわ。
あとがないのよ……
だって朝の部で負けて、HPの減少措置は3%に戻された。
次に負けたら5%の減少措置で、どう頑張っても元には戻せなくなる。
なにがなんでも残る二戦を勝って、せめて措置を0に戻さないと船長戦が戦えるかどうか……はっきりいって不安!
他に何があるのよ?
どう考えたって不安でしょ?
だって今回のイベント 【treasure ship】 は色んなところがおかしいんだもの。
わたしの中では通常ダンジョンは全てクリアしたつもりでいるんだけれど、それすら実際のところはわからない。
小心者のわたしには不安で不安で、不安以外に何があるのよっていうくらい不安なの。
だから勝つ
昼近くにログインしてくる 【特許庁】 のメンバーの大半は、朝昼兼用でご飯を食べてくるためお昼休みを取らずに 【treasure ship】 を攻略。
多いに盛り上がった勢いで 【Gの逆襲】 二日目第二部に遅刻をしてきて、【Gの逆襲】 中は外からナゴヤドームに入るのは至難なところを無理矢理に侵入……というか侵攻?
大小様々なサイズのGが次々に沸いて壁のようなものを作るところにうしろから突撃し……うん、まぁ何人かはGに潰されて圧死したみたいだけれど、一応回復のプロ、蝶々夫人がいるからね。
可能な限り死体を拾いつつ、ドーム内の防衛ラインに合流した 【特許庁】 のメンバーたち。
Gの壁を破って突き進んでくる 【特許庁】 にセブン君がいち早く気づいたのが幸いしたらしく、銃撃での援護で無事合流出来たようなもの。
でも 【特許庁】 は自力で為し得たみたいな騒ぎ方をして、【鷹の目】 のメンバーからはかなりの不満が出たらしい。
火力を調整して 【アタッカーズ】 と 【特許庁】 を入れ替えていたんだけれど、最終戦はまた入れ替えたほうがいいかしら?
「色々と考えることがあって大変だな」
【Gの逆襲】 二日目第二戦を終えた直後の伊勢湾側出入り口付近は、参戦していた大勢のプレイヤーで賑やか。
あちらこちらで挨拶をしあったり健闘を讃えあったり、はたまた 「これからどうする?」 的な相談をしていたり。
そのうるさいくらいの賑わいの中でカニやんが話しかけてきた。
「仕切ってるつもりはないっていってたけど、やっぱ仕切ってるじゃん」
だって勝ちたいんだもの。
それこそ減少措置なんてなければここまで勝利に固執しないけれど、実害っていうか、このあとの一週間はもちろん、まだ最終イベントもあるのよ。
負ければその最終イベントまで不利になるんだから、勝っておきたいじゃない。
カニやんだって、わたしがどれだけ小心者か知ってるでしょ?
「知ってるけど……あ、クロウさん来た」
カニやんに言われてみれば、移動を始めるプレイヤーの波に逆らうようにクロウがわたしたちのほうに向かってくるのが見える。
背が高いから目立つのよね。
だからすぐに見つかるんだけど、わたしは全然高くなくて……あと2㎝あれば160㎝になるんだけど、ちょっと足りない背はこの人混みに完全に埋もれてしまう。
それを探し出すのは結構骨が折れる……と思ったけど、カニやんが高かったわ。
クロウほどじゃないけれど、でも十分に高いじゃない。
腹が立つ
イベント終了の合図があった直後、バラバラになっていた 【素敵なお茶会】 はこの人混みを避けて 【海】 に集合することにした。
インカムから聞こえてきた声ではそのまま 【海】 に向かうメンバーもいたし、声を掛け合って雑貨屋にポーションを購入しに行ったりと、ちょっと集合に時間が掛かるような感じだったんだけど……クロウもお買い物?
「いや、ポーションは春雪に送ってもらった」
砂鉄の損耗もたいしたことはないから、そのまま夜の部まで使うっていうし……じゃあどうしたの? って訊いたらカニやんに冷ややかな目で見られた。
「相変わらずひでぇ嫁。
あんた一人にしておいたらろくなことしないからだろ?」
だからクロウはわたしの保護者じゃないってば!
