19 ギルドマスターはタイムトライアルします
pv&ブクマ&評価、ありがとうございます!
PC環境崩壊がようやく回復。
いつもとは違う時間の更新です・・・よろしくお付き合いくださいませ。
「タイムトライアル?」
『やらない?』
クロウ、トール君と一緒にナゴヤジョーに向かう途中、インカムで話を持ちかけてきたのはクロエ。
の~りんの乗り気な声も聞こえてくる。
『そそ、面白そうじゃない?』
「ストップウォッチを使ってやるあれ?」
『うん。
公式ランキングがあるから誤魔化せないじゃん、あれだと』
ふむ、確かに面白そうね。
ナゴヤジョーに三つあるダンジョンのうち、銀と銅にあるシステムなんだけど、ストップウォッチというアイテムを使うと、ダンジョン突入と同時にスタートしてラスボス撃破でストップ。
そのタイムが、ソロとパーティー別にリアルタイムで順位表示される。
「でも銀はトール君とジャック君は入れないでしょう?
銅だと、レベル差が顕著よ」
『だから制限するよ』
どうやらわたしたちが行く前に大まかなルールが決まっていたらしく、レベル20以上は装備なしってことになったらしい。
また裸?
っていうか、今度こそまっぱになるつもり?
「通報されないわよね?」
「誰がするの?」
ちょっと心配性が過ぎるって、クロエに呆れられちゃった。
確かに面白そうね。
すでにみんな乗り気だし……ってわたしも乗り気になろうとしたら、珍しくクロウに止められる。
「やめておけ」
「どうして?
面白そうじゃない?」
「馬鹿だろう、お前」
「悪かったわね、馬鹿で」
物凄く大きな溜息を吐かれちゃったけど、それ以上強くは止められなかったから大丈夫だと思ったんだけど……これ、理由があったのよね。
そんでもってここで気づかなかったわたしは、あとで大変な目に遭っちゃうの。
ほんと、馬鹿……
タイムトライアル自体は予想通りっていうか……止めたけど参加はするのね?
そう、クロウが当たり前のように優勝しちゃったの。
タイムも、それまでの記録ぶっちぎり。
当然といえば当然なんだけど、ここまでマジでやるとは思わなかったからみんな呆気にとられちゃったくらい。
レベルが上がるとともに、スキルやステータスとは関係なく基本パラメーターも上昇するから、レベルの高いわたしやクロウ、クロエが有利なのははじめからわかってることとはいえ……
「クロウさんがここまでマジで参戦するとか、思わなかった」
久々に会った柴さんこと柴漬けも驚いてた。
同じく久しぶりにログインしたムーさんことミンムーも同じく。
「レベル差、出るなー。
俺、しばらく銀潜るわ」
「じゃ、私も行きまーす!」
「お、マメ、いいね。
HPポーションは持参しろよ。
やらねーからな」
「あーい」
久々のログインとあってムーさんがやる気になっちゃって、ここからはパーティーを組んで銀と銅に別れて潜ることになったんだけど、出発前にクロウに声を掛けてみた。
「なんか賞品あげようか?」
「お前……覚えてろよ……」
なにを?
最近、クロウが自主的に口を開いたと思ったら、小言ばっかりのような気がする。
どうせならそのいい声でもっと面白いことを言って欲しいんだけど、そうもいっていられなくなるのよね。
「あ、鱗要らなかったら売って下さいねー」
同じパーティーでシャチ銀を周回中、マメが言い出した。
そういえば最近、よくシャチ銀に潜ってると思ったら鱗を集めているらしい。
ボスを倒したあとの報酬 【シャチの鱗】 は素材の一つ。
結構な需要があって、しかも潜りやすいダンジョンってこともあって、バザーや個人取引でもよく出品されている。
「取引相場が上がってるんですよ。
このあいだ運営がイベント予告を出したじゃないですか、あれ以来だと思います」
廃人マメは、人が少なくなる時間帯はバザーを巡ったり個人取引用の掲示板を眺めたり、いわゆるウィンドウショッピングをしていることが多い。
だから相場にも詳しく、素材集めの時はまずマメに相談すると結構要領よく集められたりする。
だからトール君にも、買い物する時にはマメに相談するよう勧めたくらい。
そのマメがいうには、ここしばらく 【シャチの鱗】 の取引価格が上がっているらしい。
で、メンバーから鱗を買い取って売りさばくのかと思ったら……
「短剣を作ろうと思いまして」
「また新しい職でも始めるの?」
「えっとですね、この度 【素敵なお茶会】 に正式加入いたしましたので、教会に行ってお清めを受けようと思います!」
「あら……そこまでするの?」
「はい!
心機一転です!」
随分気合いが入っているマメだけれど、育成し直すとなるとまた大変かもね。
ちなみに教会っていうのはNPCがいる施設で、ナゴヤドームにある。
ここではステータスのリセットや、【聖女の涙】 と呼ばれる死亡制裁なしで死亡状態から回復できる課金アイテムの販売も行われている。
部位欠損の回復も、回復魔法リカバー以外ではここでしか出来ないんだけれど、当然有料。
あ、これはゲーム内通貨なんだけれどかなり高額で、しかも場所が場所なので課金をお布施っていうの。
とんだ偽善だわ。
他に 【復活の灰】 っていう死亡状態からの回復アイテムもあるんだけど、こっちはかなりの死亡制裁があるかわりにゲーム内通貨で購入できる。
普通にNPCの薬局や調合士から購入することが出来て、だいたいのプレイヤーはこれ。
マメは廃課金だけれど、意表を突いて 【復活の灰】 愛用者っていうね。
うちには調合士はいないけれど、いればきっとお得意様よ。
すでにレベル20を過ぎているからステータスの振り直しには課金が必要だけれど、そこは廃課金だし、自分のために自分で考えて使うのなら別にいいと思う。
マメがそうしたいのなら自由よね。
「りりか様に相談したら、鱗200枚、【銀塊】150枚って言われまして、今集めてるんです」
「えっらい枚数だな」
「大変でーす」
マメ、ムーさん、クロウとパーティーを組んでいたんだけれど、枚数の多さに驚いているムーさんは何も思わなかったみたいなんだけど、わたしは違和感を覚えた。
比率、おかしくない?
なぁ~んだかりりか様の請求量に違和感を覚えちゃったのよね。
っていうか、その枚数がおかしいってことは間違いないの。
わたしが違和感を覚えたのは、どうしてりりか様がそんなことをマメに言ったのかってこと。
考えながらメイスでシャチを殴ろうとしたら、横殴りしてきたクロウが、シャチじゃなくてわたしを見ているのに気がついた。
うん、たぶんクロウも気がついてる。
困った顔をして小さく頷いて見せたら、そこをマメに見られたみたいで……
「なんか見つめ合ってますよ、グレイさんとクロウさん!」
あんたのことを考えてるのよー!
口に出して言えないから、思わずメイスでマメに殴りかかりそうになったんだけど、そのまえに後ろから来ていたシャチの振りをした鯉がマメをバックリと……あんたね……。
「ぬおー!」
「手は出てるんだから、はい、殴る!
自力脱出!」
「あ、そうか!」
後ろから食われたんで、上半身が鯉の口から出てるのよ。
だから自分で殴れってことで頑張ってもらったんだけど……シュールな絵面ね……。
「ごめんムーさん、助けて上げて」
「あいよ!」