188 ギルドマスターは機関長に謀られます
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とりあえずラウラのお説教はカニやんに任せた。
中途半端で申し訳ないけれど、それどころじゃなくなったのよ。
やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばーいっ!!
『グレイ?』
ちょっと待ってクロウ、今それどころじゃないから。
これ、骸骨だったらたまに足下に骨が落ちてるんだけれど、夜時間に登場するゾンビだと一本も落ちてないの!
だからゾンビを倒して剣を奪うしか武器を調達する手段がないなんて、魔法使いのモヤシなSTRでどうしろっていうのよっ?
ゾンビだって腐肉の下にはちゃんと骨があるはずなのに、だから骨の一本くらい落ちていてもいいのに一本も落ちてないとか。
これ、どんな嫌がらせよ?
そうでなければ物凄く有能な清掃員さんがいると思われる。
プロね
でも、だったら昼時間もちゃんと片付け……ちゃ駄目よ。
駄目駄目、絶対駄目。
そんなことをされたら、昼時間まで武器の調達が難しくなるじゃない。
危ない、危ない。
うん、今の問題はそこじゃないけどね。
とりあえず焔獄で足止めをして………………あら? 落ちた……
『錯乱してるな、グレイさん』
『ギルマス、なにしてるんすか?』
せめてもの気遣いに恭平さんは笑いを堪えてくれたのに……うん、それでも堪えているのがわかる程度だけどね。
でもJBなんて大爆笑。
そのうるささに、思わずインカムを耳から外して床に投げつけたくなったわ。
わかってるわよ! ……っていうか、いま思い出したわよ。
ええ、ゾンビは魔法攻撃対象でした!
だから全然ヤバくなかったのよ。
わたしの冷汗を返せ!
みんながゲラゲラ笑う中にクロウの溜息が聞こえた。
うん、クロウもごめん。
わたしがうっかり忘れているって気づいて、さっき教えてくれようとしたのよね。
でもわたしに余裕がなくて、ちょっと待ってとか言っちゃってほんとごめん。
『いや、無事ならいい』
ありがと。
クロウこそ無事? ……って訊いたら返事がない。
うん、またしてもごめん。
訊くだけ野暮よね、わたしってば……。
しかもよくよく考えたら、ランタンだって合流まで花火で我慢すればよかったんじゃない。
前にJBがやってたみたいに。
あ、でもそれをやったらゾンビと出会い頭にゴッツンコとかありそうね。
これ、絶対に嫌
だって腐肉とゴッツンコとか、絶対嫌じゃない!
一瞬想像してうげー……とか思っていたら、ラウラが明るい声で言い出した。
『出会い頭で恋とか落ちるっ?』
うん? これはなんの話?
一人だけ先に落ちちゃって浜で退屈をしているのはわかるけれど、それ、わたしに言ってるのかしら?
『すいません、ギルマス。
ラウラ、突然恋愛スイッチ入っちゃうんです』
申し訳なさそうなキンキーの声。
さすがに男女の差はあれど双子の兄弟。
いきなりの切り出しにでも対応出来るというか、理解出来るというか。
でも他人のわたしには理解出来ないわ。
恋愛スイッチってなに?
それって突然入るものなの?
あ、あれ? ほら、やる気スイッチとか、そういう感じのもの?
同じようなもの?
『似て非なるもの。
JCは恋バナが好きなお年頃ってか?』
カニやんは凄く面倒臭そうなんだけれど、ベリンダは 『そういうお年頃よね』 と優しく肯定してあげる。
まぁこの二人はいいわよ。
よくないのはクロエ。
『うわ~面倒臭い』
本心からの面倒臭さ全開に、わたしはちょっと考える。
それ、どっちに言っているの?
ラウラ? それともわたし?
『どっちも。
そんなの決まってるじゃない』
決まってないわよー!!
『面倒臭いってなによ、クロちゃん!』
うん、浜でラウラも怒ってる。
しかもクロエをクロちゃんって、あなたね……案の定、クロエを怒らせた。
『僕をどっかの芸人みたいに呼ぶな。
今度から絶壁って呼んでやろうか?』
……絶壁って……えっと……待って待ってクロエ、ラウラはまだ成長期だから。
これからよ、これから。
頑張ってわたしなりにラウラをフォローしてみるんだけれど、これ、自分のことじゃないけど恥ずかしい。
しかもゾンビに肩を叩かれて不機嫌なクロエは毒舌絶好調だし。
『なに言ってるの?
成長期っていっても、みんながグレイさんみたいになれるわけじゃあるまいし。
それどころかなれる人のほうが少ないんじゃない?』
『そうね』
あ、あら? なんだか珍しくベリンダの声が沈んでる。
さっきまで普通に喋っていたのに急に……ということは、ちょっと待ってクロエ。
これはよくないほうに行ってるわ。
わたしもこれ以上はフォロー出来ないし、なぜかベリンダまでダメージを受けてるみたいだし。
だから頑張って止めるんだけれど、クロエの毒舌は止まらないし、ラウラはラウラで結構汚い言葉を使ってクロエを罵り返してる。
ちょっと、誰か止めてよー!!