もう! ……って怒るわたしのすぐ横ですれ違ったプレイヤーがなにかに躓いたと思ったら、足下で可愛らしくお座りをしていたルゥにね。
いやだわわたしったら、また忘れてた……
「ほんと、色々とひでぇ」
カニやんに文句を言われつつ、イベントが終了するのをおとなしく待っていたルゥを抱き上げる。
大量のGを見て、おぞましさにゾゾ毛立っていた神経が癒されるこのモフッと感。
ちょっと強めに抱きしめて、大きな耳に頬ずりをする。
毛繕いするのは大変そうだけれど、この癖っ毛のモフッと感はもう手放せない。
はぁ~幸せ
わたしを癒しまくってくれるルゥも最初は機嫌良くきゅーきゅー鳴いていたんだけれど、不意にぎゅ?っていう不機嫌な声を出したと思ったら、腕の中でもぞもぞ動き出した。
ちょっとルゥ、あまり動かないで。
もうちょっと癒されたい。
【幻獣】 が本気で振りほどきに掛かったら、わたしのモヤシなSTRなんて薄っぺらな紙だから。
あっけなく逃げられちゃうから……等など言ってルゥを宥めようとしていたんだけど全然聞いてくれない。
どうしたのかと思って顔を上げたら、またカニやんが一緒にモフっていたっていうね。
わたしと目が合った瞬間、にひって笑ったりして。
ちょっとカニやん、許可を取ってっていったじゃない!
カニやんも取るって言ったのに、わたしのルゥを勝手にモフらないで!
『ほんと、どこの小学生?』
インカムから聞こえてきたのはクロエの声。
どうしてここで邪魔するのよ?
『どうしてって、みんな揃ってるから。
来ないなら先に潜るよ』
え? ちょっと待って、行く!
すぐ行くから待って!
急いで向かったイベントエリア 【海】 には、クロエの話と違って揃っていたのは今ログインしているメンバーの半分くらい。
どういうこと? って訊いたら、待ちきれない何人かが先に潜ってしまったらしい。
残っているのはクロエたち銃士三人と、脳筋コンビにの~りんの六人だけ。
んーっと、若手連中だけで潜っちゃったのね。
「一応恭平さんとJBが付いていったけど、ゆりこさんもいるし大丈夫じゃない?」
こそっとの~りんが耳打ちするところでは、クロエってばそんなに強くは止めなかったって。
それこそ 「自由にしたら?」 みたいな感じで行かせてしまったらしい。
まぁ別にいいんだけどね、死亡回数を気にしないのなら。
しかも今回は、まだ航海士をクリアしていないゆりこさんがいる。
もし通常ダンジョンとして船長が登場するとしても、まだ挑戦権を持っていないゆりこさんが一緒だと船長とは遭遇しないはずだから大丈夫だろうし。
ちょっと火力に心配があると言えばあるけれど、午前中のカニやんの言っていたこともあるし、様子を見るとしますか。
もちろん内心じゃ心配でたまらないんだけどね。
そんな内心を見透かすように、クロウってば小さく息なんて吐いちゃって。
ムカつく
「柴たちが一緒に行かなかったのは珍しいな」
ん? そうね、言われてみれば………………なんだろう、これ?
ゆりこさんをのぞけば、残っているのは初期からのメンバーばかり。
ぽぽとくるくるはちょっと新しいといえば新しいメンバーだけれど、トール君の加入以降、結構早いスパンで新規加入があって、先行したのはそのメンバーばかり。
その中に恭平さんが入っていることが気になる。
まさか…………まさかと思うけれど、半分近いメンバーを引き連れて新しいギルドを作るとか?
やだ、考えるだけでドキドキしてきた。
クロウの指摘を受けて、脳筋コンビまでちょっとおかしな空気を出してくる。
挙げ句にインカムを指でさす。
たぶんギルドチャットを切れ……だと思う。
チラリとクロウを見上げたら小さく頷くから、言われるままにウィンドウを開いてインカムを操作する。
空気を読んだカニやんやクロエ、ぽぽやくるくる、の~りんまでがギルドチャットを切るから本当に空気がおかしくなって、わたしはドキドキが止まらない。
これ、本当に大丈夫よね?