『最後までやらせりゃいいんじゃね?』
とにかくカニやんは面倒臭いのね、わかった。
『で、なんの話だっけ?』
『女王が豆腐の角でゾンビと頭ごっつんして、恋に落ちるだっけ?』
ムーさん、それは全然違う!!
豆腐の角にぶつけるかゾンビとぶつけるか、どっちかにして!
わたしの頭は一つしかないの。
ただでさえルゥの頭突きを食らい続け、かなりのダメージを蓄積しているわたしの頭蓋骨。
これ以上のダメージは脳みそごと破壊されるから。
その前に禿げるかしら?
『それも色々違うから』
『でもさ、さっき恭平と頭ぶつけたけど恋に落ちなかったな』
つまりムーさんは恭平さんと合流したのね。
すかさず恭平さんから 『落ちてたまるか』 とのぼやきが。
ぶつかったっていうのだってムーさんの過剰演出というか、話題に便乗したかっただけっていうか。
本当にぶつかりそうにはなったらしいけれどぶつかっておらず、正解はただ角で会っただけっていうね。
大丈夫よ恭平さん、みんなわかってるから。
もちろん落ちてもいいけどね
………………ん? なにかしら?
これまで、特に賑やかだったクロエとラウラはもちろん、他のメンバーまで急に静かになっちゃって。
どうかしたの?
急にインカムが静かになるこの現象はたまにあるけれど、夜時間の 【treasure ship】 攻略中はやめて欲しい。
急に静かになるとなにかが出て来そうで怖いんだもの!
『……いや、グレイさんは人の恋愛を心配するより、自分の心配をしたほうがいいと思って』
うん、わかってる。
凄くよくわかっているからカニやんは黙っていて。
『なにかが出て来そうって、すでに一杯出て来てるっすよ』
うん、ゾンビがね。
もう甲板に着いた人、いる?
『あ、います』
トール君ね。
いつもの申し訳なさそうな話し方はもう癖になってるみたい。
じゃ、他のメンバーも急ぐわよ……と口で言うのは簡単だけれど、まぁこの後もラウラとクロエの口喧嘩は続いていて、それを聞きながら甲板に集合後、班分けをして閉じ込められたメンバーを救出しつつ鍵集め。
ほんと、このイベントは時間が掛かる。
やっとのことで辿り着いたのはボーナス機関長のインパクトドライバー攻撃。
大丈夫よ、この近代兵器の弱点はわかってるから。
「だから兵器じゃないって」
「工具はもっと平和的活用をしてよ」
「大工に怒られるぞ、そのうち」
「DIY族にもな」
「あれって工場とかでも使われてるっすよ」
……つまり、わたしは凄く多くの人を敵に回したのね。
と、とりあえず文明の利器は何はともあれ電気よ。
全てが電気なのよ。
だから電源を探して、電源を。
コンセント!
それさえ抜いてしまえばこっちのもの。
さぁみんな、壁という壁を探して頂戴! ……ってお願いした矢先、不意にゆりこさんがぽつりと呟いた。
「……あ……」
なぁに? どうかした?
「ねぇねぇグレイさん、あれを見て」
わたしとクロウが隠れる積まれた木箱の山。
そことは通路を挟んだ向こう側にある大型機械の陰に潜むゆりこさんが、にっこりと笑いながら指し示すのは天井。
ん? 上? ……あ……あった……。
言われるままに見上げてみれば、障害物がほとんどなくて見通しのいい天井に、確かにコンセントがある。
しかもそこに電源コードが差さってるじゃない。
あんなところっ?
ちょっと待って、あの位置ってインパクトドライバーで狙われ放題じゃない。
そもそもクロウの長身でも天井までは手が届かないわよ。
どうするの? ……って思ったら、トール君とジャック君がほぼ同時に声を上げる。
「ありました!」
「あった!」
二人同時に見つけたのかと思ったら……いや、ほぼ同時に見つけたんだけれど、別々の場所にいるわよね?
それ、間違いなく別々のコンセントを見つけてるわよね?
そもそも先にゆりこさんが一つ、天井に見つけているのに……どうなってるの?
もちろん二人が嘘をつくはずがないからコンセントがあるのは事実。
でも機関長が使っているインパクトドライバーは一つだから、見つかった三つのうち本物は一つだけ。
二つはダミーよ。
正解はどれっ?!
今日も 【素敵なお茶会】 は通常運転ですw というお話でした。
そろそろ船長が登場する予定ですが、その前に航海士をご紹介しますね。