わたしの知らないあいだに、何か変なことになってないわよねっ?
「別にたいした意味はない」
「ないが……ちょっとな。
ジャックの、女王と組みたい発言があってから俺らなりに思うこともある」
えっと、それってやっぱり、最近加入したメンバーと何かある?
「あ? ああ、そうじゃない」
柴さんはちょっと驚いたように否定してくる。
たぶん、わたしってば見るからに狼狽えちゃってると思う。
でもどうしてもこのハラハラとドキドキは止められないんだもの。
「そうじゃなくて……どう説明したもんかな?」
そう言ってムーさんと顔を見合わせる。
そしてここでムーさんに選手交代。
「つまりさ、レベル差がある分どうしても俺らを頼る傾向が出るだろ?
もちろん頼ってくれてかまわないんだが、あいつらにしたら出番がなくてつまらないんじゃないかと思って。
俺らもついつい庇っちまうし」
たぶんそれは 【素敵なお茶会】 の傾向だと思う。
団体戦においては、火力を維持した持久戦を得意とする戦術傾向だから。
もちろんそれだってクロウや脳筋コンビ、カニやんといった突出した火力やスキルを持つランカーが多いから出来ること。
個人戦と団体戦、その切り替えもきちんと出来るしね。
でもそれが裏目に出たってこと?
まだドキドキが治まらないわたしの問い掛けに、話し手が柴さんに戻る。
「ここしばらくラウラが暴走しっぱなしだろ?
あれも……火力は全然足りてないし、いざって時に動ける場所にいないし、相変わらず守られる位置に立ってやがるが、本人なりにやる気になってるとは思う。
Gみたいな、その都度一発勝負の団体戦ならともかく、この海賊船攻略自体は何度でも挑戦出来るし、一周くらいあいつらだけで回ってきてもいいんじゃないかと思っただけ」
「これで全滅したら大人しくなるんじゃない?」
クロエ……せっかく柴さんとムーさんが男前な話をしてるのに、台無しにしないで。
柴さんの話に 「なるほど」 と納得したわたしだけれど、続くクロエの毒舌にがっくりと肩が落ちる。
でも気にするクロエじゃないのよね。
「Gはグレイさんが残り二戦は全勝って命令してるから、柴さんたちもあいつらにかまわないけど。
知ってる?
あの混戦の中でもラウラが馬鹿やってるの。
でもみんなグレイさんの命令があるから、ラウラが落ちても無視してG叩いてるけど」
クロエとセブン君だけが持っているDEX特化装備 【鷹の目】 には、あの混戦の中でも埋もれているラウラの姿を見つけることも出来るらしい。
さすがというかなんというか……というかラウラってば、あんなところでも巫山戯てたのね。
ギルド単体の戦績になるイベントならともかく、複数のギルドや不特定多数のプレイヤーとの共同戦線でそういう真似はしないで欲しい。
ギルドの体面がどうのっていうんじゃなくて、ラウラ個人が叩かれちゃうから。
もちろんそんなことをするプレイヤーだって、他のプレイヤーの粗探しに夢中でろくに戦闘参加してないんだけどさ。
クロエが気づいたのは、支援っていう立場で照準器をのぞいてたからよ。
全然サボってないから。
セブン君に競り勝つくらい、クロエは名狙撃手なんだから。
「まぁ実際のところ、全滅してもいいんだけどな」
「んだんだ。
特にラウラは、一度普通に自力で戦って落ちたほうがいい」
ちょっと、ちょっと待って!
柴さん、ムーさんまでそんなこと言わないで!!
【Gの逆襲】 も残すところ最終戦のみ。
そろそろ船長も登場し、長かったこの期間限定イベント 【treasure ship】 も終盤です。
ただ、夏は長いのでもう一つ夏イベントを考え中w